「───早苗ちゃ~ん!こっち向~~いて!!」
「?」
べちゃッッ
「やっぱあっち向いてて!!」
「キャハハ!アンタそれはヤバすぎ!」
何処にいっても、何処までいっても、変わらない日々。
小学校でも、中学校でも、高校でも、この緑色の髪と内気な性格のせいか同じような嫌がらせが続いた。
一番辛かったのは高校だった。
中学校は小学校と大体同じ人間がそのまま進学するため、中学生になってもこの日常が変わることはないことは分かっていた。
だから必死に我慢して、勉強して、良い高校を目指した。
しかし、第一志望の学校には届かなかった。
勉強は嫌いじゃなかったが、地頭がいいわけではなかったからか、東京にある憧れの学校には行けなかった。
それでも地元の進学校には何とか受かり、そこで一からやり直そうと意気込んだ。
「可愛いわよ早苗!行ってらっしゃい」
初めて美容室に行って、化粧もバレない程度にやってみた。
キラキラした高校生活が、自分の夢だった。
「あれ?東風谷さんじゃん!久しぶり!!東風谷さんもここ受けてたんだ!!」
「え、あ、あ、う、ん....あの、なん、で」
「へぇ~そっかぁ~~~」
「じゃあまた3年間、よろしくね」
その時、自分の中で何かが崩れ去った気がした。
中学校など及びもつかない虐めが待っていた。
お母さんが作ってくれたお弁当を、まともに食べれたことは一度もない。
友達を作れたことも、彼氏なんかも作れたことだって当然ない。
次第に思うようになった。
独りでいいから、独りぼっちでいいから。
キラキラした日常なんてもう望まないから。
もう誰も私に構わないで。
「───コイツ小学校の頃からウザくて、みんなから虐められてんの」
「───緑髪スゲェな、蛙やん。てかいい面してんじゃん。ほんとに俺らで好きにしていいん?」
「───え?いいよ。てか動画撮りたいから押さえてて!」
「───貧乏人のくせに体つきエロいな。てかさっきまで叫んでたけど、諦めたん?」
「───さぁて下は.....っと!急に暴れやがった。お前ら殴れ殴れ」
「───キャハハ!ヤっバッ!....えっ、ちょっと待って.....蛇っ、蛇いるって!!!」
「───ヤベェ逃げろ!!」
「───ねぇ絶対罠だよねアレ。東風谷さんにしてやられるなんて思わなかったわ~」
「───まあまあ、奴隷が貴族様に刃向かったらどうなるか、教えてやろうぜ」
ライターの蓋が、静かに開く。
パチッ....パチッ......
「...ただい......?」
バチッ、バチッ
「ま.....あ、へ?」
ゴォオオォォオォォォオオォォォォォォオオッッ
その時初めて、感情を剥き出しにした。
溢れ出る怒りを、悲しみを、憎しみを、吐き出した。
その後に訪れることなど、どうでも良かった。
今この瞬間の怨みを晴らすことが、私の人生の終着点だったのだ。
小さな檻の中で思う。
私だけの神様の声に耳を傾ける。
嗚呼、行きたい───。
なのに。
否定してくる。
同じような境遇に陥った人間が、どうして?
どうして貴方は、生きられるの?
どうして私を、守ってくれるの?
恐ろしい怪物が、私目掛けて襲ってきても、貴方は弾き返す。
「ボーッとしてないで、安全なところに隠れててッッ」
さっきまで私を信じていなかった貴女が、どうして私の身を守る?
分からない。
大した関係値もないのに、殺そうとしたのに。
どうして自分の身を呈してまで、守ってくれるの?
どうして────
『ピンポンパンポーン。不思議番号㉝「三七五拍子」いすとりBOX マスとり成功』
「ははっ」
「相変わらず無茶するなぁ。ほんとに骨折してんすか?」
「骨折くらいで騒いじゃってまぁ」
「騒ぐってのッッ」
そんなに、楽しそうなんですか?
貴女も、そんなに綺麗な汗をかいて、笑ってる。
ぐずっ───胸の奥が、五月蝿い。
『早苗、囚われるな』
「!」
『焦ることないよ。最後の最後、こんなに良い思い出が出来たんだから』
「良い....思い出.....?」
『信じてみようよ。私達を信じてくれた早苗なら、この子達の事も信じられるはずだよ』
「でも....怖いんです。家族を信じられても、私は....」
『いじけるな早苗や。大丈夫だ。神様(家族)の言うことくらい信じてみろ』
「っ....」
『この子達を信じられなくなったら、いつでもおいで』
『私達は早苗を、ずっと見守ってるからね』
「.......お二人とも.....ありがとうございます」
「少しだけ勇気を、貰えました」
***
───最後の不思議を探し当てるうちに、辿り着いたのは屋上。
そこには、異形な物体が浮かんでいた。
あまりにも生々しい、巨大な心臓のような外見で、中心部にはピエロのような笑みをした顔がある。
そして右側、左側から太い血管のようなものが伸び、一つの電子時計と繋がっていた。
正面に立つと、電子時計が動き出す。
映し出されたのは3分、滞りなく数字は減ってゆく。
「動脈、静脈、どっち?」
「これはー.....バキ先輩、どう思います?」
「.......どっちかってこと?」
「それは誰でも分かりますよ....なんか、直接攻撃してもヤバそうな気配ありますね」
「あぁ、それは分かる」
ここにきて、初めて二人の手が止まる。
しかしこういうタイプの不思議には、必ず種があることは経験上割れている。
動脈か、静脈か。
いすとりチーム最有力の二人が、手も足も止まっていた。
何故ならこの二人、謎解きは大の苦手。
直感的な二人の才能は攻撃してはならないことを悟ったが、解決策を導き出すほどの才覚はなく。
起爆一分前にして、両腕を組み、苦悩していた。
「動脈と静脈どっちが血の流れてる量が多いかとか?」
「いやいや、そんなん分かるわけないし!それなら現実的に、心臓からこの時限爆弾に血液を送り出してる動脈が安牌じゃない?」
「え?動脈と静脈って太いか細いかじゃないの?」
「っだーーー!!私はバキ先輩の家庭教師じゃねぇッ!!てか時間!あと20秒だって!」
「確証がないなら逃げよう。こればかりは仕方ねぇよ」
「~~~~~~~~ッッ」
彩也香は葛藤していた。
確証なんてない、ここで死ぬくらいなら、逃げるべき。
踵を返しその場から去ろうとした、その時だった。
「!?.....アンタ、何して....」
「すぅぅ.....はぁ.....」
武器である剣を両手に握り、天に掲げる。
瞳を閉ざし、深く呼吸を一度挟む。
緑の髪を揺らすのは、東風谷早苗、その人だった。
「危ないってッ!早く逃げ───ば、バキ先輩!?」
「何か、変だ」
彩也香の肩を掴んだバキの目は、その姿に釘付けにされていた。
一見普通の立ち姿が、どこか神々しい。
彼女の両肩辺りの空気から主に、違和感を感じた。
「私は.....私は.....奇跡を信じる」
「奇跡を.....信じるッッ」
ズバッッッ
「時間 停止」
『ピンポンパンポーン。不思議番号㊼「ドキドキハートの子守唄」いすとりBOX マス取り成功』
「「ッ!!!」」
体の奥から抜け出す膿。
自分にとって信じたいものも吐き出し続ける動脈は要らない。
新しいことを取り込み続ける静脈を残したかった。
ただそれだけの事、信じた結果が死ならば、容易く受け入れる覚悟は出来ていた。
最期くらい、信じて死んでみようと思った。
「あ、アンタ....なんで....?」
「....逃げても、みんな死んでしまうと教えてくれました。きっと心臓に直接影響があるものだったのでしょう」
「教え?....な、なんで正解が分かったの?」
「そうですね.....奇跡、ですかね」
初めて見せる、純粋な笑顔。
ポカン、とした彩也香は突然、疑念を拭い去ったように、グイッと肩を組みにいった。
「やるじゃん早苗!!ちょっとまだおかしなとこあるけどさ!」
「!!!....へ、へへ、ありがとうございます...」
「なァ」
「!」
正面に立った刃牙は、新しい疑念を抱く。
早苗が適当に言ったかもしれない"奇跡"とやらが、彼にはそのまま流し切れない何かを感じていた。
「何か.....いるの?」
「あ....えっ、と」
「信じるよ、俺」
「えっ?」
「信じてくれたんだもんな。俺らの事」
「えっと....どうも、こんにちは」
「バキ先輩何してんのさっきから?」
「いや、ホントにいるんだよ。ここらへんに誰か....」
何もいないところに、深く頭を下げる。
彼には聞こえていないが、早苗にしか感じられないその二人の神様は、興味深そうに笑っていた。
『はっはっはっ、まさか早苗以外の人間に勘づかれるとは』
『この子凄いね。私達の気配を漠然とだけど感じ取れるんだ。もしかしたらこの子の祖先も"崇拝者"だったのかな?』
『はてね。それはそうと、これからどうなることやら』
血で血を洗う闘いの中にこそ生まれる宝物がある。
心の傷は、そういう場でしか癒やすことが出来ないのかもしれない。
いずれにしろ、早苗は初めて、二人の友達が出来た。
「この蛙の髪飾り、めっちゃ可愛いね!髪の毛は地毛なの?超鮮やか~」
「え、えへっ、蛙は好き、なんです....地毛です」
「なっ?学校、面白いでしょ?」
「あ.....お二人がいればっ!」
「「!.....あはっ」」
「あっ、やっと見つけた!」
「ちょっとちょっと何やってんだいアンタら!ウチらが解決するはずだった『三七五拍子』倒したね!?」
「あ、ごめんスージーさん。出くわしちゃって、つい」
「アンタなら逃げるでも何でも出来たハズだヨ!また計算し直さなきゃならないじゃないのよ!どう落とし前つけさせて───」
「あははっ、怒ってら」
「あ....はははっ」
***
それから13日目、14日目、15日目と、数々の強敵に阻まれながら失敗と成功、スージーの計算を繰り返す。
全ての可能性を孕んだまま、最後の夜が始まろうとしていた。
16日目 21:38 いすとりBOXでその時を待つ。
「㊾がすなとりチーム、①がいすとりチーム、㉚があやとりチーム、それぞれが解決することでオール16点で同点になるわ」
「お....スゲェ、これほんとに同点になるよ、ホラ。」
「ホントだっ!スージーちゃんすごっ!!」
「みんな....これが、泣いても笑っても最後の夜よ」
ミツバは真剣な声色と顔で呟く。
皆の表情も強ばり、緊張が走る。
終わりがリアルに感じられ、つい先のことさえ考えてしまう。
そんな全員の気持ちを代弁するよう、ミツバは言う。
「私は....みんなと出会えて本当に良かったと思ってる」
「出会って間もないけど、なんだか、ずっと昔から友達だったような気がするの」
「それくらいこの十数日は濃密で、大変で.....それでいて、楽しかったとも思ってる」
「「「......」」」
「みんな....絶対に、絶対、勝ち続けよう」
「勝って、生き延びて、そして....平和な日常に戻ったら、みんなで遊ぼう」
「ご飯食べて、ボウリングしてっ、カラオケもっ....っ!」
零れる涙を拭う。
やえはその姿を見放さず、聞き続ける。
「───絶対、みんなで生きて此処を出るわよッッ!!!」
「「「おうッッッ!!!」」」
全員で掌を重ね合わせる。
一致団結、勇猛果敢、力強い意志が駆け巡る。
ミツバが心から漏れ出た言葉は、今は忘れよう。
それが甘えになった時、足元をすくわれかねないから。
ただその想いは、皆同じだった。
そう、範馬刃牙にとっても、この全員は、かけがえのない大切な存在になっていた。
大事な友達と、いつか遊びに行きたいと思ったから。
初めての感情を胸に抱いた刃牙はいつになく、肉体を熱く燃え盛らせる。
自分の最高を、ぶつける。
バサッッ
「「「!!!???」」」
「ちょ、ちょっと刃牙くんッッ!?!?」
上を脱ぎ、四肢の手首に入念にテーピングを巻く。
気合を入れろ。
視野狭窄を排除しろ、自分以外の全てに気を使え。
自分の血を───廻せ。
ゾワァァッッ
「「「!」」」
「何でかな。テーピングを終える頃には、全身がむず痒くなって、相手を八つ裂きにでもしたくなる」
「なんだか....嬉しそうだね、バキ先輩」
「...四つ角は強い。それも一気に2角だ。感じるんだ。今までで一番強ぇよ、今日は」
「...たまんねぇなぁ~~~ッ!みんなァッッ」
恐れず、ましてや強敵を相手に嬉しがる始末。
そんな姿が常に前にいたから、皆はついてきた。
だからいすとりチームは、強く在れたのだ。
「流石だなぁ大将。なら連れてってよ、最後の妖怪退治」
「来てくれると思ってた。彩也香ちゃん」
左腕を失っても尚、いすとりチームの戦力として名高い上原彩也香が名乗りを上げる。
拳と拳を突き合わせる姿は、強さという点において互いに惚れ込んでるように見えた。
「時間が近いわ。選択するわよ」
「おう、頼むよ」
ミツバの人差し指が①へと向かう。
御札枚数が低くあることを必死に祈る皆だが、その結果は如何に。
『鬼神』
「うお....なんかヤバそうだぜ....」
「ていうか御札.....15枚!!?」
「坤より多いのかよ....」
「り、リーダーは....」
『リーダー 蓬莱やえ』
「来たか.....っ」
胸に手を当て、唾を飲み込む。
流石に緊張するが、内心ホッとしていた。
どうなっても、最後まで刃牙といられることが嬉しかった。
それに刃牙となら、彩也香となら、どんな敵も倒せる自信さえあった。
「2人とも、よろしく頼むで!」
3人は勇気に満ちた笑みを交わし、拳を突き合わせる。
必ず、誰一人欠けずに生きて帰る。
決意を抱く。
いざ、出陣の時。
「リーダー!手っ!」
「!....ははっ」
パンッッ
福満重里、巴光圀、木村萌美、千田真理子、佐山よしか、藤原ミツバ、紫村影丸、里見ミカ、南方沙奈、東風谷早苗。
計10名からのハイタッチで3人を見送る。
外の様子すら見れず、待つ彼らもまた辛い。
だからこうして、せめてエールを。
「必ず戻る」
最後の夜が、今始まる。
『不思議番号① 鬼神』御札枚数 15枚
メンバー「範馬刃牙 上原彩也香 蓬莱やえ」
『不思議番号㊾ トイレの花子さん』御札枚数 12枚
メンバー「明石靖人 丑三清志郎 星川芽衣」
『不思議番号㉚ ブレイントレイン』御札枚数 10枚
メンバー「紗倉ひびき 奏流院朱美 柘植まさみ」
***
「えっ!?チームそれぞれで戦う!?」
「あぁ、あの日みたいなことがあったら、今度こそ対処しきれなくなると思った」
校門前にて全チームが集合した時、刃牙はそう口にした。
あの日とは不思議に囲まれたあの時の事態の事である。
今日は特に不思議の強さが桁違い。
囲まれたら今度こそ恐らく全員詰みだ。
固めるよりも、各チームの目標を確実に果たすのがベストだと考えた。
明石は考え込みながらも、小さく頷く。
「確かに....また打開出来るとも言いきれないしな....それに予想してたとはいえ、かなりの強敵だと思うし....うん、じゃあそうしよう」
「えーーー!!!刃牙さん来ないと不安だよぉーーッ!!」
「仕方ないよ芽依ちゃん。三人で頑張ろうよ」
「終わったら協力しに行くからさ。それでいい?」
「あ、はい♡てか筋肉ヤバいです♡超カッコいいです♡」
「どうも。それじゃあ、そういうことで」
意外にもあっさりと校内へと入る姿に、芽依は不安そうな顔を浮かべる。
「.....なんかいつもより冷たい?」
「...いや、きっと集中してるんだと思う....ッよし、俺らもビーフで行くぞッッ」
「燃えてるな明石。俺も俄然、熱くなってきた」
「うぅ~~~、とりあえず透明マントで隠れよ~~」
校内のトイレを中心に徘徊を進める予定。
恐らく、相手は初日に現れたあの市松人形。
まさか最後の相手が奴とは思わなかったが、やるしかない。
あやとりチームに視線を送りつつ、中へと入る。
「さってと....私らもそろそろ....」
「ひびき!朱美!」
「!....彩也香!?」
二人に覆い被さる形で抱き締めると、彩也香は二人に告げる。
「絶対生きて、また会おうな」
「...当たり前だろ!映画もまだ見足りないしな!」
「無事に終わったら、皆でまたジムに行きましょうっ」
「「おう!!!」」
暖かな目で見つめる柘植。
3人とも、大切な友達なんだな。
この輪の中に入るには、あまりにも肩身が狭かった。
「(わだすも、うかうかしてられねぇな)」
手榴弾を握る。
覚悟は、出来ている。
***
「意外と、静かやね....」
不自然に思えるほど、校内は静かだった。
よもや今更暗闇に恐怖を抱く訳もなく、月明かりさえあれば光は十分に得られていた。
やえは剣を、彩也香は御札を、刃牙は拳銃を手にする。
二人は兎も角、刃牙が自ら拳銃を手にするのは意外だと思うが、こういう時は手段は選ばない。
手の届かない距離での攻撃手段として、最も有力だと思ったのが拳銃だったからだ。
使い方、反動には大体慣れた、照準がブレることは恐らく無いだろう。
しかしこれはあくまでサブウェポン。
本体は、本体のままゆく。
「こんな時に、こんなこと言うのもなんだけど.....ウチ、こんなに友達って思える友達、出来たことなかった」
「部活一筋だったからかな、友達作りに必死になったこともなかったからかな.....こんな短い時間でも、一人一人が大切に感じるんだ...」
「....失いたくないよ....誰も、誰も....っ」
「あぁ、俺も同じだ」
「刃牙くん?」
両手の平を見つめ、固く握り込む。
ここで出会い、関わってきた人々は、友人は───範馬刃牙にとっても絶対に失いたくない存在だった。
「俺も友達作りなんてしてこなかった。だからって訳じゃないだろうけど、俺もみんなと過ごしていて....何だろうな」
「友達なんて枠じゃ収まらないくらい....あぁ、そうだ。家族のようにさえ思えるんだ」
「失うことが、会えなくなることが、考えられないんだ」
「刃牙....くん」
「確かに....環境のせいか、毎日が戦場のように過激だと、こんなに仲間が大切に思えるとはね」
「俺たちだけじゃない。この感情は、他のチームの皆も一緒のはずだ。それぞれの家族が、必死に生き残ろうとしてるんだ」
三人は密かに涙を流す。
何だろう、この神秘さは。
残酷なような、美しいような、儚さは。
戦に出向く直前に抱く心情は、こんなにも不思議なものなのか。
───死にたくない。
その想いだけは、皆同じだった。
ピタッ
その空気を掘削機の如く、穿つ雰囲気。
廊下の向こうに、忽然と立つ何か。
わらわらと逆立つ白い毛髪、その壊滅的な存在感。
刃牙は刹那、一瞬にして理解した。
そうだ───『あの人は元々、都市伝説として語られていたんだ』
「なに....あれ.....っ」
「声が....身体が、震えるっ.....怖い...ッ」
「鬼神....そういうことかよ.....はは」
「アレは、都市伝説として語られた方の....俺の親父(オーガ)だ」
全身の細胞が伝える、拒絶反応。
逃げたい、走り去ってしまいたい、闘いたくない。
この感情、本能、衝撃。
自分の力がちっぽけに感じてしまう。
でも、あの時とは違うことがある。
死んでも守護(まも)りたいものがあるから。
「二人とも、俺が時間を稼ぐ」
「その武器で、どうにか隙を突いてほしい」
「で、もっ....武器が、効くん....アレに....ッ?」
「武器は特別だ。アレが本物の親父じゃないなら、不思議である偽物になら必ず効く」
「待ってよバキ先輩ッ!!アレに時間を稼ぐってッ!?殺されるッッ、時間を稼ぐ間もなく一瞬で殺されるッッ!!!」
「彩也香ァァッッ」
「っ!」
「....大丈夫。死んでも守護(まも)る」
「刃牙くんっ....!!!」
メラアァァァァァッッ
「さァ、行ってみようかッッッ」
出し惜しみを拒む感性。
少年の体は熱く燃え、逆立つ髪と背中に浮き出る鬼の貌。
体の輪郭を蜃気楼のように歪ませるその姿は、まさに相対する鬼神そのものだった。
***
「久しぶりやなぁアンタら。ルール説明した時以来やんかぁ~」
「ッ....やっぱ出やがったな。花子さん....」
2階女子トイレ、一番奥の扉の中にある和式便所。
無断で中に侵入し、中を覗き込んだその時、湧き出る黒い髪。
瞬く間にトイレ内を黒髪で覆い尽くし、咄嗟に外へ出ると、あの日の市松人形が姿を現した。
「どれだけ強ぉなったか、見せてくりゃんせぇ~~~♪」
ピンッ
「およっ?」
バゴオォォォォッッ
花子の眼前に放る、手榴弾。
地上最強の少年からの助言───先手必勝。
強い相手にこそ、力を引き出させる前に討て。
***
ポオオオオォォォォォォォッッッ
「こ、こりゃまた物騒なこと....はは」
あやとりチーム大将、ひびきが目にしたモノ。
それは敵とみなすにはあまりにも不自然だが、この中に入らなければならないということは分かった。
体育館の中をぐるぐると周回する至って普通の列車は、警笛を鳴らした後にひびき達の前で扉を開いた。
「中に入れ....てことかしら」
「みてぇだが....ひびきちゃん、どうすっぺ?」
「行くっきゃないでしょ。ちゃちゃっと終わらせて、皆の加勢に行こうッ」
二人は頷き、慎重に中へと入る。
内装は特にこれといって咎める部分もなく、普通の列車の風情。
だが、3人は釘付けにされる。
次の車両へと進む扉の上にある、そのモニターに。
『ようこそ。ブレイントレインへ』
『あなたたちにはこれからGAMEをしてもらいます。ルールを説明します』
「な、何だよ急に....?!」
「ひびき、静かに」
「っ....」
『この列車は合計5つの車両があります。皆さんには車両ごとにある問題に回答しゴールを目指していただきます』
『解答権は、一度だけです。三人のうちどなたかが回答してください。』
『ですがもし、不正解だった場合、回答した方にはその"回答した方にとって最大の苦しみ"を体験していただきます。』
『それでは皆さん、ゴールを目指して頑張りましょう』
3チーム3者共に待ち受けるラストナイト。
闇に脅える者はもういない。
迸る脳内麻薬───全員が、120%のポテンシャルを引き出すに至る。