酔うじょオペレーション   作:マキシマムとと

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ドライブ/やくそく/お父さん

 

 トントントントントントン…。

 

 

 まな板で野菜を切る音で目が覚めた。

 

 「ん…………んん…」

 

 少し頭が重い。

 何故か…と考え、すぐに昨日のコスプレ配信を思い出す。

 

 「あ〜〜〜〜…流石に12時近いとキツいか…」

 

 ゴローはが小さな指でゴシゴシと目元を擦り、若く活力に溢れる肉体を大きく伸ばして仰け反らせる。

 

 昨夜のバトオペは珍しく調子が良かった。

 

 味方と相手の編成に恵まれた事もあるが、ゼフィランサスでも陸戦Ζでも勝ったし、はにゃーん様繋がりで使用したキュベレイ(ノーマルカラー)でも、調子に乗って出撃したアトラスでさえ勝利を収めた。

 総合順位も最高がゼフィランサスの1位で、最低でもアトラスの5位という好成績。

 

 やんややんやと囃し立てられる内に、コスプレで超過した配信時間が更に一回り超過して、気付けば11時を回っていた。

 そこからお風呂に入って、歯磨きをして…。

 

 「んぐ…………ふぁは〜」

 

 おじさんだった頃に味わった痛み。硬直した筋肉を無理やり伸ばす事により発生する不快感、それはもう遠い昔の記憶だ。

 張りのある筋肉が元気よく躍動し、ただの一瞬で緩やかだった血流が切り替えられて脳の覚醒を促す。

 

 「んぐ〜〜まだ頭は重てーな」

 

 ぼんやりと…何か霞がかったような意識のまま、音に導かれるようにキッチンへ向かう。

 

 (サヲリか…いや、サヲリは来月の海外モルモット生活に向けて現地の下見に行ってるから消去法でスミレだな)

 

 「おは…」

 

 おはよう。

 その一言が出なかった。

 

 キッチンの前。

 ゴローに背を向けて立つのは背の低い女性だった。

 

 覚えのある立ち姿。

 ピンクの花柄の…履き心地を重視したペラペラ生地のズボン(ステテコ)

 後ろで縛ったエプロンの紐により強調されるお尻の形。

 スッとした撫で肩。

 髪で首筋が蒸れるのを嫌って、それでもゴローが長髪好きだから切ることも出来ず、仕方なくゴムで括った直毛のポニーテールで…。

 トントンとまな板を鳴らす、耳慣れた包丁の音が。

 

 

 ドクン。

 心臓が高鳴る。

 

 

 「ーーー!!」

 

 声が出ない。

 

 「ーーーーーー!!」

 

 身体が動かない!!

 

 「ーーー!」

 

 ずっと、君にーーーーーー………

 

 

 

 ◇

 

 

 

 トントントントントントン…。

 

 まな板で野菜を切る音で目が覚めた。

 

 「ん…………んん…」

 

 吐きそうなほど頭が重い。

 まるで言うことを聞かない身体を強引に動かし、ベッドの端に腰掛け、両腕で頭を支えた。

 

 「………夢…か」

 

 先程までの頼りない記憶。

 よく考えてみればあの人が立っていたキッチンは昔住んでいた家のキッチンだし、夢の中の部屋だって今のこの現実とは違う。

 

 5年前の…あの頃の記憶が再現された幻。アレから5年後の世界であるココには、存在しない空間と…。

 

 「うぐ………」

 

 心臓が痛い。

 子供の頃に嫌というほど味わった切なさ、寂しさ、心細さが、物理的に胸をギュウギュウと締め付ける。

 身体から力が抜けてバランスを崩したと思った瞬間、意志の力で強引に神経に力を通して持ち直した。

 

 「すぐ側に子供が居て、簡単に倒れるなんて…俺が、許せねぇってんだ……よ」

 

 体調が悪い。

 吐き気もするし、ベッドがぐるぐると回っている。

 倒れたら嘔吐しそうで、このまま耐えていても何も解決しなさそうで…。

 

 それでもゴローは耐えた。

 耐えて、耐えて…。

 どのくらいの時間が過ぎたのか。

 

 1時間にも、数分にも感じられる苦痛の果に。

 

 「お父さん、そろそろ起き…て」

 

 (スミレ)の声が聞こえた。

 

 「え…お父さん? ちょ…え? 大丈夫!?」

 

 ふわり…ゴローの鼻をくすぐる香り。

 懐かしい、あの人に似た匂い。

 心配気な表情。

 膝立ちでゴローの前に来た娘の目を見て。

 そこが、限界だった。

 

 「ごめん………スミレ」

 

 ギュッと、ゴローは今の自分に出来る精一杯の力でスミレを抱きしめた。

 

 「頼む…5分だけ、目も耳も無かった事にして」

 

 「なん…え??」

 

 動揺する娘を無視してゴローは泣いた。

 ただポロポロと涙を零し。

 

 「ウサさん……ウサさん……………」

 

 痙攣するように嗚咽を溢した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「ーーーーーーただいま」

 

 ポポちゃんワールドサーキット、その大型筐体の中。

 東京から遠く離れた僻地も僻地。

 日本の隅っこのようなド田舎にある一軒家。

 

 ようやく、ゴローは辿り着いた。

 

 それは映像でしかない。

 しかし、もう二度と帰れないと思っていた我が家を目の前にして、穏やかでいられる訳もなく。

 

 庭の砂利。

 雑草の生え方。

 裏山から垂れた木。

 雨水で変色した柱。

 玄関の黒ずみ。

 2階の屋根の汚れ。

 カーテンの色。

 

 何もかもが、当時のままで。

 

 「チャイム鳴らしたら…出てくるかな」

 

 あの頃の君と、あの頃の娘達が。

 幻想の中で()を迎えてくれる。

 

 「………なんて、な」

 

 指でチャイムのある場所(モニター)に触れる。

 反応は無い。

 そういう用途で作られたゲームでは無いのだから、それは当然だろう。

 製作者(ポポちゃん)に頼めば成し遂げてくれそうな気配はあるが、それはそれで虚しくなるだろうし、もしかしたら脳が狂うかもしれない。ただでさえ危ない頭が今よりも壊れたりしたら流石にマズい。

 

 しばらく懐かしの我が家を眺め、気持ちを鎮めてから車庫へ向けてバイクを押す。

 田舎特有の無駄に広い敷地を活用した車庫。いつもここから仕事に行ったり、買い物に行っていた。

 

 「……………よし!!」

 

 センチメンタルはもう終わりだ。

 バイクのサイドに取り付けた革カバンからウサギのぬいぐるみを取り出して股に挟んだ。

 

 「ウサさん、遅くなってゴメン! 今からドライブ行こうぜ! とりあえずいつもの海まで行って、そっからまた色んな景色を見に行こう!」

 

 

 ーーー子供達が大きくなって

 

 

 バイクのアクセルを回す。

 今日は極力ストレスフリーで、その上でバイクの持ち味を楽しみたい気分なのでこのバイク(ゲーム)特有の変速方式の中で4Rを選択。

 ギアのガチャコラを楽しみつつ、長時間になると面倒になるクラッチ操作を省く理想的な簡略ギアチェンシステム。

 

 「カブはやっぱスゲーんだわ!」

 

 

 ーーー二人でゆっくり過ごせるようになったら

 

 

 軽快にバイクが風を切る。

 懐かしい道。

 心地よい道。

 

 「それにしてもなー! サヲリは兎も角としてもあのスミレがなー? ちゃんとした大人のお姉ちゃんになったもんだよなー…。父ちゃんからしたら本当にちょっと前だぜ? 『キモい』だの『お前触るな!』だの言ってさ、洗濯物すら別で洗うような完璧反抗期だったベイビーちゃんがさぁ」

 

 

 ーーーまたあの頃みたく一緒にバイクで

 

 

 「変わるもんだよ…まぁ俺が寝てる間のウサさんの教育が良かったんやろけどな! 流石はウサさん、略してサスウサだわ」

 

 

 ーーー色んなところに行こうね

 

 

 「まぁ、なんであんなにオタクに目覚めたのかは謎なんだがな、あの子父ちゃんが勧めるアニメだとか特撮だとか頭からガン拒否やったのにな。変な子よなー…………」

 

 

 ーーー約束だよ

 

 

 「…約束だ」

 

 

 偽物の世界で。

 やっと1歩。

 ゴローは道を進んだ。

 

wキャラのコスプレ、誰を選ぶ?

  • やはり主人公! ヒイロ・ユイ
  • ココこそヒロイン! リリーナ・ドーリアン
  • お母さん! デュオ・マックスウェル
  • スネ夫! トロワ・バートン
  • 頑固ショタ! カトル・ラバーバ・ウィナー
  • オデコ紳士! 張五飛
  • 火消しの! ゼクス・マーキス
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