零崎常識の人間ストライク   作:忘旗かんばせ

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第一章『零崎双識』 4

 ◆   ◆

 

「けひゃあっ!」

 

 真っ先に動いたのは罪鼓罰撥だった。

 

「煮炊垂蔵だか揚焼(あげやき)肝臓(かんぞう)だか知りませんが、演奏の邪魔なんですよぉ〜〜!」

 

 叫びながら、罰撥は己のバチを振り翳しては煮炊垂蔵へと突貫し——じゅう、と音色が響く。

 

「けひゃ————っ!?」

 

 見れば、彼が振るったバチの、その先端が()()していた。あと数センチずれていたのならば、なくなっていたのは罰撥の拳だっただろう。

 

「おっと、すまんな小童。つい反射的に焼いてしもうたわ」

 

 ぐわははは、と笑いながら、垂蔵は恐ろしいことをいう。超電磁兵器『電光丹朱(ブリッツグレイ)』——決して軽量というわけではないだろう、重鈍な金属の塊を装備しておきながら、この機敏さ。罰撥の振るったバチを、()()()()()()()()()()()なんて離れ技を、まるで軽々とやってのける。その実力に、双識は戦慄する。

 

「とんでもないな……前科百犯放火魔爺さん、煮炊垂蔵。その異名は伊達じゃないってわけか」

 

 冷や汗なのか、それとも熱気に当てられてなのか、それさえもわからない汗を拭いながら、双識は呟く。

 

 煮炊垂蔵——年齢、六十八歳。戦いに次ぐ戦いにより、下手をすれば平均寿命が三十歳を切りかねないこの『暴力の世界』においては、もはや破格と言っていい長寿。それを成し遂げたのは断じて、彼が戦闘を避けて生き残ることを優先してきたからなんてつまらない理由ではない。むしろ——その逆だ。

 

 煮炊垂蔵、御歳六十八歳。それはイコールで、彼がこの六十八年間、()()()()()()()()()()()()という意味である。

 

「さて、そちらにいるのは、二十人目の地獄かな?」

 

 なんて、垂蔵は双識へと視線を向ける。

 

「いかにも……なんて言えたらかっこいいんだがね。あいにくと、今の私は結構ギリギリなんだ。赤の他人だと言ったら見逃してもらえたりはしないかな?」

「ふむ、何があったのかは知らんが、しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉に——双識はいささか面食らう。

 

「あーっと、あなたの狙いは、私ではない、ということかな?」

「ああとも。儂とて、零崎と真正面からやり合う趣味はないのでな」

 

 その言葉に、双識は肩を撫で下ろす。今ほど零崎の看板を背負っていて良かったと思ったことはない。家族が、またも双識の命を救ってくれたのだ。

 

「そうかい。それじゃあ、私たちはここでお暇させてもらうよ。あとはそちらの罪鼓さん達と、よろしくやってくれ」

 

 そう言って、双識は振り返り入皆の手を取るけれど——

 

「む? 待て待て待て、二十人目の地獄、何を勘違いしておるか」

「え?」

 

 そんな双識を、垂蔵は呼び止める。

 

「儂が見逃すと言ったのは、二十人目の地獄、あくまでもお前一人のことだ」

 

 言って——彼はその枯れた指で、指し示す。

 

「そのチビ助は、置いてゆけ」

 

 儂が殺すでな。

 

 なんて。

 煮炊垂蔵は、匂宮入皆への殺害宣言を、平然となしてみせたのだった。

 

 ◆   ◆

 

「待て待て待て待て待てよ爺さん。なんであなたが、あなたほどのプレイヤーが、こんなただの子供を躍起になって殺す必要があるんだい?」

「ただの子供? ふぅむ、お前にはそう見えているのか」

 

 ぞりり、と顎髭をなぞりながら、垂蔵は眉を上げる。入皆はほんの少しだけ眉を寄せた。

 

「? ああ、どう見たって、この子は無辜の一般市民だろう?」

「ふ、まあ、そう見たいならそう見れば良いわ」

 

 がしゃん、と。超電磁兵器『電光丹朱(ブリッツグレイ)』を揺らしながら、垂蔵は笑う。

 

「ま、理由なんぞ一つしかあるまいて。仕事よ、仕事。そいつが生きておると、邪魔だという奴がいるのだな。儂は、其奴の依頼を請け負ったのよ」

 

 ぐわははは、と大口を開けて、垂蔵は笑う。金歯がギラギラと輝いて見えた。

 

 入皆は冷静に思考する。煮炊垂蔵。今の入皆では、少々手に余りすぎるビッグネームだ。万全の状態であればなんとかできる自信もあるが……しかし少なくとも、今は勝てない。一般人の偽装をかなぐり捨てたとして、不可能だ。

 

 全く、どこの誰がこんな厄介な敵を、この重要な場面で差し向けてくれたのやら。可能性が高いのは、冷遇されている分家筋……あるいはなんらかの敵対組織。大穴で時宮……いや、完全な身内(本家)の誰かという可能性もあるか。ああ、だめだ、心当たりが多すぎる。入皆は思考を放棄した。今考えるべきは、ここをどう乗り切るかだ。幸いにして、手札は多くある。裏にも表にも、一枚づつ。

 

「依頼……クソッ、どこの下衆野郎がそんな依頼を出したっていうんだっ!」

 

 幼気な少年を殺そうだなんて、信じられない悪党だ、なんていろんなところに流れ弾が行きそうな言葉を吐き散らしつつ、双識は垂蔵を睨みつける。隣の少年がその美貌の下で己を『手札』とさえカウントしていることを知りもせず。

 

「そういうわけなら仕方ない。あなたは私の——」

「敵、ですねぇ!」

 

 けひゃあっ! と。

 叫び声をあげて、再び垂蔵へと襲い掛かったのは、罪鼓罰撥だった。半分になったバチを投げつけ、垂蔵がそれを反射的に焼き切る隙に懐に潜り込み——一撃。後、駆け抜けるような離脱。

 

「あいにくと、私のターゲットはマインドレンデル氏でしてねぇ〜〜! 勝手に見逃されては困るんですよ」

「そうか? では、二十人目の地獄は貴様に譲ろう」

「あ、そりゃどうもご丁寧に……って、そうじゃないんですよぉ〜〜! あそこのおチビさんを殺されてしまったら、私はとっても困————」

 

 と、言いかけて。

 

 そこでふと、罰撥は考え込んだ。

 

 果たして、自分は本当に、匂宮入皆(依頼主)を殺されると困るのだろうか?

 

 確かに、彼が死ねば報酬は無くなってしまう。

 だが——名誉は独り占めだ。

 

 もし、罪鼓罰撥が彼の『自殺志願(マインドレンデル)』、零崎双識を単身で撃破したとなれば、その悪名は間違いなく暴力の世界に轟き尽くし、罪鼓の殺し名入りも確実だろう。

 

「……ることもないのか、別に」

 

 ボソリとつぶやかれた言葉に、背筋を寒くしたのは入皆だった。

 

「あの、嘘ですよね?」

「……では、垂蔵氏はおチビさんを、私はマインドレンデル氏を、ということで」

「うむ、そうしよう」

 

 入皆のすがるような声は無視され——粛々と手分けが完了していた。

 

「それでは改めて……けひゃひゃひゃひゃ、死ぃ〜〜ねぇ〜〜! マインドレンデル氏ぃ〜〜!」

「覚悟はいいか、チビ助?」

「お兄ちゃん、助けてください!」

「その言葉を待っていた!」

 

 事ここに至って、真の意味で、呉越同舟が完了した。

 

 陣営は二つ。

 追うもの、罪鼓罰撥with罪鼓楽団、煮炊垂蔵。

 追われるもの、零崎双識、匂宮入皆。

 

 異色のタッグによるマッチアップ。

 異形の逃走劇が、今、始まる。

 

 ◆   ◆

 

「うぉおおおおおおおおっ!」

 

 雄叫びを上げながら、双識は街を駆け抜ける。入皆を背に背負ったまま、路地を右に左に曲がりくねり、時には民家の庭をさえ通り過ぎ、縦横無尽に。その背後から——

 

「待たんか、二十人目の地獄よ!」

 

 ドシュウ、と凄まじい音色と共に、炎が追い縋る。道を焼き、塀を焼き、民家を焼き、プラズマジェットの輝きと共に、煮炊垂蔵が双識を猛然と追走していた。

 

「クッソ、あの爺さん、なんて持久力してやがる!あんな重たい武器を抱えて息の一つも切らさず全力疾走しやがって……!」

 

 文句を垂れつつ、双識は駆ける。足を止めてはいられない。追いつかれれば、塵も残らず消し炭だ。双識とて一人のプレイヤーとして——一人の殺人鬼として死を覚悟してはいるものの、いくらなんでもそんな死に方じゃあ、笑って死ねるもクソもない。

 

 双識は一層気合を入れて足を踏み出し——

 

「けひゃひゃひゃひゃぁ! ここは通しませんよぉ〜〜っ!」

 

 急停止。螺子で留め直し、鋏の形に戻した『自殺(マインド)志願(レンデル)』をホルスターから片手で引き抜いた。

 

「けひゃひゃ、鋏を武器にしようだなんて、危険極まりない思想ですねぇマインドレンデル氏ぃ〜〜!鋏は文房具ですよぉ? うら若き少年少女があなたの影響を受けて鋏で人を傷付けるようになったらどう責任を取るおつもりなんですかぁ〜〜!?」

「バチで人をぶっ叩いている君に言われたくはないね。太鼓の達人のプレイヤーたちに謝りたまえ」

 

 言いながら、彼は自らの分身とも言える大鋏を振るい、現れた罰撥へと攻撃を叩き込もうとする——が。

 

「勝手な下校は御法度です。『学級会』はまだ続いているんですよぉ〜〜!」

 

 その声に呼応して——演奏が始まる。『厳かなる殺戮学級会』。零崎双識を殺すためだけに作られた旋律が、双識の動きを鈍らせる。

 

 しかし——

 

「入皆くん! 歌を!」

「っ、はい!」

 

 入皆は双識の耳元で歌を歌う。アメイジング・グレイス。和訳されたそれではない、言語版の歌を、アカペラで。

 

「ああ、いいよ……すごく、すごくイイっ!」

「わかりましたからちゃんと戦ってください!」

 

 叱咤されながらも、双識は大鋏を巧みに操り、罰撥のバチを半ばから切断する。

 

「ぎゃああああっ、私の、残り一本しか無いバチがあっ!」

 

 罰撥がショックを受けている隙に、その体を押し除けて先を急ぐ。本当ならトドメを刺したいところだが、それをしている時間はない。背後にはもう、焼け焦げる匂いが迫っていた。

 

 双識は路地を曲がり——そこに、あるものを発見する。

 

「あれは……」

 

 それは路上に駐車された大型バイクだった。

 

 カワサキ・ゼファーχ。近年発売されたばかりの、最新のネイキッドバイク。それを見つけた双識は目を輝かせる。

 

「いいものを見つけたぞ、入皆くん」

「ちょ、何するつもりですかお兄ちゃん!?」

「安心しなさい。これはちょっと借りるだけだ」

 

 言って、双識は車体に蹴りを入れる。瞬間、キーもなしに、ブルンと大音を立ててエンジンがかかる。

 

「ノーヘル二人乗りとはとんでもない交通法違反だが、緊急避難だ。仕方がない。さあ行くぞ入皆くん、お兄ちゃんの体にしっかり捕まるんだ!」

 

 言い切って、双識はエンジンを蒸す。回転する車輪。二人は一気に路地を飛び出し、車道に躍り出た。

 

「ぬぅ、バイクとは卑怯な!」

 

 一手遅れて追い付いた垂蔵は、放火した路地から飛び出て舌打ちをする。そして——ずどん、と跳躍。道を行くタクシーのルーフに、曲芸じみて飛び乗った。

 

 突然の重量加算に驚いて蛇行するタクシーに、けれど振り落とされることもなく。垂蔵はそのまま『電光丹朱(ブリッツグレイ)』をルーフに突き立て、天板を大きく切り取った。悲鳴が上がり、運転手は思わず急ブレーキを踏むが——

 

「何をしておる! アクセルだ、アクセル! 前のバイクを追えい!」

 

 天板に開けた穴から、垂蔵ががなりたてる。主の怒りに呼応してか、腕に装備された超電磁兵器が、うなりを上げて放電した。その気迫に恐怖して、運転手はコクコクと高速で首を縦に振り——アクセルを全力で踏み込んだ。

 

「ぐわははははは! さあこれで速度は互角だ、二十人目の地獄よ!」

「クソッ、あの爺さん、めちゃくちゃしやがるっ!」

 

 バックミラーで一部始終を確認していた双識は大声で文句を叫ぶ。必死になってエンジンを蒸すが、相手もさるもの。命がかかっているからだろう。タクシーの運転手は鬼の形相でアクセルをフルスロットルに、双識の背にぴたりと張り付いてくる。

 

 さらには——

 

「けひゃひゃ——っ! 逃しませんよぉ〜〜マインドレンデル氏ぃ〜〜!」

 

 けたたましいクラクションの音色と共に——十字路の左右から、四台のバイクが飛び出してくる。どこで調達したのかもわからない、ハーレーダビッドソン。背の高いチョッパーハンドルが特徴的なそれが、四台。このカーチェイスに参戦する。

 

「バイクはアメリカ製に限りますねぇ〜〜!」

 

 国産バイクファンに全力で喧嘩を売る発言を繰り出しながら、罰撥率いる五人の音楽隊改めて愚連隊たちはフルアクセルで双識たちを猛追する。

 

 四台のバイクと一台の車に追われながら、双識は必死になって逃げ続ける。車道を猛進し、信号を無視してひたすらに先へ先へと。やがて海の側にまで近づき、橋を渡ったところで——

 

「……っ、まずいな」

「どうしたんです?」

「ガス欠だ」

 

 元々、路上に駐車されていたバイクだ。ガソリンが満タンというわけもなく、燃料が、もう底をついていた。

 

「っ、ど、どうするんですか!?」

「さぁて、どうしようか……」

 

 冷や汗を垂らしながら、双識は引き攣ったように笑う。最後の燃料を振り絞り、たどり着いたのは——湾岸の小島にある、巨大な国際展示場。ドーム状の屋根が覆う広場に、バイクのまま入り込んで——停止。ついにバイクは燃料を使い果たし、動かなくなった。

 

「——けひゃひゃーーーーっ!!」

 

 そこへ四台のバイクがたどり着き、ずらりと一列に並ぶ。

 

「おやおやぁ? 鬼ごっこはもう終わりですかぁマインドレンデル氏ぃ〜〜?」

 

 にたにたと汚い笑みでもって、罰撥がせせら笑う。

 

「生憎とね」

 

 答えながら、双識は『自殺志願(マインドレンデル)』を構える。同時——どこで車を失ったのか、煤に塗れた煮炊垂蔵が、遅れて徒歩で会場に入り込む。

 

「ほおう、最後まで戦い死ぬつもりか、二十人目の地獄よ」

「ちょっと違うかな。最後まで戦うつもりではあるけれど、死ぬ気はないぜ」

 

 言いながら、双識は余裕のある笑みを浮かべて見せる。それが虚勢であることなど、本人が一番わかっていた。だがそれでも、双識はそれを張り通す。

 

「……入皆くん、隙を見て逃げるんだ」

「お兄ちゃん……」

「大丈夫。私は私で、なんとかするさ。撫でさせてはもらえなかったが、君の膝小僧はいい膝小僧だった」

 

 意味不明な別れ言葉を言いつつ、双識は入皆を逃がそうとする。それを入皆はほんの少し——哀れだな、と思う。

 

 己の同胞というわけでもない、見ず知らずの子供。それを助けるためだけに、この男はここまで体を張ったのだ。

 

 間抜け極まる。極まるが——ほんの少し。

 敬意にも、値するかもしれない。

 

「お兄ちゃんは、なんでそんなに戦えるんですか?」

「うん? そりゃあ、鍛えているからね」

「いえ、そうではなく——怖くはないんですか?」

 

 入皆が問えば——双識は、何を馬鹿なことをとばかりに笑って見せる。

 

「怖くなんてないさ。だって私には——家族がいるから」

 

 自分が死んでも。

 その生きた証を覚えていてくれる、家族がいる。

 だから戦うことは怖くない、と。

 彼は笑う。

 

 それを入皆は——ほんの少し。

 ほんの少しだけ、羨ましいと思った。

 

 ただ、それだけ。

 それだけ——だ。

 それだけ、だから——

 

「仕方ないですね、お兄ちゃん。それなら僕も一緒に、戦ってあげますよ」

 

 どのみち、ここで死んでも惜しくはない命だ。

 生き残れる目があるとするならば、双識との共闘がもっともだろう。なら、それを選ぶだけのこと。なに、運良く生き残れたのなら、ボロボロになった双識をその場で殺してしまえばいいだけだ。完璧な計算。思って、入皆は拳を構える。

 

「入皆くん、君は——」

「僕もちょっとばかり、戦う力があるんですよ。騙していてごめんなさいね」

 

 パチリとウィンク。すれば、双識は頬を染めて胸を抑えた。気味が悪かった。

 

「——話し合いは終わったか?」

 

 待ちくたびれた、とばかりに垂蔵が声をかける。双識は肩をすくめて言った。

 

「ああ、待っていてくれてどうも」

「いえいえ、気にする必要はありませんよマインドレンデル氏。どうせ何を喋ったところで、あなた方はここで死ぬことになるんですからねぇ〜〜っ!」

 

 罰撥はバイクのエンジンをブンブンと蒸かしながら叫ぶ。バイクに乗ったまま戦うつもりか? まあ、いずれにせよ——相手にとって、不足はなしだ。

 

「さあ、行きますよお兄ちゃん」

「ああ行こうか、入皆くん」

 

 言い合って、一歩。二人は絶望的な戦力比の戦いへと、足を踏み出し——

 

 

 

 ——爆発。

 

 

 

 爆発、爆発、爆発、爆発、爆発——

 

 尋常ならざる、凄まじい光と熱と衝撃が、何度も、何度も何度も何度も何度も響き渡り——気が付けば。

 二人は焼け野原の中、呆然と立ち尽くしていた。

 

 幸いにも彼らがいる場所だけが——まるで台風の目のように、爆発の影響から逃れ、無事だった。

 

 それ以外は——めらめらと、ごうごうと、全てが燃えている。

 

 この国際展示場だけでなく、その周囲の街も全て、尽くが燃えて、燃えて、燃えて、燃えて、燃えている。

 

 当然、彼らの眼前に立っていた敵たちも——その全てが、木っ端微塵に消し飛んでいた。『死者奏逝(デスアトラクション)』率いる殺戮楽団も、超電磁兵器を携えた前科百犯の放火魔も。

 その尽くが爆発によって吹き飛び、完全無欠に消滅していた。

 

 あまりにもあっけなく。

 あまりにもそっけなく。

 あまりにも唐突に——全てが終わった。

 

「……えっと、これは、何が起こったのかな?」

 

 双識は呟いて、頬を掻く。

 

 入皆はそんな双識を見て、今の今まで敵がいたはずの場所を見て、燃え盛る展示場を見回して——最後にもう一度、双識を見て。

 

「……えーっと」

「うん?」

「………………死ねっ、零崎双識!」

 

 もう全てがわからなくなって、入皆は遮二無二双識に襲いかかった。

 

 そして——ピン、と。

 

 金属質な何かが、引き抜かれるような音がして——次の瞬間。

 小さな手榴弾が、その場に投げ込まれ——

 

 

 

 爆発。

 

 

 

 匂宮入皆は——木っ端微塵に、吹き飛んだ。

 

「………………ええー」

 

 入皆のそれだった血をしとどに浴びながら、双識は思わず不満の声を漏らす。

 

 いや、なんだこれ。

 なんでいつのまにか、全員死んでるんだ。

 私、なんかした? いやいや、なんにもしてないけど?

 

「……ゲホッ、ゲホッ、ああ、ダメだ。なんだか、空気が悪くなってきた」

 

 煙を吸い込んでしまったのだろう。喉が酷くいがいがする。双識はハンカチを口に当てて、崩れゆく建物の影に身を潜める。

 

「全く、酷い有様だ」

 

 言って、双識は苦笑する。

 

「さーて、一体全体、なんでこんなことになってるんだっけ」

 

 ねえ、どう思う——リル。

 

 双識は、隣に座り込んできた影へ向けて、そう問うた。

 

「あ? 知らねぇよ馬鹿。それよりなんだよ、お前。煤まみれでえらく爆笑な面になってるじゃねぇかよ、レン。ええ?」

「全く、誰のせいだと思って……いや、まあ、今はよそうか。とにかく、助かったよ」

「けはは、なんだよ助かったって。俺は別に、ちょっとばかしでっかくてムカつく建物があったから木っ端微塵にぶっ飛ばしてやっただけだっつーの」

 

 ま、それに巻き込まれた奴がいたってんなら、不幸すぎて爆笑だがな。

 言って、彼はシニカルに笑う。

 

「うふふ、不幸すぎて、か。そうだな、確かに、不幸すぎる」

 

 うふふ、うふふ、と双識はひとしきり笑って——小さく。

 

「入皆くん。君は不合格だ」

 

 と、呟いた。

 

「さて、行こうか、リル」

「あ? もういいのか?」

「うん。目的は大体、達したしね」

 

 言って、彼は立ち上がる。

 

「たこ焼きでも食べて、帰ろうか」

 

 言われた言葉に、爆弾魔は「けはは」と笑って——頷いた。

 

 

 

            SCORE——STRIKE

            罪鼓罰撥

            罪鼓古都(ふると)

            罪鼓囈言(うわごと)

            罪鼓尾輪(おりん)

            煮炊垂蔵

            匂宮入皆

            薄野(すすきの)煤儀(すすぎ)

            墓森(はかもり)捗々(はかばか)

            天吹(てんぶき)夭折(ようせつ)

            石凪(いしなぎ)影石(かげいし)

            ——To be Next GAME





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