バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

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拾柒

 

 

 

 

 

 

「ほぇ~~~、びっくらこいたわぁ~!いきなりぶっぱなすんやもんなぁ」

 

 

黒煙が辺りを包み、視界が阻まれる。

 

花子は当然だがこの黒煙はその場にいる全員の姿、匂いすらも察知させない。

 

花子は長い髪を間一髪で全身を包み、手榴弾による爆発を防いでいた。

 

それでも至近距離からの爆発は衝撃をゼロにするには髪如きでは心許なく、衝撃に当てられた花子の体はまたトイレの中へと弾き戻された。

 

黒ずんだ頬を拭いながら、花子は周囲を見渡す。

 

 

「んん?.....見えへん....」

 

 

未だに薄い煙が漂い、視界が霞む。

 

無闇に動けないことを感じた花子は、敢えてその場から動かなかった。

 

煙が消えきるまで、ここで待機することを選ぶ。

 

 

 

ザシュッッッ

 

 

 

何の変哲もない空気から、剣が現れる。

 

容易く花子の首を切り取り、ゴロンと地面に体は転がった。

 

特殊なマントを羽織るのは、星川芽衣。

 

 

「や、やったよっ!?やったからね!?」

 

「よくやった芽依ちゃんッ!!下がってッッ」

 

「寄越せ」

 

 

丑三が芽依から剣を奪うと、その斬撃は厳かに、凄まじい速度で花子の体を切り刻んだ。

 

四肢、頭部は原型を保たぬまで徹底的に。

 

そして最後に明石が手にしていた巨大ハンマーが、無惨となった花子の体を叩き潰す。

 

全身全霊で、力を出させる前より早く。

 

 

「はっ、はっ....はっ!や、やった、やったッッ」

 

「アカッシー!!芽依頑張ったよぉ~~!!」

 

「うん、マジ上手くいった!丑三、お前も!」

 

「.....あぁ」

 

「あ、あんた今、まだ生きてる思うたろ?それ正~解」

 

「「「ッ!!!?」」」

 

 

ハンマーの下から何かが蠢く。

 

それは髪───伸び続ける髪は五体を形作り、目を、口を、手を、足を再生させてゆく。

 

その様子はあまりに異様で、得体の知れない存在に出くわしてしまったあの焦燥感が満ち渡る。

 

名前も知らないおぞましい生物を見たあの時の。

 

自分の恋人が知らない男といたあの時の。

 

焦り、恐れが、一気に全身へと染み渡る。

 

 

「アカンやん"トドメ刺し忘れたら"....なんか可哀想やから殺さないでやったけど。次はないでぇ~?」

 

「は、はぁッ...?」

 

「さっき、絶対倒したよね....?」

 

「...アンデッド・花子サン、か」

 

 

グリュッッ

 

 

「丑三ッッ!!」

 

 

腹巻きのように瞬時に巻き付く長髪が丑三を襲う。

 

宙ぶらりんの状態となるが、自慢の腕力で引きちぎる。

 

 

「ガハッッ!?」

 

 

引きちぎる間もなく、その髪が収縮を始める。

 

辛うじて強靭な筋肉がせき止めるが、絞り出された血が口から溢れ出る。

 

 

「あんたら知っとる?髪の毛一本で約100gの重さに耐えられんねん」

 

「10万本あれば10tは余裕で耐えられるんや。それにあたしの髪は長さも量も太さも変幻自在。まあ簡単に言えば自動車10台をめちゃくちゃに振り回せるくらいや」

 

「力で引きちぎろうなんて、天地がひっくり返っても無理やで~~~」

 

「でもさっきの手榴弾は効いたよなッッ!!」

 

 

明石は巨大ハンマーで花子に直接ぶち当てる。

 

意外にも衝撃に逆らうこともなく、まるで人形のように地面に転がった。

 

ごろん、と物のように思える倒れ方だが、すぐにまた魂を宿したように立ち上がる。

 

「だから言うたやん~。あたし不死身なの。欠片一つでもあれば生き返れるの」

 

「ほんとにそうか?打撃とか斬撃とかは効かなくても、さっきみたいな爆発は防いだよな?」

 

「ゴホッ....髪はちゃんと燃えていた。つまり明石、お前が言いたいのは....」

 

「あぁ、コイツ火に弱いのかも。跡形もなく消せれば流石に復活できないはずだ」

 

「アンタら、よぉー頭回るんやねぇ」

 

 

 

バカァァァァッッ

 

 

 

「「ガ.....ッッ!!!」」

 

「ならちゃちゃっと殺したるわァッッッ」

 

 

想像を絶する毛髪の速さ。

 

二人まとめて壁に投げつけられた二人の体は、血飛沫と瓦礫と共に外へと投げ出される。

 

耐久性、俊敏性、強靭性、全てが今までとは桁外れ。

 

真っ向からでは話にならない。

 

二人が応戦する最中、一人の少女は奇妙な行為に走る。

 

 

 

「けほっけほっ.....ほんとにこれでいいんだよね、アカッシー....?」

 

 

 

『白い煙』が、ある部屋に充満する。

 

彼女が手に持つソレは、意外にも質素な────

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「なんか....始まっちゃったけど....」

 

「つまり、今回は今までと違って体で戦うんじゃなく、問題に答えてゴールを目指す形式」

 

「まさにブレイントレイン(頭脳列車)、てことだべ」

 

 

あやとりチームが相対するはブレイントレイン。

 

5つの車両ごとにある問題を答え、ゴールを目指す。

意外にもシンプルなように思えるが、やはり気にかかるのは不正解した場合。

 

 

「その回答した者にとって最悪の苦しみ....か」

 

「言い方からして、痛みにこだわることではなさそうね」

 

「そこは、考えても仕方ねぇべ。考えるべきは今から答える問題についてだ」

 

「うぉぉやっべぇ~....勉強しときゃ良かったぁ....」

 

 

焦るひびきに対し、柘植まさみの表情はいつになく落ち着いていた。

 

その理由は第一問目の回答の際に判明することとなる。

 

 

『それでは、第一問』

 

『f(x) = ln(x + √x² + 1) 以上の関数f(x)を微分し、f'(x)を求めてください。』

 

『制限時間5分。』

 

「......はっ???」

 

 

ひびきの顔に笑顔のような絶望の顔が浮かぶ。

 

顔を青くし汗だくなひびきに対し、朱美は落ち着いて手を口に当て、文章を読み解いていた。

 

 

「...微分積分の問題ね。予習しておいて良かったと言いたいけれど....紙とペンが欲しいわ」

 

「か、紙とペンなんて持ってねぇよぉ...どど、どうしよ柘植ちゃん....っ」

 

「....やっど、役に立てるかもしれねぇべ」

 

「?....つげ、ちゃん?」

 

 

その時、柘植まさみは初めて、自分から眼鏡を外した。

 

目が良すぎて敢えて外さないと有名だった堅い眼鏡を外し、目の前の問題を凝視する。

 

瞳孔が大きく広がり、表情が神妙へと変わる。

 

誰が見ても変化した雰囲気に、二人は固唾を呑んで見守った。

 

2分後、柘植の口が開く。

 

 

「In(1+√2)」

 

「「.......」」

 

 

柘植は黙ってモニターを見つめる。

 

その顔は、いつになく自信に満ち満ちていた。

 

 

『正解です。次の車両へお進み下さい』

 

「ふぅ...」

 

「お....お、おぉッッ!おぉぉぉぉッッ!!すげぇすげぇ!!スゲェよ柘植ちゃぁんッ!!!」

 

 

本心、死を覚悟していたひびきは大声で泣きじゃくり柘植に飛びついた。

 

苦笑いでその頭を撫でる柘植だが、朱美は驚きを隠せないようだった。

 

 

「驚きました。まさか柘植さんがそこまで要領がいいなんて」

 

「そ、そんなことねぇべ。頭の良さなら朱美ちゃんの方が数段上だ」

 

「眼鏡を外すと目が疲れる代わりに、頭がスッキリするんだ。紙に書くのもどうも目を動かし過ぎて目が疲れるから....」

 

「頭の中でだけで、計算するようにしたと」

 

「し、したっていうより、クセになっちまっただけなんだが....っ」

 

 

照れ臭そうに眼鏡をかけ直す柘植に、朱美は首をふるふると横に振った。

 

流石は国連の職員を目指す高校生。

 

絶え間ない努力で孕んだ、才能。

 

モノが違う。

 

 

「....今度、お勉強を教えていただければ幸いです」

 

「わ、わだすなんがで良げれば....いくらでも教えるべ!」

 

「ふだりが仲間でほんどうによがったぁぁぁ」

 

「「はいはい...」」

 

 

滑り出しは上々。

 

頼りがいのある二人におんぶに抱っこなひびきだが、無論考えることを辞めるつもりはなかった。

 

二人には知らないことがあった時、もしかしたら自分が役に立てるかもしれない可能性があるのだから。

 

ただあんまりにも自分の出る幕がない気がしたひびきは、つい胸が踊っていた。

 

2車両目へ進むと、これもまた至って普通な列車風景が広がっていた。

 

 

『2車両目へようこそ。この車両では頭の柔らかさを判断します』

 

『第2問───貴方には二つあり、友達には一つありますが、ママと他人には一つもありません。それはなに?制限時間5分』

 

『ヒント パパは種類が少し違います』

 

「んん~~~??なぞなぞ...?」

 

「みたいね....限定されてるのが違和感ね」

 

「.....~~~ぁああ~やっぱりダメだぁ....なぞなぞは本当に苦手だべぇ...」

 

「つ、柘植さんは硬派なようね....」

 

 

なぞなぞ───最も代表的なのが『パンはパンでも食べられないパンはなに?』答えはフライパン、と案外直観的な、難しく考えれば考えるほど迷宮に入り込む問題のこと。

 

硬派でかつ模範に乗っ取るタイプの柘植には、幾ら頭の中で無限にノートを描けようと答えには中々辿り着かない。

 

朱美もそちら側に近い属性であるため、迷路が続く。

 

 

「貴方には二つ....友達には一つ...性別は関係ない?」

 

「けんどママと他人には一つもないってことは、男女に統一性がある事もある....?」

 

「「んん~~~~~....ッッ」」

 

 

苦悩に苦悩を繰り返し、案が浮かべば却下され、の繰り返し。

 

時間が無情にも過ぎ去ってゆく。

 

1分、2分、3分と時間が消えてゆくごとに、心臓の鼓動が早まっていく。

 

そんな中、先程の柘植とはまた異質な"集中を視る"者がいた。

 

 

「パパだけ種類が違うかぁ....貴方...."自分"....かな」

 

「友達...."ママ".....他人...."パパ"......あるもの、ないもの....あっ、やっぱそっか、そうだよな、それしかないな」

 

「ひびき?もしかしてなにか分かったの?」

 

「あぁ。これ、全然難しくないよ」

 

「どういうことだべ?」

 

「問題文の意味を考えるんじゃなくて、問題文そのものを考えてみたんだ。そのまま見てみたら、気付いたんだ」

 

「『濁点』の数に違いがあるってことにさ」

 

「「.....!」」

 

「貴方じゃなくて『ジブン』濁点が二つ。『トモダチ』濁点が一つ。『ママとタニン』には濁点が一つもない」

 

「なら......"パパ"だけ種類が違うっていうのは」

 

「そう!」

 

 

 

三人は声を揃えて、声を張り上げた。

 

 

 

「「「"半濁点"!!!」」」

 

 

『正解です。次の車両へお進み下さい』

 

 

「しゃらぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

純粋無垢、猪突猛進、単純なだけでは潜り抜けられないひびきの才能───強靭な腕力に隠された絶対的な『直進力』。

 

曲げず、折れず、挫けぬ精神性。

 

点と点を素早く繋ぎ合わせる発想力。

 

自覚しないことでより力を引き出す才能。

 

それはこういう場面でも発揮する。

 

紗倉ひびき、難問解す初の時───。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「「.......ッッ」」

 

 

目の前の光景を、どう形容したものか分からなかった。

 

一匹の鬼が超高速で拳脚を繰り出し、もう一匹の鬼がそのどれもを完璧に防ぎきっている。

 

まるで鋭い雨粒が吹き荒れる大嵐。

 

四畳半程度の部屋の中でハンマー投げを行うような危険性。

 

そのあまりに巨大すぎるエネルギー体を前に、彩也香とやえは一歩も動けずにいた。

 

 

 

ヂャヂャヂャヂャヂャッッッ

 

 

 

「あ、あかんっ....バキくんが、バキくんが必死に、闘ってくれてるのにウチっ....動けへんっ...ッ」

 

「クっ、ソ....動けよ、動けよぉッッ!!」

 

 

彩也香は震える脚を殴りつけ、無理矢理動かそうと粘る。

 

やえの頬に、刃牙の血が飛ぶ。

 

両脚から崩れ落ち、呼吸が乱れる。

 

 

「嫌や...嫌や、バキくんッ、がッ、これ以上、傷付くのは...ッッ」

 

「見て....られへんよ......」

 

「やえ先輩ッッッ」

 

「っ!」

 

「本当にそう思うなら、私らがどうにかするしかないんだよッッ!!」

 

「しっかりしろッッ。女だからってくよくよすんなッ!!好きな男の前だろォッッ!!!」

 

「!ッッ.....う"ん"ッッ」

 

 

えぐっ、と溢れる涙をそのままに立ち上がる。

 

やえは剣を、彩也香は御札を握り締める。

 

刃牙を案じて焦ってはならない。

 

確実に、決め手を作る。

 

満を持してでも、一撃で決め切るのが最高(ベスト)。

 

彩也香は大きく深呼吸し、パンッと顔を叩く。

 

 

「バキ先輩と、アイツの力関係はほぼ互角だ」

 

「全部防がれてはいるけど、反撃はされてない。つまりアイツも防ぐのが手一杯ってことだ」

 

「だから、私達が必要なんだ。天秤を、傾けるんだ」

 

「....うんッ」

 

「私じゃリーチが足りない。やえ先輩の長い手足と剣でしか、アイツに攻撃は届かない」

 

「分かったよ。とにかく当てて、均衡を崩せればいいってことやね」

 

「そういうこと。さぁ、モタモタしてられねぇぜ───近付くぞ」

 

「ッ.....」

 

 

風圧が、二人の毛髪をバサバサと揺らす。

 

1mm、2cm、とほんの少しずつではあるが距離を縮めてゆく。

 

その最中、鬼神と闘う直前に告げられた彼の言葉を思い出す。

 

 

『俺が守りに徹せば、防御は完壁に近くなる。だから攻撃は二人に任せる』

 

『少しでも躊躇して太刀筋が遅れれば、勝負は負けだ』

 

『信じてるぜ、二人とも』

 

 

厄介な呪いをかけられたと同時に、強い信頼を置かれていることも分かった。

 

二人ならできると本気で信じてくれてるから、この作戦を申し出たのだろう。

 

 

「(大丈夫....バキくんの防御は完璧....絶対に、ウチらに攻撃は当たらない)」

 

「(プロボクサーのジャブなんて比較にならない....今互いに何をしてるのかも、私は目で追うことさえでき)」

 

 

ギャッッッ

 

 

「「っ」」

 

 

今微かに、鬼神の拳がこちらに向いてきた。

 

それを発射する前に、刃牙が弾いて止めた....ような気がした。

 

心臓が止まるかと思った。

 

それでも確かに、着実に、距離を縮めてゆく。

 

刀身があの肉体を捉えるための間合いを、エリアを確保しろ。

 

 

「(狙いは....どこがベスト....?)」

 

「(脚?....それとも首....心臓....!?)」

 

「(大丈夫、落ち着け蓬莱やえ....私のやることは仕留めることじゃない。均衡を崩すことだけ。)」

 

「(なら.....ならウチはッッ)」

 

 

刃が当たる距離に、遂に経つ。

 

彩也香は既に託していた。

 

自分の命を。

 

頼りない奴にこんな真似はしない。

 

やえなら出来る、そう信じていた。

 

 

「(ウチが知る、失えば最も動きが鈍る部位....!!)」

 

「それは....膝やッッッ!!!」

 

 

刃の閃光(ひかり)が膝関節に走る。

 

斬った。

 

そう確信したやえの胸に生まれる安心感。

 

───避けられたことなど、気づく余地もなかった。

 

 

 

 

 

 

ゴチャッ

 

 

 

 

 

「「ッ!!」」

 

 

鬼神は紙一重で間合いをずらし、刃を皮一枚掠めるだけに留めた。

 

その程度で均衡が崩れないことは刃牙も理解していたが、最大のミスは攻撃を外してから、鬼神の間合いから離れるのが遅れた事。

 

刃牙の思考がやえの安全にシフトチェンジした瞬間、鬼神の拳はその一瞬を見逃さず『小鬼』の顎を撃ち抜き。

 

やえの鳩尾に、強烈無比の中段蹴りが直撃した。

 

 

 

 

ドガアァァッッッ

 

 

 

 

「やえ先輩ッッ!!!」

 

 

廊下を転げ回り、壁へと激突したやえの体は跳ね返る。

 

骨が軋み、内臓が暴れ、呼吸困難、吐血───地獄の苦しみがやえの全身に襲いかかる。

 

彩也香が咄嗟に近付くも、声も出せずにその場で悶え苦しむ姿を前に、思わず口を塞いでしまった。

 

作戦は、振り出しにへと戻った────かのように思えた。

 

脳震盪により膝をついたバキは、その姿を見た時。

 

嘗ての自分では考えられないほどの、感情の憤りを感じた。

 

 

 

「ッッは、はっ、ば....ッき....くんっ....え"ほっ"」

 

「っっっっっ!」

 

 

 

ダンッッ────気がつく頃には、鬼神の顔面を殴っていた。

 

顔は憤怒に満ち、腹の奥から怒りの雄叫びを上げる。

 

何故だ?

 

考えられることはただ一つ。

 

友を傷付けられたことに、やえの苦しむ姿を前に、憤怒(いか)っていた。

 

分かってはいるのに、解せないのは、自分の中で彼女がそれほどまでに大切な存在になっているのかということ。

 

自分で分かっていなくても、心では理解(わか)ってしまっているのだろうか。

 

家族を愛する気持ちを、温もりを。

 

 

「.......!」

 

 

鬼神の表情が、微かに動く。

 

攻撃そのものは怒りに任せた起こりの分かりやすい粗末な物のはずが、その一撃は何故か己のガードの上からでも響き傷む。

 

ガードした部分が僅かずつ、疲労(ダメージ)が溜まってゆく。

 

急激な威力増強に、解せない。

 

更には速度も上がり続く、休む暇なく無呼吸で。

 

いつまで続く、激流の波。

 

 

ふとちらつく、小鬼の風貌。

 

 

刹那、鬼神は漸く理解する。

 

自分にはなく、この男にはあるもの。

 

 

 

ドガッッッ

 

 

 

「バキ先輩ッッッ」

 

 

飛び後ろ回し蹴りが鬼神の顔面を撃ち抜き、大きくぐらついた時、彩也香が剣を投げる。

 

掴み取り、素早く脇腹へと滑り込ませた。

 

 

パキンッッ

 

 

「なっっ」

 

 

彩也香は声を漏らす。

 

たった一瞬でその刃を蹴り折ったのだから。

 

───その刹那を見逃さなかった。

 

刃折れの剣を、突き刺す。

 

 

「どうしたよそれがッッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

バキンッッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

その刃は。

 

手首ごとへし折られる。

 

武器を失うと同時、少年は武器(抜き手の刃)を手にしていた。

 

鬼神の腹筋を深々と貫く光景が、やえと彩也香の目に映った。

 

 

 

「本物は、こんな刃折れに気取られない」

 

「やっぱり都市伝説(偽物)だった....テメェが親父に勝とうなんざ百年早ェッッ!!!」

 

「.....良き」

 

「!」

 

「良き、友を」

 

 

 

 

鬼神は最後にそう言い残し、姿を霧散させていった。

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン。不思議番号①「鬼神」いすとりチームマス取り成功』

 

 

 

「バキ先輩!!!」

 

 

彩也香は思わず飛び出すが、彼の表情が先程とは一変した、のどかな雰囲気に驚いた。

 

彩也香の方へ向くと、彼は微かに口角を吊り上げた。

 

そしてやえの方へと向き直す。

 

 

「やえちゃん....」

 

「っ.....は.....ばき....く、流石、やね....っぁ」

 

「あぁ、君のお陰だ。君がいなきゃ、勝てなかった」

 

「う、そ....ひとり、で....よが、だ....や、ろ?」

 

「違う」

 

「!」

 

 

刃牙はやえを優しく抱き締める。

 

やえは目を丸くさせ、痛みすら忘れてしまった。

 

彩也香は一瞬微笑んだが、何故か、見ていられなかった。

 

 

「君を、君が....とても大切だと気が付いたから」

 

「君が傷ついた時に、いつもより力が出せた」

 

「そして生きてくれなきゃ、とても悲しいと思ったんだ」

 

「っ!」

 

「....絶対に死なせない。もう少しだけ、我慢していてくれ」

 

「......うん...わか、った....よ」

 

 

───いすとりチーム 最終日 マス取り成功。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「大丈夫か?....丑三...ッッ」

 

「2階からの落下.....生と死の狭間、堪らない」

 

「はっ?お前何言って.....」

 

 

落下後、横隔膜がせり上り、呼吸を妨げる。

 

通常より頑丈な体の二人であっても、打撲、骨折は免れなかった。

 

肋骨、腕、臀部共にとてつもないダメージが響く。

 

しかし立ち止まる訳にはいかない。

 

泣きたくなるような痛みを噛み殺し、二人は立つのだった。

 

 

「なんやアンタら、案外頑丈やんなぁ」

 

「るせぇ。コレでも修羅場くぐってきたんだ....舐めんじゃねぇ!!」

 

「あの時のナーバス(緊張)に比べれば、お前はせいぜい中の上だ。なぁ、明石」

 

「!.....おう。トイレの花子さんも大したことないのな。やることといや精々髪伸ばしてくるくらいじゃんか」

 

「あ"?アンタら忘れたんかい....ウチは不死身やあぁぁぁあッッ!!」

 

 

 

グバァァアアアアアッッッ

 

 

 

紫色のどす黒い気配が花子の周り全体を包む。

 

言わば妖気のようなものに見え、花子の力がそれほど強大であることを物語る。

 

それを一切見ず、二人は全力で駆け出した。

 

ギョッとした花子は憤りに任せて二人を追う。

 

宙を浮かびながら、髪を変幻自在に動かしながら。

 

 

 

ズバッッッ

 

 

 

「丑三ッ!!」

 

「ノープロブレム」

 

 

左右上下、常人では判断がつかない速さで襲う毛髪を、一気に切り裂いた。

 

まるで宮本武蔵のような体捌きが、そこらの男子高校生如きがやってのけたのだ。

 

しかし切り裂けど、切り裂けどその髪は量を、長さを、鋭さを増すばかりだった。

 

走る地面に落ちる血液は、次第に量を増やしてゆく。

 

 

バババババババッッッ

 

 

「(死ぬ死ぬマジで、コイツギア上げてきやがったッッ)」

 

「(丑三ももう限界だ。うわ今俺の横通って───)」

 

「(いや後ろ向けねぇ。怖ぇ死ぬぞこれ死ぬ死ぬ死ぬなんでまだ着かないんだよ体力は続くなこんな時こそ焦ったら負けだろ集中しろまた逃げるのかよ人生ビーフだろ)」

 

「(でも無理だってやっぱ止まったら死ぬじゃんかどうすりゃ丑三助けられんだこれちょっと見るくらいなら行けるかうわやっぱえげつないほど速いなでもまだ目で追えるくらいではあるか)」

 

「(よく見たら一定のリズム刻んで───攻撃が単調になってきてるのか、もしかしたら焦ってんのか───緩急がある)」

 

「(一瞬真ん中が空く───このリズムとタイミング───剣ありゃ届きそうかも)」

 

「(丑三の脇腹潜りながら剣を奪って───なんか視界遅いな───あ、今だ───よし、このまま真っ直ぐ剣を突き立てたら)」

 

「(───ホラ、入った......)」

 

 

 

 

クンッッ

 

 

 

 

「ッッ!!!???」

 

「明石.....?」

 

 

 

 

丑三の目には、有り得ない光景が広がっていた。

 

動体視力、反射神経共に優れている彼の目から、明石の姿が一瞬とはいえ消え去ったのだ。

 

そして気が付けば、自分の刀を奪い、花子の脳天を貫いたのだから。

 

花子の動きが止まる。

 

怯む───否。

 

 

「言うたやろ......ウチは不死身やァッッッ」

 

「「ッッ!!!」」

 

 

メグゥッッッ

 

 

花子の持つ全ての毛髪を一束に絡め、二人を弾き飛ばす。

 

あまりの衝撃に扉をぶち破り、気を失いかけるもこみ上げる吐瀉物を吐き出し、ある意味九死に一生を得た。

 

怒りに駆られた花子は一心不乱に追撃を仕掛けようとするが、教室に入った瞬間、異変に気付く。

 

 

『煙い』

 

 

弾き飛ばした衝撃によるものではなく、明らかにこの部屋のみに充満する謎の煙。

 

しかしこれは、煙幕でも、唯の煙でもなかった。

 

 

「っげほ...家庭科室にゃ、必ずあるだろ....小麦粉」

 

「俺らに夢中になり過ぎだ。所詮は、フェイク花子」

 

「...なぁにを勝ち誇ってるねん。こんな煙で何が.....え?」

 

 

二人は走る、何処へ?───向かうは窓ガラス。

 

身を投げる、と同時に放り込む、マッチ棒。

 

理解する、時既に遅し。

 

呪物は跡形もなく燃やすべし。

 

今宵はド派手に、粉塵爆発。

 

 

 

バガァァァァアアアッッッ

 

 

 

「ッ!!....アカッシー!!丑三ッ!!」

 

 

木々に身を打ち付けながら、落下する二人。

 

巻き起こる大爆発による火花が、三人を高らかに祝った。

 

 

『不思議番号㊾ 「トイレの花子さん」すなとりチーム マス取り成功』

 

 

 

 

 

 

 

 

『第3問。動物園で17番目に仰向けに寝転がった動物は?』

 

「───ライオンよッ!!」

 

『第4問。1枚だけページが破れた本がある。破れていないページ番号を合計すると15000になる。破れたページは何ページ目でしょう?』

 

 

迫り来る、襲い来る難問を、四苦八苦しつつも着実に解いてゆく。

 

冷たい汗がしたたり、死ぬか生きるかの境目に立つ3人の体力もまた着実に削られていた。

 

第4問目、制限時間ギリギリで導き出した柘植の理論は、果たして。

 

 

「25ページと26ページだべッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

『正解です。次の車両へどうぞ』

 

 

「ほっ....!」

 

「よっしゃよっしゃよっしゃッッ!!まじ半端ないって柘植ちゃんッ!!!このままラストもやっちゃってよ!!」

 

「う、浮かれすぎだべひびきちゃんっ....」

 

「そうよひびき....けど...はぁぁ....心臓がもたないわ」

 

 

平然を装うことは最早叶わず、朱美はその場で崩れ落ちた。

 

胸に手を当てると、死から逃れた安堵と緊迫感でどうにかなりそうなほど暴れ回っていた。

 

 

「わだすも同じだべ。でも、それも次で最後だ。朱美ちゃん」

 

「そう....ですね」

 

 

何とか立ち上がり、息を整えた後に3人はゆっくりと次の車両へと進んでゆく。

 

すると、奥の扉には『ごーる』と墨汁でべったりと描かれていた。

 

リアルに実感する、目の前の出口。

 

深呼吸、飲み下す唾、握り込む拳。

 

反応は各々違えど、視線はいつになく鋭かった。

 

 

『最終車両へようこそ。下車まであと残り一歩です。頑張っていきましょう』

 

「な、舐めやがってぇ....」

 

『それでは、最後の問題です』

 

 

ドキッッ───直前、心臓が高鳴る。

 

恐怖か、或いは緊張か、或いは期待か。

 

計算か、謎謎か、何が来たって驚いてやらない。

 

不自然な何かが微かな痛みを与え、その答えがやにわに晒される。

 

 

 

 

 

 

『眼球を差し出してください。制限時間は30分です。』

 

 

 

 

 

 

問題───それを問題と呼ぶには、あまりに疑わしきものだった。

 

意味をどう捉えるかは人次第。

 

いずれにしろ、三人にとっては"大問題"だった。

 

 

「がん....がんきゅう.....?」

 

「なぞなぞ.....??」

 

「いや....なぞなぞじゃねぇ....そんままだ」

 

「わだすたちの度胸を問う、問題ってことだべ....ッッ」

 

 

ひびきの脳内は真っ白になったところから、次第に文言が浮かび上がってくる。

 

そのどれもが現実逃避なような、非現実的なような、痩せ我慢をしているような、曖昧で且つ渋滞していた。

 

 

「(眼球って目、だよな、今までは計算とか謎謎とか、もっと考えていやまずこんなの無理に決まって、誰がやるくり抜く目を痛い激痛怖い出来るわけないそんなことけどやらなきゃ誰かが───目を、差し出す)」

 

 

自分の目に、手を当てる。

 

想像するごとに、その行為の具体的な感覚がせりあがる。

 

目潰しが絶対急所なのは誰もが知るところ。

 

指を軽く突き立てただけても悶絶もののか弱い箇所。

 

金的同様、内臓にも等しい部位。

 

そんな眼球に指を突っ込み、くり抜き、視神経を引きちぎる。

 

 

「無理に決まってんだろがア"ァァァッッ!!!」

 

 

ひびきの怒号が車両全域を震わせる。

 

溢れ出る恐怖を、やるせない怒りで紛らわす。

 

至極単純に、これが従来の問題とは認められなかったからだ。

 

明らかに、自分達を潰す為だけに作られた地雷そのものだった。

 

 

「ひびきッ!落ち着いて!!」

 

「落ち着けるかよッ!!こんなッッ」

 

「気持ちは分かるがっ、無事に切り抜けられる方法を探すしがねぇべッ」

 

「それが無理だって柘植ちゃんが言ったんだろッッ!!!」

 

「っ!」

 

「あ......ご、めん。そんなつもりじゃ、」

 

 

柘植は優しく首を横に振り、ひびきを宥める。

 

朱美は問題を凝視し、顔を顰める。

 

今までの問題は少ない情報元でありながら、知識と数覚で導き出せるものだった。

 

しかしこれは、どの方角から見ても、嘘偽りない単純な問題構造でしかなく、考える事を放棄させる。

 

朱美の鼓動が高鳴り、早まり、頭を真っ白にさせた。

 

 

「(時間は....あと28分....決断までの猶予....)」

 

「(なんて悪趣味な....責任を押し付け合い、最後に待つのは地獄のような"奪い合い"....!!)」

 

「(酷いっ....酷すぎるわっ....最後の最後、こんなに残酷な、それでいて最難関の....ッッ)」

 

 

聡明な朱美の体を、微かに、しかし高速で震わせる。

 

度胸試し───恐れとの決別。

 

死ぬよりはマシ、待つのは絶大な痛みと、失明という障害。

 

たったそれだけのこと、眼球を取り出すだけで終わる簡単な問題のハズなのに。

 

三人は、誰一人、そこから一歩も動くことが出来なかった。

 

 

「..........すが」

 

「「?」」

 

「.....わだすが、やります」

 

 

震えた声で、眼鏡を外しながら柘植はそう言った。

 

否定の言葉が、二人は一瞬出遅れた。

 

 

「だっ、ダメだよ柘植ちゃん、そんな」

 

「誰かが、やらなきゃいけねぇんだ。それならわだすが引き受ける」

 

「ま、待ってください。まだ時間は」

 

「短くなるほど、執着しちまうだけだ。覚悟が決まった内に、サッと済ましちまうのが最善だ」

 

「.....わだすの目ん玉で皆が生き残れんなら、喜んでやるべ」

 

「「っっ.....」」

 

 

『いや私が』───その言葉が二人には出せなかった。

 

親指と、人差し指と、中指で、目玉を囲う。

 

冷や汗と、悪寒と、想像が膨らむ。

 

それを取り払い、大きく深呼吸を挟む。

 

 

いける、やれる、タイミングは.......息を吐き切るその時。

 

 

 

 

 

 

グチッッ

 

 

 

 

 

 

「(..........案外、大したこと無かったな)」

 

「(何にも感じねぇ、でもやったべ。何にも見えねぇ)」

 

 

柘植は目を開ける。

 

意外な程に、開ける視界。

 

目の前には、自分の指が止まっていた。

 

 

「柘植....ちゃん」

 

「なんでっ?.....なんでできねんだ?わだす、今確かに、本気でっっ」

 

「ッッ.....柘植ちゃん」

 

 

ひびきは歯を噛み潰す。

 

彼女すら気付かない、本能による脊髄反射。

 

自分で自分を痛めることなど、柘植には到底不可能な事だった。

 

そしてひびきと朱美は、彼女がもう二度と同じ事が出来ないことを悟った。

 

─────紗倉ひびきは、自分自身に怒っていた。

 

 

 

 

 

「いいんだ。柘植ちゃん」

 

「え.....?」

 

「もう、こんな問題に手こづることないよ」

 

「ひびき....?」

 

「朱美....柘植ちゃん....二人に、おんぶにだっこで、何にも出来なかった....頼ってばっかだった....本当にごめん」

 

「だから最後は、私に任せてくれよ」

 

 

 

 

朱美と柘植は呆然としたまま、身動きが取れずにいた。

 

ただこれから彼女が何をするのか、それだけが不安に思う。

 

ひびきは息を大きく吸い込み、口にする。

 

 

 

 

「『何もしない』────答えは、何もしない」

 

「?....ひびき.....??」

 

「なんてっ....ことを....」

 

 

 

 

両手を後ろで組み、自分は何もしないということを示した。

 

状況を理解出来ていない朱美に対し、柘植は全てを理解していた。

 

不正解の責任を、ひびきは全て請け負ったのだ。

 

ひびきは意外にも吹っ切れたような、澄んだ表情を二人に見せた。

 

 

「どうせ、止められるのは分かってたからさ。これは最期の、私の我儘」

 

「二人とも、ごめんな。どうしても、これ以外の結末が嫌だったんだ」

 

「ひび、き....ひびき....そんなっ....いや...っ」

 

「悪ぃ朱美。約束、守れなかったわ。彩也香にもごめんって、伝えといてよ」

 

「いやよ"ッッ....わたしは、ひびきと一緒にっっまだ」

 

「ハハ....ありがとな。いつか、また会えたらさ.....ジム、誘ってくれよ」

 

 

涙で前が、何も見えなくなっていた。

 

柘植もまた、涙を流し、瞳を閉ざして押し黙っている。

 

そんな二人を前に、何故だかひびきは自分が誇らしく思えた。

 

自分の命が、大事な友人達を救えることに。

 

柘植もそうだが、何より朱美を、何にもなかった自分に光を刺してくれた、太陽のような友達を。

 

最期に助けられて、ひびきは心の底から幸せだった。

 

 

『紗倉ひびきさん。不正解です』

 

『ペナルティが、紗倉ひびきさんに与えられます』

 

「後は頼んだ!二人とも」

 

「い"や"ぁあぁぁああああぁあぁぁぁぁあッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドパンッッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........はっ?」

 

 

ひびきの顔面に舞う、血飛沫。

 

地べたに散乱する、肉片。

 

はっきりする意識。

 

視界。

 

鼓動。

 

呼吸だけが、激しく、複雑に、絡む。

 

 

「はぁ っ、は ぁっ?はっ、はっあ ?えぇ ッ な な んで?」

 

『解答者にとって、最悪の苦しみ。』

 

『それは今この場で、奏流院朱美さんと、柘植まさみさんが死ぬことでした。』

 

『列車が到着します。お忘れ物のないよう、お気をつけてお降り下さい。』

 

 

ゴールの扉が開く。

 

止まる列車───紗倉ひびきは、その場から動かなかった。

 

ただ下を見て、生気のない顔でふと前を見る。

 

車掌室にいる奴(本体)は、歪んだ笑みで確かに言った。

 

 

 

 

『紗倉ひびき、生きる』

 

 

 

 

抱いたことのない感情が、腹の奥から駆け上る。

 

狂いそうになる精神より、紗倉ひびきの全身を支配したのは。

 

 

 

「グォオ"オォォォォオォオオォオオオオ"オオ"オア"アアア"アアアア"アアッッ"ッッ"ッ!!!!!!」

 

 

 

憤怒、ただ一色に染められた。

 

車掌席の扉を殴り壊し、力の全てを拳に込めて、本体の顔面に打ち込んだ。

 

ガラスをぶち破り、とてつもない速さで吹き飛んでゆく。

 

すると一瞬にして姿を霧散させ、校内にはマス取り成功の放送が響く。

 

だがひびきの耳には、それは遠く及ばず。

 

自分の吐き出す罵詈雑言に、掻き消されていった────。

 

 

 

「ぶち殺してやる"ッッッ!!!!カミ"ぃぃいいぃぃぃぃいいいい"いぃぃぃぃッッ"ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『只今をもちまして、全ての夜が終わりました。皆様、校庭へお集まり下さい。繰り返します。只今をもちまして────』

 

 

全ての夜が終える。

 

BOXに残っていた者達は一目散に校庭へ駆け出し、不思議退治へと出向いた者の帰りを待った。

 

最初に到着したのは、明石達だった。

 

 

「みんな.....」

 

「明石くんッッ!!良かった、無事でっ....!」

 

「る、涙ちゃん?!」

 

「丑三、帰宅.....」

 

「アンタ達、酷い怪我じゃないっ!メイメイは?!」

 

「私は無事だよナツメグ....二人が、全部やってくれたから」

 

「いや....芽衣ちゃんがいなかったら倒せなかった.....ありがとう」

 

「!....アカッシー!!!」

 

 

明石靖人、丑三清志郎、星野芽衣、持田涙、夏川めぐ、西野スーザン花、戸呂井アキラ。

 

すなとりチーム、生存者以上七名。

 

そして不安を胸に帰りを待ち望む、残りのチーム。

 

明らかに遅い帰りに、ミツバは胸の辺りを握る。

 

 

「大丈夫....だよな。」

 

「あ、あったりまえじゃんふくみっちゃん!バキ先輩がこんなところでやられる訳ないしー!信じて待とうよ、ね?」

 

「っ....おう」

 

「それにしても.....あっ」

 

 

一歩ずつ、歩を進める三人の影。

 

互いが互いを支え合い、彩也香が真ん中になって二人に肩を貸していた。

 

重症こそ、二人は間違いなく無事だった。

 

 

「お"っ、重んもーーッッ」

 

「誰が重いってー?」

 

「違う違う!バキ先輩の方っすよ!」

 

「ハハ、ひっでぇ」

 

「みんなッッ!!!」

 

 

ミツバを筆頭に、全員が三人に覆いかぶさった。

 

骨が軋み激痛が走ったが、その顔には清らかな笑顔が浮かんでいた。

 

範馬刃牙、蓬莱やえ、上原彩也香、藤原ミツバ、福満重里、木村萌美、佐山よしか、千田真理子、志村影丸、里美ミカ、東風谷早苗。

 

いすとりチーム、生存者以上11名。

 

二チーム共に安堵に包まれるが、残り一チーム、あやとりチームの者達だけが気が気でなかった。

 

 

「3人とも、まだなのか....っ!?」

 

 

原海は無事な他チームに安堵すると共に一層不安が募っていた。

 

両手を重ね合わせる者まで現れ始め、放送が止まり遂には諦めかけていたその時。

 

───血塗られた姿で一人、紗倉ひびきがふらりと歩んできていた。

 

「ひびきちゃん....?ひびきちゃんッッ!!」

 

「....はら....かい......さん」

 

「なっ、にが、何があったんだよっ!?二人は!?その姿は何なんだ!!?」

 

「......しが」

 

「.....えっ?」

 

「...私が、二人を殺した」

 

「「「ッッ!!!?」」」

 

 

全チームが気取られる。

 

刃牙と彩也香は信じられないような目でいたが、彩也香が我先にと駆け寄った。

 

 

「ひびきッ!?」

 

「あやか.....」

 

「っ....ッッ!!」

 

 

微かに聞こえるような小さな声で、自分の名前を呼んだその顔は、この世のものとは思えない悲惨な表情で。

 

攻めることも、慰めるよりも、何より抱き合い、共に泣く事を選択(えら)んだ。

 

 

「何があったかは聞かねぇよ".....あ"ぁぁああぁぁっ!」

 

「あやか....ごめん....ごめん....ごめ"ん"っ....!!!」

 

「わぁ~~~ぉ!!!美しい友情ごっこ、微笑ましいですねぇ~~!」

 

 

高台の上にふわりと降り立ったカミは拍手をしながら食っちゃべる。

 

ひびきの怒りが再度膨れ上がるも、辛うじて理性が記憶を甦らせた。

 

最後は、カミとの勝負が待っているのだから。

 

 

「いやぁ~~まさかの同点引き分けで終了とは、いやはや恐れ入りました」

 

「人情を極めるとこうも力を発揮するとは、我ながら感無量ですよホント」

 

「ではでは....一旦、整理しましょうか」

 

 

 

「学校の七×七不思議、終ーー了ーーーー♪」

 

「これより次なる試練を発表します」

 

「始まりは、にのみやきんじろう───くすだま───まめまき───きゅうしょく───クリスマスプレゼント───トイレの花子───なれば最後は『拳』拳で決着としましょう」

 

 

「チームの枠を取っ払った最終戦。勝った者は即カミーズJr入りです。」

 

 

 

「喧嘩.....?」

 

 

 

「いえ────"ジャンケン"です」

 

 

 

 

耳を疑った。

 

そしてこの場の全員が、次には目を疑う事となる。

 

最後の───最期の夜が、今始まる。

 

 

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