白を染めるいろ   作:サルノトラ

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今回は短いです。


悪夢に囚われる。

見渡す限りの視界に写る全てが燃えている。決して消えない炎で照らされて、燃えていない場所なんて何処にも無い。足下には血のような赤く濁った色の泥が広がっていて、その泥の真ん中にあたしは立っていた。

この光景を見て、またか……と辟易しながらも当然の罰、或いは助けられなかった事への報いなのだと納得していた。

 

グツグツと熱湯のように気泡を弾けさせている泥は夢だからなのか何も感じない。異臭も脚が濡れている不快感すらもだ。

ただ、変な色の泥に浸かってるな。という程度だ。ただ、何度も見て理解したのはこの場所が"地獄"だということだ。

 

いや、本当はこれが夢だって理解してる。あたしの自罰的な感情が見せているだけのモノでしかない。けど、こうして己自身で罰しているという自己満足を得て後悔をしているんだ。と示しているに過ぎないのだ。

一体誰に示しているんだって思うけど、これでも一種の安心感を抱いているのだ。"ホントーに度しがたい無能"だと自分自身に呆れてしまう。

 

足元にはあたしに縋ろうと手を伸ばす沢山の骸骨が群がっている。それに対して怖いとか気持ち悪いなんて感情は浮かばない。

それよりも酷いモノを見ているのだし、骸骨程度どうということは無い。あたしにとって死は他の人達よりも身近なのだから。

 

縋る数は徐々に増えていく。あたしを絡め憑る怨念がまるで獲物を絞め殺す蛇の様に雁字搦めにしている。時間を掛けてじっくりと獲物が弱るのを待つみたいに少しずつ血の池地獄に身体が沈み込んでいく。

 

首が締まっていく。呼吸が出来なくて苦しい。だけどそんな苦しみよりも、もっと苦しんだ人達がいる。

それに比べたら、あたしなんて些細なものだ。

 

だけど、それでも願ってしまう。

 

「──誰かあたしを、たすけて

 

あたしは"死にたい"のだとこの悪夢を見る度に思い知らされる。

 


 

目が覚める。

 

うつ伏せになっていた身体を起こして伸びをすると、凝っていた身体からポキポキと小気味良い音がする。解れていく心地好さに満足しながら息を吐いて脱力する。

……なんだかお年寄りみたいだ。これでもあたしはまだ十四歳の女の子だっていうのにね。

 

椅子の背凭れに体重を預けて上を向いて目を閉じて意識を周りに向ける。すると、意識の彼方に消えていた今の状況が把握出来た。

 

あたしは学園に登校していて今はお昼休みだ。睡眠不足のせいかいつの間にか寝落ちしていたことに眉を歪めた。少し腑抜けてしまっているなぁと自分に落胆する。

 

一週間前に大智を看取っていたと言うのにどうしてこんなに腑抜けているのだろう。

まぁ、あたしは所詮無能だからすぐに気を抜いてしまうのだろうけど、そんな自分に腹が立つ。耳にガヤガヤとした喧騒が戻ってくる。

首も痛くなってきたので、正面に戻して目を開けると、目の前に幼馴染みの女の子の顔があってあたしを心配そうに見つめてきていた。

 

「……しーちゃん」

 

「なぁに、まーちゃん。そんなに心配そうな顔してどうしたの?」

 

彼女の名前は橘真白(たちばなましろ)。あたしの幼馴染みであり、情報を司る《橘家》の娘だ。

その名前の通り、真っ白で純白な女の子だ。あたしを含めた全員が言う程に"名は体を表す"と言う言葉はこの娘の為に存在するのではと口を揃えて言う程の容姿をしている。

 

よく手入れの行き届いた腰まである長い白髪は光を受けて反射する穢れの無い新雪の様で純白に輝いている。眉は常に困った様に八の字になっていて、ちょっとオドオドとした人見知り気味の性格だ。と言っても単に注目される事に慣れていないだけなのだけど。

その顔には目元まで被う狛犬の仮面を被っていて、それのせいで仔犬みたいな印象を受ける。《大塚家》の邸に居る時以外ではあまり素顔でいる時が少ないけど、瞳の色も同じように白い。

 

生まれ持った才能が有りすぎて()()()()()持ちなので仮面は特別製なのである。これの作製者は遠山先輩だ。あの人は《妖滅師》の為の道具造りに於いて同世代で右に出る者は居ない程の腕前だ。

因みにどうでも良い与太話だけど、囲楼先輩はまーちゃんの事を「真白たん」と呼んでいる。理由としては愛でたい位に可愛いから。なのだとか。まぁ、可愛がる理由は分からなくもない。

 

「しーちゃんが無理してるから心配なの……でも踏み込まれるのを嫌がってるの解るから、どうしたら良いのかなって」

 

「それでまーちゃんはどう声を掛ければ良いか迷ってたんだ?」

 

小さな声で……うん。と頷かれる。まーちゃんはとても優しい他人思いの女の子だ。その中で幼馴染みで一番仲の良いあたしが兎に角心配なのだろう。

有難いと思うのと同時にあまり踏み込んで欲しくないなという感情が沸き起こる。

 

「まーちゃんは優しいね。でも大丈夫だよ」

 

「…………そっか。()()()()()()()()()()()()分かった。でも何時でも力になるから、ね?」

 

これがあたしの線引きだ。まーちゃんはそれを明確に理解して受け取った。あたしがこうして目の下の隈をメイクで隠しているのも見抜いているだろう。彼女はそういう子だ。

 

「何時もはわたしが困ってると助けてくれたり、見付けてくれるから、その恩返しとか出来たらって思ってたけど、本当に必要ない?」

 

「気持ちは嬉しいよ。だけど、本当に大丈夫だからさ」

 

何時もは可愛いなって思うけど、今は自分に精一杯だからさ。余りあたしに構ってこないで欲しいとイライラしている自分が居ることに気付く。

 

けれど、それは遅かった。

駄目だ。これ以上口を開いたら、取り返しがつかない事になる。閉じろ。その口を閉じろ!

 

「まーちゃんは良いよね、素直に誰かに頼れて」

 

でも自分の中に溜め込んでいた不愉快な感情を吐き出すのは気持ちよくて。

 

「あたしも見習ってみたいとは思うけど、それをしたらあたしは駄目になるんだよね」

 

一度言葉として出てしまったなら、それはもう止められなかった。

 

「まーちゃんみたいに才能に恵まれてないから、死ぬ気で努力しないといけないの。あたしは"ホントーに度しがたい程の無能"なんだよ」

 

「あたしも其処までの才能が欲しかったよ。狡いよね、ホントにさ。そうすれば──」

 

目の前でまーちゃんが辛そうに顔を俯かせているのが見える。ごめんね、こんなこと言うつもりは無かったのに。

まーちゃんが何れだけ生まれ持った才能によって苦しんでいるのかを一番分かっているのに

 

「──簡単に《霊質》に目覚めて、もっと助けられたのにさ。()()()()よ」

 

その言葉を発した瞬間、まーちゃんは椅子から立ち上がった。急に立ち上がった結果、椅子は後ろに倒れてけたたましい音を出す。

 

周りのクラスメイト達が何事だとあたし達の方を注目しているのが見なくても分かる。そして小さなさざ波の様なざわめきが聴こえる。

 

「────しらない」

 

そう何かを呟くとまーちゃんは教室から出て行った。

 

──やってしまった。

 

後悔してももう戻れない。言ってはならない事を言ってしまったのだから当然だ。何もかも嫌になってくる。

 

「はぁ……午後からサボろう」

 

教室の天井を数秒眺めてから決めると鞄に荷物を詰め込んで学園から出ていく事にした。




topics《霊質》
簡単に言えば、固有能力だ。
その人個人に発現した特殊な力の事を《霊質》と呼んでいるんだよ。これは優れた《妖滅師》は有している人が多いね。
《妖滅師》の能力はこの《霊質》が基因となっている。癒しなら癒しの能力に特化していたり、モノの善し悪しを見抜く能力を持っていたりと様々だ。
この力に覚醒するには、相応の努力と才能。それに見合うだけの鍛練が必要だ。
逆に言えば、《霊力》を持って居さえすれば誰でも発現する可能性はある力と言える。
この力の凄まじい所は不可能とさえされる事でも成し遂げる能力って事だ。

この《霊質》は個人特有の力なので他人に──自分の子供に引き継ぐ事は不可能だ。
《異能》とはまた違った力さ。
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