バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

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拾肆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『現在、68個目の立方体から生還した高校生.....いえ、神の子が出てきました!!』

 

『生存者は4名!悲痛に泣き叫ぶ者もいます!これで現在108個あるうちの68個の立方体が終了しました!!』

 

『はーい佐藤さんありがとうこざいました~!....ということで今日で合計68個の立方体の戦いが終わりましたが、神の子研究科の奥平さん、何かご意見などは』

 

『変わりませんよ。神の子はこれからの時代を作っていく宇宙的絶対存在なんだ。もっと敬うべきです』

 

『なるほど...しかし現在世界中で引き起こっている神の子フィーバーですが、少々度が過ぎるという意見もありますが、その点は?』

 

『ソレ、生き死にの戦いをしてない"神の子以外の人間"ですよね?まだ理解してないのが驚きです。宇宙から現れた謎の立方体、これは言わば神からの試練。』

 

『生き残った者は神の子として崇められる、当然の心理です。もう彼らは一般人ではない。死を乗り越えた先にある人間を超えた存在なのです』

 

『人間の御霊が、神の子と共にあらんことを』

 

 

「ふざけるなぁッッッ」

 

 

警視庁にて、休憩中の"園田警視正"は机を殴りつける。

 

周囲の部下達は怯えながらも激しく同情していた。

 

 

「何が神の子だッ.....起こっているのは大量無差別虐殺事件だぞッッ」

 

「この奥平とかいう男の影響もあるでしょうけど、流石に度が過ぎた現実逃避ですね...神の子などもてはやされていますが、ただ無理矢理生き死にの戦いに巻き込まれた高校生だというのに....」

 

「クソッッ!!一体誰の仕業だッ....!」

 

 

手に汗握り、歯を噛み潰してしまいそうなほど苦悩していた。

 

相手は巨大組織か、或いは宇宙人か、或いは神か。

 

こんな事態は初めてだった。

 

それこそ人類の存亡がかかった水準の事件など、一度だって経験したことなんてなかった。

 

 

「前代未聞の国家転覆罪だぞ.....必ず居場所を突き止めてやる」

 

「園田くん」

 

「!....し、渋川先生!!」

 

 

弁当を口に放り込んだ後、背後から声をかけられる。

 

振り向くと、そこにいたのは警視庁誰もが知る老人の姿だった。

 

 

渋川剛気───渋川流柔術開祖、今を生きる伝説である。

 

 

合気というミステリアス技術を手にし、演武のみならず実戦にまで実現可能にした本物の天才、護身の完全体。

 

警視庁には特別指導者として配属されている。

 

今も尚闘う、バリバリ現役の男である。

 

 

「そう急かさんでも、とっくに動き始めとるよ」

 

「な、何がです?」

 

「ん~?...園田くんの顔を潰すようで悪いんじゃが...俺の『ダチ』がたぁくさんな」

 

「だ....ち...?」

 

 

 

 

 

 

 

 

站ッッ

 

 

 

 

 

 

 

「憤ッッ」

 

 

 

八極拳、貼山靠(背中をぶつける体当たりのような技)で立方体に絶大な衝突音を生じさせる男がいた。

 

しかし立方体にはヒビすら入らなかった。

 

フンス、と不満げに立方体を見上げる男の名は『烈海王』

 

 

中国拳法の宝、拳雄、魔拳、様々な異名が名付けられる中国四千年の歴史史上を見ても最高の才能を持ち、海王の名を冠する者の一人である。

 

 

「烈海王でもダメなのかよ。マジで何でできてんだ?コレ」

 

 

その隣に立つのは神心会館長『愚地克巳』

 

 

空手界の最終兵器(リーサルウェポン)と囁かれ、その飛び抜けた才能は父愚地独歩、そして烈海王すらも脅かす程の物。

 

ある者との試合で片腕を失った今、隻腕空手の開拓に努める。

 

 

「私の出来る全て行ったが無意味だった。恐らくは地球の物質以外のモノ」

 

「なら、ホントに宇宙人の仕業ってかい」

 

「....と考えても不思議ではないだろう」

 

「へぇ....なら」

 

「あぁ───血湧き肉躍るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二代目ッ....ホントに何もしなくていいんですかい!?」

 

「......大丈夫だ」

 

 

 

 

全国、否、全世界の強者達が一様に───

 

 

 

 

「ミスター、この状況をどう見る?」

 

「愚問ダナ....だがハイスクールだとイウナラ....信用出来る男が一人イル」

 

 

 

気付き始める。

 

 

ある者は動き、ある者は信じた。

 

 

 

 

 

「儂がやれること全てを使っとるが、正直心許ない。お主の力が一番信用出来るんじゃがの」

 

「フンッ....これは、俺の戦いじゃねぇ」

 

「!....お主が闘うことを放棄するとはのぉ」

 

「.....俺が、唯一信用出来る男があの中にいる」

 

「カッカッカ、そういうことか。それは信用出来るだろうのぉ。お主に勝った男が、あの中にいるんじゃからな」

 

「フンッ、クソジジイ....」

 

 

 

 

 

世界の幾らかの人間は気付いていた。

 

ある男の存在を。

 

信じられないことだらけなこの状況で、信じられる唯一のこと。

 

 

 

 

「刃牙さんがあの中にいる。」

 

「刃牙がいる。」

 

「範馬刃牙がやられる玉かよ。」

 

「範馬刃牙は負けんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刃牙くん.....生きてる、よね....」

 

 

「梢江さん、行きますよ‪☆」

 

 

「う、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「教えてくださいよォ、ねぇ早くゥッッ」

 

 

範馬刃牙の顔面に振り下ろされる包丁。

 

 

今や死、目前。

 

 

折角拾った命、ここで捨てられるか。

 

今生2回目の真剣白刃取りで間一髪免れるも、この後をどうするか考え損ねていた。

 

戦闘不能にするのは容易いが、それで解決するとは到底思えないし、話し合いをするにも肝心の話が通じないと見える。

 

今までこんな一面を隠し持っていたのか、或いは今までの試練で狂ってしまったのか、定かではないが兎にも角にも。

 

やはり一度、気絶させるしかない。

 

 

 

 

ドカッッ

 

 

 

 

「何してんだァッッ」

 

 

疾風の如く現れた少女の蹴りが、頭部を揺らしに揺らし仰向けに転がった。

 

そう、彼女も彼女で常人ではなかった。

 

左腕を失って尚、動き回れる精神と肉体を持つ彩也香の胆力は敬服にも値するものだった。

 

 

「彩也香ちゃん....寝てろって言ったのに」

 

「物音には敏感なんすよ私。それにしてもなんなんだよ、この狂人は....」

 

 

上原彩也香の生命力は超人的だった。

 

BOX内に完備されてあった輸血と治療具により一命を取り留め、昨夜の宴会も途中で参加するという"異業"。

 

彩也香の生に対する執念が常識を覆した。

 

 

刃牙は起き上がり、気絶した少女を部屋のベッドへと戻す。

 

 

「分からない。けど...」

 

「けど?」

 

「...俺を殺そうとしたこの子に、狂気は感じても冷酷さは感じなかった」

 

「とは言ってもさぁ」

 

「...話を聞いてみるしかないな」

 

「おいおい、また殺されそうになるのがオチだって!」

 

「はは、その時は何とかするよ」

 

 

彩也香は普通ならそんな言葉、真っ向から否定するところだが、こと範馬刃牙に関しては例外だった。

 

ま、この人なら、この人だから何とかなるだろうな。

 

それくらい強さにおいて信頼を置いていた彩也香は今や、たかが狂人女一人に命を狙われるくらい不安にすら思わなかった。

 

 

「彩也香ちゃん、ちょっと」

 

「へ?あ、はいっ」

 

 

玄関の前に向かい、扉を開こうと手をかける。

 

彩也香は首を傾げるも、その扉は呆気なく開き、彼は外へと歩んで行った。

 

 

「えっ!外出れるんだ!てっきり一回戻ったらもう出れないかと...」

 

「不思議を解決したら外に出れないとは言ってなかったからな。制限時間の5時までは自由に出歩けるらしいよ」

 

「へぇ.......」

 

 

夜の学校も、この男と一緒なら微塵も怖くはない。

 

不思議もいない、人間もいない、自分達以外何者も存在しないこの空間がどうにも落ち着く。

 

その道中、歩みを進めながら彼は口を開いた。

 

 

「無理しなくていい」

 

「えっ?」

 

「...体の一部を喪うことは、精神的に強いダメージに繋がる」

 

「これからの事を考えると、色々な不安に押し潰されそうになる。それが普通なんだ」

 

「.....確かに、今までより生活も不便になるだろうし、それこそ生き残れる確率だって低くなるだろうけど、さ」

 

「なんていうか、ちょっとかっこいいじゃん?隻腕って」

 

「映画に出てくる強キャラ感あってさ、なんか良いじゃんて思ってきたんだよねー」

 

「.....もうボクシングは無理だ」

 

「!」

 

 

実家が勤しむボクシングジムにいつしか染まり、自分にもアマチュア以上のスキルが身についていたほど、ボクシングは自分と身近な存在だった。

 

それを否定された彩也香の胸に、ふつふつと何かが湧き上がる。

 

 

「ジャブも、フックも、ストレートも、ガードも、能力が2分の1以下になった状態じゃボクシングの世界じゃ生きられない」

 

「いや....別にボクシングで生きようとなんかしてないし...」

 

「茶碗も持てない。勉強も不便になる。働くとなると不利に向く。全ての作業効率が半減する」

 

「そ...れは」

 

「この世の中で"見栄えの為に体の一部を喪った人なんて一人もいない"。失ったことを悔やむ間もなく、今を生きることに適応するしか無かったんだ」

 

「......五体満足の最強さんに分かるのかね、そんなこと」

 

 

ボソッと呟いてしまったその言葉は、吐いてしまった直後に悪寒となって帰ってきた。

 

口を抑え、今自分が言ったことに強く後悔していた。

 

だが刃牙は変わらない様子で階段を登ってゆく。

 

 

「友人の空手家は、片腕を失ったことを"得たこと"と考えるようにしたと言っていた」

 

「静の印象すらある一刀流の技術は、決して二刀流に劣るものではない。片腕を失ったことにより編み出される、見えてくるモノが必ずあるはず.....彼はそう言っていた」

 

「俺は彼のその言葉を聞いた時、本当に感服したよ」

 

「見えないもの(これからのこと)より、見えてくるものを見ようとする彼の心意気は、あまりにも勇敢だった」

 

「他にも片脚を失った人や、片手を失った人を見てきたけど、みんなすぐに前を向いていたよ」

 

「こういう環境に身を置いている以上、死んでしまうかもしれない危険を抱えている以上、体の一部を失うことだってあるだろうって.....どう考えたって普通じゃねぇよな」

 

「......」

 

 

屋上への扉を開き、二人は解放感に包まれる。

 

本物かどうかは分からないが、二人の目には満天の星空が広がっていた。

 

夜空に輝く星々が、彩也香の目には過去に、そして未来に見えていた。

 

 

 

 

「そうなれとは勿論言わない。けど彩也香ちゃんには、沢山の未来がまだ残されてる」

 

「どうか諦めないで、少しずつでいいから、前を向いていってほしい」

 

「それがきっと、明日に繋がる」

 

「う"っ、うあぁあぁぁぁ"ぁぁあああ.....ッッ」

 

 

 

 

普段は聞けない、彩也香の無垢な泣き声が夜空に打ち放たれる。

 

それは暗闇に溶け込み、すぐに消えてゆく。

 

聞いていたのはただ一人、彼女の頭にそっと手を置く男だけだった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、バキ先輩」

 

「ん?」

 

「また....見に来ていいかな。星空」

 

「喜んで」

 

「.....やえ先輩のこと、どう思ってるの?」

 

「え?なんで?」

 

「いいから!」

 

「はぁ.....まあ、戦友っていうか。一緒に生き残ってきた....良い仲間だよ」

 

「.....そっ、か」

 

 

 

 

 

 

口先を少し尖らせ、頭のお団子をいじる彩也香の顔には、ほんのりと優しい桜が咲いていた。

 

誰にも言えない、きっと最初で最後であろう自分の中の桜。

 

すぐに散ってしまう儚い花だが、そんな儚さが彩也香には心地良かった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「さあみんな、リーダーも帰ってきたところで、ここから大詰めよ!」

 

「「「おぉッッ!!」」」

 

 

一致団結したいすとりチームに今夜に対する恐れはなかった。

 

チームを取り締まるリーダーが強さを決めると言っても過言ではない。

 

強大な力、カリスマ性、信頼性、全てが高水準にあったバキの背中には皆がついていた。

 

この人となら必ず生き残れると信じることが出来たからだ。

 

 

ミツバの指揮が場をまとめ、方針を語る。

 

 

「昨夜に他チームと話した結果、本格的に同点引き分けが決行されることになったわ」

 

「3チーム同点に持ち込んで、争わずに全員で生き残る。これが私達の目標よ」

 

「───もちろん」

 

 

勇人が何かを言い出そうと手を上げるも、それを分かっていたかのようにミツバは掌を突き出した。

 

 

「本当にそんな事が可能なのか、本当に全員で生き残れるのか、色々不安なことがあるのは分かってる」

 

「でもさ....みんなもういっぱいいっぱいよ。仲間同士で争うことなんて」

 

「だったら闘うべきは、"チームじゃなくてカミ"よ!」

 

「意地でも通す。自分達のやり方を。それでもし武力行使でもされたら、それこそカミの"ゲーム"は崩れ去る」

 

「いずれにしろ、私達に悔いは残らないわ」

 

 

この作戦に少し渋っていた勇人、韮崎、里見は視線を交わしながら重い頭を静かに下ろした。

 

当然のリスク、もしかしたら死ぬかもしれないほどの。

 

それでも仲間同士で争って死ぬより、本当の敵と闘って死ぬ方が何倍もマシだった。

 

その思いは全員が同じ、そこにつけ入る余地はなかった。

 

 

「でも本当に難しい作戦じゃない?争いたくないっていうのは分かるけど、全員で同点なんてほんとに可能なの?そんな天文学的確率....」

 

「そこは心配ないわ。すなとりチームに数学オリンピックに出るほどの計算好きがいる。彼女なら必ずどのマスを取ればいいか的確に指示をくれるはずよ」

 

「俺も信用出来る。あの人は本当に凄い。心配するのは確実にそのマスを取れるかどうかだよ」

 

「な、なるほど....リーダーが言うなら....」

 

 

刃牙が一言付け加えるだけで、にわかに信じられないようなことが確実となる。

 

そもそもが逆らえない、逆らおうとも思えなかった。

それはつまりこの男と敵対するということになるのだから。

 

 

 

"それだけは避けなければならないことが、全チームに共有されていた。"

 

 

 

すなとりBOX───今夜の不思議を選択する最中。

 

 

「スージー、どう?」

 

「うんうん、たとえ何個か失敗しても、全チームが協力してくれるなら幾らでもやりようがあるヨ。よくここまでこぎつけたね、明石達」

 

「あぁ....でもいすとりチームとは、良い意味でも悪い意味でも、絶対に敵対出来ない...」

 

「ん?どうしてだい?」

 

「いすとりチームのリーダーは、強すぎるんだよ」

 

「アカッシー、強すぎるってどういうこと?」

 

「俺、見たんだ。実際に目の前で」

 

「何をだ?明石」

 

「...世界で、地球で一番強いんだよ....みんな覚えてるか?いすとりチームのリーダーは、あの....」

 

 

 

 

「「「親子喧嘩の子供ッッ!!?」」」

 

 

 

あやとりBOX───チーム全員が驚きの顔を隠せなかった。

 

昨夜BOX内に引き入れた男があの親子喧嘩の子供とは思いもせず、そもそもがこのゲームに参加していることすら知らずにいた。

 

あやとりチームの中にも実際に現場に見に行った者、テレビを通じて見た者、いずれにしろその存在を知らない者は皆無だった。

 

 

地上最強の男が、いすとりチームにいる。

 

 

皆の脳に擦り込まれ、激しく安堵し同時に畏怖していた。

 

あんな人間離れをした悪魔のような存在が同じ空間にいるなんて、あまりにも信じられなかった。

 

その怖気ついた様子を和らげるため、ひびきは汗汗と宥めた。

 

 

「あ、安心してよ!マジであの人全員助けてくれたんだって!」

 

「そうよ。それにあの方が仲間にかけていた言葉は、とても優しかった...」

 

「そ、そうなのか。でも流石に、ちょっと怖ぇよな...」

 

「大丈夫だよ」

 

「「「!....原海さん!?」」」

 

 

部屋から出てきた彼の顔は、どこか毒が抜けたような、体に入った余計な力が抜け去ったような雰囲気だった。

 

しかし何故、あの暴君がここまでの変貌を遂げたのか。

 

それはまさに、その男を昨夜目の当たりにしたからだ。

 

 

「昨夜、俺も見た。ひびきちゃんにぶっ飛ばされた後、気がついたら目の前にいたんだ」

 

「見たことがあるような、ないような....そんな化け物が見えた気がした。けど...何があったかを聞かされて、事情を話したら『ありがとう』って言ったんだ」

 

「頼(ライ)....アイツは...いや、あの人は信頼出来る」

 

「「「......」」」

 

 

視線をキョロキョロとさせ反応に困るのは当然だった。

 

昨日と今日で全く様子が違うし、勇敢さは残っているもののあの凶暴さはなりを潜めていた。

 

柘植は以前の弱虫とはまた違う変化を見せた原海に対して問いかける。

 

 

「原海さん...にしてもどうしてそんなに落ち着いちまったんだ?」

 

「....自分より弱いと思っていたひびきちゃんに負けた上に....あんな、あんな怪物まで目の前にしたら、なんか....」

 

「自分がどれだけちっぽけな"暴力"なんだろうと思わされたんだ。そんな暴力を振りかざしてた俺って...結局ただの弱虫なままだったんだなって....」

 

「とにかく....もう暴力は振るわない。許してもらえるか分からないけど、みんなで生き残るためにこの弱い暴力を使いたい」

 

「みんな....本当にごべんッッ」

 

 

土下座───涙で顔が不細工になりながらも、意地でも額を地面に擦り付けた。

 

そんな原海を見て、何者も罵ることなく笑顔を見せたのは、あやとりチームが本来、強いチームとして形成されていた証拠だった。

 

 

「頭上げなよ原海さん!その代わり、リーダーは朱美か柘植ちゃんにやってもらうぜ!"また調子づかない"ようにする為にもな!」

 

「いや、ひびきでいいわよ」

 

「んだんだ、ひびきちゃんでええべ!」

 

「は、はぁ!?なんで私がっ....あぁもういいや!そうゆうことでいい?原海さん!」

 

「っ!....頼(ライ)ッッ」

 

 

文句無し、紗倉ひびきへのリーダー転換をもって前哨戦終了となる。

 

そしてスージーから事前に指示された不思議番号を3チームは逆らうことなく選択した。

 

 

 

 

『いすとりチーム 不思議番号⑫「瞳を閉じて!一つ目小僧」』

 

『あやとりチーム 不思議番号㉕「DANDAN心撃たれてく」』

 

『すなとりチーム 不思議番号㊱「ええじゃないかええじゃないか」』

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

3日目の夜を経て、このゲームの目標、方法、全てが塗り変わった。

 

元来他チームとの争奪戦でより多くのマスを陣地にしたチームの勝利だったはずが、全チームと協力し同点を目指すという道に変わった。

 

否、戻った。

 

人として正しき道へ、再度向き直しただけのこと。

 

 

「そろそろのはずやけど.....お、来よったで!」

 

 

いすとりチームメンバー『蓬莱やえ』『範馬刃牙』『紫村影丸』の3名が集合場所、校門前へと一番乗りに着いていた。

 

そこへ現れる、残り2チームの影。

 

 

「うへぇ~、ほんとに夢じゃなかったんだぁ....」

 

「ほんとに、現実味がないわ....」

 

「ッ.....頼、信じるしかないよ」

 

 

あやとりチーム『紗倉ひびき』『奏琉院朱美』『原海』が2番着。

 

あの日見た光景、未だに夢と現(うつつ)のように霞んでいた3人の記憶は、目の前の男を目にした瞬間に現実へと引っ張り出される。

 

地上最強の男の存在を前に、怯えてしまっていた。

 

 

「あ、君らは....」

 

「あっ、ど、どうも」

 

「...あの時礼を言えてなかった。匿ってくれて、本当にありがとう」

 

「イヤイヤ、当然っていうか、たまたま....っ」

 

「───それでも」

 

 

刃牙は深々と頭を下げ、いすとりチーム全員に向けて感謝を述べた。

 

 

「今生きていられているのは、貴方たちのお陰です」

 

「!....なんか...拍子抜けだなぁ...全然、優しい人じゃんか」

 

 

ひびきは手を差し伸べ、明るい笑顔を張り付けた。

 

 

「紗倉ひびきっす。よろしく!」

 

「範馬刃牙だ。よろしく」

 

「私は奏琉院朱美と申します。ひびきとは高校からの友人です。よろしくお願いします」

 

「おう。彩也香ちゃんから話は聞いてるよ。よろしく」

 

「あっ...なんて重厚な掌っ.....♡」

 

「?....あ、アンタにも礼を言わなきゃな」

 

「え?」

 

 

刃牙は原海と目を合わせそう言った。

 

礼などされる覚えはなかったが、あの時はありがとう、そう言われた時には自然とこちらも頭を下げていた。

 

 

「原海...です」

 

「原海ね。よろしく」

 

「!....頼ッ!!」

 

 

ちっぼけな暴力の持ち主として、力の完成系を前にすれば否が応でも憧憬してしまう。

 

強大すぎる腕っ節を持ってしても、唯一自身の"財産"として扱わぬであろうその心根に、原海は漢として彼に憧れた。

 

ただ自分の誤ちを、彼に告白することは出来なかった。

 

 

「あの、刃牙...先輩。彩也香は....」

 

「BOXにいた二宮金次郎?がすぐ治療に取りかかってくれた。きっとBOXに戻れば"生きる"判定なんだろう」

 

「!....良かったぁ....っ」

 

 

へとへと、とその場に尻をつくひびき。

 

そんな彼女の肩に手を置き、穏やかな笑みを見せると、ひびきと朱美は今一度彼の容貌に目を吸い込まれた。

 

これがあの日、あの場で死闘を乗り越えた男なのかと。

 

これが本当に、あの地上最強の男であるのかと。

 

ひびきは、手に汗を握った。

 

 

 

 

 

「!」

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

刃牙はその拳を見た瞬間、身構えた。

 

構えこそ取るに至らなかったが、確かに刃牙の肉体は警戒し防御に移れるよう準備に入ったのだ。

 

眼を疑ったものだ。

 

こんな小柄な女子高生相手に、彷彿とさせるのは百人力の『膂力』だったのだから。

 

しかし、いや、流石にそんなことは有り得ないと。

 

刃牙は首を横に振り、けらっと笑った。

 

 

「ごめん、なんでもないよ」

 

「はぁ....」

 

「にしても...すなとりチームまだやろか?」

 

「いや、来た....?」

 

 

紫村が指差す先に、何やら急ぎ足でこちらへ向かう者が一人、そしてその後ろをのろのろとついて行く者が二人いた。

 

汗ひたたりながら膝に手を当て、最初に辿り着いた男は申し訳なさそうに手を合わせた。

 

 

「ごめん!ちょっと諸事情で遅れた!!」

 

「明石やん!ぴったしやし大丈夫やで。なんかあったん?」

 

「メンバー決めに手間取って....戦力としては良いんだけど、あの感じだから」

 

 

苦笑いで指をさした先に、自由奔放に振る舞う男女の姿があった。

 

剣を素振りする『如何にも』な男と、不満そう?或いは腑に落ちなそう?な雰囲気を醸し出す堅い女性。

 

個性が強く、そして特有の強みがあるのを捉えた。

 

 

「何焦ってんのよ。時間通りじゃない。無駄な体力使わないでくれる?アンタたちも文句ないわよね?」

 

「「「......」」」

 

「あー、この子は『夏川めぐ』で、俺らはナツメグって呼んでる。こう見えて仁義には厚いんだ。で、こっちが───」

 

 

 

 

斬ッッッ

 

 

 

 

パラッ───舞う刃牙の前髪。

 

振り下ろされた刀は地面に食い込み、時が止まったかのような錯覚を覚える。

 

刀を握る長髪の男は、妖艶な雰囲気を漂わしていた。

 

 

「へっ───きゃっ!?」

 

 

地面に向かった刃が、流れる川の水のように緩やかに、そして荒々しく軌道を変える。

 

まるで燕の姿を彷彿とする剣技、燕返し。

 

練度は開祖佐々木小次郎には遠く及ばぬが、素人の反射速度を越え、殺傷することは容易だろう。

 

刀身が朱美の喉先に触れかけた時、刃牙は両手で白刃取る。

 

 

「(!.....外れない)」

 

 

刀を手放し一度距離を取った男は、妙に落ち着いた眼差しで刃牙を見つめる。

 

 

彼の名は『丑三清志郎』。

 

 

散りゆく命(星)を愛する、自称観測者。

生きるか死ぬか、生死の狭間で揺らめくモノを愛してやまない。

 

今宵、そんな彼が牙を剥いた理由とは。

 

 

 

 

ミシッ

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

パキンッ

 

 

 

 

握った刀を親指でへし折ってゆく。

 

約5cm間隔で刀身は分断されてゆき、終いに残ったのはほぼ持ち手の部分だけ。

 

人ではないことを悟らせるには、あまりにも分かりやすすぎた。

 

 

「なるほど、修羅だ。そして、ビュリフォ(美しい)」

 

 

刃牙に近付くと真剣な顔でありながらも少しだけ頬を赤らめて淡々と喋り始める。

 

 

「テレビで見た時から分かっていたぞ。アンタがとびっきりの一等星であるとな」

 

「しかしリアルは自ら光を放つ恒星というより底が見えない暗闇、まさにブラックホールのようなイメージだ」

 

「全てを取り込み消し去るブラックホール、or希望の光を与える恒星か───丑三清志郎は範馬刃牙に興味を持ってもいいですか?」

 

「「「......」」」

 

 

独特なポーズで言い切ると耐え難い間が二、三秒横切った。

 

なんじゃこいつ、という反応のいすとりチームとあやとりチームの他、最早見慣れて呆れた様子の明石とナツメグ。

 

だがあの丑三が他人に興味を持つのは、明石の次に初めてだった。

 

頭に手を置き、困ったような顔で刃牙は呟いた。

 

 

「頭ァあんま良くないんで.....日本語だけど、よく分かんねぇや」

 

「とりあえず、もう気が済んだってことでいいんすかね?」

 

「Don't worry(心配無用)。アンタが本物だと分かった。もう十分だ」

 

「あはは...そりゃ良かった....あ、でもまだ話終わってないっすよ」

 

「?」

 

「いや、ホラ、さっきこの子殺そうとしたでしょ!?その話がまだ終わってない....」

 

「!」

 

 

目的が自分を動揺、怒らせるためというなら既に果たされている。

 

自分が止めていなければ本当に死んでいた。

 

寸止めしていたかもしれない?

いや、この男は止めなかった。

 

殺気が本物、殺す気だった。

 

この男は危険だと、野生の本能に訴えかけてきていた。

だから今、本当の殺意を向けていた。

 

丑三は自ずと一歩、後ろへ下がった。

 

 

 

「売られた喧嘩は、いつでも高価買取中だ」

 

 

 

 

ポカッ

 

 

 

 

「コラ、刃牙くんもそこまで」

 

 

やえの柔らかい手刀が、鬼の後頭部に打ち付けられる。

 

悪魔のように広がりつつあった笑みが、その衝撃でケロッと普通の表情に戻る。

 

一触即発、そんな空気を断ち切る力を持つやえの手刀だった。

 

 

「いきなり喧嘩腰になりよってからに....アンタもいきなり刀で斬りつけてくるとか普通に考えて狂っとるから!」

 

「喧嘩するなら不思議を倒した後!それと素手でやること!分かった!?」

 

「「は、はい....」」

 

「「「(喧嘩するのはいいんだ.....)」」」

 

「武器は良くないやんね!武器は!」

 

 

刃牙と丑三に頭を下ろさせるのは恐らく蓬莱やえただ一人だろう。

 

溢れ出るお母さん感は刃牙と丑三に安心感を、恐怖感を抱かせた。

 

 

「とりあえず、全員揃ったね」

 

「あぁ、全員で協力して、一匹一匹確実に倒していこう」

 

「なら進んでく時は....うん、この型でいこう」

 

 

前衛を範馬刃牙、紗倉ひびき、明石靖人で堅め。

 

その間に臨機応変に遊撃隊として蓬莱やえ、奏琉院朱美、紫村影丸を配備。

 

後衛を丑三清志郎、原海、ナツメグで締め括る。

誰一人として欠けぬよう、細心の注意をもって不思議退治へと足を運ぶ。

 

 

「(はぁっ♡....はぁっ♡....ちゃんと、警戒しなくちゃいけないのにっ....この方の筋肉が眼福過ぎて....っ!)」

 

 

一人、筋肉という一点でのみ惚れ込む朱美の目にはハートの形が浮かび上がっていた。

 

範馬刃牙の筋肉───その機能美は、既に証明されたも同然だったが、その本質を理解するのは、すぐその後の事だった。

 

 

「(このコンパクトに且つ規格外に発達した広背筋ッッ!余すことなく鍛え抜かれた全部位は、まさに地上最強の貫禄ッ!!)」

 

「(恐らくどこの大会に出場しても優勝総ナメっ!体脂肪率も推測だと5%前後、なのにコンディションは一切崩すことのない細胞の強靭さ!!!)」

 

「(あ"ぁっ....ゾクゾクして切ないわ....っ♡)」

 

「な、なんか不気味なオーラを感じる....」

 

 

隣のやえが思わず恐怖に震える。

 

紫村もその雰囲気に苦手そうな顔色を見せた。

 

 

「(確か彩也香ちゃんと同じ皇桜女学院やったよな....なんだか、えらい変わった子が多いんやなぁ...)」

 

「(....はっ!まさか、この子刃牙くんに....?)」

 

 

朱美は単なる重度の筋肉フェチであるだけだったが、彼女の端麗な容姿も相まって強い対抗心を抱く。

 

その間、先頭の明石靖人もある者を気にしていた。

 

 

「(みんなには言ってなかったけど....俺、この人(刃牙)の超ぉファンなんスけどッッ!?)」

 

「(うおぉガチで本物ッ....一時期サッカーの練習サボってまでLIVE見直してたレベルなんスけどッッ)」

 

「(イヤァ....近くで見ると、意外と普通っていうか....マジであの親子喧嘩やったのか疑うレベルだなぁ....)」

 

「(....サイン、貰えるか聞いてみよ)」

 

 

「あ、あのー....」

 

「ん?」

 

「あっ、なんっていうか....後で時間あったら、さ、サインんと」

 

 

 

ガシャァァッッ

 

 

ドシャァァァッ

 

 

 

 

「「「!!!???」」」

 

 

一匹は窓ガラスから、一匹は天井から、一匹は背後から。

 

幸か不幸か、両者共々に、一網打尽の機会(チャンス)あり。

 

 

 

「動くなよぉ~~♪ヒャッハーーーッッ」

 

「暗いよ、暗いね」

 

「ええじゃないのぉ~♡ええやないのぉ~♡」

 

 

 

2度目の四面楚歌。

 

逃げ場の無くなった今、即座に臨戦態勢に入った丑三清志郎であったが、彼は動きを止める。

 

それは今、逃げられないのはまた奴らも同じだと理解したからだった。

 

 

「ごめん、ちょっと手ェ出さないでもらえるかな」

 

「ば、刃牙くん!?」

 

「一回だけ、試したいことがあるんだ」

 

「大丈夫。必ず切り抜けられる予感がする」

 

 

───猛毒を自己治癒で解毒へと転じた肉体の変化。

 

男の肉体は、今ようやく"暖まる"。

 

範馬刃牙が範馬刃牙であるが故の、地上最強である所以を、この場の全員は知らしめられることになる。

 

 

 

 

「それ以上近づかない方がいいぜ。アンタら」

 

 

 

 

やられてばっかじゃ生きられない。

 

そんな範馬の血が目覚めようとしていた───。

 

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