バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

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「えっ!彩也香ちゃん皇桜女学院なんや!」

 

「こうよう...?」

 

「超のつくお嬢様学校だよ。部活動とかの費用も全部出るんやろ?羨ましいわぁ」

 

「イヤイヤ、私みたいなのもいるんで....!」

 

 

BOXから出て学校内へと進む最中、少しでもコミュニケーションを取っておこうと会話を馴染ませていた。

 

無論、油断は出来ないため注意をそらさずに慎重に進む。

 

制限時間は7時間と余分に残されているが、それほどの時間がかかる相手の可能性もある。

 

ただそこを突き止めたとて水平線上の空論───今は仲間との輪を作ることも重要だった。

 

 

「彩也香ちゃんはどうして学校休んだん?」

 

「あー...インフルエンザにかかっちゃって。と言っても、友達に移されたんですけどね」

 

「友達?」

 

「あやとりのチームにその2人がいるんだけど、みんな治ったって時にこんなことになって....はぁーーー....」

 

「どうして君だけいすとりに来たんだい?」

 

 

深い溜息をつく彩也香に刃牙はそう問いかける。

 

彩也香は気まずそうに、先程よりも声量を小さめにして答えた。

 

 

「私は...友達と争うのがどうしても嫌だった。でも2人は逆に同じ環境で協力して生き残る道を選んだの」

 

「...でも本当に協力し合えるゲームなのか分からなかったから私は別のゲームを選んだ。その話し合いで結構揉めちゃってさ...さっき見かけて、死ぬほど安心したんだけど...」

 

「話しかけることは出来なかったんやね....」

 

「.....はい」

 

 

争うことを避けて別のゲームに挑み、生き残ったかと思えば今度は敵として闘うことになった彩也香は、心身共に多大なストレスに襲われていた。

 

目元にも微かにくまが浮かび、疲弊してるのが一目瞭然だった。

 

くりっとした大きな目に吊り目、長い綺麗なまつ毛、お団子ヘアー、言わずもがな美少女且つ勝気な性格はどこかミツバと似ていたが、違う所はそう。

 

 

「彩也香ちゃん、格闘技とか経験ある?」

 

「!....え?」

 

「あ、いや~.....何となく、かな」

 

「はぁ...確かに家の手伝いでボクシングの練習手伝ったりとかはありますけど....よく分かりましたね。刃牙...さん?」

 

「あはは、呼び捨てでいいよ」

 

「いや~~~先輩ですよね?なら....バキ先輩で!やえ先輩もよろしく!」

 

 

少しだけ明るい顔を見せてくれた彩也香に安堵していた。

 

しかしながら話し合いは時を早め、気付けば玄関前へと辿り着いていた。

 

真っ暗な校内にライトの一つもない状態で踏み入れる。

手がかりは月の光だけ。

 

この中にお化け───否、不思議が存在する。

 

やえは前に行くのを躊躇っていたが、両隣の二人は余裕も余裕な雰囲気で歩を進めたのだ。

 

 

「やえせんぱーい置いてきますよ~~?」

 

「ちょっ、なんで二人ともそんな平気なんよぉ...!」

 

「暗いだけだよ やえさん」

 

「それが怖いんやてッッ」

 

「ッぃて!」

 

「あっはは、賑やかだなぁ」

 

 

───階段を登り、廊下を渡り、教室を確認する。

 

ソレらしきものが見当たらないが、解決しない限りBOXには帰れない。

 

それから10分程度経過したところで一度輪を囲む。

 

 

「なんにも出てこんね....」

 

「ちょっと危なげですけど...二手に分かれてみます?」

 

「えぇ?流石にそれは...」

 

「あはは、ですよね~」

 

「でも2人1組で探した方が絶対効率いいよ!」

 

「ん~...."2ー2ー"(にーにー)で別れてみる?」

 

「1回グッチーしてみましょっか」

 

「そうだな」

 

 

4つの拳が輪を囲む。

 

『グッチーグッチーあったっち』

 

グーが2つ、チョキが2つ、綺麗に別れたハズだ。

 

理想的な別れ方をしたハズだ、おかしな事など何も無いハズだったのだ。

 

それでも何かが、何かがオカシかった

 

 

 

 

「あれ....ウチら、3人だったよ....ね」

 

「なんか、体動かな」

 

 

 

グチィァッ

 

 

 

「「「~~~~~~~~~~~~ッッ」」」

 

 

一つのチョキが変貌(かわ)る。

 

突然肉が腐り、爪が剥がれ、骨が薄く垣間見える。

 

腐敗臭、獣臭、まるで何日も空腹で森の中を彷徨ったような空気、重圧、漂い。

 

皆が視線をそっとそこへやる。

 

その時、思わずやえは腰を抜かした。

あまりにも悲惨な姿で吐き気すら催した。

 

言葉すら出てこないが例えるなら、人の皮をちぎって繋ぎ合わせたかのような肉体だった。

 

 

「お"ぉにさ"ぁんこ"ぉちちららららぁぁ"ぁあ"ああ"あア"ア"ア"ッッッッッ

 

「んっ!」

 

 

肥大化した少年(不思議)の顔面は大きく口を開き、彩也香の目に舌を伸び飛ばした。

 

それを紙一重で躱すが、舌は周りに回り、彩也香の首に巻き付いた。

 

 

「ッッぐぅ」

 

「おぉにさぁんこぉちら~~~~~~~ッッ!!!!!」

 

 

不思議は異常な速さで廊下を駆け抜け、その場から去ろうとするが。

 

ドチャッ───妙な音色が聞こえた。

 

同時に不思議は舌に痺れるような痛みを覚え、踵を返すと、自分の舌がバッサリと断ち切られ、捕らえたハズの彩也香を地に落としていた。

 

いつの間に?

 

速さを得意とする不思議には何が起きたか分からなかった。

 

 

「舌なんか使うなよ....女相手によォ」

 

「!」

 

 

解放された彩也香はそっと後ろへ下げられる。

 

彼女は確かに見た。

 

あの化け物が逃げようとした瞬間、蹴りで舌を切った光景を。

 

ただ見えたのは蹴り終わりの動作だけで、当たった瞬間は全く見えなかったのだ。

 

自分が持っていた剣も取らず、手に持っていた手榴弾もポケットにしまい───彼はただ構えを取った。

 

彼女は凄く、安心した。

 

本当にこんな小男が、あの地上最強の男なんだって、今理解したから....。

 

 

「お化けとヤれるなんて、ホントに生きてて良かったと思うよ....なあ...ッ」

 

「───俺と喧嘩しようぜ」

 

「.....おぉにさぁぁんこぉぉちら"ッッッ」

 

 

 

 

バッッッ

 

 

 

 

不思議の脚が凶悪な肉形になった時、先程よりも速い速度でその場から逃走を図った。

 

例えるなら"地下鉄レベル"の速度。

 

到底走って追いつける訳が無い、鬼ごっこなんて出来ようハズもない。

 

勝つ方法はかなり限られてくる、強敵だった。

 

 

 

 

ギャッッッ

 

 

 

 

「!?」

 

 

謎の轟音。

 

背後の気配。

 

背後を取られたのを直感的に悟った不思議は、頚椎を自ら180°捻転させて噛み付いた。

 

───何も無い。

 

 

背後に気配

 

 

不思議は恐れた。

 

何故なら背後の奴の速さは例えるなら。

 

『新幹線レベル』に等しかったから。

 

 

「何処へも行かない、行かせない。俺から逃げられると思うかい?」

 

「お....にさん、ごち....ら?」

 

「...タッチ。次は君が鬼だ」

 

 

不思議(少年)の肩をぽんっと叩くと、顔が悔しそうに歪んだ。

 

またも脚を変形させ何処かへ逃げようと飛び出した。

 

 

「───ギッ!?」

 

「言ったろ?何処にも行かない...てッッ」

 

 

不思議の速度に追いつき、かち上げるような上段回し蹴りが直撃する。

 

幼い奥歯と吐血が宙を舞う。

 

まるでダンプカーのような?衝撃に面を食らったが、瞬時に舌を伸ばし、手首に巻きついた。

 

ハッとした時、不思議の顔は不気味にニヤついた。

 

 

「ッッッぐッ!!」

 

 

 

バリンッッ

 

 

 

「「刃牙くん(先輩)ッッ!!!」」

 

 

窓ガラスへと遠投、投げ捨てられた。

 

場所は3階、とてもではないが助かる距離ではない。

 

彩也香とやえは憎しみ武器を握るが、彼もまた窓の縁を握っていた。

 

 

「危ねぇ....ッッ」

 

「おわっ!バキ先輩生きてた!」

 

「ほへぇ....良かった」

 

「安心してる場合じゃないぜ、2人とも....」

 

 

不思議は逃げようと試みる───そう、これは鬼ごっこ。

 

先程刃牙を舌で捕まえた時、鬼の交代は既に完了していた。

 

この距離では流石に刃牙でも追いつけなかった。

 

また逃げられたらいつまでも解決出来ない事態が発生する。

 

成程、強敵だ。

 

互いに踏み込めずにいる状況下、ふとやえはもしかしたらと、ある案を思い浮かべた。

 

 

「───あ~~あ、何だか飽きちゃったな~~~」

 

「お.....にさん"...?」

 

「うわーー、もう門限過ぎてるー....みんな帰ろうよー」

 

「....そうだね。お母さんに怒られちゃうし」

 

「....賛成」

 

 

やえ達はガラガラと教室の扉を開き、中へと入る。

 

ガランとした廊下で不思議は一人となる。

 

ふる、ふる、と震え、怒りなのか悲しみなのか分からない感情で埋め尽くされる。

 

まだ遊びたい、もっと遊ぼう、まだ終わってないッッ

 

焦燥に駆られた不思議は一目散に教室の中へと入り込む。

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「!」

 

「コレでもう逃げられない、そして私も」

 

 

不思議は嬉しんだ表情から一気に怒り狂い、眼前の彩也香へと突っかける。

 

同時に口内から消化液を吐き出し、彩也香の体を骨も残さず溶かそうと企んだ。

 

───ステップで液体を躱す。

 

 

「よっ!!」

 

「グゲッッ」

 

 

即座に不思議の懐に潜り込み、胃(ストマック)に向かいボディブローを打ち込んだ。

 

プロ顔負けなその威力は不思議の口から吐瀉物を吐かせる。

 

間髪入れずにコンビネーション、アッパーカットが下顎を思い切り叩き上げた。

 

ぐらりとよろつくも、不思議の体力は未だこときれない。

 

彩也香の頬に汗がつたるも、その口角は確かに吊り上がっていた。

 

 

「刃牙先輩ッッ」

 

「応ッッッ」

 

 

掃除用具箱の扉を蹴り飛ばし、現れた刃牙は顎に飛び膝蹴りを入れる。

 

大きく後方へ吹き飛ばされ、仰向けでもがく不思議の前に、ファイター2名が立つ。

 

二対一。

 

 

「卑怯とは、言うまいね」

 

「ははっ、最強タッグ結成だッ!!」

 

「お"に"....ざぁぁあああああ"あ"ア"アアア"アア"アアアア"ア"アア"アアッ"ッッ

 

 

とてつもない咆哮に彩也香の脚が一歩引くが、既に不思議が間合いの中へと入っていた。

 

あの速さを実現させる強靭な脚が、彩也香の腹へとすっ飛んだ。

 

ビタッ───バキが蹴り足首を寸前で掴み『秘術合気』が少年の肉体をグルリと廻転させる。

 

 

「合わせろ彩也香ちゃんッッッ」

 

「!───応ッッ!!!」

 

 

 

メ"キャァッッ

 

 

 

「ぢぎゃッッ」

 

 

合気の廻転に合わせた渾身のショートアッパーが顔面に炸裂。

 

不思議は反動で地面に吸い込まれ───る直前、体勢をうつ伏せにさせ受け身を取った。

 

『今のを受け身取るのかよッッ』と2人して愕然とさせるが、これは残念ながら純粋なタッグマッチではない。

 

動かず、ダメージの回復を図っている不思議の頭上あたりの吊り型蛍光灯に───

 

刀を握る蓬莱やえ。

 

 

「やあぁぁぁあッッッ!!!」

 

 

 

斬ッッッ

 

 

 

「やったっ....!!」

 

 

軽やかに地面へと着地したやえは、首を落とした不思議を見つめる。

 

ぼうっ、と炎に包まれ、軈てその肉体は消えて塵になってしまった。

 

 

『ピンポンパンポーン。不思議番号③「鬼さんこちら!天の成る方へ」いすとりBOX マス取り成功』

 

「やったーーーーッッ!!!」

 

「「わっぷ」」

 

 

二人に抱きつくやえに、仕方なさげに微笑む。

 

彩也香と視線が合った刃牙は、期せずして自然と拳を互いにくっ付けていた。

 

 

「ここまで強いと思わなかったよ、彩也香ちゃん」

 

「こっちのセリフね、ソレ」

 

「二人とも無茶しすぎやて~~~~~ッッ!!ほんま良かったぁ...!!!」

 

 

第一夜にして強敵との邂逅だったが、3人は生きる。

 

いすとりチーム 1マス確保───。

 

 

 

「いっ....いすとりチーム、パねェ...ッッ」

 

「これは本格的に、協力し合うしかなさそうね....」

 

 

 

別チームの何者かが、その光景を影から見ていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

不思議を解決すればBOXへの帰還が可能となる。

 

3人はBOXへ戻り、仲間達からの歓声を浴びながら休息へとついた。

 

不思議を解決すればそれ以降は自由時間。

遊ぶも良し、眠るのも良し、夜22時から朝5時以外の時間は自分の時間を唯一過ごせる貴重な時間。

 

そして長い、この16日間に及ぶゲームは極めて長期戦だった。

有効活用をするべきだろう。

 

深夜0時───いすとりチーム一人一人が何をしているかを紹介も兼ねて盗み見よう。

 

 

『No.15 紫村影丸』年齢17歳 身長168cm体重45kg。

欠席理由 『不登校』

 

 

「強くなるんだ....強く...あの人みたいに.....ッ」

 

 

ベッドの上で体育座りになり、何かブツブツと念仏のように唱えている。

 

身も心も弱く生まれた彼は、食も細く、食べすぎたら吐いてしまう虚弱体質だった。

 

喧嘩などとは無縁の性格で、テストの点数も下の中程度。

 

そして誰よりもビビりで、自分の命が惜しい。

 

カッコイイヒーローのような存在に憧れるだけの木偶の坊であることは、自分が一番理解していたのだ。

 

ただそれでも"強い意思"を求め続けている、稀有な少年。

 

 

「強く....つよく....よく..........くぅ....」

 

 

いすとりの疲労は大きく、ようやく安心出来るベッドに身を預けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『No.14 木村萌美(通称モエ)』年齢16歳 身長159cm体重43kg 元信者。

 

『No.13 佐山よしか(通称ヨッシー)』年齢16歳 身長160cm体重46kg 元信者。

 

『No.12 千田真理子(通称マリ)』年齢16歳 身長168cm体重53kg 元信者。

欠席理由 『サボり』

 

 

三人ともに高校からの仲であり、所謂イツメンである。

 

暇な日があれば街中でだべりながらクレープを食べる、普通の女子高生。

 

萌美はあざとく、よしかは男らしく、真理子はおしとやか。

 

三人は妙なバランスで成り立っていた。

そして紫村に忠誠を誓っていた元信者であった。

 

今はそう、シャイナー改め『シャイン』の忠誠者...?

 

 

「でも、もうシャイン呼びやめろって言われちゃったし...」

 

「不快にさせたら光....いや、刃牙さんから見放されるわ。もうやめとこ?」

 

「そうね...それにしても、まさかあの親子喧嘩の子どもだったなんて思いもしなかったわ」

 

 

同じ部屋に集まり、ベッドの上でくつろぐ三人。

 

雰囲気は女子会さながらで、話す内容は決まって色恋じみた話ばかりだった。

 

 

「ねー!?私あの時からイイな~って思ってた!」

 

「あーコラ。抜け駆けしようとするなし~」

 

「あの筋肉に抱き締められたいよね~~」

 

「「ね~~~!!」」

 

 

3人には知らぬ間に、紫村に対する光は消えかけていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『No.11 里見ミカ』年齢17歳 身長161cm体重42kg

欠席理由『不登校』

 

 

「うぅ....う....どうしてこんな目に....っ」

 

 

歯ブラシを落とし、鏡の前で膝を崩す。

 

不登校の理由はあるコンプレックスに対する自己嫌悪。

それは見た目、自分の容姿だった。

 

整ってない輪郭、小さい目に一重、不自然に小さく通ってない鼻筋。

 

かと言ってスタイルが良い訳でもない、ただ特段性格が悪い訳ではなかったため、いじめられることなどはなかったが、深刻な自己嫌悪は周りの目を過剰に気にする。

 

誰かのひそひそという小さな声が聞こえれば、自分の悪口を言っているのではないかと疑う。

 

人前で話すなんて尚更無理、何故かって顔を見られるから。

 

マスクは常備だったが、今はこんなことになったが故に忘れてきてしまった。

 

コミュニケーションにも優れていなかった彼女は、何故ここまで生きてこられたか自分でも分からなかった。

 

 

「早く家に帰りたいっ.....ブサイクな顔を見せるのも死ぬのも嫌だぁ...ッ」

 

「......淋しい」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『No.10 福満重里』年齢18歳 身長171cm体重68kg 元信者。

欠席理由『体調不良』

 

 

「俺.....アホだ」

 

 

坊主頭の糸目、そして元不良なため体格が良い彼だが、どうにも精神面に難があり。

 

すぐ人に騙され、感情的になりやすく、頑固で───いすとりで自分の命のため、人の命を奪った。

 

そしてミツバに胸倉を掴まれた男とは、彼のことだった。

 

 

「クソォ.....ばっちゃん....こんな俺でも、天国行けっかなぁ....ズズッ」

 

「ヂクショゥ....腹、減った.....」

 

 

一度部屋を出た瞬間、鼻をくすぐる香りが舞っていた。

 

ハッとさせカラオケルームに入ると、そこには何故かエプロンを身にしたミツバがいた。

何やら悲壮感に満ちた表情で料理を前にしていたのだ。

 

 

「「あっ」」

 

 

目が合った2人の間に、気まずい沈黙が流れた。

 

するとミツバは立ち上がり、部屋の中へと戻った。

 

そりゃそうだよな、と福満も自分の部屋に戻ろうとするが。

 

 

「はい」

 

「え?」

 

「お腹すいたんでしょ?」

 

「あ、あぁ.....」

 

 

すぐに戻ってきたミツバは、もう一つ同じものを用意し福満に差し出したのだ。

 

 

「こ、こんなもの、どこに....?」

 

「あっちに厨房があってね。色々用意されてたんだけど、なんか味気ないと思ったから、あるもので作り直してみたの」

 

「スゲ....料理、うまいんだ」

 

「一応女子なので。でも、美味しくないかもよ」

 

 

その微笑みに、福満も自然と微笑んでいた。

 

すぐに手を合わせ、スパゲッティを口に放り込む。

 

当然過ぎることを、涙しながら口にした。

 

 

「美味ぇ"っ....わる"、がった....っ」

 

「いいえ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『No.9 藤原三葉』年齢18歳 身長165cm体重51kg

欠席理由『法事』

 

 

「ふう....甘いなぁ、私」

 

 

自分の部屋に戻ったミツバは深く溜息をつき、自分の身を投げ捨てるようにベッドに向かった。

 

うつ伏せになるミツバの目には既に涙はないが、食事をしている時も、誰かと話している時も、歯痛のように藤春が頭から消えなかった。

 

こんなにも好きだったことを、彼がいなくなってから気付いたこと。

 

息苦しい感覚に身を包まれる。

 

 

「....お母さん、お父さん、必ず生きて帰るから」

 

 

それでも、家には自分を待つ人がいる。

 

共に生きたい仲間がいる。

 

強く生きることが、自分に出来るたった一つの決意だった。

 

 

「......確か、学校へ行った人達も同じようにゲームをしているってカミが言ってた...」

 

「神小路かみまろ....アイツが全ての元凶....」

 

「ッッ.....許せない....絶対に、許せない....ッッッ」

 

「必ず奴をッッ.....カミを.....神を殺してやる」

 

 

憎しみがミツバの心を染めてゆく。

 

自分に出来ることはせいぜい真面目であることくらい───それではダメだ。

 

誰かを助け、かつ下克上を成す力を得なければ。

 

カミが行うゲームは比較的"身体能力"が有利を持つものが多い。

ならば、やることはただ一つ。

 

 

「寝てるかしら....」

 

 

刃牙の部屋の前に立つミツバ。

 

彼なら、彼ならば、少しでも今の私を強くしてくれるハズ。

 

そんな期待を胸にノックをしようと手を近付けるが、ふとその時、中から話し声らしきものが聞こえた。

 

悪いとは思いながらも、耳を近付けた。

 

 

「......いいか」

 

 

やっぱりやめよう。

 

そう決めた時、自分の背後から男らしくはあるが女子と分かる声色が響いた。

 

 

「あ.....お邪魔でした?」

 

「ちッ、違う違うッ、私はただ───て、あなたは確か...彩也香ちゃん?」

 

 

『No.8 上原彩也香』年齢16歳 身長160cm体重50kg。

 

欠席理由『インフルエンザ』

 

 

皇桜女学院2年生。

彼女の趣味は映画鑑賞であるが、家庭が"あるボクシングジム"を担っており、よく手伝いに付き合わされている。

 

彼女自身も知らぬ間にボクシングが日常の隅に置かれ、最早生活の一環にすらなっているほどの"ボクサー"である。

 

そしてもう一つ"あるジム"にも通っていた。

 

そのジムこそが、彼女の物語を形作る存在であった。

 

 

「ミツバさん....だったっけ?こんな時間に何しようとしてたんですか~?」

 

「だだから違うってばッッ」

 

「あははっ、ごめんごめん、ちょっとからかっただけです」

 

「はぁ....あなたこそこんな時間にどうしたの?」

 

「あ~~、別に何もぉ....」

 

「あなたも同じじゃない」

 

「あはは...でも聞きたいことの一つや二つ、そりゃありますよ。だってあの地上最強の男なんだしさ」

 

「そうね。強さの秘訣、私も聞こうと思ってた」

 

「同じくです」

 

 

二人はぷっと同時に吹き出した。

 

なんだか似た外見も相まって、良い仲間になれる気がした。

 

握手を交わし、ミツバは提案をする。

 

 

「聞いたわ。ボクシング、凄く強いって」

 

「家がボクシングジムやってて....」

 

「へぇ、なんていうところ?」

 

「光栄ボクシングジムってとこです」

 

「!....世界最高峰の所じゃない」

 

「そ、そうなんですかね?」

 

「....ねぇ、良かったら....私にボクシングを教えてくれない?あと、タメ語でいいわ」

 

「!.....OKミツバ。でも、私は厳しいよ」

 

 

生き残るため、努力する。

 

次に待つ試練のため、二人は備える。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『No.7 韮崎鐘(にらさきあつむ)』年齢17歳 身長172cm体重56kg 元信者。

欠席理由『仮病』

 

 

金髪とグラサンのファッションはさながら俗に言うYouTuber。

 

事実、YouTuberである。

とは言うが登録者数954人の無名配信者。

 

今どきのゲームをLIVE配信してもせいぜい最高で15人。

 

動画投稿など再生数100にすら満たないものばかり。

 

ただ彼は配信をすることがそれでも好きでやり続け、ようやく登録者数1000人を迎えかけた時に此処へ来た。

 

 

「クソクソクソ...俺はぜってぇ参加しねぇからなぁ....っ」

 

 

そして超のつくビビり、協調性のない男だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『No.6 南方沙奈』年齢16歳 身長159cm体重46kg

欠席理由『公欠』

 

 

爪先の爪と肌が荒れているのは、彼女が生粋のバレエ選手である証。

 

邪魔にならぬよう長い金髪はベリーショートに切り、顔立ちだけ見れば"セイン・カミ"にも似ていた。

 

ただ無論あんな奴は大嫌いで、一刻も早く家に帰って練習をしたいと考えていた。

 

 

「.....なんでこんなことになってるんだろう」

 

「お母さんは?...学校のみんなは?....みんな無事なの....?」

 

「どうして私は、死ぬかもしれないの....っ?」

 

 

今世界がどうなってるのか、何も知らされないこの状況でただ生きることを強いられている。

 

おかしいことだけは、理解していた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『No.5 巴光圀(ともえ みつくに)』年齢17歳 身長172cm体重51kg

欠席理由『サボり』

 

 

イカしたパーカー、イカしたマイク、とくれば導かれるものはそう、ラッパーである。

 

趣味は才能に開花し、日常の隅にライムがある。

 

暇があればいつでも喧嘩(ラップ)に引火、踏みにじるのは韻だけだ。

 

 

「♪︎~~~.....やっぱりコレだけゃやめられねぇ」

 

「ヘイヨウッ、ゼッテェ生き残ってやるぜ俺ら"いすとり"ッ♪︎」

 

「余すことなく俺色に染めてやるぜ"陣地取り"ッ♪︎」

 

「"Exactly"! みんなで守ろうぜ"country"♪︎ヒーローのように♪︎」

 

「ボンボンボン光圀イエアァァァッッ!!!」

 

 

彼はこう見えて、仁義に厚い男である。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「誰だよ隣の部屋.....うざいなぁ...もう」

 

 

『No.4 茗荷(みょうが)勇人』年齢18歳 身長155cm体重50kg

欠席理由『風邪』

 

 

背丈の小さな彼が頭を丸めてまで熱中したのは野球だった。

 

ポジションはセカンド、肩がそこまで強くなく俊敏さに優れていた彼にとっては天職のような立ち位置である。

 

甲子園にこそ行けなかったものの、そこそこ強いチームでレギュラーを張れたことを誇りに思っていた。

 

比較的温厚で気の小さな少年だった。

 

それ故に後輩からも先輩からも舐められがちだったが、プレーは大層褒められたものだ。

 

 

「野球.....大学でもする予定だったのになぁ....出来んのかなぁ...俺....せっかく推薦もらえたのに、死んだらパーだよ....」

 

「.....やれるさ、やれる、やるぞ...やってやる...」

 

 

言葉とは裏腹に、死にたくないという気持ちで頭の中がいっぱいだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『No.3 東風谷早苗』年齢17歳 身長167cm体重51kg

欠席理由『自殺未遂』

 

 

「(何故生きるの?何故まだいるの?こんな事してる暇じゃないのに)」

 

 

緑色の髪───たったこれだけで彼女の人生は暗闇にへと誘われた。

 

『染め直してこいと言っ───』

 

『何この髪っ!?きもちわ───』

 

『ちょっと顔が良くてもこのカエルみた───』

 

 

死ねばいいのに。

 

机の上には落書き、ロッカーには蛙の死骸、トイレの中でずぶ濡れ───思い返せば出るわ出る、溢れ出る思い出(地獄)。

 

遂には復讐した───家に放火され家族が死んだ。

そしてソイツらを殺したら、生きる意味が無くなったのだ。

 

 

『共に行こう早苗。ここにいてはいけないよ』

 

 

信仰する神様がいた。

 

そこへ行くためには死ななくてはならない。

 

ならばこの機会は絶好のチャンスだったが、彼女は何故か死を避けていた。

 

何でかこんなところまで来てしまった。

 

何故?彼女は一人で考えてみた。

 

あぁ、そうか。

 

 

 

「もっとたくさんヒトが死ぬところを見たいんだ」

 

 

 

生きる意味を見出した者が、一人。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ふぅーーー...ッよし───あ~~~やっぱりアカンわぁ...っ」

 

 

『No.2 蓬莱やえ』年齢18歳 身長167cm体重52kg

欠席理由『病欠』

 

 

中高一貫で三段跳びに熱意を注ぎ、京都を代表するほどの名選手だった蓬莱やえ。

 

だが度重なる鍛錬の果て、待っていたのは"故障"という絶望的な結末だった。

 

普段の日常では問題ないが、必要以上に脚を動かすと膝に痛みが走る。

 

無理をすれば最悪、二度と走れなくなるほどの。

 

選手として致命的なそれは、彼女に引退を宣言させる事となる。

学校には行っていたが自分の一部が欠けたようで気持ちが悪く、詰まらなかった。

 

友達はいたが、自分にとっての親友は三段跳びだけだった。

 

三段跳び以外興味がなかった故に色恋沙汰にも無縁。

何度か告白されるも三段跳びに集中したいからと全て断るほどの熱中度。

 

しかしそれも彼女の魅力で、人気は廃らず寧ろ順調に伸ばしてさえいた。

 

そんな彼女が今、男の部屋の前で立ち尽くしていた。

 

 

「(なんで刃牙くんに会いたがってるんやろ)」

 

「(.....分からない。でも会って、ちゃんと話したい)」

 

「(なんでもいい。さっきの不思議の話でも、これからの事でも、何でもいいから話したい)」

 

「(そうや。これからどうするか、ちゃんと話さなきゃ!)」

 

 

コンコンコンッ───ノックの後、ドア越しに話しかける。

 

 

「ば、刃牙くん~?起きてる...?」

 

「.......寝ちゃったかな」

 

 

残念そうな顔をありありと浮かばせ、自分の部屋へと戻ろうとする。

 

ガチャッ───熱気と共に開かれたドアはやえを反射神経で振り向かせた。

 

そこには何故か汗だくで、更には息を少し荒らげていた男の姿があったのだ。

 

ドキ、と心臓が高鳴りながらも、近付く。

 

 

「なんか...っ......用っ?」

 

「!!!っ.....な、なにしとるん!?」

 

「まあ....トレーニング?」

 

「あ、そ、そう....あー!あの、ちょっとだけ、話せたりする?」

 

「?....あぁ」

 

 

彼女の顔を赤らめさせるのは自分自身が発する『雄』であることを知らない。

 

『No.1 範馬刃牙』年齢18歳 身長168cm体重76kg

欠席理由『サボり』

言わずもがな、地上最強の名を継ぎし男である。

 

 

 

「お、お邪魔しま~す.....」

 

 

 

同じ景観なのにこうも緊張するものかと、やえは初めて入る『男の子の部屋』にそわそわさせていた。

 

刃牙はタオルで汗を拭きながら、ドリンクバーでついだであろう水が入ったコップを口につける。

 

鮮やかに飲みきるその姿に目を奪われる。

 

 

「?」

 

「!っっ」

 

 

咄嗟に顔を背け、緩んだ顔をパシッと叩いて気合いを入れる。

 

刃牙の方へ向き直し、普通に、普通に会話しようと試みた。

 

 

「座って...いいかな」

 

「おう」

 

 

ベッドの上に腰かけるやえ、床にあぐらをかいて座る刃牙。

 

二人はようやく、まともに話せる時間が出来た。

 

 

「話って?」

 

「.....実は、ちゃんとした話題はないんだけど、なんだか眠れなくて....」

 

「...こんな時に、まともに熟睡出来る方がおかしな話かもな。俺もなんだか、体を動かしてないと落ち着かない」

 

「いつ....アイツが何をしてくるか分からないもんね」

 

「うん。少しでもその時のために、備えとかなきゃね」

「備え...か」

 

 

やえは極めてこれからの発言に迷っていたが、最早知らないふりをする必要もないのかもしれないと、少し探りを入れる。

 

 

「どうして刃牙くんは、そんなに"飛べる"の?」

 

「跳べる?」

 

「三段跳びにほとんど時間を費やしてきた。そんなウチより、刃牙くんはずっと高く飛んだ」

 

「.....」

 

「それに飛ぶだけじゃない。びっくりするくらい、強い」

 

「あんな不思議に素手で立ち向かうなんて....彩也香ちゃんもだけど...」

 

 

そこでやえは一度言葉を詰んだ。

 

刃牙の表情を盗み見ると、彼の表情は意外にも穏やかで、少し困ったような素振りを見せて頭を搔いていた。

 

 

「色々あってさ....自分から話すのは気が引けるよ」

 

「...そっか!変なこと言ってごめんね」

 

「いや、そりゃ気になるよね。あんだけ見ちまったら」

 

「そう...やね。でも知られたくないこと、無理に知ってもだし...!」

 

「...一つだけ、やえさんには教えとくよ」

 

「?───っ!」

 

 

そういえばどうして長袖の寝間着を着ているのだろうと気になっていたが、その理由が今明らかになった。

 

袖をまくって見せた右腕に、無数の古傷が刻まれていた。

 

恐らくは腕に限らず、全身に残っているだろう傷痕は嫌でもやえの口を塞がせた。

 

「こんなもん見せたら、みんなびっくりしちゃうと思って隠してきたんだけど...ね」

 

「あ...あの時見えたの、気の所為かと思ってた....ほんとに、これ全部、傷痕....っ」

 

 

豆まきの時、青鬼と闘った際に見えた彼の肉体。

 

何か跡のようなものがあったが、目がおかしくなったのかと正直思っていた。

 

だがこの目で今ハッキリと目にしている。

 

切り傷、貫通痕、拳には何万何億と叩いてきたと思われるほどの荒々しい傷痕。

 

見ただけで、彼がどのような人生を送ってきたのか素人でも察せられる。

 

自分なんかとは遙か遠い世界に位置する存在。

 

努力値も、経験値も、同じ時間を生きてきたのに雲泥の差であることを言葉無しに告げられた。

 

 

「分かった。すごく、わかったよ。刃牙くんがどんな人生を送ってきたか....うん、そりゃあウチなんかより、ずっと飛べるはずやわ...」

 

「ごめん、気分悪くさせて」

 

「イヤイヤイヤ、寧ろ無理させてこちらこそごめんね!?」

 

「な、なんでやえさんが謝るんだい。俺から言い始めたのに」

 

「だ、だってその....」

 

 

ポカンとさせる刃牙の顔を見られない。

自分だって答えが分からないことを話せる訳もなかった。

 

山ほどあった聞きたいことがどうにも思い出せない。

 

やえはこの胸のざわめきをどう解釈したらいいか分からなかった。

 

 

「あ、し」

 

「?」

 

「.....あし、脚見せてくれん!!?」

 

「脚?なんでまた」

 

「あんだけジャンプ力ある脚がどんな感じか見てみたいんよ!お願いっ!」

 

 

もうこうなりゃ思ったこと全部聞こう!

 

あの時の慎重さは何処へやら、やえの頭は思考をやめた。

 

そのお願いに刃牙は戸惑うが、謎の気迫に押されて渋々と寝間着をまくった。

 

 

「お、おぉ~.....すっごっ....!」

 

 

有り得なかった。

男とはいえこれほどの筋肉はお目にかかったことがない。

 

鎧にも武器にもなる、最強の矛盾。

 

脚にもビッシリと古傷が刻まれ、それさえも最早アートのように芸術性を感じた。

 

 

「大腿四頭筋やばっっ....腓腹筋えっぐぅ....♡」

 

「.....」

 

 

への字の口で汗をかく。

 

相当三段跳びを愛していたのだろう、脚の筋肉に夢中になるのも無理はない....のだろう。

 

なんかやりづれぇ....睨め回すように自分の脚を見られることに居心地の悪さを感じた。

 

 

「さ、触っていい!?」

 

「え!?あ、お....良いけど」

 

「ありがとう!!!」

 

 

唾を飲み下し、恍惚とした顔で人差し指を大腿四頭筋へ近付けた。

 

ぷにっ、と想像を絶するような柔らかさに更にやえの『三段跳び愛』が膨れ上がる。

 

 

「柔らかっ....なんか癖になりそう....」

 

「お、おいおい...」

 

「ひぇ~...どうやったらこんなになるんやろぉ....うわ、奥はゴムみたいに硬い....っ」

 

 

ちょん、さわ、とソフトな触り方だったものが。

 

むにっ、にぎっ、と少しずつ慣れ始めるように大胆になってゆく。

 

それに体勢も前のめりになっているため、見てはならない領域(ところ)まで見えかける。

 

 

「ちょ、ちょっと待ったァッッ」

 

「うぇっ!?」

 

 

両肩を押し上げ、脚から手を離させながら目を合わせる。

 

その時だった。

 

やえの目に、刃牙の顔が煌びやかに輝いた。

近くで目を合わせることで、その人の本質を互いに見抜く。

 

恋煩い───この胸のざわめきの正体は、ソレだった。

 

 

「(う...わ.....声、出ない)」

 

「やえさん?」

 

「......」

 

「も、もう寝よう。こんな時間だし...」

 

「.....はい」

 

 

その時のやえの表情はどこかぽやっとしていて、目に焦点があっていないような、けれど刃牙の目は真っ直ぐに見つめているような、不思議な表情をしていた。

 

 

「───じゃあ....今日はありがとう。なんか、気持ちが楽になったような気がする」

 

「それは良かった」

 

「うん.....また明日」

 

「おう」

 

 

部屋を出ようとするやえは、頬を赤らめながら最後に一言告げた。

 

 

「あの、さ」

 

「ん?」

 

「名前....さん付けじゃなくて良い...かな」

 

「あぁ...なら、やえちゃんで」

 

「!....嬉しい」

 

 

そう言い残し、彼女は部屋から出て行った。

うんっと伸びながら、不思議な時間だったと彼は眠りにつく。

 

対しやえは出た扉の前で、小さくガッツポーズをした後に暫く立ち止まっていた。

 

それは余韻に浸っていたからでも、感動していた訳でもなく。

 

盗み聞きをしていたミツバと彩也香がいたからだった。

 

 

「あ、やば...あーホラ!ちょうどここで落とし物しちゃって....」

 

「そうそう、二人で探してたのよ落とし物....」

 

「ッッ~~~~~~~~~~コラぁぁぁッッ!!!」

 

 

 

勝負前のほんの暇(いとま)。

こんな茶番は彼ら彼女らにとり、一生の思い出になった。

 

そしてこれが、最後に純粋に笑える時間になるとは思いもしなかった。

 

 

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