バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

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拾参

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで二人はどんな映像を見たの?」

 

 

警戒を怠らず、校内を歩んでいる最中、ミツバはひびきと朱美に例の映像について問いかけた。

 

二人は記憶を掘り返してその映像を思い浮かべる。

 

 

「私は確か.....なんだっけ....変な、誰かが私たちの前に立ってて...なんか、スゲェ怒ってた....?」

 

「私もよ。どうしてかしら....??」

 

「まだ何も分かりそうもねぇな、その感じじゃ」

 

「そうね...とにかく、口の中の紋様にだけは注意しなくちゃね」

 

「そうだな....あっ、あそこに誰かいるぜ」

 

 

彩也香が指をさした先の廊下に、こちらへと歩んでくる人影が見える。

 

一瞬やえかと思ったがそうではないことは目を凝らしてみることで分かった。

 

その獅子のような見た目は、危険な気配を嫌でも分からせ、全員がすぐさま臨戦態勢へと入った。

 

 

「なんだアレ....過去一ヤベェな....ッ」

 

「みんな気をつけて....ッ」

 

「「「────!」」」

 

 

 

 

 

バチュンッッ

 

 

 

 

 

その掌が開く。

 

掌に刻まれた紋様は坤のものと酷似していた。

 

それを目にした瞬間、服を置き去りに4人はまたもや消え去ってしまった。

 

そして見る、例の映像。

 

しかし坤の見せる映像とはどこか異質な、強いて言うなら見たくもない、なのに脳裏に刻み込まれている───トラウマのようなものだった。

 

 

 

 

『うるさいんだよいっつも』

 

『女のくせにデブじゃ~ん!』

 

『アニメじゃねんだからイキんなよ生徒会』

 

『俺と付き合ってください!───ドッキリ大成功~~~~~~~~~!!!』

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「お"っ、えぇぇぇぇぇ.....ッッ」

 

 

強烈な吐き気、寒気がミツバの全身を覆い尽くす。

 

衣服を剥かれ、裸の状態でどこかへ転送させられたようだ。

 

腕で体を隠し何とか立ち上がるが、あの怪物の掌にあった陰陽玉のような紋様を思い出した時、またもや込み上げてくる吐瀉物。

 

坤とは異なる苦しみだった。

 

 

「おえぇッ、だめ、あのもようはっ、ダメ....ッッッ」

 

「はっ...はっ....はぁっ.....っっんく」

 

 

息を整え、口元を拭う。

 

辺りを見渡すと、同じように苦しみに悶える三人の姿があった。

 

 

「みんな、だいじょ、うぶ...?」

 

「なんだアイツ....まさか、もう一つの不思議っ!?」

 

「朱美っ、大丈夫か?!」

 

「えぇっ、けほっ、けほっ....!」

 

 

あの模様を視界に入れただけでこの地獄の苦しみを味合わせる2体の不思議。

 

坤。

 

艮。

 

模様を見ずに戦えというのだろうか。

 

まともに相対しても勝てるか定かではないのに、そんな卑怯とも言える能力を所持している。

 

無理だ。

 

勝てるはずがない。

勝てっこない。

 

ミツバの頭に『逃走』の文字が浮かぶ。

 

しかし安否が不明なやえを置いてBOXには帰れない。

 

どうする。

どうする。

 

どうすれば良い方向へ進む。

 

 

「「「...........」」」

 

 

今の映像のせいで、全員の戦意が削がれてしまっていた。

 

もう二度とあんな目に遭いたくないという心が蝕む。

 

最早どう倒すかではない。

どう逃げ切るかを視野に入れてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

バチュンッッ

 

 

 

 

「「「ッ!!?」」」

 

 

聞き覚えのある破裂音が響く。

 

振り返るとそこには、やえに明石、持田、小浜が頭痛に悶え苦しんでいたのだった。

 

期せずして、全チームが今この場に集められた。

 

 

「ぐあぁぁぁぁッ....頭ッ....割れるッ....ッッ」

 

「やえっ!!!」

 

「っ!.....ミツバ.....」

 

 

ガバッ───やえに抱きついたミツバは泣き、抱きつかれたやえは一瞬呆然とした後に意図を察し、微笑んでいた。

 

同じ気持ちだったんだ。

 

お互い不安で不安でいっぱいで、そして謝りたかったんだ。

 

それを抱きついたことのみで悟り、二人は言葉交わさずして謝罪していた。

 

 

「ミツバ....彩也香ちゃん....ウチ、今まで本当に....」

 

「もういいのっ。生きてて良かった....っ!!」

 

「うん.....ありがとうっ」

 

「へへっ....にしてもこれってもしかして、全チーム集合しちゃった感じっすかね...?」

 

 

ひびきが呟くと、落ち着きを取り戻した明石は頭を抑えながら頷いた。

 

 

「みたいだね....あっミツバ!久しぶ....うわっ!?ごめんッッ」

 

「?....あっ」

 

「「「!!!」」」

 

 

裸であったことをつい忘れていたミツバ達は咄嗟に体を隠す。

 

明石は目を逸らし、何故自分しか男がいないんだと後悔したが、ある意味歓喜してしまっていた。

 

そして偶然か或いは必然か、すなとり、いすとり、あやとりチームのメンバーが集まるという不可思議が起きた。

 

明石はこの期を決して逃すまいと、目を薄めたまま自身の意を示した。

 

 

「みんなで協力して、"同点引き分け"を目指さないか?」

 

「!.....まさか明石達も同じこと考えてたなんてね」

 

「え、もしかしてミツバ達も?」

 

「えぇ」

 

「マジで!?それなら話が早いよ!」

 

「でも....ルールでは生き残るのは1チームだって言ってた。そこだけが不安要素なんだよね」

 

 

持田がそう言うと、そのあまりに大き過ぎる不安要素に言葉が詰まる。

 

だが今考えても仕方がない。

 

今はこの生きるか死ぬかの境目に立たされている現状をどうにかしなければならなかった。

 

 

 

 

 

バリンッッッ

 

 

 

 

「「「ッッ!!!」」」

 

「ホッ、ホッホ」

 

 

窓を突き破り、廊下へ侵入する坤。

 

反射的に後方にいた来々留が逃げ出した。

 

 

「ヤバい!逃げ───あっ」

 

 

 

バチャンッッ

 

 

 

「来々留ちゃんっ!!?」

 

 

来々留の逃げた先には艮が立ち、容易に頭を握り潰す。

噴水のように吹き荒れる血飛沫が全員の体にかかる。

 

怯える暇もなく突き付けられる『挟まれた』という現実。

 

前門の狼、後門の虎───一体ずつでも手に負えず飛ばされていたというのに2体同時に現れた。

 

そして気が付く。

 

 

偶然じゃなかったんだ

 

 

全員、意図してこの場所に送り込まれたのだ。

廊下という挟み込むには最適の場所に、坤と艮は意図していたのだ。

 

朱美は不思議に思っていた。

 

何故わざわざ自分達を別の場所に転送する必要があるのかを。

 

確かに自分から遠さげるため、倒されないためだと考えれば納得は出来なくはないが、どこか腑に落ちなかった。

 

これだ。

このためだったんだ。

 

効率良く自分達を皆殺しにするための策略。

 

 

「(やられたッッ。呑気に会話をしている暇なんて無かったんだッッ!)」

 

「ッッ.....グッ!」

 

「彩也香ッッッ!!?」

 

 

駆け出した彩也香は坤に突っかけた。

 

死んでたまるか。

こんなとこで、こんなところで死んでたまるかよッッ

 

彩也香の闘争本能が肉体を震え上がらせ、拳を振り上げる。

 

現実逃避───否、彩也香には策略があった。

坤の動きは猿並、パワーも人間では対処し切れないだろう。

 

殴り込む、を疑わせてからのアイテム『銃』を懐から取り出した。

フットワークで間合いに踏み込む寸前にバックステップし、引き金に指をかけた。

 

 

「負けるかバカッッッ」

 

 

 

ズドンッッッ

 

 

 

「へっ.....?」

 

 

銃は、素人が扱うには極めて困難。

 

例えば5m先の対象を狙うとして、たった5度銃口がずれると狙いが43.75cmも逸れる。

 

それが例え長暦警官であっても距離2m以内では約38%、15メートルを超えると8%以下の命中率となるという実態。

 

そんな遠距離武器とは無縁だった彩也香が、運動神経でどうにかなる代物ではなく、銃弾は坤の目横を通り過ぎた。

 

 

「ホッ?....ホッホホホッ」

 

「あ、マジか、ダッサ....ごめんっ....みんな」

 

 

 

ジャグッッッ

 

 

 

「彩也香あああぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

容易く振り下ろした坤の右手が、彩也香の左腕を切り落とした。

 

ひびきの怒りが最高潮にまで達する。

 

 

「ンのヤロォォオオオオオッッッ!!!!!」

 

「動かないでッッッ!!!」

 

「「「!?」」」

 

 

ひびきは思わず動きを止めた。

 

叫んだのは蓬莱やえ、彼女だった。

 

坤と艮が距離を縮め、皆は追い詰められてゆく。

 

 

「みんな....お願いっ....動かないでッ」

 

「なんでだよやえちゃんッッ!今動かないと絶対全滅するってッッ!」

 

「.....お願い。ウチを、信じて」

 

 

先程明石は坤によって飛ばされた。

 

その時見た映像は自分の好きな人、持田涙が自分に別れを告げ、死んでしまった映像だった。

 

絶対にこの映像を現実にする訳にはならなかったのだ。

 

彼女の指示に背き、アイテム『刀』を握った。

 

しかしその時、持田は明石の肩を掴み首を横に振ったのだ。

 

 

「涙ちゃん!?何してんのッッ!このままじゃホントにッッ」

 

「明石くんっ....さっき私、見たの」

 

「え?」

 

「坤に飛ばされた時の映像.....明石くんが、笑ってたのっ!!!」

 

 

坤と艮が間合いに踏み込む。

 

今すぐにでも殺せる、そんな状況。

 

やえは荒い呼吸のまま言う。

 

しかし何故やえはそんな状況にさせたのか。

 

気がついてしまったから。

 

坤の視せる映像がもし、もし『未来』だとするのなら。

 

こんな状況から察せられる未来なんかより、ずっと信じられる未来をやえは知っていた。

 

 

「アンタ達の表情、すごく信じられる」

 

「ウチらが動いたら、大声を出したら、ウチらを殺してしまうこと」

 

「アンタらの姿形が、どれも嘘じゃないと伝えてる」

 

「────でも、同じくらい信じられることがある」

 

 

坤の牙が猛々しく光り、艮の爪がより凶悪に伸びる。

 

皆が皆、死を予感した。

 

やえは大きく、そして深く、息を吸い込んで言い放った。

 

 

 

「バキくんッッ、助けてぇぇぇええええええええええッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

バキャァッッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

坤は窓ガラスに吹き飛ばされ、艮は壁を突き破る。

 

やえは口を抑え、必死に堪えようとする涙は抑えきれず、泣き喚いた。

 

そして全員が目にする。

 

風神の如く現れた、地上最強の男───その姿を。

 

 

「なんっ、え?....アレって......まさか」

 

「......っ」

 

 

ひびきと朱美はその背中に、得体の知れない安心感で身を包まれる。

 

そして明石もまた、持田と手を握っていた。

 

 

「!......」

 

 

叫び声を転々とし、漸く辿り着いた先が此処だった。

 

刃牙は出遅れた事を重々承知しながら、全員の姿を見た。

 

死者が一人、そして彩也香の左腕が切り落とされていた。

 

加えて全員の体に付着した血潮が、刃牙の何かを轟かせた。

 

 

「ごめん、バキ、先輩っ.....こんなんなっちゃった.....っ」

 

 

ミツバに止血を施されている、左腕を失った彩也香のその言葉が、不甲斐なさと怒りが絡まり合い、爆発させた。

 

 

 

 

 

 

「一人も動くな"ァァア"アアアア"アアッ"ッッッ"ッ」

 

 

 

 

 

 

窓ガラスを突き破り、落下の衝撃で動けずにいる坤の顔面へ落下する。

 

落下の威力と両脚の蹴りが上乗せし、坤の頭部をこれでもかと埋め込める。

 

 

「ホギョッッ!?」

 

 

 

 

ガンッ ガンッッ ガンッッッ

 

 

 

 

幾度も、幾度も坤に蹴り込む。

 

頭部は深々と土の中にめり込み、身動きが取れなくなった時、ミツバから奪い取っておいたアイテム『刀』が坤を両断した。

 

とどめを刺すのなら、素手よりアイテムの方が効果が高い。

 

 

 

『ピンポンパンポーン。不思議番号㊸「坤」あやとりBOXマス取り成功』

 

「一匹.....」

 

 

 

怒涛の牽制が、坤の本性を曝け出す前に絶ってしまった。

 

即座に頭上に視線を向け、刃牙の肉体は躍動する。

 

学校の窓部分を掴み、思い切り引き、高速でよじ登るその姿はまるで熟練のロッククライマー。

 

一瞬にして元の場所に戻った刃牙は艮を迎え撃つ。

 

毛髪はこれでもかと逆立ち、同じ人間とは思えないほどの熱量が肉体から感じられた。

 

皆は黙ってその姿を眺めるしかなく、次第にある存在と記憶が一致しつつあった。

 

あの地上最強の男が此処にいる。

 

あのテレビで観た、あのYouTubeで観た、あの伝説の存在が今此処にいた。

 

 

「何奴.....襲来....殺意、絶大.....ッ」

 

「来いよ虎公。人の痛みってもんを教えてやる」

 

「接近、殺、滅ッッ」

 

 

 

バオォッッ

 

 

 

右肩から左脇腹にかけて切り裂く鉤爪の軌道を、刃牙は静かに見つめる。

 

当たれば重大な傷害に繋がるその一撃を、二撃を、三撃を───まるで赤子をあやすかのようにゆっくりと躱す。

 

 

「綺麗........」

 

 

初めは余分に躱していた攻撃を、どんどんすれすれに、ギリギリに躱すようになる。

 

毛髪に触れるようになり、皮膚をかするようになり、次第に朱美の目には格闘技というより、武というより、舞う方の舞。

 

闘牛士、マタドールのような美しさを覚えた。

 

 

「ゼッ....!」

 

「チ"ャッッッ」

 

 

 

 

ガキッッッ

 

 

 

 

艮の体力が削られ、息継ぎをした刹那、刃牙の拳が顎を打ち上げた。

 

艮の両足が宙に浮き、目玉が見開かれる。

脳内に浮かぶ巨大な鉄槌。

 

着地した時、明らかに効いた様子の艮の顳顬に閃光のような右フックが走った。

 

 

 

 

バチュンッッッ

 

 

 

 

 

艮は寸前で掌を自分で凝視し、その場から逃げ出した。

 

刃牙は一度、意識を失いかけている彩也香の元へ向かい、自身の衣服を破り適切な処置を施した。

 

 

「ば、き、せんぱ.....」

 

「ほんとスゲェよ。彩也香ちゃん、君は本当に強い」

 

「は....は....うそ....つけ....」

 

「嘘じゃないよ....ゆっくり休んでな」

 

「.......う.....ん」

 

 

小さく振り絞った声は、彩也香の口角を少しだけ上げた。

致命傷に近いが、生きるか死ぬかは後は彩也香次第。

 

そしてその場の全員と顔を合わせた後、どこかへ歩いてゆく。

 

すると思わずやえは声を張り上げた。

 

 

「バキくんッッッ」

 

「ん.....」

 

「....また帰って....来るよね....っ!」

 

「....おう。あ、あと遅れてごめん。後で説明するよ」

 

「!...うん"っ!」

 

 

やえは泣きながら何度も頷いた。

 

嗚呼、やっぱりそうだった。

 

貴方は絶対に負けないって───。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ゼェッ....ゼェッ......ゼェッッ」

 

「────!?」

 

 

吐き気と寒気にふらつきながらも、校内を彷徨っていた艮に、嫌でも勘づかせるその巨大過ぎる気配。

 

校内に紛れているネズミがその気配に怯え、艮の足元を大量に通り過ぎる。

 

悠々とこちらに向かってくるソレに、艮は迷わず再度掌を自分で見つめた。

 

奴には立ち向かわず、逃げた。

 

何か、何か違う、自身も、そして奴も。

 

 

 

 

バチュンッッッ

 

 

 

 

「ガヒュゥッ....オゲェッ、ゲェッ、ゲェッ....ッ!!」

 

「────!....!?....ッ!!? ッッ!?!?!?」

 

 

艮は混乱していた。

 

移動して一分も経たず、奴は自分の視界に現れた。

 

得体の知れない感情が、ゾワッッと全身を覆い尽くす。

 

 

それから、艮は闘うという選択肢を取ることをやめていた。

 

 

移動し、移動し、移動し、奴から逃げ惑う時間が永遠と続いていく。

 

そして心身共に限界を迎えた転送18回目にて、艮は膝をつき、奴を見上げた。

 

何故か?

 

変わっていたからだ。

 

転送の際に見ていた映像は、自分が奴から逃げ続ける映像といつしか変わっていたからだ。

 

変わっていたからだ、そして変わらなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我....余、屈服....終焉懇願───改心、虎馬」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『不思議番号⑦「艮」すなとりBOXマス取り成功』

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉおおおリィダァぁぁぁぁああッッ!!!」

 

「ホントのホントにバキさん生きてたぁぁぁあッ!!!」

 

「「「バーキッ!バーキッ!バーキッ!!」」」

 

「ちょ、ちょっ....とっ...!」

 

 

BOXに戻るや否や、胴上げに遭う刃牙。

 

そして福満と萌美から告げられる謝罪の言葉。

 

勿論首を横に振り、二人は正しい判断をしたと伝えると、涙脆い二人はドッと刃牙に飛びついた。

傷口が開くことを恐れ、すぐに離させた。

 

ミツバからも頭を下ろされた。

 

正直な事を言うと、生きているとは思わなかったと。

貴方を信じていなかったと。

けど貴方の帰りを最後まで信じてた子が一人いたと。

彼女の想いだけは受け止めてあげて欲しいと。

 

ミツバは彼女を呼びかけ、背中を押した。

 

自然と抱きつく形になり、彼女は顔を真っ赤にさせながらも、決して力を弛めることはなかった。

 

 

「ずっとっ".....じんぱいしてだんや"から"ぁ....!!!」

 

「.....ありがとう、やえちゃん」

 

 

感謝したいと思ったから。

 

謝りたいと感じたから、刃牙は彼女からの愛を受け止めたのだろう。

 

そしてチーム全員と向き合い、期待の眼差しを集めた。

 

 

「俺がここにいるのは、本当に偶然です」

 

「あやとりチームの人達に匿われていなきゃ、俺はとっくに死んでいた。そして皆が俺を信じてくれたから、生きていられた。だからこそ言わせてもらいます」

 

「もう一人も死なせない。みんなを守護(まも)りたい」

 

「青臭いと思ってもらっても構わない」

 

「みんなで協力して、生き残ろう」

 

「「「よっしゃぁぁぁぁあああッッ!!!」」」

 

「リーダーも帰ってきたところで、ミツバさんの手料理パーティだッッ」

 

「それ賛成!!!」

 

「え、えぇ?.....あーもう、仕方ないわね!やえも手伝って!」

 

「う、ウチも!?料理苦手なんよなぁ....」

 

「そんなんじゃ良いお嫁さんになれないわよ!」

 

「およっ?!」

 

「教えたげるから、ホラ早くっ!」

 

「!!......うんっ!」

 

 

地上最強から送る"守護りたい"という言葉はこれでもかとチームの士気を上げ、失われていた気力を取り戻した。

 

止まりかけた歯車は以前にも増して力強く動力を上げ回り出す。

 

盛り上がる空間の中、刃牙は一人決意する。

 

もう誰も死なせない、たった一人だって。

みんなで此処を出て、いつもの生活を必ず取り戻すと。

 

それが出来なければ、俺は敗北したも同然だと───。

 

 

 

 

 

 

 

「......これは」

 

 

 

 

 

 

 

 

大宴会を終え、全員が眠りについた頃、刃牙は疑問に思っていたことを確かめるため、デンモクを手に取った。

 

現在のマス取り状況を見ると、自分が解決したはずの坤、艮の番号がいすとりチームのマスにならず、それを選択したチームのマスへと変化していたのだ。

 

つまり自分が選択した不思議以外を倒しても、他チームのマスになってしまうということ。

 

中々『硬い』ルールが判明した。

 

ミツバに聞いたリバーシルールも相まって、より例の『同点引き分け』の決着を狙うには困難と言えよう。

 

そして今回自分が犯した"出陣メンバーは三人まで"というルールだが、今はまだペナルティ的なものは受けていなかった。

 

異例中の異例、カミすらも想定外の事態だったということだろうか。

 

 

「(なら....カミは完璧じゃない)」

 

「(隙がある。ルールの裏も突ける。或いは、カミを討つことも.....不可能とは言い切れない)」

 

 

デンモクを置き、自分の部屋へと向かう。

 

がその時、明らかな眼差し、嫌な視線を感じた。

 

異質な雰囲気に思わず構えを取る。

 

 

「?.....君は....」

 

「......なんで....?」

 

 

部屋から出てきた髪の長い女は、何を考えているか分からない虚ろな目と顔で近付いてきた。

 

暗闇の中、早歩きで近付いてくる女の姿は流石の刃牙にも恐怖心が湧き、自分の部屋へ駆け込んだ。

 

部屋に入ると同時に鍵を閉めると、ガシャンッとドアノブを強引に引かれる。

 

 

「なんでなんでなんでなんでなんでなんで」

 

 

 

 

 

ガシャガシャガシャガシャッッッ

 

 

 

 

 

「な、なんだ.....!?」

 

 

シンッ───突然何も聞こえなくなり、ドアノブも引かれなくなった。

 

久々に冷たい汗をかいた刃牙はそうっと向こうの景色を見るレンズを覗いた。

 

 

「.....ほっ」

 

 

何もいなかった。

 

一応扉を開け、外の様子を見ておこう。

 

 

「っ!?」

 

 

ガバッ───顔を出すと死角から突進を喰らい、仰向けに倒れる。

 

馬乗りの状態に持ち込んだその少女は、包丁を両手で握っていた。

 

そして暗闇に目が慣れ始め、彼女の生まれつきの『緑髪』が目に映る。

 

白い肌と緑色の2色で染められた彼女の姿は、どこか『蛙』のようにさえ見えた。

 

彼女だけが、大宴会には参加していなかった。

 

 

 

「なんで死なないの?なんで?もしかして貴方も神の御加護を受けてます?ご出身は?私は長野県です。諏訪大社って知ってます?私そこの血縁で巫女をやってたんです。そのせいか生まれつき何故か私には二柱の神様が見えるんです。会話も出来ます。今も私を見守ってくれています。家族同然で...す.....家族家族家族家族ッ嫌嫌嫌お母さんお母さんお母さんん"ぅ"....あぁ失礼しました。いやそれにしても皆さんから愛されて本当に羨ましいですね貴方は。どんな人生歩んでたらそんな生き方が出来るんですか?おかしいですね、私だってごく普通に生きてきたはずなのにどうしてこんなにも差が出るんですか?そういえばさっきの質問答えてもらってませんけど、貴方のご出身は?そんなにお強いなら武神とかですか?建御雷神?毘沙門天?違います?」

 

 

 

初めて出逢うタイプ。

 

普通は分からないことだらけなはずが、分かったことが一つだけある。

 

この子はもう、手遅れだ。

 





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