バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

18 / 19
拾捌

 

 

 

 

 

 

 

「───ジャンケンです」

 

「......は?」

 

 

そう言葉を零すのも無理はなかった。

 

最後の最期、やることがジャンケン。

ルール内容は、言うまでもない。

 

当然飛び交う、不評(ブーイング)の嵐。

 

 

「落ち着けよ、みんな」

 

「「「!」」」

 

 

それを止めたのは刃牙だった。

 

カミと真っ直ぐ視線を合わせながら、落ち着いた風貌で彼は言う。

 

 

「今までこんな事ばかりだった。今回もきっとそうだ。普通なはずが無い」

 

「やっぱり君は優秀ですね!ただし今回に限ってはその考えは改めるべきです」

 

「一回勝負、負ければ勿論死(デス)ですよ♪」

 

「.....!」

 

 

刃牙の目に、カミが嘘をついているようには見えなかった。

 

しかし彼とて人の子───最後の最期が、そんな当たり前に終わる筈がないと信じてやまなかった。

 

一筋の汗をひたらせるも、彼の肩に手を置いたのは蓬莱やえだった。

 

仲間の死に、未だ立ち直れずにいる最中、やえは尚も勇敢に皆を統率する刃牙の背中に憧れていた。

 

涙を拭き切り、二人は共にカミを見据える。

 

 

「そうや。みんな、ビビったらアカンでッ!!」

 

「ここまで来たんやもん。皆で生きて、此処を出るんやッッ」

 

「ひびきぃ....朱美と柘植ちゃんの仇、取るぞぉ"ぉッッ!!!」

 

「ッ...あぁッッ!!」

 

 

悲しみに打ち震えながらも、彩也香とひびきはカミを睨みつける。

 

全員が彼女の言葉にハッパをかけられ、勇気を振り絞る。

 

しかしその勇気は、ジャンケンが普通では無いことを期待するが故に。

 

真実から目を、背けるが故に。

 

 

「ではでは♪折角ですので順番は、私的、最優秀賞受賞者のいるいすとりチームからやっていきましょう!!」

 

「最初の勇敢な挑戦者は───藤原ミツバッッ!!come on!!!」

 

「ミツバ....!」

 

「大丈夫よやえ。とっくに腹は括ってるの....あ、一応刃牙くんに一つ」

 

「えっ?」

 

「....やえをこれからも、守護(まも)ってあげてね」

 

「......」

 

 

その捨て台詞のような言葉に、刃牙は何の言葉も返してやれなかった。

 

だからこその一応、なのだろうが、彼女の後ろ姿を目に着々と脊髄から何かが這い上がってくる感覚を覚える。

 

まさか、いやそんな、そんな馬鹿なはずがあるはずない。

 

 

コレが普通のジャンケンなど、絶対に認めない。

 

 

 

「ミツバさんッッッ」

 

「!」

 

「.....受け取ったよ。アンタの想い」

 

 

 

ミツバはこれ以上ない、嬉しそうな笑顔を見せ、高台へと上がる。

 

カミと相対するミツバは、極めて冷ややかな眼差しで、始まる前に問う。

 

 

「ねぇ、カミ」

 

「はい?」

 

「これは本当にただのジャンケンなの?」

 

「だからそう言ってるじゃないですか?もしやジャンケンをドンチューノウ?」

 

「....分かったわ。アンタがどれほど最悪で、私達を軽んじているか」

 

「...時には運命もまた人の真価ですよ。ここで運を手繰り寄せられないのであれば、結局死ぬ運命(さだめ)です。」

 

「御託はいいわ。早く始めてちょうだい」

 

「....OK!」

 

 

平然を保っているように見えるミツバの胸には、様々な感情が帰来していた。

 

思い出が、人生が、雪崩込む。

 

結局自分の人生はこの世界に、何も残せなかったのだろうか。

 

 

「「さいしょはグー」」

 

 

一秒後、自分の運命が決まる。

 

ミツバは一瞬、顔を弱め、つい横目に誰かを映す。

 

此処に来てから短い間だが、初めて心から親友と思える存在に出逢えた。

 

合わない部分などない、趣味も、経緯も、会えば退屈な時間なんてなくなるくらい。

 

そんな彼女と約束した。

 

此処から出たら、一緒に沢山遊ぶんだと───。

 

 

「ジャンケン───」

 

 

死んじゃうのかもしれない。

生きて帰れないのかもしれない。

 

だったら、心に決めた答えを出そう。

 

定期テストのように暗記で覚えた答えではなく。

自分が信じて、誇りを持って出せる答えにしよう。

 

いつか貴女と、写真を撮った時、これを出したい。

 

 

人が笑う時にしか見せない、平和のピース

 

 

 

 

 

「ポンッ」

 

 

 

 

 

ミツバのチョキに対し────カミのグー。

 

平和などない、絶望的な岩石がそれを破壊する。

 

だがミツバはそれを信じない。

 

絶対に信じられない、何故かって?

 

此処には確かな平和と、確かな力があったから。

 

 

 

「やえ」

 

「ミツ...バ......」

 

「約束、守れなかったけど....いつかまた、会う時があれば」

 

 

 

「また友達に、なろう」

 

 

 

透明な、美しい涙と、貼り付けたような笑顔。

 

やえが手を伸ばした時には、そこには綺麗な、赤い赤い血が舞った。

 

 

 

バチュンッッ

 

 

 

本当に、ただのジャンケン。

 

今までの経緯など全く関係のない、個々のポテンシャルなど一切合切含まない、運。

 

その認められぬ現実が、ミツバの血によって打ち突けられた。

 

 

「ミツバ.......さ.......」

 

 

刃牙は自分の発言が頭の中で駆け回り、思考が錯綜していた。

 

 

『普通のジャンケンなはずがない』

 

 

全身の細胞が、震える。

 

仲間(家族)が死んだことに対する哀しみ、理不尽で不条理なゲームに対する怒り、油断していた自分に対する、怒り。

 

拳からは血が滲み、瞼が、揺れる。

 

彼女との記憶が還る。

 

 

『こんな何回も....刃牙にはお礼も謝罪も言いきれないわ。』

 

『いや、俺から言い出したことだ。それに、ミツバさんはリーダーだからね。しっかり頼むよ』

 

『私なんて....そんな器じゃないわ。学校でも、皆からそう言われてきたから』

 

『ここじゃそんなこと言うやつ誰一人いないだろ?そういうことだよ』

 

『!....ありがとう....そういえば、刃牙って彼女いるの?』

 

『え?あぁ、いるよ。今もどこかで、俺らと同じく闘っていると思う。』

 

『.....そう...不安よね』

 

『あぁ....でもあの人は、強いから、きっと大丈夫』

 

『....信頼、してるのね。なら、死ぬ気で生きなきゃね!彼女さんだけじゃない、誰かさんの為にもね』

 

『?....うん、ミツバさんもな』

 

『ミツバでいいわ』

 

『!....いやぁ~、なんかミツバさんは、ミツバさんが合ってるよ』

 

『ぷっ、なによそれ。壁作ってるわけ?』

 

『い、いや、そんなんじゃ...』

 

『そっ....ならいいわ』

 

 

彼女の明るい笑顔がまだ、頭に残っている。

 

鮮明に、さっきまで隣にいた仲間が、家族が───死んだ。

 

 

「嘘だろ....マジでただのジャンケンなのかよ....」

 

「無理じゃんそしたらっ....この場にいる大半は死ぬってことじゃんッ....」

 

「やばいやばい俺こんなとこで死にたく」

 

「喝"ァァァァッッ!!!!」

 

「「「!!!」」」

 

 

ミツバならこんな時、もっと冷静に、もっと効率良く皆を統率出来たのに。

 

刃牙にはこんな方法くらいしか、思いつかなかった。

 

嗚呼、やっぱり貴女は優秀なリーダーだった。

 

 

「あ"ぁ"ぁぁあぁぁあッッミツっ、バっ、あっぐっ、え"っ、えっえっ"、ぁぁああ"ぁぁぁあああぁぁあ"ッッ!!!」

 

「やえちゃんッッ」

 

「っ!....ば、き」

 

「ッッ....約束を....果たすんだ」

 

 

やえは刃牙の姿を見る。

 

熱く燃え滾り、今にも巨大な何かが爆発しそうな危うさを感じた。

 

私だけではない。

 

皆、死ぬほど哀しく、怒っていた。

 

 

「はいっ!ポンポンいきまっしょう!NEXT、東風谷早苗!!!」

 

 

 

パンッ

 

 

 

「....huh?」

 

 

既に高台へと登り詰めていた、その少女。

 

胸の前で手を合わせ、流れる涙をそのままに、静かに瞳を閉ざしている。

 

不思議な力を感じ、それを纏っているようにも見える。

 

 

「皆さん....偽物に臆してはなりません」

 

「早苗ちゃん....」

 

「私についてるのは、本物の神様ですッ!!!」

 

 

力強く瞳を開く。

 

その瞳には確かな光が、色が宿っていた。

 

言っていることといえば胡散臭い宗教じみた代物だが、彼女から感じさせるのは本物の資質。

 

その本物の光を、皆は感じ取った。

 

 

勇気が溢れる。

 

 

全員が肩を組み、手を繋ぎ、声援を送る。

 

人々の信仰が、信じる力が、彼女の奇跡をより一層高めた。

 

 

「(....諏訪湖様....神奈子様....おられますか?)」

 

『ん?どうした?』

 

「(...とても.....怖いです)」

 

『でも早苗。たとえ死んでも、こっちに来られるんだよ?何度だってこんな時、あったはずだよ』

 

「(違うんですよ...確かに、お二人に出逢えるのが本当に楽しみです....でもどうしてか、まだこの世界で生きたいと、思ってしまって.....ごめんなさい)」

 

『そうかそうか。お前がそう思ってくれて、私達はとても嬉しく思うよ』

 

『じゃあ早苗、後悔しないように、たーんと生きといで!』

 

 

二人の───否、二柱の姿が消える。

 

背中を押された早苗の目に、体に、最早恐れはない。

 

自分は、何を信じたい?

 

 

「「さいしょはグー」」

 

「「ジャン」」

 

「「ケン」」

 

 

此処に来て、初めて友達が出来た。

 

笑い合える、素敵な、奇跡のような、出逢い。

 

私はもう満足なんですよ。

 

貴方に───貴方たちに出逢えたことが。

 

 

でも少しだけ、貴方(刃牙)だけは特別でした。

 

 

私に希望を、光を与えてくれた、光そのもの。

 

貴方がどうやって生きてきたか、どうやって与えてくれたか、私はどうすれば良かったのか、全部教えてくれた。

 

そんな貴方に、敬意を評して、これを差し伸べます。

 

 

闇を全て打ち砕く、正義のを。

 

 

 

 

「(頼む、頼む、頼むッッ)」

 

「(早苗ちゃん、早苗ちゃんッッッ)」

 

 

 

 

刃牙は心の中で叫ぶ。

 

歯を食いしばり、拳も瞳もめいっぱいに握る(瞑る)。

 

友を失うことに、免疫なんてない。

 

慣れやしないんだ。

 

また、ここで出逢った皆と、また───。

 

 

 

 

 

 

『......泣くな、早苗』

 

『それが早苗の出した、答え(気持ち)でしょ』

 

「......信じては、もらえないかもしれませんが」

 

「皆さんの気持ち(奇跡)が、勇気になりました....っ!」

 

「待って、待ってくれ」

 

「刃牙さん.....ありがとうございました。また、どこかで」

 

 

 

 

ドパンッッッ

 

 

 

 

「っ"あ".....ひぅ"ぐッッ.....っ」

 

 

胸を、鷲掴む。

 

込み上げる激情が、苦しみが、刃牙を包み込む。

 

こんな気持ち、他に代えられない。

 

苦しい、哀しい、寂しい、辛い───涙が滲む。

 

 

『刃牙さん、私.....此処を出たら、転校して、一人暮らしを始めようと思うんです』

 

『へぇ』

 

『頑張ってバイトして、学費免除も受けて、本当の意味で新しい生活を始めようって...なんだか、今までの苦難に比べたら、どうってことないって思えてきたんです』

 

『うん、きっとやれるよ。今の君なら』

 

『そ、そうですかね。えへへ。バキさんにそう言ってもらえたら、より自信が持てます』

 

『あ、1個聞きたいんですけど、いいですか?』

 

『なんだい?』

 

『....髪、黒染めした方がいい、ですかね』

 

『...理解してもらえる場所なら、いいんじゃないかな。そのままで』

 

『あっ』

 

『えっ?』

 

『刃牙....さんは、緑の方がいいと思います?』

 

『そう...だね。見慣れてるからかもしれないけど』

 

『そ、そうですか!なら、このままにします!ふふっ』

 

 

これからの人生に、光を見ていた彼女の想い。

 

運で、ジャンケンで、決める。

 

これは悪い夢だ。

 

そうに決まっている。

 

ただ前を見る度に、聳え立つ死神が、首を刈り取る。

 

 

「NEXT、里美ミカ!」

 

「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ」

 

 

ドパンッッ

 

 

「三連勝~~!!はい次っ、南方沙奈!」

 

「光圀....絶対、勝つから」

 

 

ドパンッッ

 

 

「4連チャン!!激ヤバですねぇ。さっ、巴光───」

 

「クッソがァァァアアアアッッッッ!!!!!」

 

 

 

ドパンッッ

 

 

 

「あらら?ちょっと勝ちすぎた。それとも皆さん運が無さスギ??」

 

「そろそろ勝ってくださいよ~?ミスター福満重里」

 

「ッッ....クソ、手が、震えて....動けねぇよ」

 

「バカっ、ちゃんとしてっ、ふくみっちゃんっ!!」

 

「で、でもよぉ....ッ」

 

 

福満は絶対的恐怖に打ち震えていた。

 

そこまで勝つ確率は低くないはずが、既に5人が死んだ。

 

共に生きてきた仲間が、こんなにもあっさり、死んでゆく。

 

信じられない。

 

まるでゲームの駒、好き放題使い捨てられる、唯の駒だ。

 

高台に登った時には、福満の頭の中は真っ白になり、走馬灯のように一からの人生が呼び起こされる。

 

なのに、重要な何かが思い出せなかった。

 

 

「(ばっちゃんっ、ばっちゃん、ばっちゃん、怖ぇ怖ぇ怖ぇ怖ぇッッ)」

 

「いきますよ!最初はグー!」

 

「(始まっちまった、ばっちゃん、あ、なんだっけ、なんかこう言う時にいい方法が)」

 

「ジャンケン」

 

「(なんだっけナンダッケ何だっけ思い出せ思い出せ思い出せよぉッッ)」

 

「ポンッ」

 

「(間に合わへぇ......っ)」

 

 

弱々しい、緩やかな、ひらひらっとした掌が差し出された。

 

ところどころ関節が曲がり、頼りない、そんなパー。

 

震える掌───固く握られる、拳。

 

 

勝負は、勝ち。

 

 

 

 

「おっ、なんか安心。ようやく第一号誕生ですね」

 

「へっ....?」

 

「さっ、合格者は先に待機しといてくださいね~!」

 

「お、おぉ、おぉっ!勝った....っ?」

 

「「「おぉぉッ!!!」」」

 

 

シャボン玉のようなものに包まれた福満は、空の彼方へと飛んでいった。

 

彼の胸に生まれるのは、どうしようもない安心感と喪失感だけだった。

 

ただまだ希望は残っていた。

 

福満は萌美に、まだ声の届く距離の間に告白(つ)げる。

 

 

 

「萌美ッッ!!好きだッッッ」

 

「っ!」

 

「生きろよッッ、絶対生きてくれよッッッ」

 

「.....うんっ」

 

 

 

「ふふっ、それでは愛の告白を受けた木村萌美、上がっちゃいなよ」

 

 

 

此処へ来るまで、木村萌美は所謂、尻軽女だった。

 

包み隠さず言えば、そういう経験は初めてじゃないし、男だって何人も落としてきた。

 

女としての魅力に満足はいっていたが、ただ何というか、漠然とした不満があった。

 

 

こんな浅い恋愛、したいんじゃないんだけどなぁ。

 

 

本当の意味での恋人、それが自分の望み。

 

生き死にを争う戦場で芽生える、新しい自分。

 

真っ直ぐで、純粋で、どこか頼りなさげだけど、ちゃんと芯がある。

 

そんな福満を気にかけ、そして告げられた恋心。

 

両想いになれた事が、堪らなく嬉しかった。

 

私も同じ気持ちだって、伝えたい───。

 

 

 

ドパンッッ

 

 

 

「「萌美ぃッッ!!!」」

 

「はい次。佐山よしか」

 

「やめてくれ」

 

 

 

ドパンッッ

 

 

 

「またまた2連勝!今日は運が良いですねぇ我ながら。千田真理子カモン♪」

 

「頼む....ッッ」

 

 

 

ドパンッッッ

 

 

 

「ぜっこーちょう!NEXT、紫村影丸」

 

「ひ、ひぃっ~~~~~ッッ」

 

 

 

 

ドパンッッッ

 

 

 

 

「もう"やめてくれぇッッッ」

 

 

早苗が残してくれた、奇跡の力による発破も、次第に効果を薄ませ、静寂を生む。

 

刃牙は泣き崩れていた。

 

過去、こんなにも胸が苦しむことはなかった。

 

自分がこんなにも、彼ら(いすとりチーム)を愛していたなんて知らなかった。

 

一人一人が、家族同然だったのだ。

 

たった十数日の関係と言われればそれまでだが、その期間がとてつもなく濃密で、長くて、自分にとってかけがえのないものだった。

 

それがこんな、こんな選別で、壊されてゆく。

 

 

刃牙の力無い姿に、他チームの者達は言葉を失っていた。

 

あんなにも、彼が壊されているのは、初めて見たからだ。

 

 

「さぁ次は、上原彩也香。C'mon」

 

「やえ先輩」

 

「う"っ....ぅ?」

 

「バキ先輩を、頼みます」

 

「あやか.....ちゃん.....っ」

 

 

意外にも悠然と、落ち着いた足取りで彩也香は高台へ上がる。

 

ひびきには大丈夫だと言うよう、笑顔で拳を見せつけた。

 

やえは刃牙を介抱しながら、彼女の背中を見つめる。

 

今までに無い、信念のような強い気配を感じた。

 

 

「なぁカミ」

 

「はい?」

 

「アンタ、人の心とか読んでんじゃないよな。」

 

「はっ、まさか。それでは選別の意味がありませんからね」

 

「神に誓えるか?」

 

「はい♡」

 

 

鋭い目つきで、呼吸を整え、構える。

 

本当に運でしかないと。

 

皆はたった33%の確率を外していっただけなんだと。

 

そう言いたいのだと。

 

 

───許せない。

 

 

彩也香は決意する。

 

皆の悔いを、代わりに下す。

 

出す型などとうに決まっている。

 

自分がどうなったっていい。

 

これからの人生がどうなろうたって構わない。

 

絶対に、譲れないモノが───

 

 

「さいしょはグー」

 

「ジャンケンポ」

 

 

 

ドグシャァッッッ

 

 

 

「ダラ"ァアアァァアアアアッッッ"!!!」

 

 

平たい掌を、堅い拳が貫く。

 

一発で良かった。

 

拳を打った瞬間に、負けたことは理解していたが、最早関係なんてなかった。

 

その綺麗な面を、血で汚してやれれば満足だった。

 

生きたかった気持ちに、一発ぶちこんでやる気持ちが勝ってしまった。

 

悔いはなかった。

 

 

「ひびき!やっちたっ!」

 

「あやかっ....だめだ」

 

「あー、すまん!どうしてもコイツ、ぶん殴りたくてさ.....生きてくれよ、最後まで」

 

「それとバキ先輩!」

 

「!.....あやかちゃん」

 

 

 

 

彩也香は少し、小っ恥ずかしそうに言った。

 

 

 

 

「やえ先輩にゃ悪いんだけどさ」

 

「ちょっとだけ....バキ先輩の事、好きだったよ」

 

 

 

 

ドパンッッッ

 

 

 

 

手で土を掻き、足で土を掻く。

 

無我夢中で、全力で駆けた先は、カミの麓。

 

 

「ふっふふ、カミを殴るなんて。逸材でしたが残念」

 

「返せぇ"ぇぇえぇぇえええええええ"えええ"ええッッッッ」

 

「おやおや。貴方の番はまだですよ」

 

 

 

 

ピンッ

 

 

 

 

普通のデコピンが、バキの額を打ちつけると、前代未聞の衝撃が走る。

 

一瞬で空中に放り投げられると、学校の壁に身を打ち付ける。

 

涎を垂らし、またも初撃で刃牙の意識を奪い去った。

 

 

「バキくんッッ、起きてバキくん"ッッッ」

 

「Hey!次はあなたですよ?蓬莱やえ。」

 

「~~~~ッッ分かったよッ、やればええんやろッッ!?」

 

 

落ち着かないまま、刃牙から手を離そうとしたその時。

 

手首に何か違和感が残る。

 

振り返ると、気を失いながら、力無くやえの手首を掴む少年の姿があった。

 

 

『行かないでくれ』

 

 

そう言っているように聞こえたやえは、一気に表情をたわませ、抱きつきながら唇を寄せる。

 

 

「好き、大好き、大好きやからッッ」

 

「うちがっ、ウチがおるからっ、きっとっ、また会えるからっっ」

 

「信じてて....良い子やから」

 

 

やえは戦場へ向かう。

 

少年を置いて、戦士は戦いへと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───へい」

 

「Heyボーイ、Youの番ですよ」

 

 

「起床ォォォ力ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

「っ!?」

 

 

叩き起されるように、その大声によって少年は目を覚ます。

 

咄嗟に周囲を見渡すと、自分以外、既に誰もいなかった。

 

ガランとした、空虚なその場所に、妙な虚しさを覚え、そして記憶が蘇る。

 

死んだ。

 

皆死んだ、このふざけたゲームで。

 

誰がやった?

 

 

「時間ありませんから、チャチャッとやっちゃいましょ!」

 

上体を起こし、高台へと上がる。

 

彼の表情からは何も読み取れず、ただぼーっとカミの目を見つめていた。

 

そしてふと、思い出す。

 

 

 

「やえちゃんは......」

 

「oh、あのガールが気になりますか?どうなったか」

 

「.....」

 

「ぷっ、そんな真剣な顔しなくても!安心してください、ちゃんと死にましたから」

 

「は....?」

 

「あ、折角なんで録画しといたんです。どぞ」

 

 

 

カミの頭上にモニターが現れる。

 

先刻とは打って変わった呆然とした刃牙の表情は、一体何を思うのか。

 

瞳孔には最早光がなく、虚ろな、前を見ているはずがどこを見ているのか分からなかった。

 

カミは終始、何の反応も寄越さない少年につまらなそうに首を横に振った。

 

爆散するやえの体を前に、一瞬だけ揺れる。

 

 

「壊れちゃいました?イイ反応すると思ったのに」

 

「......生きなきゃなぁ....でも、ごめんなぁ.....」

 

「はい?」

 

「...........してやる」

 

「はぁ??もっとおっきい声で、はいRepeat!!!」

 

 

澄んだ表情とは裏腹に、刃牙の肉体はこれ以上にないほど熱く膨れ上がる。

 

内側から、必死に繋ぎ止めていた獣を、縛り付けていた鎖を、今解き放とうとしていた。

 

 

「殺"してやら"ぁあぁああ"ああ"あ"あ"あアア"ァァアアッ"ッッッ!!!!!」

 

「ぷはっ!聞こえてますよ、そんなでっかい声出さなくても♡」

 

 

 

 

 

『ダメやバキくんッッッ、行っちゃダメやぁぁッ!!!』

 

 

 

 

───合格者は誘われた、遥か空中にある一軒家(待機場)へと。

 

そこに蓬莱やえは存在していた。

 

全てブラフ、カミが作り上げたウソそのものだった。

 

テレビに映し出されている刃牙の姿を目に、やえは叫ぶ。

 

しかしその叫びを届けるには、あまりに距離が離れていた。

 

 

 

ガシッッ

 

 

 

飛びかかるバキの頬を容易く掴み、動きを止める。

 

暴れ回るが、その小柄な容姿とはかけ離れた、巨木のような微動だにしなさが骨身に染みる。

 

 

「ホラ、じゃんけんしますよじゃんけん。なんでもいいんで出してください」

 

「ヌ"ガャ"アァアアァ"ァ"ァ"ァアアアア"ッッッッッ」

 

「あーらら、何が何でも出す気ないんですね。なら───」

 

 

 

パパパンッッッ

 

 

 

たとえ動きを封じられた状態でも、刃牙の拳脚は全世界随一の『質』。

 

0から100へ、発勁のイメージ。

 

本来動かす際の関節の動作を縮め、少年の攻撃はカミの『肉体』を迅速に破壊した。

 

しかし刃牙が一つ瞬きした時には、綺麗な素顔に元通りだった。

 

 

 

「で、あれば....."勝負なし"ですね。」

 

「範馬刃牙。ご退場願いましょう」

 

 

 

カミは不敵な笑みを浮かばせ、人差し指でこう、円を描く。

 

すると、巨大な爆弾がカミの手に現れる。

 

学校など諸共吹き飛ばしてしまいそうなほど、巨大な、それでいて素朴な見た目の爆弾がバキの目の前に───眼前に。

 

 

 

バカァァァァアアアアアンッッッ

 

 

 

『いや.....イヤや.....そんなっ.....!!』

 

『リーダーッッ!!!!!』

 

 

やえはぽろぽろと涙を落とし、福満もまた抑えきれない涙を散らす。

 

ぷす、ぷす、とそこらが焦げ落ちる。

 

重度の火傷を負い、身動きの取れないバキの頭皮を掴み、またも空に円を描く。

 

すると今度は、そこに闇の円が現れる。

 

先に何があるかは、カミにすら知らない。

 

 

「生きるか死ぬかは勝手ですが、とにかく貴方はもう『部外者』ですので....」

 

「...シーユーアゲイン♪」

 

 

 

 

 

 

『あ"ぁぁぁイヤやァ"ァァッッ!!!バキぃぃいいい"いぃいいぃぃぃいいい"いいッッッッ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────少年の体は闇、もとい海の中。

 

もがく最中、静かに決める。

 

必ず、必ず報いを受けさせると。

 

この手で、死んでいった友の為に、俺が決着(ケリ)をつけると。

 

少年の体を動かすのは、暴れ狂う怒りと哀しみ。

 

そして、大きな、どす黒い怨念(うら)みが海の中で蔓延する。

 

その意志を感じ取った海の民(魚類)たちは、漏れなく少年の体から逃げる。

 

波が、海流が、連れ去る───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───私達、これからどうなるんですかね?☆」

 

 

街中を歩む3人の少女の一人、名を『本郷姫奈』。

 

表沙汰では皇桜女学院の学生として生きる一学生であるが、その本性はある女子裏格闘技を賑わせる超異端児。

 

両眼に刻まれる星は、底のない狂気を感じさせる。

 

ある者は『革命児』ある者は『日本一危険な女子高生』と囁く、謎多き少女である。

 

 

「そろそろ全部の立方体が終わるよ。まぁ間違いなくなんか起こるだろうね」

 

 

もう一人、黒き瞳を持つただならぬ雰囲気を醸す少女がいた。

 

黒き瞳は伝説の暗殺一家『呉一族』にのみ遺伝する特異点であり、飛鳥時代から1300年と極めて古い歴史を持つ。

 

優秀な外部の種を取り入れ続けた結果、生まれながらにして強靭な身体と戦闘力を持ち、またその影響で戦闘から鍼治療に至るまで、様々な秘伝の技術を持つ『禁忌の末裔』の名で知られる暗殺集団。

 

その一家の一人、名を『呉迦楼羅(くれ かるら)』。

 

 

 

 

そんなえげつない経歴を持つ二人に挟まれるのは。

 

至って普通な、平凡な女子高生だった。

 

 

 

 

 

「梢江ちゃん?どうかしましたか?☆」

 

「大丈夫?梢江」

 

「う、うん、大丈夫.....!」

 

 

 

 

 

 

 

「(刃牙くん.....何処にいるの.......?)」

 

 

 

 

 

 

 

第一章 完

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。