Q.酒…飲みすぎじゃね?
ゴクゴク。
軽く一口してオツマミに手を伸ばそうと思っていたゴローだったが、そのコメントを見て一気飲みに変更した。
「ゴクゴクゴクゴクゴクゴク…パはァーグォア!!」
酷い画像にコメント欄が荒れる。
面白い…汚い…萌える………それでも、今はゴローの体調を心配する声の方が強かった。
それもそうだろう。
例えゴローが本当にもと45歳のおじさんだったとしても、今の身体は未就学児としか思えないサイズの幼女なのだ。
以前からチラホラと同じような声はあった。
これまではその全てを黙殺してきたのたが。
「酒………なぁ」
トン。
少し音を立てて空の缶をテーブルに置く。
バトルのフリー演習モードを起動して、敵のAIを相手にバズーカ→格闘攻撃(バトオペの基本にして奥義とも言える基礎的なコンボ、バズ格と呼ばれる)を確実に最速で決めるための練習を開始して。
少しだけ、感情に蓋をした。
「心配してくれてあんがとね」
感謝。
しかし。
オモシロ可笑しいオジサンの配信を楽しみ来てくれている人に言うべきなのか。
こんな事は黙って客寄せパンダとしての責務をまっとうするべきなのでは無いか。
そう思う気持ちも確かにある。
しかし……。
しばしの逡巡の後、どうしても堪えきれなかった。
「おっちゃんな……今、45歳なんよね」
逆立ちしてもそうは見えない。
珠の肌、大きな瞳、柔らかい指先。
45歳とも、男性ともかけ離れた容姿。
「まぁ40の頃に病気で意識無くして5年間タイムスキップしてるからおっちゃんの感覚では40なんだけどさ………実はおっちゃんな? 30代後半までビールが美味いとは思えんかったんよな」
訓練場の中でジムの脚を撃つ。
撃って、よろけさせて、サーベルで斬る。
その動作を繰り返す。
「親が酒乱だった事もあって酒その物が好きじゃなくてな〜、わざわざ苦くて不味い汁に金払うなんてバカだと思って軽蔑してたんよ」
親が暴れて負傷した二の腕の傷跡。
ウイルスに侵されて意識を無くし、目覚めた頃には完全に消えて無くなってしまった、肉体に刻まれた過去の記録。
偽物のように美しく、吐き気がするほど本物の自分自身の肌を撫でてゴローは続けた。
「けど…まぁなんだ。とある宴席に行かなきゃならんくなってな? おっちゃん人見知りだもんで最初はすんゲー警戒してたんやけど、そこで知り合った人達がまー気の良い人ばっかりでさ、会を重ねる毎に気安くなって、仲良くなってさ…」
懐かしい過去。
二度と、手の届かないそれに思いを馳せて。
「んで、そこで付き合いのつもりで飲んだビールがね、美味かったのよ。くっっっっっそ美味くってなぁ〜」
記憶の中の自分とは違う自分が、画面の中で不器用に笑う。
「それから少しずつビール飲んだり、日本酒飲んだり、焼酎飲んだりし始めたんよな………あん? あいやそだねー甘い系の酒も好きだったぜ? カルアミルクまで行くと甘すぎてオェったけど杏露酒とかカシスオレンジとか美味かったし、チューハイはジュース感覚で楽しんでたかな」
あ、カルア好きな人はゴメンな?
酒は個人差あるしな〜。
ぽやぽやと、熱に浮かされたように酒を飲み。
「………うむ、久々に甘いのも飲むか」
席を立ったゴローがキッチンへと消えた。
リスナーの反応は様々だ。
興味を持つもの、無くすもの。
喜び、苛立ち、懐疑に盲信。
「これぁ〜ウマイぞ!」
杏露酒を市販のレモンティーで割り、氷をぶち込んだ一品である。比率を好みで調節出来る所も他人様にオススメ出来るポイントなんだな〜!
口に含み、同時に取り込んだ氷をガリガリザクザクと噛み砕きながら味わう杏露酒の旨味にだらしないほど顔が溶ける。
「ーーーんで? なんの話だったっけ?」
マドラーが氷を回す心地良い音に耳を傾け、リスナーとの対話を楽しむ。
「へへ、嘘だって、流石におっちゃんもそこまでボケてねーよって。まぁそう、気の良い人達のおかげで…その人達が居たからこそ、おっちゃんは酒が好きになったんよ」
脳の中心に意識を集める。
バトオペと同じ。
敵の一挙手一投足を見逃さず、一瞬の隙にバズ格を捩じ込むように、己の感情と情動を可能な限り制御しながら、それでも叫びたい事をできる限り正確に伝える。
画面の向こうに居る、君達と、対等に遊びたいから。
「病院で目覚めてからは地獄だった…見てくれよこの身体、ちっちゃくて、可愛くて、どっからどう見ても他人の身体だ」
乖離した。
心と身体が分断されて、脳が壊れるほどに混乱した。
古傷がない、蓄積疲労が無い、歯の治療跡すらない。
別人の身体に脳だけ移植されたと言われた方が、狂った少女の妄想によって生み出されたのが己の意識と記憶にある過去だ…と。
そう言われた方がまだ納得出来る異常事態。
自分がわからなくなった。
過去がチリのように吹かれて消えた。
己の過去を証明するための何もかもが消え去って、宙ぶらりんの自分の記憶だけが、変わらない現実に殴られ続けて。
「そんな時だったんだ」
薬に頼って、意識を無くしている時だけが唯一安らげる一時だった。
「ヤケクソで飲んだ酒がね…美味かったんよ」
心が熱い。
誰かに、お前に。
自分の今を、これから先の過去として共有してくれるお前らに。
「本物の幼女に、この味がわかるか!? いや違う! あえて言おう! 酒カスであるとッ!!」
ガンッッッ!!
テーブルに杏露酒の入ったグラスを叩きつける。
「おっちゃんがおっちゃんだからこそ、この酒の美味さがわかるんだろ? つまり酒はおっちゃんを証明しるゆ〜ぃちのアレであって、お前ら…も……飲め! な? ウマぃぞ〜? オツマミポリポリしちゃうもんねー!」
たまにはポテチ。
酒にはナッツが王道だが、ポテチのポテンシャルは計り知れない。
「んあ……? かんぞー? 肝臓が心配?? あ〜幼女ボデーだから? 体積ちっこいのに飲みすぎやって? ヘーキヘーキぃ! おっちゃん肝臓死ぬほど強いから! 頭のお薬と酒のダブルパンチもよゆ〜で受け止める鋼の肝臓らからっ! あとなぁ〜君らには内緒にしてたけどちょくちょくノンアルも混ぜて飲んでるんよね〜! ひひ〜知らんかったじゃろ〜?? 最近のノンアルはバリウマですぞ〜」
ノンアルなら画面に映してもOKなんだよな?
ほんなら、おっちゃんのオススメは〜〜〜。
完全に放置させたバトオペの機体。
だが、今はそれで良い。
この日はただ穏やかに。
彼らの時は流れた。
昨日は投稿出来んくてすまんかった。
残業とビールとバトオペが悪いんや。
おっちゃん書くおっちゃんは悪くないんやで。
調子が良かったら今日中にもう一話頑張る…かも。
知らんけどな〜w