『では、準備は良いですね?』
先生の声を聞きながら、俺はどうしようもない居心地の悪さを感じていた。
ここは愛しの我が母校、シムラ県立
授業は楽しいし、クラスメイトからは良い匂いがする。担任の先生は可愛くて家から近い。
文句の出る隙間のない優良中学校だが、ゴローにはどうにもこうにも受け入れられない事がある。
「うぐ…チベたい」
「うへぇ…!」
大昔のプールの授業を思い出す。
塩素タップリのキンキンに冷えた腰洗槽に入った瞬間の「うへぇ…!!」と言う感覚が、夢の中に没入しているゴローの脳内に再生され、その再現した記憶が夢をまた一段と改編する。
冷感ジェルに包まれたような感覚を感じながら、お尻から下腹部にかけての広い範囲がシートに潜り込み、ある程度まで沈没してから下半身がガッチリと固定された。
初めてのハズなのに、夢の中ではごく自然に「この瞬間が毎回キモいんよな〜」との台詞が飛び出してくる。
『ゴローさん、大丈夫ですか?』
少しだけ楽しそうな雰囲気を滲ませながら4個ちゃん先生がゴローに声をかける。
「ん〜オッケ。けどセンセーさぁ、そもそもこの服装ってなんとかならんの??」
現実のゴローの
一応ポンチョの方は白くてゴワゴワの分厚い生地で、随所に未来チックな電子部品を散りばめたSF制服っぽい仕上がりなのだが、その下がタイツオンリーと言う時点で仮装大賞にしかならない。
ゴローの場合は
だが、こんな滑稽な装備が学校の体操服だと言う(夢の中での)現実にゴローは目眩を覚えていた。
文句はあるが、異常だとは気が付かない。
そんなゴローを見つめて、モニターの向こう側の4個ちゃん先生が微笑んだ。
「ゴローさん、そもそもタイツという認識が間違いですね。コレはラバースーツ。攻殻機動隊やエヴァンゲリオン、機動武闘伝Gガンダムにバットマンにメトロイド、伝説のショッカーやモジモジくんまで、ありとあらゆるジャンルに精通した我が校の由緒ある戦闘服なのですよ」
ガンダーム!! …の、あの人を思い出しながら肩を触る。うん。アンテナが付いてないだけマシな気がする。
「あ〜…けど、これでポポちゃんとお揃いか」
奇抜だし、滑稽だし、心地が悪い。
けれど、あの子と同じ服だと思えば気分は割と上々だ。ポポちゃん…と言うのが、誰なのかはわからないけれど。
ほんわりと微笑むゴローの向かい側。モニターに映った4個ちゃん先生が表情筋を引き締める。
「ほ、補習授業、開始、します…よ!」
緊張しているのか、先生の口調が細切れる。
「なんかセンセーさ、その喋り方のが可愛くて好きやで」
「んぴ!? せ、先生を、からかったら、ダメ、です!!」
なんだか知っている。
本当は気付いてる。
けれど、まだゴローは知らない。
何故ならこれは夢だから。
ただ、好きな人と過ごす夢を見ているだけだから。
今はまだ、そうあって欲しかった。
だから、システムが戦闘モードを起動するその時まで、ゴローはそう…文字通り【夢心地】だった。
───そして。
「遅い!!」
機体の姿勢制御系を通してなお、コックピット内部で保護されたゴローの内蔵に波動のような衝撃が走る。
「12フレーム!」
容赦無い叱咤の声。
「集中して!」
先生の顔は今は見えない。
見えるのは真っ赤で巨大なエビ型訓練用ロボット『エビビンガー』のそびえ立つ勇姿。
茹で上がったエビ型ロボが、細長い両腕に装備した巨大なショットガン───重ショ───を散発的に持ち上げてゴロー機を撃つ。
「ここだ…ッ!!」
反射的にボタンを弾く。
古にセガユーザーの体験した奇跡。
ツインスティック*1を保持したゴローの両腕に力がこもる。
盾の展開と姿勢保持に連結したワンボタン。
しかし重ショから放たれる散弾がその壁をすり抜ける。
「ぐぁ!?」
続けざまに浴びせられた高衝撃の蓄積により、ついにゴロー機の姿勢制御が破綻。体勢保持に失敗し、大きく後方へ倒れて無防備な隙を晒した。
「今のは2フレームの遅延、かなり惜しかったです。全体的に少しずつ調子が上がって来てます」
「ん〜さっきの12フレームはヤバかったけどな」
軽口で返しながら機体を復帰させる。
一度オートバランサーを切ってから再起動をかけた方が早い。既に熟知しているコックピット内部の壁面ボタンを付けたり消したり捻ったりしながら転倒した機体を立て直す。
「誰にでも意識の波はありますから多少は…それに、先程の12フレーム遅延を含めても訓練開始の1時限目よりは平均で3フレームは反応速度があがってます! ゴローさんには盾の才能がありますよ!」
才能があったら被弾する前に防げるのでは…?
そう思ったのものの、全力でゴローを肯定してくる4個ちゃん先生に水を差す真似は出来なくて。
「えっ…と。さっきの、2フレームって事はだいたい0.03秒遅れってことやんな?」
「そう! あとちょっと! ゴローさんの愛機は引き機体なので、実戦で下がりながら弾を受けたと想定すれば間違いなく間に合う水準です!」
敵の腕上げを視認してから、弾が発射される前に反応して盾を構える。
単純で、けれども歳を重ねて劣化したゴローの脳にその反応速度を求めるのは非常に厳しい物があった。
しかしこの補習授業は4個ちゃん先生がゴローの「アイツらにギャフンと言わせたい!」と言う決意を満足そうさせる為に選んでくれた訓練なのだ。
泣き言は言わねぇ───
「もうあと2時限もすればアラートに反応した盾展開もきっと可能になります! その次はゴローさんの愛機で盾を使った場合のタイミング訓練、座学に1時限使って、その後はぶっ通しで実技をやりましょうね!!」
「え…いや、だってもう5時」
「何を言ってるんですか!?
「え、10…え? なんで…社畜………え??」
「だいじょうぶ! ここは夢の中学校なのですから! 終わりが来るまで、共に戦い続けましょう♡」
───そう思っていた時期が、ゴローにもありました。
そんな夢のお話。
タイツ…なんか他にもタイツ野郎が居た気がするんやが、忘れちまった。
タイツで思いつくモノがあったら教えてください。追加します。
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