バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

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拾伍

 

 

 

 

 

 

 

「(コイツ、わざわざなんでこんなことを....ッ!!)」

 

 

合理性主義のナツメグにはあまりに理解し難い行動原理だった。

 

敵の接近を許し、逃走の機会を捨てた。

格闘技経験の無い者は囲まれた場合、四方からの攻撃に対処法を知らないため、殆どが打開を諦めるが、今はこの人数だ。

 

相手は3人に対しこちらは9人。

一点だけ、隙間を全員で貫ければ逃走は可能だったかもしれない。

 

しかし今は彼の発言が敵の囲いを狭め、迎い受ける形しか許さなくなってしまった。

 

一人も死なせたくない?───無理心中でもする気なのかと、ナツメグは思うしかなかったのだ。

 

 

「みんな、ちょっとしゃがんでもらっていい?」

 

「「「?.....!?....はっ!!!?」」」

 

 

なんとその時、刃牙は円の中心に立ち、他の者をしゃがませたのだ。

 

味方の肉壁?だとしたら何故しゃがませた?

 

全員が全員、疑問に疑問を重ね合わせる。

 

 

「この円の中に入ったら、祓う」

 

「ちょっとアンタいい加減にしなさいよッ!!死ぬ気!!?囲まれてるの今ッ!!分かるッッ!!?」

 

「分かってるよナツメグさん。だからこれが一番安全なんだ」

 

「~~~~~~~~~~~~~~ッッ」

 

 

もう言葉すら出てこないほど、怒りと理解不能で赤面していた。

 

ナツメグ自身、勉強漬けに加えネットに興味がなかったため、彼の闘う姿すら見たことがなかった。

 

故に考えられなかった。

強さに溺れた傲慢にしか考えられなかった。

 

 

「コイツDANDAN狂ってきた?♡」

 

 

不思議番号㉕『DANDAN心撃たれてく』

 

とある学校に侵入した銃撃犯による大量虐殺。

 

無差別に撃ち殺された何の罪もない子供たちの怨念が集まり、形作られたモノ。

 

片手に握られた拳銃、生前全身の余すことなく撃ち込まれただろう風穴は、集合体恐怖症には耐え難い外見だ。

 

 

 

「暗いよぉ、暗いよねぇ?」

 

 

 

不思議番号⑫『瞳を閉じて!一つ目小僧』

 

 

一見普通の坊主頭の子供だが、その顔にあるのは一つの目玉と小さな口だけ。

 

しかしその目は決して開くことがなく、何か秘密が隠されているのやも。

 

 

 

「ええじゃない?ええじゃないのよ?♡」

 

 

 

不思議番号㊱『ええじゃないかええじゃないか』

 

キセルを唇に咥えた妖艶な女性だが、口の中に隠された蛇のような長い舌はまさに蛇女。

 

好みは背の低い男児、薔薇のような甘い吐息で相手を魅惑する。

 

 

それら3匹が今、着々と囲いを縮めつつあった。

 

 

「明石、刃牙はどうするつもりだ?」

 

「な、なんで俺に聞くんだよ」

 

「熱烈な支持者(ファン)なんだろ?アイツの。なら俺も、期待してみたくなった」

 

「はは......でも、分からない。なんだ....あの時、こんな時に....何した...?」

 

 

明石は親子喧嘩の時の思い出を探れるだけ探った。

 

囲まれた状態───手を出せない状態───迎えるしかない状態───

 

相手に先んじるために、練り出された、引き出し───迎撃の輪廻。

 

 

 

 

「あっ、分かっ」

 

 

 

 

ジャッッッ

 

 

 

 

「「「ッッ!!!」」」

 

 

 

 

痺れを切らした『ええじゃないか』が明石目掛けて舌を鋭く伸ばす。

 

目と鼻の先、そこのラインこそが、刃牙の間合い(エリア)だった。

 

 

 

 

 

 

 

ピッッッ

 

 

 

 

 

 

 

宙に舞う舌は、地に踊る。

 

バチャバチャと切断された舌の暴れる音だけが木霊する。

 

何が起きたか誰もが理解出来ぬ中、一匹激昂した蛇女が凶器のような爪をひびきへと走らせる。

 

 

 

 

パキンッッ

 

 

 

 

「ッ!!!!????」

 

 

ボロボロに折れた爪を見て、溢れ出る汗で全身を包む。

 

後ずさる不思議達と、放心状態の人間達。

 

 

「なに?何が起こってるの?」

 

「0.5秒...」

 

「は?」

 

 

理解の範疇を超えた現実を受けたナツメグは酷く混乱していたが、食い気味に明石はそう呟いた。

 

0.5秒───その無意識の時間は、不思議達もまた同様だった。

 

 

 

 

「ホラぁ、もたもたしてっから....」

 

「?....アレ!!?」

 

 

 

不用意に間合いに踏み込んでしまった不思議の手から、いつの間にか拳銃が消えてしまっていた。

 

その銃口は蛇女の額、真っ直ぐに突きつけられる。

 

 

 

バンッッッ

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン。不思議番号㊱「ええじゃないかええじゃないか」すなとりBOX マス取り成功』

 

 

 

 

 

「初めて撃ったよ、銃.....はは」

 

 

バラバラに砕け散る不思議を、途端に怯えた目で他の不思議は見つめる。

 

近づいてはならないという意識と、逃げてはならないという意識が孕む。

 

 

 

「いつオイラの銃、盗った....?」

 

「俺の間合いに入った時。あんまり近付いてくるもんだから...銃持ってんのに」

 

「オイラ握ってたッッ!オイラッ、盗られてねぇッッ」

 

「少し細工をしただけで、素人から奪い取るくらい訳無ぇよ」

 

「ふッ、ふざけッッ」

 

 

 

ふぁっ───置くように、奪ったはずの拳銃を放る。

 

不思議は思わず手に取る時、頭を下げてしまった。

 

 

 

 

 

 

バタンッッ

 

 

 

 

 

 

「「「ッ!!??」」」

 

 

左腕が肩から一瞬消える。

 

それと同時にうつ伏せに倒れた不思議は、激しい痙攣の後に動きを止めた。

 

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン。不思議番号㉕「DANDAN心撃たれてく」あやとりBOX マス取り成功』

 

 

 

 

 

最後の1匹『瞳を閉じて!一つ目小僧』は打ち震えていた。

 

人間を脅かすことで存在意義が持てる幽霊、妖怪において、人間に怯えるということは、自身の尊厳、気配が消えたも当然だった。

 

打算は、能力である『目を見えなくさせる』ことで逃走を図ること。

 

発動条件は、目を開くこと。

 

 

そんな些細な動きすら、細胞が拒んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン。不思議番号⑫「瞳を閉じて!一つ目小僧」いすとりBOX マス取り成功』

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「........」」」

 

 

言葉を、失っていた。

 

これが地上最強の、高み───。

 

 

 

「!」

 

「?....!!!」

 

 

 

唖然、空虚、混乱───あらゆる感情がせめぎ合う葛藤の空間に。

 

ある異質なモノが、全員の前に現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『私が釣った魚を私が食べられないなんて絶対におかしい!』」

 

 

「魔法少女アミン・マツワってアニメなんですけど、皆さん知ってます?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面をまるで、水のように這い上がる、その少年。

 

彼ら"人間"の前に現れたのは、紛うことなき神様だった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「いや~~~全クール24話一気見しちゃいましたよ」

 

「せ、セイン・カミ....ッッ」

 

 

意気揚々と、一人語りを始めるその少年が、自分たちを生き死にの戦いに巻き込んだ張本人であることをすぐに理解する。

 

大事なあの人を───愛するあの人を───

 

この少年が殺した。

 

言葉を放たずとも、人間達は静かに憤る。

 

 

「(セイン・カミ....ウチらを、無理矢理殺し合いをさせた張本人....ッ!)」

 

「(アニメの話?...夢中になってる....いや、油断...しとるんやないか...?)」

 

「(手榴弾も、剣も、銃も、あるッ....今ならッッ!?)」

 

 

蓬莱やえは手に持つ剣を力強く握り締める。

 

煮えくり返る怒りは、次第に焦りとなり、そして恐れとなる。

 

見かけは普通の少年。

しかし身のうちに隠されているのは変幻自在の怪物そのもの。

 

この剣が通用するのか!?

 

本当にこんなもので倒せるのか!?

 

現実主義的なやえの理屈は、意思に意志が負けることを許そうとしなかった。

 

そしてそれは、その場の全員が共通していた。

 

共通していたが、ある意思を、ある"意志"に逆らえぬ男がいた。

 

 

 

「───そしてこのアミンが放った名セリフ『自分が釣った魚を自分で食べれないなんておかしい』。これって私の理屈と似てて、世のあるべき姿だと思うんですよね~」

 

「と、いうことで、七×七不思議は明日よりルール変更です」

 

「倒した不思議は、倒した本人のチームのマスになります」

 

「過激な奪い合いになりそうですねぇ~....と、思いましたが、どうやらそんなこともなさそうですね」

 

「マス取りゲームのハズなのにただの協力バトルになってますし、なぁ~んかつまんない展開で飽き飽きしちゃいました」

 

「不思議のレベルを上げても意味無さそうですし、ホント参っちゃいますよ。原因は貴方ですね?ボーイ」

 

「!」

 

 

指をさされたボーイの名は、地上最強の名を冠する範馬刃牙。

 

背丈の差はまるで父と子。

 

しかし片や神、片や地上最強。

 

皆は自然と、二人との距離を取っていた。

 

 

 

「はっ.....はっ.....はっ......」

 

 

 

刃牙は神の背景に、ある景色を見ていた。

 

森羅万象、災害が吹き荒れ、中心には巨大な爆発によるキノコ雲が立ち上る。

 

見た目ではない。

本能が、感覚が、直感が、生涯最大の危険信号を叩き出している。

 

激怒する範馬勇次郎を、優に飛び越えるほどの衝動。

 

呼吸が安定せず、汗が吹き出、ガタガタと震えていた。

 

やえ達には感じられないモノが、感じられる刃牙には、常人の何倍もの反応が肉体に現れる。

 

そう───ビビっていた。

 

 

「(あの刃牙くんが.....っ)」

 

「(やっぱり、カミは別格なんだ....ッ!)」

 

 

骨盤底筋に力が入る。

 

何故なら、体が尿すらかきだそうとしていたからだ。

 

こんなに違うのか。

 

間近で見た時、一瞬で理解した。

 

自分の全てをぶつけたとしても、決して届き得ないほどの圧倒的な雰囲気。

 

自信を、無くしていた。

 

 

 

「まあ、とはいえ...ルール違反とは別に言ってませんでしたからね。こういう事態も致し方ありませんか」

 

「ルール変更のこと、しっかりチームの皆さんにも伝えておくように♪それでは、私はこれにて」

 

「あ、の」

 

「ハイ?」

 

「......」

 

「ヘイシャイボーイ?黙ってちゃ分かりませんよ?」

 

 

 

込み上げる激情は、男の中で2つに分けられていた。

 

圧倒的過ぎる相手を前に、怯え、恐れ、慄き、逃げ出したいという『表』の感情。

 

そしてそんな相手にどこまで自分が通用するのかという、挑戦的思考。

 

一体どんだけ強ェんだ。

 

闘ってみてェ。

 

言わば『裏』の感情───それは決して常人には、表の感情を覆すことはできないのである。

 

 

『強くなり過ぎたこの男は、その表裏が逆転していた』

 

 

まるで女の媚態を目の前に晒された男のように。

 

圧倒的な存在を前に、辛うじて制御されていた男の自制心。

 

そして五体に流れる範馬の血が。

 

 

立ちどころにリミットを振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

パァァァンッッッ

 

 

 

 

 

 

 

鮮やかに、それでいて芳醇に放たれた回し蹴り(中段)は、確実にカミの顔面を打ち抜いた。

 

壁をぶち破り、教室の机をなぎ倒してゆく。

 

破格の威力に度肝を抜かされる皆だが、同時に期待が胸を膨らます。

 

 

「やったん....ちゃう?」

 

「ま、街雄さんより強い....」

 

「でも、パワーだけじゃないわ。力を引き出し伝える"技術"が凄いというべきね....」

 

「ス...スゲェよ刃牙さん!!幾らカミでもあんなの食らったら倒れるしかないって!!もし倒せてないとしても、このまま皆でッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ぷはぁ~!ビックリしたぁ!いきなりなんなんですかぁもう」

 

 

 

 

 

 

 

調子に乗った明石がカミの元へ駆け寄った、その時だった。

 

ぐるんッッ、と曲がりくねった頚部を元に戻し、顔面は頭を取り替えたように綺麗なままだった。

 

 

蒼白。

 

 

人間達が感じる、死の予感。

 

走馬灯が走る。

 

今まで出会った人、出来事、景色が吹き荒れる。

 

 

 

「だから嫌なんだよこういう役割はさァッッ」

 

「アニメ文化がなかったらこんなしょーもない星、とっくに滅ぼしてっぞバッキャローーーッッ!!!!!!!」

 

 

 

カミの右手が車を軽く握り潰せる大きさにまで膨れ上がる。

 

それが単なる風船ではないことを、その巨大な右手に浮き出る血管と暴れるように震える筋肉が証明していた。

 

それを間髪入れずに、刃牙へと打ち込んだ。

 

 

 

 

ドギャァァァッッ

 

 

 

 

いつの間にか外へ出され、宙に浮いていた。

 

ガラスを突き破って、背中から地面へ落ちたような...気がする。

 

記憶が曖昧なのは、そのあまりの衝撃に、殆ど意識を失っていたからだ。

 

 

「はぁーあ、折角良い気分でしたのに、冷めました」

 

「あ、一応伝えておきますが...このゲームは16日間、成否関係なく進めていくと、必ず最後に一マス余ります」

 

「その相手は『私』です」

 

「あのボーイにも、ちゃんと伝えておいてくださいね?」

 

 

不敵な笑みを浮かべ、地面の下へ沈んでゆくカミ。

 

言葉に出来ない、形容出来ない空気が漂う。

 

地上最強の人間が敵わない姿を見て、考えてしまったのだ。

 

このデスゲームを乗り越えた先にあるものは、一体何なのかという事を───。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「──────........ぁ.....」

 

 

感覚的に、永い事眠っていたことが分かる。

 

寝坊した時に感じる、アレだ。

 

不思議と焦りは少ないのは、この明るく照らしてくる夕焼けのせいだろうか。

 

とにかく起きなければ、そう上体を起こそうとした時。

 

 

「ッ!.....」

 

 

両腕と背部、胸部に激しい痛みが走る。

 

体勢を変えずに指先で各部、状態を確認する。

 

まず右腕の前腕部分は粉砕骨折、左腕は辛うじて不全骨折(ヒビ)に留まるが重症。

 

胸骨、第四、第五、第六肋骨も不全骨折。

 

落下の衝撃による重度の打撲痕が複数箇所。

 

たった一撃で、この有様。

 

複雑な気持ちだったが、心は何故かどうしようもなく晴れやかだった。

 

 

「(そうだよ....負けたんだよ、俺.......)」

 

「(勝負になっちゃいねぇや......)」

 

「......?.....??......は?....ハァッッ!?」

 

 

そして降りかかる、現実。

 

神と闘った。

 

感覚的に骨を破壊したのに無傷の顔面、巨大化する拳。

 

そのどれもがリアリティさに欠け、コミックの中の話でしか聞いたことがない設定に苦悩する。

 

 

「(イヤイヤイヤ、ないでしょうッ、そんなッッ)」

 

「......マジかよ」

 

 

それでも、記憶は消えようとしなかった。

 

自分は神と闘った。

 

それを確かに受け止め、夢物語で終わらせようとせず。

 

いつぞやの、久方ぶりに味わう敗北を、噛み締めていた。

 

 

「刃牙くん!!!」

 

「あ....」

 

 

刃牙の声を聞きつけたやえが、一目散に駆けつけた。

 

目を覚ました刃牙を見るや否や、うるうると目を涙で覆った後に飛びついた。

 

 

「いでででででッッ!!」

 

「あぁっ!かんにん、かんにんねっ」

 

「起きたのね、刃牙」

 

「あ、あぁ、ミツバさん....と、みんなも」

 

「またこっぴどくやられたみたいだね。バキ先輩!」

 

 

わざわざ全員でお見舞いに来てもらってしまい、思わず上体を上げようとするが、そんな彼を福満が止める。

 

 

「無理しないでくれよリーダー。そのままでいいよ」

 

「....ありがとう」

 

「とにかく、目覚めてくれて良かったわ」

 

「あの、あれから俺.....」

 

「....落ち着いて聞いて」

 

「あれから3日が経って、今日は8日目」

 

「その間に不本意でリーダーに選ばれた韮崎と勇人が...殺されたわ」

 

「!!!」

 

 

刃牙はどうしようもない後悔に苛まれた。

 

誰も死なせないと意気込んでおきながら、自分の欲望に呑まれ、仲間を死なせてしまった現実を、受け止めきれなかった。

 

 

「もうみんな、いつどこで死ぬかの覚悟は出来てる。これは貴方の責任なんかじゃないわ」

 

「貴方は貴方のまま、いてくれた方がいいと思うわ」

 

「あの二人も、同じことを言ってたわ。貴方のせいじゃない。本当の敵を倒そうとしてくれたんだから、って....」

 

「.....ごめん....本当に、ごめん.....」

 

「───皆さん!」

 

 

制服姿でエプロンを身につける姿は、家庭的な側面を感じさせる。

 

しかしある二人には、その姿を純粋に見ることが出来ずにいた。

 

緑髪の少女、東風谷早苗が料理の匂いを漂わせて立っていたのだから。

 

 

「みんなでご飯食べましょう!」

 

「早苗ちゃん....」

 

「こんな時こそ、みんなで力を合わせなきゃですね!!」

 

「よく言った!早苗ちゃん!!」

 

「そう...ね。次の戦いに備えて、みんなでご飯にしましょう!」

 

 

刃牙の部屋で食すカレーライスは、いつもより力を蓄えられた気がした。

 

これ以上犠牲を増やさない為にも、心だけは強くあらなければならなかった。

 

 

「あの、ミツバさん。あの子....早苗ちゃん。いつからあんな風に....?」

 

「へ?あー....確か、ちょうど刃牙が眠った頃くらいからかしら。影が薄い子だったけど、料理も手伝ってくれて、すごく良い子よ」

 

「.....そう」

 

 

彩也香と一瞬目を合わせたが、どうやら彩也香も同じ様子。

 

一体どう言う風の吹き回しだ?

 

不穏な気配を感じつつも、時間は経つ。

 

一つの不安の種は、颯爽と振り払うかのように。

 

範馬刃牙のカミに対する攻撃が、全員の魂に火をつけた。

 

 

「───怪我っ、ほんとに大丈夫なん!?」

 

「骨折くらい、なんでもないって。そういうこともある」

 

「いやっ、大怪我やからッ!」

 

「まあまあ、やえ先輩。本人が良いって言ってんだしさ!」

 

「はぁ....んもうッ、勝手にしぃや!」

 

 

8日目、全不思議解決 マス取り成功───

 

 

「───ナツメグッ!後ろッッ」

 

「!?、しまっ....」

 

 

ドゴォッッッ

 

 

『不思議番号㊺「赤いの赤いの飛んでけ!」あやとりBOX マス取り成功』

 

 

 

「大丈夫っスか!ナツメグさん!!」

 

「え、えぇ....てか"ひびきん"アンタ、どんな腕力してんのよ」

 

「え?ひびきん....あっ、いやまぁ、鍛えてるんで!」

 

 

9日目、10日目、11日目と怒涛の無犠牲全マス確保を記録。

 

活気、熱気、全てがプラス思考にあった全チームはとてつもない団結力を開花させていた。

 

それほどまでに、"大将"の存在は大きかったのだった。

 

 

 

11日目の夜、刃牙は闘いによって受けた傷を全身鏡で確認する。

 

中々に酷い有様だが、動けないほどではない。

 

骨折は、意思力さえあれば問題ない。

 

刃牙にとってはその殆どが軽傷にも等しいものだった。

 

 

「(.....このゲームがもし無事に終わったとして、俺は、俺らはどうなるんだ?)」

 

「(本当に元の生活に戻れるのか?そもそも世界は大丈夫なのか?)」

 

「(神小路かみまろ、セイン・カミ....奴らはどうする気なんだ)」

 

 

恐らく世界で猛威を振るっている神小路かみまろとやらもカミと同等の力を持っているだろう。

 

世界の武力を集めたとしても、本当に勝てる相手なのか。

 

予想のつかない未来に、柄にもなく不安が募る。

 

ただ今にさえ保証がない自分に、先の事を考えれるほど傲慢ではない。

 

今はただ、今を生きるしかないのだろう。

 

 

 

「.......あと、5日」

 

 

 

ベッドに入り、天井を見つめる。

 

聞いた話では最後の日、最後の敵はセイン・カミ自身と聞いた。

 

また、あの怪物とやることになる。

 

考えただけで震えが止まらない。

 

今度こそ殺されるかもしれない。

 

けどこんな感情は、親父以来だった。

 

退屈な日々に明け暮れていた自分にとって、こんなにも刺激的な毎日は、不謹慎ではあるものの、正直期待してしまっていた。

 

これから何が起こるのか、どんな敵が待ち受けるのか。

 

次の日が、待ち遠しかった.....。

 

 

 

 

キィィィ....

 

 

 

 

扉が開く。

 

刃物を手にする東風谷早苗。

 

目に浮かぶのは、あの日の狂気。

 

ナイフを突き立て、振り下ろす。

 

 

「!」

 

「やっぱりな」

 

 

手首を抑え、関節を逆に返す。

 

痛みで刃物を落とすが、身動きは取らせない。

 

 

「顔の傷が妙に増えてるから、おかしいと思ったんだ」

 

「俺が寝ていた日から、毎日殺しに来てるだろ」

 

「で、俺の体に触れようとして返り討ちに遭ってるワケだ」

 

「ッ....なんで死なないんですかァッ!!!」

 

「脊髄反射みたいなもんさ。今日は、起きてたけどな」

 

「ぐッ....」

 

「なぁ、どうしてそこまで俺に執着するのよ」

 

 

ガッ───首に噛みつき、必死に危害を加えようとする姿は、嘗ての母親に被った。

 

その行動に共通していることは、絶対に曲げられない意志を持っているということだ。

 

自分が間違っていたって、こうするしかない。

 

これを曲げたら、自分は生きていられない。

 

涙ぐみ、闘おうとする姿は、彼には勇敢に思えた。

 

 

「何かあったのかい」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ!!!」

 

「幸せにッッ、幸福にッッ、生きられてッッ、お友達も沢山ッッなっ、貴方にッッッ.....私の気持ちなんて分かるわけないッッッ」

 

「.....料理」

 

「....は...?」

 

「...料理を皆に振舞っている君の姿はとても愛されているように見えた」

 

「嘘だッッッッッ」

 

 

 

 

「....余程まともなやつがいなかったんだな。君の周りには」

 

「......ぇ....?」

 

「普通...君みたいな子を、蔑んだりはしないよ」

 

「少なくともここに来てから、そんな経験は一度だって無いはずだ」

 

「.....」

 

 

手を離し、彼女を座らせる。

 

包丁を横目に見るが、手を伸ばす気は起きなかった。

 

 

「中学一年生の夏頃かな....俺の家にびっっしり落書きされててさぁ。外出中に隙を見て、何度も酷く荒らされたんだ」

 

「怖かったなぁ.....いつどこで、何されるか。寝込みに襲われたりなんて考えたら夜も眠れなかった」

 

「でも段々気付いたんだ。コイツら、俺の事ォ確かに嫌いだけど、本気でぶつかってくる度胸はないんだ....てさ」

 

「落書きしかしてこないのは、直接喧嘩を売るには俺は、あまりに手に余るからだ。要するに───嫉妬だ」

 

「し....と.........」

 

「そう。喧嘩に勝ちてぇ、けどそれは無理だ。だからせめて落書きでもして怖い思いをさせてやろう....ていう、妬み」

 

「ダッセェのなんのって....っはは!」

 

「......」

 

 

指で目頭を拭い、ケラケラと笑う。

 

少女の瞳は相変わらず暗かったが、真剣に彼の話を聞いているようにも見えた。

 

 

「でも、それでも弱い自分のせいで、お袋は殺された」

 

「!」

 

「俺のせいなんだ。元をといえば弱い自分が。でも認められなかった。仇が実の父親でも.....ぶち殺してやりたかった」

 

「ぶつけるしかなかった。張り裂けるような想いを....感情のまま」

 

「......!」

 

 

刃牙はつい喋りすぎた口を閉ざし、隣に振り向く。

 

するとそこには、綺麗な涙を流している少女がいた。

 

外見を貶すにはあまりに綺麗な、いじめるなんて身の程知らずだと思うほど。

 

何となく分かった気がした。

 

この子は誰より良い子で、綺麗な子だけど、それを決して認めようとはしない謙虚さが、その環境にとって最悪の悪手だったのだろう。

 

でもやっぱり思う。

 

その場所は、最悪だ。

 

 

「本当に居場所が悪かったんだと思う」

 

「此処で皆が優しく接してくれるなら、君自身が、優しく接することができるなら」

 

「たとえそれが演技でも、本当は心地よかったんじゃないのかい?」

 

「演技さえ、許されなかった場所だったから、君は今泣いているんだと思う」

 

「心の拠り所を、やっと見つけられたのかもな」

 

 

 

 

 

「いいかい」

 

「君は間違ってない」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「今、ゲームの流れは完全にこっちが握ってる」

 

「一分一厘、計画に狂いはないわ。それもこれも、みんなの団結があってこそよ」

 

 

12日目の夜、ミツバが現在のマス取り状況をまとめ、これからの計画を伝える。

 

あやとり、すなとり、いすとり、3チームが手を取り合うことで成すことの出来る"安定感"は苦戦こそすれど最悪の事態を免れるほどの代物だった。

 

 

「スージーの計算は完璧。たとえ何個か失敗しても、マスが消失したパターンまで計算されてる」

 

「私達が気をつけるべきは、スージーの計画に逆らわないこと、不思議に殺されないこと、倒せない場合は無理せず逃げること」

 

「この三原則、皆頭に叩き込むこと!!残りの四日間、必ず生き延びるわよっ!!」

 

「「「おぉ!!!」」」

 

 

ミツバの言霊は士気を高め、全員を奮い立たたせる。

 

余程のイレギュラーが無い限り、決して失敗はないだろう。

 

 

「マジでいけるぞ俺ら....なぁ!」

 

「うん、私ら案外いいペアかもね?ふくみっちゃん」

 

「おっ?お、おう...っ」

 

 

嘗て小指を失った福満、横腹に重症を負った萌美も今では戦闘にも慣れ始め、この二人での共闘で解決した不思議も多い。

 

 

「あの二人に比べて、私は逃げてばっかだなぁ....はぁ」

 

「生きてるだけで儲けもん。逃げてもならねぇよ回しもん。なっ」

 

「もうそのラップもこりごり.........んーん、意外と悪くないかもね。ありがとう」

 

 

光圀と南方は何度か失敗してはいるものの、大怪我をすることもなく生き延びれている。

 

意外なペアが、いや新たな友情が、生き死にの戦いを共にすることで生まれていた。

 

本来の学生生活では生まれなかったであろうその友情は特別で、引き裂こうとも引き裂けないものだった。

 

少しばかり、この日常の空間が心地よかった。

 

 

「今回は㊼だから.....ここね」

 

 

『不思議番号㊼「ドキドキハートの子守唄」』

 

『リーダー「東風谷早苗」』

 

 

皆の視線が一気に早苗に向かう。

 

いつかは来ると思っていたが、いざ来るとなるとギョッとする。

 

まだ一度も不思議解決に出たことがなく、その分食事の振る舞いと温和な性格で信頼を得ていたが。

 

早苗は俯く。

 

視線が怖かった。

 

不思議よりも、何よりも、"他人"から向けられる視線が何より怖かった。

 

得体の知れない怪物が、ギョロリとこちらを睨んでくるのに等しかったのだ。

 

不思議解決に出向くのに恐れていると思う全員に対し、その視線に恐れているという噛み合わなさ。

 

震え、目を瞑る。

 

 

それを救ってくれるのは、友しかいない。

 

 

「大丈夫かい」

 

「!」

 

「安心しな。今日は彩也香ちゃんと俺が行く」

 

「ちょっ、私まだ何も言ってないんですけど....」

 

「ダメかい」

 

「っ....いいけどぉ...」

 

 

彩也香が早苗に抱く疑念は大きい。

 

一度でもあの狂気を見れば当然だが、どうも今は様子がおかしいように思えた。

 

また何か吹き込んだな、と彩也香は呆れたような笑みを浮かべた。

 

 

「なぁんか、意外とバキ先輩ってたらしだなぁ」

 

「は?」

 

「いんや、何でも.....早苗、だっけ?」

 

「.....」

 

「またなんか企んだら、今度こそぶっ倒すから」

 

 

見下ろし睨みつけると、またビクッと俯いた。

 

まるで怯えた子犬のようだ。

 

暴挙をしでかすこともなさそうだが、ポーカーフェイスは彼女のお手の物、警戒は解けない。

 

しかし視線など、恐るるに足らないことを思い出す。

 

校門を前にした瞬間、全てが蘇る。

 

 

 

 

 

「(学校には、絶対に行きたくないです)」

 

「(学校にだけは、死ぬよりも、絶対に、絶対に)」

 

「わたし、は、わた、し....は....はっ!はぁっっっ」

 

「俺がいる」

 

「はっ」

 

「いつ、どこで、何が起きても俺が守護(まも)る。」

 

「そんな、こと、できる訳ないっ....学校は、学校、は、暗闇に、覆われていっ....るんですよ」

 

「.....俺が松明になる」

 

「....?」

 

「ぷっ」

 

 

 

ホントこの人は、と彩也香は呆れ、そして敬った。

 

だってこの人はいつだってどこだって、本気なんだから。

 

 

「俺がイルカになり、ヤシの木になり潮騒になる。俺が海になりサンゴになり海亀になる。虹にだってなってやる」

 

「俺がクジラになり、月光になり、ヒトデになり────俺が必ず、君をいつか、一秒でも早く学校に行きたくなるようにしてやる」

 

「それくらい学校って、"本当は"面白い場所なんだぜ」

 

「遠い距離も近く.....感じさせる」

 

「あ......どうしてっ....そんな、出来もしないこと...」

 

「見たけりゃついてこい」

 

「えっ」

 

 

背中が大きい。

 

そんな大きな背中が、あの中へ堂々と進んでいく。

 

何が起こるのか、気になってしまった。

 

 

「───あれ、まだいすとりチーム来てないの?」

 

「いやそれが、ちょうど三人で中に入るとこを見て....」

 

「えっ!?なんで先に....」

 

 

理由はそう。

 

知らない人間達とは、関わりにくいだろうと考えたからだ。

 

初めはそう、友は一人から───。

 

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