その少女は、
もし今生きている世界に魔法や超能力と呼ばれる物が存在しているとすれば皆はどう思う?そこに霊力という物や異能も追加するとする。憧れる?それとも厨二設定乙?
ファンタジーにおいて必須とも於けるファクターであるソレらは無くてはならない要素だろう。
それは世界共通の力にするか、限られた一部の人間だけが有する特別な力にするのかは世界を創造する人間のさじ加減によるだろう。
それを用いて世界を滅亡に導く魔王を打倒する勇者の物語なのか。はたまた何も知らない一般人を護る為に人知れずに命を賭して戦う姿を描く物語なのかも同様だろう。
それを見ている側からは、「へぇ、面白そうじゃん」と思うだろう。それとも「ふぅん?見てやろうじゃん?」とか思うのだろうか?
まぁそこはどうでも良い事だ。好みは人それぞれだしな。
なんでこんな事を言っているかというと、その魔法という物や霊力と言われる力に異能の力なんていう物が実際に存在している世界に生まれ落ちたからだ。
前世の事は知らん。もう終わった事だし、気にしても仕方ないだろ。
既に終わった事を何時までもぐちぐちと引き摺っていても意味なんて無いしどうでもいい事なのだから。
そんな事を気にする位だったら、今生きている世界と自分の事に精一杯を注いだ方が確実にマシだろう。
この世界に転生して凡そ十六年。それが過ごした年月であり、男から女に性別が逆になってから生きて来た月日だ。
戸惑うことも多くあったが、十六年もあれば流石に慣れた。
自己紹介が遅れた。オレの名前は〝
これでもオレが通う学園では誰しもが立ち止まって振り返る程の美少女として有名なのだよ、フフン!
……まぁ実際は近寄りがたい雰囲気の人間ってだけなんだけどな。
後輩の女の子達からは、超然としていて神秘的な存在だって周囲から思われてるって聞かされてるんだけどね。
でも彼女達はオレに対して普通に接してくれるし、慕ってくれてるから寂しくはねぇ!ないったら無い!
──ボッチの常套句?ウッセェ!◯玉蹴り潰すぞ!?
……こほん。良家のお嬢様がこんなはしたないお言葉なんていけませんわよ?
オレはこれでも数千年以上も続く名家の跡取り娘なのだ。言葉遣いは行動に表れ、品位を疑われてしまう。
常に優美たれ。そして清楚可憐で在れ。
それがオレのモットーだ。なに?直ってない?良いんだよ、細かい事なんて気にすんなよ。これくらいは目溢ししろっての。
オレは踝まで届く位の黒髪ロングのメリハリの付いた凹凸に富んだ恵まれた身体の超絶美少女だぜ?その位は許せるってモンよ。許せ(脅迫)
そこで上目遣いとか出来れば良いんだろうが生憎と表情筋が全く仕事しなくてね、無表情なんだ。
まぁそれでも親しい人達には分かるみたいだから困ることは無い。
さて、話を戻そう。
この世界には魔法や超能力と呼ばれる物があると言ったが、超能力は存在しない
その代わりに霊力と異能は存在する世界にオレは生まれた。
その中でも古くから続く名家の娘なので、勿論保有する霊力は豊富だ。その目安となるのが、女の場合は髪の長さだ。
髪が長ければそれだけ強大な力を持っているというのだから、分かりやすいだろう。そしてその霊力の質を表すのが色艶だ。
色艶が有れば、それだけ洗練された能力を保有していることになるってことだ。
まぁ要は、髪が長く色艶の良い女はメッチャ強い。ってだけ分かってれば良い。
雑なまとめ方は止めろ?ウッセェ!◯玉踏み潰すぞ!?
そもそもどうしてこんな話をしているのかなのだが、このファンタジーみたいな世界なのだが、どうやらエロゲーの世界らしいのだ。
それもただのエロゲーではなく、かなりエグいタイプの分類に入るマニア向けのモノだ。登場人物が尽く悲惨な結末を辿る事になる類いの奴だ。
妖魔と呼ばれる化物とそれを討伐する妖滅師が命を懸けた闘争を繰り広げる世界で生きていく。なんてアホみたいな話なのだろう。
ゲームとしてならそれも良いだろう。表示される文章と時折現れる選択肢を選ぶだけでそういう場面を見て楽しむ事が出来るのだから。
でも、それは外から見ているからに他ならない。現実としてこの世界を生きている人間からしてみればたまったものじゃない。
そんな物の為に自分の身を危険に晒したくないし、何様なんだと言いたくなる。
とは言え、オレはこの世界をゲームみたいだって思っているだけで、此処が本当にゲームなのかは知らない。
ある程度の知識があるだけでそういったゲームはプレイした事がないから、そういうモノだと勝手に思っているだけだ。というか、そう思っていないとやってられない。
目の前で四肢の欠けた女性が犯されながら喰われているのを目の当たりにしたり、助け出しても看取るしか出来なかったりなんてのが日常茶飯事なのだ。
自分の命と貞操を守っていかなくちゃいけない。オレにとって正に地獄と言っていい世界である。
オレには力がある。それも過去に類を見ない強大な力を有して生まれた。
だから助けられる人が居るなら可能な限り助けたいと思ってしまうのも当然の話なのだ。
「僕はもう人には戻れない」
目の前で雨に打たれながら赤黒い虹彩の瞳で肩まで伸ばしているダークブラウンの髪から雫を滴らせて立ち竦む男の子の言葉が信じられなかった。
「今目の前に居るのは、不倶戴天たる君たちの敵──《妖魔》だ」
だから止めろ。そんな現実をオレに突き付けてくるな。
認めたくない。そんなの。
「君にそんな顔をさせる為にこうなった訳じゃないんだけどな……現実はどうにも、儘ならないようだ」
申し訳なさそうな顔で苦笑した。
オレが今、どんな顔をしているって言うんだよ。普段無表情で感情が分からないって言われてるんだぞ。
それなのに、お前は分かるのか。このオレのお前への気持ちに。
──胸を温かくするこの、想いに。
「でもこれで終わりだ。君とは許嫁の関係だけれど僕と言う異物を繋げてはならない」
これまで積み重ねて来た数々の思い出が過ぎていく。
下らないことに一緒に夢中になって遊んだ事を。
オレに手作りの髪飾りをプレゼントしてくれた事を。
どうでもいい様な事で喧嘩した時の事を。
オレが一方的に感情的になって、お前はそんなオレの話を苦笑しながら聞いていた事を。
辛い時に傍に居て、寄り添ってくれた事を憶えている。
だから……。
だから──
「君にこんな事をお願いするのは酷だと理解しているけど、言わなきゃいけないから」
今、どんな思いでお前の目の前に立っているのか分かってるなら、オレにそんなお願いをするな。
「僕を──殺すんだ」
雨が煩い。
視界を遮る程の催花雨が促すようにオレの身体を濡らしていく。
「────
武器を構える。刃の無い抦だけの刀を。力を流し、《妖魔》の特効たる霊力を刀身とする。
櫻色の霊力を刃としたその鋒を狙いを定める様に向けた。
脚を踏み出し、駆け抜ける様に全力で刀を振り抜く。骨の抵抗すらなく柔らかい肉を切るように刃は通る。
水飛沫を上げて数歩速度を緩めて歩いて立ち止まると、バシャッと重量のある物が地面に落ちる音が聴こえた。
「──さようなら、私の愛しい人」
空から落ちる水に打たれる。顔を濡らす水は頬を流れて地面に落ちていく
………誰も居なくなっちゃった。
どうしてオレの大切な人たちは全部消えちゃうんだよ。
もういいかな……もういいよな。
「貴方が居ない世界なんて私には……」
疲れたんだ。
たからさ。オレも逝くよ。
『本日午後17時頃、御柱神社にて大火災が発生。健在は消火され延焼の可能性は低いとのことですが、千年以上の歴史を誇る境内の建物は全焼しており、火災による犠牲者は一名。身元の判明を急いでいます。幸い火災は境内のみ発生しており──』