2025/03/23 本文修正あり。
時系列の把握が曖昧で矛盾した描写がございました。未来視でもしたんか……?
jyajyanken様、ご指摘いただきありがとうございます。
(修正前)先日はウォーターセブンで世界政府に宣戦布告をしたほどに尖った奴らだ。見かけによらず規範や自らの信ずる正義を重視する男が危険視し、思わず追ってしまうのも頷けよう。
(修正後)見かけによらず規範や自らの信ずる正義を重視する男が、職務を放棄してまで追うほどに危険視する海賊団なのだろうか。
砂の国 アラバスタ。
国土の殆どを砂漠で覆われた不毛の地で占めていながらも世界有数の富国として名を馳せる大国である。国を治める王家 ネフェルタリ家も人徳厚い賢王揃いと言われ、その治世は安定そのもの。昨今の異様な水不足で
「――と、言ってはいるが……」
「十中八九、虚偽申告でしょうね」
偉大なる航路入り口付近を航海する一隻の軍艦。潮風に傷んだ甲板で、ニュースクーから受け取った新聞に紛れるように差し込まれた海軍の機密情報をサイドテーブルに叩きつけた。呆れたように頬杖をつくウルフレッドの隣で、ジンがペットの白いモモンガの顎をくすぐりながら、続けて言う。
慣れ親しんだ
――それはそうとしても、せめて相談ぐらいして欲しかった……。
海軍大佐”白猟”のスモーカー。口さがない輩からは”野犬”と揶揄されることもある暴馬だ。そんなことは無理な相談だとわかっていながらも、ウルフレッドは若干痛む腹をさすりながら天を仰いだ。
「ウルフレッド少将、港が見えてきました!」
「寄港予定時刻は
慌ただしく駆け寄ってきた部下たちの報告にウルフレッドは鷹揚に頷いて顎を撫でた。
「予定通りだ。あとはスモーカー君をとっ捕まえるだけだが……」
寄港先はアラバスタ最大の港町 ナノハナ。露天に薄いレースをかけた建物が立ち並ぶ独自の景色は異国情緒があり、アラバスタ有数の観光地でもある。広大なアラバスタ王国の中でも海に面した位置にあり、麦わらのルフィを追うスモーカーが現れる可能性は非常に高いと思えた。
「いやはや、そう簡単に事が進むかな……まるで嵐の前触れのような風の静けさだ」
一行は無事に停泊を終えると、港を管理する当局への申請を待つ間、街を巡回することとなった。実際は巡回という名目の散策だが。三ヶ月間船に缶詰状態だった部下たちを労う意図もあり、束の間の休憩だ。部下たちは居残り組を除いて街に散り、ウルフレッドは軍艦の補給を行いがてら街を歩くことにした。
「風が渇いている。サウスウェンディ島とは大違いだ」
「そりゃあそうでしょう、と言いたいところですが、あの島で生まれ育った僕としても同じ気持ちです。いやあ、気持ちが悪いですね。カラカラだ」
なぜか付いてきたジンを伴い、ウルフレッドは荷下ろしする男たちの間を縫うように街の方へと歩みを進めた。
ナノハナは香水の街としても名を馳せている。その名に違わぬ、頭痛がしてくるほどに濃い香りが常人よりも鋭いウルフレッドの鼻腔を突き刺した。
「ウ……!」
「少将?! 大丈夫ですか!」
冷静沈着な上官のうめきに敏感に反応したジンは自らの隊服のポケットを漁ると白モモンガがしがみついたままの一枚のハンカチーフを取り出した。黒い無地のハンカチで、木綿でできているようだった。まだ値札がついている真新しさから、ジンがこのハンカチを一度も使用していないことがわかる。一方で白い綿埃のような毛がついているのを見ると、彼のペットがベットとして使っているのが見てとれた。ポケットの中から寝ぼけ眼を擦りながらジィジィと抗議の声を挙げるモモンガを尻目にジンは素早くハンカチをはたくとウルフレッドへ差し出した。
「これを口元に巻けば幾らか緩和できるかと!」
「……い、いや。気持ちだけいただこう」
「遠慮しなくとも大丈夫です! 新品なので気兼ねなく使い捨ててください!」
副官の尊敬に満ちた純粋な瞳を眩そうに目を細めながら見返したウルフレッドは、複雑な表情をして眼前の小さな手をそっと押し返した。疑問に満ちた顔のジンに苦笑いを浮かべたウルフレッドは、若干恥ずかしげに理由を話した。
「顔に布を巻くのは盗人の正装だからな……正義の代弁者たる海兵がするわけにはいかないよ」
目をぱちくりとさせたジンは、一拍置いて腹の底から湧き上がるように笑った。なんて古い考えか! まるで地元の老人かのような凝り固まった考え方だ。偏見も甚だしい。
笑いに沈むジンの旋毛を見下ろしながら、ウルフレッドは真面目腐った顔で「私の故郷ではそうだった」と呟いてそっぽむいた。普段は頼りになる上官が時折披露する世間知らずとも取れる知識の偏りは、サウスウエンディ島でも有名だ。支部内では良い所の出のなのではないかと、また島民からは天然なのだと思われている。ともかく、ウルフレッドという男はどこか
拗ねたような面持ちでジンを桟橋に置き去りにしたウルフレッドは、鼻に皺を寄せながら香水の香り漂う
一本街の奥まった場所に入ると、人気が途端になくなった。色とりどりのレースで飾り立てられた眩い面とは裏腹に、元々の建物自体は砂や石でできた素朴な色合いだということがはっきりとわかった。剥き出しになった壁に沿って裏町を進んでいくと、ナノハナという町まるで迷路のように入り組んだ構造であることに気がついた。方眼紙に配置したような人の手で計算され尽くした街とは違う味わいに、アラバスタ王国の歴史の深さを感じる。
ウルフレッドは狭い路地裏を、帯剣に気を遣いながら進んだ。気を抜けば長めの鞘が壁に一本の線を刻んでしまいそうなほど狭い場所だったからだ。人気が少ないそこを正義の刻まれた白コートを翻しながら器用に進んでいると、ある時から足音が増えていることに気がついた。
尾行されている。
そう気が付いた瞬間、立ち止まったウルフレッドの背後から五人の男が飛びかかった。
・
「ズビバゼンデジタ……」
「阿呆どもが……ひとりとはいえ海軍将校に戦いを挑むなど、どこの怖いもの知らずだ?」
ボコボコに腫れ上がった顔で雑に縛り上げられた男たちの前で、ウルフレッドは傷ひとつなく立っていた。片足に重心を預けるように立ちながらイラついた顔で懐に仕舞い込んでいたここいら近辺の賞金首がまとめられた紙の束をパラパラとめくっていく。時折涙を流す肉団子のように歪な形に腫れ上がった男たちの顔と紙とを見比べつつ、首を傾げる。当然だ。彼自身の手によって見る影もないほどに痛めつけられているのだから。人相云々以前に人間かどうかも怪しい。
結局手配書に該当しない顔であったため、ウルフレッドは全員を縄で繋げた上、引きずるように歩き出した。今何者かわからなくとも、海兵に切り掛かってきた時点で犯罪者であることは違いない。
「で、お前たちはどこの海賊だ?」
「エ……!!」
「驚くことでもなかろうに。お前たちの体に刻まれた揃いの髑髏でわかるさ」
男たちの体には同じ髑髏が刻まれていた。翼と一対のカトラスがモチーフの髑髏だ。ウルフレッドとしては、全く見覚えがなく、しかしモチーフとしてはあまりにもありきたりに思える取り合わせに「どこぞの無名海賊か」とも思った。しかし、自らの心に吹く風は彼らの悪辣さを主張し、ここで情報を搾り取るべきだと囁いている。
まだ、海賊だと決まったわけではない。
「お、俺たちゃ、そんぞそこらの海賊じゃねぇぞ!」
「ほう? それはぜひお聞かせ願いたいね」
「馬鹿野郎ッ……! ボスにバレたら殺されるぞ!」
引きずられながら一人の男が海賊呼ばわりに怯えながらも憤慨したように叫び声を上げた。その内容を遮ろうと声を上げた他の男から溢れた”ボス”という単語。やはり何かしらの組織がアラバスタで暗躍しているのだ。ウルフレッドは口をつぐみながら静かに男たちの言い争いに耳を傾けた。
「かまいやしねぇ! お前、この男が誰かわからねぇか?!」
「ハ……? 誰って、そりゃお前……」
「海軍一の剣の使い手ながら
ハッ!とした顔で自分達を引きずる細身の将校を見上げる男たち。先ほどまでよわっちそうな、ナヨナヨとして女みたいな男だとばかり思っていたのに、その話を聞くと一転、どことなく強く見えてきた。確かに、よく見てみれば強そうなオーラがムンムンの男ではないか。ほら、腰に帯びた刀なんて一度も抜かなかったけれどグリップの変形がえげつない。あれは相当に使い込んでいる。
賞金稼ぎとして海軍支部に出入りした経験もあるが、男たちはウルフレッドほど強者のオーラがない将校を見たことがなかった。しかし、よくみればそれもフェイクだとわかる。半ば騙された気持ちで男たちがウルフレッドを見るも、彼は小首をかしげるだけであった。
「……?」
「知らんのかい!」
「あんた強さの割に境遇が悪いことで有名なんだよ!」
「なんだって? 私は冷遇されていたのか……?!」
「おい嘘だろ、気づいてなかったのかよ!」
「確かに、思い返せば私だけ昇格試験の相手が大将だ……他の奴らは中将がせいぜいなのに……」
「そこは気づけよ!」
次々に新事実が発覚し、慄くウルフレッド。そんな人間に引きずられる男たちも海軍のヤバさに震えとツッコミが止まらなかった。嫉妬か? 嫉妬故の妨害なのか? 海軍のブラックボックスに興味を惹かれつつ、男たちの一人がウルフレッドの気を引くように大声で叫んだ。
「あのさ! 海軍将校さんにこんなこと聞くのもあれだけど、俺たちってなんで捕まったンだ」
「それを今から聞くのさ」
「俺たちがなんであんたに襲いかかったのか、わからないのか」
「? ……何が言いたい」
当てもなく進む足を止めて、眉間に皺を寄せて振り返るウルフレッド。男たちはヤニやけした黄ばんだ歯を剥き出しにしてニッと笑うと大きく叫んだ。
「俺たちがいつ、五人だと言った?!」
「ッ!」
刹那背筋を刺す濃厚な殺意と危機感に逆らわず、手に握る男たちの縄を放って飛び退くウルフレッド。
ドンッと地響きのような衝撃音と共に土煙が舞い上がり、乱入者の姿を覆い隠す。立ち並ぶ建物の上から降り落ちた大男の姿に、腰元のグリップを強く握り込み、鋭く声を張り上げた。
「何者だ!」
「俺が何者か……その身をもって確かめるんだなッ!」
「能力者か……」
「ご明察」
相対する浅黒い肌の大男は厚めの唇をゆっくりと開いてそう言った。男の指先は鈍く光っており、刃物と化していることが伺える。ウルフレッドが最も苦手とする相手――
「生憎、あからさまに悪い奴を見逃すほど、私の正義は落ちぶれちゃあいない」
「……
変化させた両手の刃物を振り下ろすことで交差させる男。彼から放たれた斬撃も賽の目のように細かい目で、回避は難しく思えた。
ウルフレッドはその斬撃から目を逸らすことなく、握りしめていたグリップを一層強く握ったかと思うと、居合切りの要領で引き抜いた。どこからともなく舞い上がった風がウルフレッドの持つ剣に巻き付くように吹きつける。振り下ろされた剣先は飛ぶ斬撃をかき消した。
霧散する風の余韻がウルフレッドの髪先を弄ぶ。模範的な姿勢で剣を構え直した姿に目を細めていた坊主頭の男は、腕を前に構えると腕に小さな刃を複数生やし、それを高速で回転させた。それ同士を威嚇するかのようにぶつけ合うと火花と共に金属同士を擦り合わせた時特有の甲高い音がした。鉄臭さがあたりに充満しており、それが相対する男が持つ能力を示唆していた。
「岩場掘削機のようなものか?」
「それ以上だ。俺のドリルは全てを貫く……
腕に纏う螺旋状の刃を回転させたまま、男はウルフレッドに飛びかかった。一撃でも貰えば身が抉られるだろうことが容易に見て取れる攻撃に、しかしウルフレッドは焦ることなく飛びかかる男に向かって剣を振るった。
「グ……!?」
「私の剣は不殺の剣……お前には聞きたいことがある。大人しくお縄につけ!」
どこからともなく吹き込んだ突風が男の巨躯に纏わりつくようにして吹き荒び、そのまま男を宙で磔にしてしまった。驚愕を顔に貼り付けた男を見たウルフレッドが構えを解くと、風は瞬く間に霧散していく。その場で落とされる形になった男は、実力の差を解さぬといった態度で再び襲いかかる。今度は足元を刃物に変え、まるで地面を滑るかのように高速で移動する。
彼我の距離は先ほどよりも近い。それに加えて高速移動をされたものだから、男の刃は今度こそウルフレッドへ届いた。
振り上げられた腕はその一本が大きな剣のようになっており、そこから一本の大きな衝撃波が飛び出した。飛ぶ斬撃だ。ウルフレッドに向かい、飛ぶ斬撃と腕の大剣が同時に襲いかかった。
勝負は一瞬だった。
姿勢を低く、地面を力強く蹴ったウルフレッドは
「隙だらけだ!」
「クソ……ッ」
風で斬撃をかき消して。伸ばした剣先は男が無防備に晒した脇腹に沈み込んだ。
「っ、不遇の剣豪……かつての雪辱を晴らしたいところだが、俺には時間がない。ここいらでお暇させてもらおう」
斬りつけられ、流血する脇腹を庇いながら男は言った。
ウルフレッドが霧散させた斬撃の余波で、背後の建物が崩れ落ちた。轟音と共に土煙が上がりお互いの姿が覆い隠される。ウルフレッドは遮られる視界の中で低い嗤い声を聞いた。一拍遅れ、風を纏わせた突きで土煙を晴らした時には男の姿はなかった。
崩れた建物に住民たちが集まってくる中で、ウルフレッドはハッとした顔で背後を振り返った。
「やられた……ッ!」
崩落した建物の傍で、縛り上げられたままの男たちが赤の中に沈んでいた。声も上げられずに切り裂かれたのだろう。首筋を刻まれた姿に一度目を瞑ると内心で祈りを捧げる。「風が彼の者の魂を故郷まで運んでくれますように……」と祈りを口の中で転がした。命の尊さに善悪はない。
騒ぎを聞きつけた住民たちの中に部下の姿を認めたウルフレッドは彼らに命じて簡易担架を作らせて遺体を運び出す。ここいらに詳しい地元住民に港への道筋を先導して貰いながらウルフレッドは男の正体について考え込んだ。
男は消える間際、確かに「
――どこで?
刃を交えたからこそわかる確かな実力。新世界ではありふれた力量だが、前半の海では敵なしだろう。それに本人の纏う空気も荒くれ者のそれだった。それもギャングや海賊といったグループに属するようなタイプではない。孤独な一匹狼のそれだ。そこから導き出される答えは――賞金稼ぎ、ないしは殺し屋の類。
「副官くん!」
「はい、ウルフレッド少将」
「
「了解です」
手を二度叩けばどこからともなく飛び出てきた副官とその肩で「ジッ!」と元気に小さな手を伸ばすモモンガ。先ほどの男の正体を突き止めてもらうように頼み、ウルフレッドはその場を後にした。
「臭うな……」
この国はどうもきな臭い。
キャラクター覚え書き
ジン
海軍西の海サウスウエンディ島准将。地元民。
白モモンガの相棒を連れている参謀役。
魑魅魍魎渦巻く西の海で平和な島を維持できるのはこの男のお陰……かも。