酔うじょオペレーション   作:マキシマムとと

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限界と夢の先生

 

 【限界】

 

 

 とても悲しい事だった。

 本日の配信を終えたゴローの薄くて平べったい胸中に残っていたのは上記の2文字。

 

 真実だけを書くとしよう。事実…間違いなくゴローはACの操縦が上手くなった。

 ルドローの指切りを覚え、軸合わせや軸外し、ミサイルの避け方の基本だってマスターした。

 自分が得意な距離に合わせてFCSを選定して、その恩恵が最も効きやすい距離を選んで戦えるように進歩した。

 苦手だったAB挙動も最低限使えるかな…と言うレベルにまでは上達したし、AB凸への対処方法も何パターンか頭の引き出しにストック出来た。

 

 その結果とアセンの見直し(対戦相手に恵まれた豪運も含めて、ではあるが…)これにより勝率は急上昇。

 『D』『C』の昇格戦はストレートで勝ち越しを決めた。

 

 一昨日はBランク到達祝で大盛り上がりした。

 最高だった。

 脳汁ブシャーと言っても過言ではなかった。

 

 ───それが故の、連敗の苦痛がここにあった。

 

 「勝てねぇ…死ぬほど勝てねぇ………」

 

 やけ酒ナウである。

 

 Bランクに昇格した翌日。

 つまり、昨日の成績は27戦26敗1勝であり、本日の成績は16戦15敗1勝。

 

 昨日と今日を合計して43戦41敗2勝。

 

 どこかのサイトで見た記憶が確かなら、人が対戦ゲームを楽しいと感じるには一般的に勝率50~60%が必要らしい。

 

 へ〜。

 勝率5割か。

 す〜ご〜い〜な〜〜〜〜???

 

 ………………ん?

 

 アレ?

 あれれれれれ??

 

 ゴロー君、勝率どしたの??

 あれ?

 勝率…家出…………んん??

 2÷43したら0.046511〜………て、出たんだけど。

 あれ?

 勝率の計算式間違えちったかな?

 おじさん、算数とか長いことしてないから。計算式、間違えちったの…かな!?

 

 「なんも間違えてねーだろコレッ…!!」

 

 電卓片手に頭を抱えるゴロー。

 1割以下の勝率。

 勝率50%がベターに対して、ゴローの勝率は驚きの4.6%である*1

 死ぬのか…ゴロー。

 生きろよゴロー。

 

 そんな脳内会話を繰り広げながらも酒だけが胃に落ちていく。

 今日の酒は嫌に苦い。

 

 寝不足も祟っている。

 昨夜は負け過ぎてイライラしてグラングランする頭の状態で2時間以上布団の中で寝れないままに時が過ぎて。

 

 やっと寝た(気絶したと言う表現が正しいまである)と思ったら「おかしいじゃろ!?」「そんなんおかしいじゃろ!?」と、背景はわからないが兎に角ひたすら本気でブチ切れする妖怪爺(ロリ形態)を「抑えろって」「そんな怒ってもどうしようもねーやろ」「大丈夫や」「落ち着いて深呼吸しろ爺…」と懸命になだめる夢を見て、目が覚めてから自分の腹の奥底に溜まっているストレスの大きさに目眩がしたりして。

 

 ───そりぁ酒も不味くなるだろうと。

 もちろん、勝てない理由はわかっている。

 

 ゴローをBランクにまで押し上げてくれたアセンがBランクには通用しなかった。それだけの事。

 一昔前ならいざ知らず、2026年4月現在におけるBランカーに単調なミサイルの押し付けは通用しない。

 (一部レイヴンには通用しますが、基本その程度なら押し通せる腕かアセンを備えています)

 そも、ゴローの機体には決定的な欠点があった。

 

 …そして。

 

 「運が良すぎたんやな…」

 

 Bランクに至るまでの豪運。

 自分のアセンが刺さる相手との連戦連勝。

 そんな豪運が舞い降りた───その後。

 その後にこそ、レイヴンの実力(マゾヒズム)が試されるのだ。

 

 「やっぱ無理なん………かな」

 

 悔しい。

 苦しい。

 挫折して、

 自らの能力に絶望して。

 

 『息抜きに他のゲームも試してみたら!?』

 

 気遣わしげに、それでも明るく話す(スミレ)

 

 『昨日のお父さんは辛そうで、見てられません』

 

 悲痛な心を押し殺し、それでも父の為に苦言を呈してくれる(サヲリ)

 

 娘に余計な心配をかけさせてはならない。

 そう思う親心もある。

 けれど、しかし、だって…俺は………!!

 

 「悔しい…」

 

 ただ、その一言を最後に。

 ビールジョッキを抱えたままで。

 ゴローは深い眠りに落ちたのであった。

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 赤いセロハンを通したような光が世界に満ちていた。

 西からの強い夕日が差し込む教室で。ゴローは机に座り、眼の前の先生と向き合っていた。

 

 ───そう言えば。

 どこかで、先生のアダ名は4個ちゃん先生だと聞いた。そんな記憶がフッと脳裏を過ぎった。

 

 「なんで4個ちゃんなん?」

 

 先生は怖いけど優しい。

 宿題を忘れたりルールを破ったりしたら容赦無いけど、気安く話しかるくらいなら怒ったりしない。

 今日だって赤点だらけで落第寸前の俺の為に補習授業を買って出てくれている。

 

 怖いけど…優しい先生だと、ゴローは思う。

 

 (学生の頃にこんな先生に恵まれてたら良かったのに…って、何考えてんだろ? 俺、学生なのに)

 

 ───そう。

 

 今のゴローは県立亞ー魔ー怒(アーマード)コア中学校の学生であり、3日後に迫った追試を落としたら退学の末に脛異類(スネイル)中学校へ編入。

 再教育を施されてしまう危機的状況にあった。

 

 そんな背景がある中での問に、先生は冷たく言葉を返す。

 

 「それは試験に関係のある事なのですか?」

 

 違うよね?

 そんな言葉を言外の圧に乗せてくる4個ちゃん先生。

 けれどそこに拒絶の意思が無い事が、ゴローには妙に心地良くて。

 

 「あるんだな〜コリが。4個ちゃん先生の事もっと知りたいし、知れば今よりもっと4個ちゃん先生の授業が頭に入りやすくなるんだわ」

 

 絶対、絶対やって!

 ニコニコと笑顔で先生の間合いに入るゴロー。

 対する先生は必死で鉄面皮を取り繕おうとして…。

 

 「…もぉ! ズルいですよ!?」

 

 可愛い過ぎるゴロタスの笑顔。

 4個ちゃん先生の事を知りたい?

 可愛い過ぎるゴロタスの笑顔。

 4個ちゃん先生の事を知りたい!?!?!?

 

 「私の鉄壁装甲を貫通するだなんて、もしかしてコーラル属性?」

 

 「何言ってんの?? それよりなんで4個ちゃんなんだよ〜? おせ〜てよ4個ちゃん先生〜」

 

 「ふくぅ………!!」

 

 そもそも勝てる勝負ではない。

 ゴローが望むなら、それを拒む選択肢は彼女には無いのだから。

 

 「で、でも、そんな、面白い、話じゃ、ない…よ?」

 

 先生としての仮面が剥がれた4個ちゃんは少し可愛い。言葉を繋げるのが下手で、合間合間に『、』が入る。

 なんだが、そこが…無性に可愛くて。

 

 つい、ゴローは彼女の唇に見惚れてしまう。

 

 ただ、まぁ実際。

 彼女の言う通り大した話では無かった。

 

 なんでも小さい頃に自分の名前が上手く発音出来ず、友達に「あたちの なまえは よんこです!」とか「よんこちゃんの おもちゃだよ!?」とか、言って回っている内に、気が付けば4個ちゃんがアダ名になっていたらしい。

 

 可愛いアダ名だと思う。

 その反面、本名がどんな名前だったのか。

 そこにだけは、気が回らなかった。

 

 

 そう。

 これは夢だから。

 それで良かったのだ………。

 

*1
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