白を染めるいろ   作:サルノトラ

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「女を堕とすには、上げてから落とせばいい。その後は手を差し伸べるだけで俺のモノになる」


誘拐/致命的な蹉跌(さてつ)

さて、力になると言ってもどうすれば良いのだろうか。あれから一週間が経過したが、何故か白癒が捕まらないのだ。何かやけに避けられている様な感じだし最近はどうやら学園が終わってからは何処かに行っているみたいで、姿が消えているのだ。

監視にうってつけの《式神》を使役している真白からの報告によると、《禁足地》の近くにある社を設置してある小さな公園に足繁く通っていて、とある男子生徒と楽しげに会話しているのだとか。別に白癒が異性と親しくしていようが関係はないのだが、如何せん何やら不穏な気配がするんだよなぁ。ドロッとした濃い邪悪な気配で何か認識とか記憶を阻害するノイズが時々思考に割り込んで来て邪魔されるだわ。

それに親しくするならわざわざ学園から出て郊外の近くまで遠出する必要も無いし、白癒の性格なら真白にも紹介する筈だ。

 

それにオレも自分の《式神》の内の一体である黒い燕の[黒燕]*1を介して様子を見たりしているが、その時に毎回白癒から《妖魔》の気配が漂う様になっているのだ。それはほんの僅かなモノであり、時間経過で薄れて消えるのだが《妖滅師》がその気配を纏うと言うのはマズイのである。考えられる事としては、"《妖魔》に魅入られていて、洗脳されている"ことが挙げられる。

それとは逆の見方もあり、"一人で《妖魔》を滅する為に《マヨヒガ》に侵入している"とかも有るが、この場合はきっと前者だろう。けれどこれはとてもマズイ。

これだから《妖魔》ってのは気持ち悪いんだ。

強い《霊力》を持つ女と見れば、有りとあらゆる手段を使って洗脳や魅了で手篭めにして喰らうのだから。*2

 

それと今の白癒が"おかしい"と決定的に断定できる事が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という所だ。

いや、オレもあり得ないと思ってこっそりとクラスに確認しに行ったんだけど、()()は居ないモノというより、()()()()()()()()()()()と言った方が正しいだろう。

この段階でオレはこれ以上白癒を放置するのが得策ではないと判断を下した。

その報告を《茶道部》の部室で紋白(あやめ)と透にしていた。

 

「この一週間、真白からの要請で私が白癒に接触を図ろうと試みたのですが、一向に彼女と接触が叶わず真白と協力し《式神》を用いた調査を行いました」

 

「ワタクシは調査に適した能力はありませんから何もしておりませんでしたけど、どうでしたの?」

 

本日のお菓子はマカロンだ。作ってくれたのは紋白だ。めっちゃ美味い。

肩に乗っている《式神》の黒燕にも食べさせてみると美味しそうに啄んで食べている。

オレの隣で真白も紅茶で喉を潤しながらマカロンを食べている。可愛い。

 

「結論から申し上げますと、白癒は《妖魔》に魅入られております」

 

「それは非常にマズイね。そうなると、恐らくだけど()()()()()()()()()()()()()()()()()ね?」

 

「……はい。わたしがいくら話し掛けても声も届いてないし、姿も見えていない状況です。監視や尾行をするなら簡単で良いんですけど、辛いんです」

 

透の確認に真白が泣きそうな声色で答える。そんな真白を慰める為に紋白が真白の隣に座って抱き締めて頭を撫でている。

 

「心が弱っている隙間に付け入られてしまったのか。そこまで《妖魔》に魅入られてしまっているなら、もう手段は選んではいられない。僕たち《妖滅師》は耐性があるとは言え彼女程の力を持つ《妖滅師》に影響を及ぼすなら放置は出来ない。白癒を拘束し、影響を取り除くしかないだろう。一つ聞くけれど、()()()()()()()?」

 

その言葉の意味する事は、凌辱されて穢されていないか。と言うことだ。白癒を洗脳している《妖魔》は相当に悪辣で悪意の塊だと言うことだろう。それが翻って未だ無事な状態に繋がっている。毒を少しずつ送り込んで蓄積させている最中なんだろうな。

 

「私も[黒燕]を介して視ましたが、その点については大丈夫かと。幸いにも白癒を洗脳して手駒にする段階だと思われます。"今はまた"と付きますが。ただ……」

 

そこでどう説明すれば良いのかと言葉を区切る。何となくあのノイズには覚えがある様な気がするのだ。

何時だったのかそれが()()()()()()のだ。それがとても違和感がする。

 

「何でも良い。情報が有るなら考えて手助けするのが僕の役目だ。君の許嫁なんだからね」

 

透は昔からオレに好意を伝えるのは戸惑わない。何かある度に直接伝えてくれるのだ。それが気恥ずかしいと思うけど、好意を伝えられるのは素直に嬉しい。

 

「私が白癒に近付き話し掛けようとする度に思考や記憶に阻害が掛かるのです。幾度か試してみましたが駄目でした。耳鳴り様な痛みに耐えている間に白癒の姿が消えているのです。遠目から確認したり《式神》越しに見る分には何も問題はないのですが……」

 

「ノイズが掛かるって事か……ふむ。確か昔の文献に他人の記憶や認識に干渉して操る《妖魔》の事が書いてあったのを見たことがある。僕も改めて文献を調べ直してみるよ。もしかしたらそれに対して有効な《術具》を製作出来るだろうし」

 

こういう時の透は本当に頼りになる。必要な道具を製作してくれてオレ達を助けてくれる。オレが普段から身に付けている桜の簪だって透が造ってくれた《術具》だ。

 

「もうまどろっこしい事は抜きにして、結局はどうするんですの?カチコミするんですわよね?」

 

さっきから小さな声で「カチコミ、カチコミ、カチコミ……」と呟いていた紋白が真白を抱き締めて可愛がりながら会話に参加する。

 

「カチコミはしないけど、白癒を拘束する必要はあるから似たようなモノか。ただ、そうすると拘束した後に捕まえておく場所に適した場所がね」

 

「それならば私の邸で良いでしょう。《大塚邸》は桜で囲っておりますし、私の力と御神木のお力によって強力な結界を張っております。《神域》の中の白癒を取り戻そうと《妖魔》も侵入出来ないでしょうから」

 

「ならば襲撃はこのワタクシにお任せ下さいな!そろそろあの娘とは決着を着けなければならないと思っておりましたのよ!」

 

オホホ!と口に手を当てて笑う紋白は楽しそうにしている。きっと可愛がっている真白の事を忘れている今の白癒に対して憤りを抱いているのだろう。

……いや、本当にそうか?事あるごとに喧嘩腰にやり取りしている紋白と白癒の事を知っているから、今回の事で合法的にボコれるとか考えていないだろうな?

ま、まぁ、紋白の事は信じよう。

 

そんな事を透と目を合わせて会話しながら苦笑した。

 


 

⏩️鴨居白癒ルートに突入しました。

 

最近毎日が楽しい。あの時、急に声を掛けられた事には驚いたけど、同じ学園の生徒が平日の午後に出歩いて居ることに対して声を掛けたのだと聞かされた。

あたしは特定の親しい異性は数人しか居ないから最初は警戒しちゃったけど、話してみればあの人はとても優しくていい人だった。

ただ気になる事があると言えば、あの人の眼が縦に裂かれたみたいになってい所だ。まるで蛇みたいな虹彩をしている。

 

けどそれが今さら何だ。他人の容姿に口を出せる程あたしは立派な人間じゃないしね。

 

「お前は良く頑張ってると思うけどな。でもそんなに辛いなら逃げても良いと思うぜ」

 

「え……?逃げ、る?」

 

あたしの肩に手を回して近くに寄せる様にしてきたのに少し驚いてビクッてなってしまう。

あたしの抱えている悩みを全部では無いけどある程度ボカして話す。髪を撫でられて顔を近付けて匂いを嗅がれる。

気持ち悪い──ザザザザッ── あれ、あたしは今何を考えて……?

 

「無理に頑張ってお前が潰れてしまったら意味ないだろ。人間ってのは、時に逃げる事も大事だろ?」

 

その言葉はあたしの心の中に滑り込むように入り込んでくる。

 

「で、でもあたしがに、逃げたら困る人が居るし。そ、それにあの娘が一人に──あの娘って……あ、あれ?」

 

それはまるで、透明な水の中に一滴の墨汁が落とされて黒く広がっていくような感覚だ。それが妙にとても気持ち良くて、拒むなんて考えが浮かばない。ただ、あたしは何かとても大切なモノを忘れている気がしてならない。

 

チッ!まだ抵抗するのかよ。大丈夫だって。お前も自分で言ってただろ。自分は度しがたい程の無能だって」

 

否定したくても出来ない。だってそれは事実だから。

たくさんの助けられる人を死なせて誰でも出来る怪我を治す程度の事で自惚れる事は出来ない。

 

──あぁ、そうだ。何であたしは自分が"度しがたい程の無能"だって事を忘れていたんだろう。

 

「逃げたって誰も気にしねぇよ。お前は無能なんだから。お前が居なくなっても誰も困らねぇ」

 

黒い毒が広がっていく。

 

「もし本当に逃げたいと思ったら、俺の所の来いよ。余計な事なんて何も考えられないくらいにしてやる」

 

「逃げて、良い……ならこのまま──」

 

「しーちゃん」  チリン

 

誰かの声と鈴の音が聴こえた。

 

「──もう少しだけ頑張ってみる。本当に駄目だって思ったら頼らせて欲しいな。もうそろそろ帰らなきゃだから、また明日」

 

何となくだけど、あの鈴の音があたしを踏み止まらせてくれた。あたしはまだ耐えられる。まだ頑張れる。帰らないと。

 

「これで良かったの?」「下拵えは済んだ。後は堕ちるだけだ、ひひっ!」

 

公園から出て急いで人気の無い場所に向かうと《霊力》を身体中に循環させて強度を上げる。そのまま跳躍して建物の屋根に着地して走る。こうすると結構速く帰れる。

そうする事数十分で《鴨居家》の邸に到着する。自室に戻り早速とばかりに制服を着替えて準備を済ませる。

 

《逢魔ヶ刻》が訪れ、《妖魔》との闘いで傷付いた人達が運ばれてくる。あたしは何時もの様に力を使って助けようとした。

 

「……え?」

 

力が発動しなかった。昨日までちゃんと使えていた癒しの力が発動しない。

《術式》は問題なく稼働しているのに、あたしの《霊力》が何かに塞き止められているかのように動かない。

 

「な、何で!何で!?き、昨日まではちゃんと出来てたのに!」

 

あたしの前で血を流している人を助けないといけないのに、何故かこれまで当然に出来ていた事が出来なくなっている。

 

「たすけ……て……」

 

あたしよりも若い年下の男の子が青白い顔で血塗れの手を伸ばしている。助けなきゃでもどうやってあたしなら出来るだけど能力が使えないなんでなんでなんでなんでなんで ──

 

──お前は無能なんだから、逃げちまえよ。

 

「……あ、あぁ……あぁあ゛ぁぁぁぁあ゛あぁ゛っ!!!?」

 

       ──ブツンッ!──

*1
黒燕は大塚小白が使役している六体の中で一番最初に造った最古参の式神であり、彼女の式神達の纏め役をしているリーダーである。(あるじ)の許嫁の憎き遠山透を嘴で突っついている事が多い。主な役割は視界を共有した偵察と小さな身体を活かした撹乱による戦闘のサポート

*2
妖滅師は十歳の初陣の準備として妖魔からの洗脳、魅了、催眠などの能力を弾くのを基本技能として教育されている。それもあって妖滅師達は程度の差はあれ通用はしない。それすらも貫通する能力を有する妖魔は殆どが強力な力を持つため油断は出来ない。大塚小白はそれに対して有効打を持つ式神を使役している。




topics:《式神》
《妖滅師》達が使役する戦闘をサポートするための《術式》の一種だ。
《式神》には種別があって、[攻撃型] [防御型] [支援型]の三種類が存在するよ。
この《式神》の種別は個人によって適した適正があって戦闘スタイルや適正によってどんな《式神》を造って使役するかを決めるんだ。
けど、やっぱり《式神》も《術式》の一種なだけあってちゃんとした鍛練をしないと正常に扱う事は不可能なんだ。
一応、誰でも使える様に[簡易術符・攻型式神]や[簡易術符・支援型式神]とかが存在する。
これは攻型なら武者の姿をしていたり、支援型なら雀とかの形を象ったりしているよ。
《妖滅師》にとって"《式神》を一体使役出来て一人前、二体以上使役して天才"と言われる位には難しい《術式》さ
ある程度手元を離れて行動するというのは、それだけ《霊力》の扱い方に習熟している証だからね

六体以上を使役している場合?……それは規格外と言うんだよ。
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