白を染めるいろ   作:サルノトラ

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戦闘シーンって難しいね


激憤

白癒が倒れた。そう聞いた時、襲撃の準備を嬉々としていた紋白が真白を伴って《鴨居家》に向かって急遽オレの邸に搬送をした。

幼馴染みが倒れて心配で泣きそうな真白は勿論、紋白も眉間に皺を寄せながら心配をしていた。

今は《大塚邸》の一室に何があるか分からないので、勝手に出られない様に紋白が《囲楼家》の結界術式を用いて隔離した部屋に寝かせている。

結界を張る作業を終えた紋白は苛立っているようでオレと共に居間でお茶を飲みながら待機していた。真白は白癒の傍に付いているので此処には居ない。此方が心配そうになる位には辛そうな様子だった。透はその結界の調整をしている。

 

「苛立っている様ですね。何か気になる事でもあるのですか?」

 

「分かっていて聞いていますわね。勿論あのバカ娘についてですわよ」

 

そうだね。言いたい事も思っていることも全部分かっていて聞いてるし、伊達に幼馴染みをしていないからな。兎に角発散させやるから話してみろよ。と、そう目線で促してやると、紋白は溜め息を一つ吐いて話し始める。

 

「人を癒し救う側が倒れていては本末転倒だと思っただけですわ。確かにアレの家系はそれを誇りに思っていて掲げているのは分かっていますが、彼女のはだだの強迫観念による自滅ですわ」

 

「白癒は我々よりも最も近くで生死を見続けて接しております。致し方ない事かと」

 

責任感も強いし、年下とはいえかなりメンタル強いから仕方なかったのかもな。

実際助かっている人も多いし。

 

「致し方ないで済ませて良いモノではありませんのよ。あの娘がああなったのは我々の責任もありますもの。抱え込みがちなのは白癒の悪い癖ですわ!挙げ句《妖魔》に付け込まれて魅入られる始末ですし。何よりも先輩として自分が情けないわ!」

 

こんな感じで愚痴を只管に聞いている。紋白って白癒と真白の先輩としてカッコイイ姿を見せたいって所があるし、結構溜め込むのだ。なので彼女も人の事は言えなかったりする。

愚痴の内容については、要約すると「溜め込むくらいだったら自分に喧嘩腰でも良いから吐き出せ」って内容だ。何だかんだ言って後輩思いのカッコつけしいなのだ。可愛いよな。

愚痴を聞きながら白癒が目を覚ますのを待っていると、紋白が顔を居間の外に向ける。

 

「どうやらあのバカ娘が起きたようですわね。さぁ小白さん。あの娘をとっちめに行きますわよ!」

 

とっちめには行かない。でも経過を診ないといけないから着いて行くけどな。

白癒は《妖魔》に穢された訳じゃないから、付け入られた原因を取り除くだけだし大した事にはならないだろ。と楽観視していたのが間違いだった。

隔離していた部屋の中に入った時のあの重たい空気がヤバかった。

 

目を開けて起きてはいるが、茫然自失で抜け殻みたいになっていて寝たまま天井を見上げている状態の白癒。

そんな彼女の右手を握って少しでも正気に戻って貰おうとしている真白の泣いている姿。

予想してはいたけど、最悪一歩手前の状態なのと呼び掛けながら簡易的な《術式》で蓄積された毒の影響を探っている透の姿。

 

そりゃそうだよな。詳しく話を聞いた訳ではないけど、白癒は自分のアイデンティティである癒しの力が発動出来ず発狂して倒れたらしいし。

こうなるのも当然と言えば当然だ。

 

いやどうすんだ、これ。想定していた流れとしては、目が覚めてから白癒にカウンセリングしながら溜め込んだモノを吐き出させるつもりだったから対応に困る。

 

「……小白さん。先に謝っておきますわね。ごめんなさい」

 

「どうぞ貴女のお好きな様にしてください。後始末は致します」

 

右隣の紋白が真顔でそう呟いたのを見て頷いた。まぁ、こう言うのは紋白が適任だよなと思考の片隅で納得しているオレが居た。

 

「式神憑依・[鳳蝶(アゲハ)]」

 

紋白の服装が制服から蝶を彷彿させる美しいロココ調の蒼い戦装束(バトルドレス)に変化した。

臨戦態勢となった紋白にギョッとした表情を見せた透が血相を変えて反応が無い事に意気消沈している真白を抱きかかえてオレの傍に避難してくる。

 

「え……?どう言うこと?何で紋白は臨戦態勢で現れたんだい?」

 

「必要な事だからです。白癒には荒療治が必要と判断し、紋白が適任だったからそうしたまでです」

 

「……えぇ」

 

そうなる理由も分かるけど、これは必要な事だと紋白が決めたなら後始末をするのがオレの役目だ。説得(物理)なのは確かだけど。

 

「《護の型・弐ノ式[狼護(ろうご)]》。我々を護りなさい。同時にこの邸に巡らせている結界に干渉し、被害を決して外に漏らさないように。それに加え、何者であろうとも外に逃がさぬ様にしなさい。良いですね?」

 

オレが使役する式神の中で最も護りに特化している狼の《式神》を呼び出す。空間から滲むように輪郭を明確にして歩み出ると白い毛並みの凛々しい面構えの狼が雄叫びを挙げる。オレ達の前に颯爽と飛び出るとその名に恥じない強固な結界を張ってこれからの出来事に備えた。

 

紋白はズンズンと無遠慮に白癒へと近付いて跨いで見下ろした。その顔には蔑んだ笑みがあった。

 

「全く以て情けないんですのね?かの《鴨居の天才》がこんな()()で使い物にならなく成るとは誰が想像出来たかしら。片腹痛しとはこの事ですわ!オーホッホッホ!」

 

ピクリ。と反応があった。僅かなモノだけど、確実に紋白の煽りは白癒の琴線に触れている。

 

「──さ……じ……?」

 

小さな声が聞こえた。だがそれは意識しないと聞き取れない程の大きさだ。

 

「ええ、些事ですのよ。いつまでも死んで逝った者達に拘って、貴女が死地にて助け救った者達を無かった事にしているのよ。貴女がそんな為体では、死んで逝った方々も浮かばれませんわねぇ」

 

「……んたに……が、分か……さ」

 

「聞こえませんわ。何か言いたいことがあるのなら、もっと腹に力ぁ込めて話なさいな!一体何れだけの醜態を晒せば気が済むのかしら?」

 

屈んだ紋白が嘲笑しながら見上げている白癒の服を掴んで持ち上げる。白癒は睨むだけで抵抗はしない。

 

「言いたい事があるなら言葉に出せばよいのに貴女は察してくれと言わんばかりに黙して悲劇のヒロイン気取り。正直言って、虫酸が走りますわ!この期に及んで何も言わないのならば此方にも考えがありますのよ」

 

言うが早いか、ゴシャッ!と骨と肉の砕けて潰れる音と共に殴られた白癒は部屋の壁を突き破り、外へと吹き飛んでいく。

 

「ぐっ……ぅ、げぇっ!……あたし、は……!」

 

「何故なにも言わないんですの?貴女まさかとは思いますが、己が世界で一番不幸だとでも仰るつもりなのかしら。それとももっと能力があれば、誰も死なせずに済んだと勘違いしているんですの?」

 

ボタボタと赤い色が地面を塗らしている。鼻を押さえて強い激情の籠った瞳で紋白を睨み付けてよろよろと白癒は起き上がった。

 

「言いたい事があるなら、さっさと喋りなさいな、バカ娘!」

 

紋白は突き破った部屋の壁から跳んでガントレットに覆われた右の拳による一撃を振り下ろす。白癒は強力な攻撃をその場から跳躍して下がり、距離を取りながら回避する。

先ほどまで白癒が居た場所の地面は粉々に砕け、陥没している。

 

「何故避けたのです?貴女は死にたいと言っていたのでしょう?ならばこのワタクシの鬱憤を晴らす為に大人しく殺されて死ねば良かったのですのに」

 

「あたしは……死ねない。だって託されたから!あたしのせいで……あたしの力が足りなくて見殺しにしてしまった人達から自分の分も長生きして欲しいって託されているから!だから死ねない!!《鬼灯》!!!」

 

業っ!と激しい猛火を伴って現れたのは、白癒が愛用している特別な武器である薙刀だ。銘を《鬼灯》と言う。彼女の右手に現れた身の丈以上の大きさのそれを、鼻を押さえていた左手を放して両手で握り構えた。

 

不思議な事に彼女の潰された鼻は既に完全に治っていて、いつもと変わらない顔に戻っている。その現象は《霊障》と呼ばれる《霊質》によって引き起こされた"普通ではあり得ない一瞬での怪我の完治"である。

白癒は元々素質はあったので、今になって才能の片鱗が表れ出しているのだろう。

 

「そうこなくては面白くありませんわ!行きますわよ、バカ娘!」

 

「バカ娘バカ娘うるさい!そっちこそバカみたいなお嬢さま口調のクセに!それにいつも自信満々で悩みなんて無いみたいに振る舞って、あたしが何時もどんな思いでいるのかも知らないクセに!」

 

紋白が拳を握り、突貫していく。それに対して白癒は右斜め下から斬り上げで迎撃する。

 

「知りませんわ!ワタクシは貴女ではありませんのも!理解して欲しいなら言葉にしなさい!言わなくても通じる等そうそうあり得ることではなくってよ!」

 

右斜め下からの斬り上げに紋白はタンッとダンスのタップを踏むように躱し、すかさず肉薄して白癒の胴体に右の掌を添えた。添えた掌をグリッと捻りながら押すと、凄まじい衝撃音を出しなら白癒が回転しながら吹き飛んだ。

 

「ゲホッ!ゲホッゲホッ……これはあたしの問題であんたには関係ない!それに誰かに言った所でどうにも出来ないのに!どうしろって言うの!?」

 

白癒は地面に転がると直ぐ様起き上がり、薙刀を操り紋白へと向かって接近して焔を纏った刃を振り下ろす。

 

「頼れば良いのですわ!一人で駄目なら二人。二人で駄目なら三人と!簡単な事ですのよ!何故そんな事が出来ないのかしらね!」

 

半歩後ろに下がり紙一重で躱してから白癒の顔面にカウンターの左ジャブを食らわせる。それが直撃するが耐えた。

 

「そんなこと……っ!簡単に出来れば苦労しない!みんな!みんなみんな!才能がある人達ばっかりだ!あたしは無能なんだから迷惑なんて掛けられないんだ!!だからあたしは一人で」

 

「だから貴女はバカ娘なのよ!貴女が一人で抱え込んで苦しんでいるのを見て一番誰が悲しむと思っているのか分かっていないのよ!大切な幼馴染みなのでしょう!?親友だと公言しているのでしょう!?ならば一番に頼るべきなのが誰なのかを貴女は理解しているはずでしてよ!」

 

ジャブを食らい、怯んだ隙に懐に入り込まれた白癒はインファイトに特化している紋白に顔面を立て続けに殴られている。それは最早戦いではなく蹂躙と言っていいレベルだ。

 

「貴女の言う才能とは、ただの個性ですわよ!それにねぇ!!才能と言うならば、貴女の方が才能がありますわよ!!あまり無責任な発言をしていると貴女の四肢をへし折ってしまいたくなりますわね!!」

 

それに才能、ね。あんまり好きじゃない言葉だ。ああいう言葉ってのは、口にした人間の逃げの言葉だ。

 

"何かあっても、どんな事が起ころうとも、全ては才能のせい"。

 

なんて都合の良い言葉だろうか。才能なんてのは、本人の努力だ。才能があるから努力出来る。ではなく、才能は己で育てるモノだとオレは思っているのだ。人間誰しも才能なんてモノは無く、伸ばして自分が自信を持って得意だと言えるモノが才能だと言えるんだ。

 

まぁ、オレ自身が歴代最高の才能を持って生まれた巫女って言われてるから何も言えないけどな。言ったら多くの人に怒られる処の話じゃなくなるだろう。

 

オレのすぐ傍では、透が呆れた様に容赦なく殴り続けている紋白を見ていて、仮面を外して泣きながら見続けている真白がいる。

 

思うところはあるだろうな。特に真白。

力になりたいのに踏み込めなくて苦しんでいるのをずっと見ているしか出来なかったのだ。

そして白癒の言う才能がある人間が本当に存在するなら、橘真白という少女が最も才能に愛されていると言える。その分色々と苦しんで振り回されているのもこの娘だ。

 

「あんたに……あんたに何が分かるのさ!!誰に助けを求めれば良いの!?死にたいって、殺して欲しいって言えないのに!!みんな身勝手だ!!何で誰もが長生きしてなんて平気で託すんだ!!あたしを苦しめないでよ!!罵って怨みの篭った眼で睨んでよ!!なんで!なんでなんでなんで!!!!もう嫌だ!!」「誰か助けて」

 

そう叫んだ声で意識を喧嘩をしている二人に戻すと、紋白の拳を腕を掴んで受け止めて身に宿す純粋な膂力で抵抗して防いでいる白癒がいた。

 

そして感じるのは不穏な気配。白癒の白緑の瞳の色が徐々に変わり始め、その色は粘ついた赤黒い血の様な虹彩へと変化していた。

 

()()。オレと紋白は()()()()()()()()のだ。だから叫ぶ。

 

「小白さん!」

 

遥か太古より続く大塚の巫女が御柱様に願い奉る。邪なる者を滅するため御身の力をお貸したまへ

 

素早く印を結び、代々《御柱神社》の管理者となる《大塚家》の当主にのみ伝えられる祝詞を唱える。

それに応える様にオレの中に膨大な力が注ぎ込まれ、髪の色が黒色から櫻色に変化する。溢れ出そうな力を四苦八苦しながら制御して桜の簪を握り《霊力》を流し込んで刻まれた《術式》を励起する。すると櫻色の《霊力》が和弓の形状を象る。

 

狙いは白癒の腹部!自分を囮にして拘束している紋白ごと貫いて白癒を洗脳しようとしている黒幕の末端を滅する!

 

「魔を滅せよ──[破魔ノ矢]」

 

弓を引いて《妖魔》の特効たる霊力の矢を放つ。

キュドンッ!と音をさせて強い風圧を伴って紋白を貫通し、その先の狙いへとピンポイントで命中した。

 

その瞬間、光の柱がゴウッ!と屹立して空高く昇っていく。バサバサと邸を囲う櫻を揺らして薄月の夜空を吹き飛ばし、綺麗な月虹となる。

 

徐々に細く薄れていく光の柱を見上げながら取り敢えずの溜め息を吐いた。




topics:《術式》
これは《妖滅師》が自身の霊力をそれぞれの技や霊術等で使う為に必要な技術だ。
解りやすく言えば、魔法や技の名前を叫ぶのと一緒だね。

これを予め習得しておけば何時でも好きな時にその技を使用出来ると言うわけさ。
わざわざ言葉に出して言う必要はないのだけど、口にした方がイメージがし易いのと、一緒にチームを組んでいる相手に「これからこういう事をしますよ」って伝えているとやり易いだろう?
要はそう言うことさ。

この術式を使う為には一定の霊力を消費するから注意が必要だよ。
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