バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

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弐拾

 

 

 

 

 

 

 

 

『───先程、108個目の立方体から神の子が誕生しました。』

 

『よって全ての立方体の選別が終了したということですが、前島さん、いかがでしょうか?』

 

『....非常に申し上げにくいことではありますが、これで終わりとは思えませんね。』

 

『新しい神の選別、が目的だとするのから、合計311名という数字は明らかに多すぎると思いませんか?』

 

『せめて2桁....いえ、1桁が妥当ではないかと....し、失礼しました。ですから私が言いたいのはですね...』

 

『決して気を抜くべきではないということです。更なる選別は、もしかしたら明日....いえ、きょ』

 

 

 

 

プツンッ

 

 

 

 

全国、全世界のあらゆるモニター、チャンネルが変わる。

 

その様子を、スクランブル交差点で梢江達は見る。

 

その画面に映る、如何にもな男を前に皆は悟る。

 

これから闘う、対峙する相手を。

 

 

『───あー、映ってる?これ....お、どーーーも。』

 

『神小路かみまろです。』

 

 

長髪、異質な骨格、鋭い爪、体毛に覆われた土手っ腹。

 

おおよそ普通とはかけ離れた外見が、あるものと連想させる。

 

彼自身が口にする、神という存在を。

 

 

 

「降りてこいゴラァァァッッ!!!ぶっ殺してやるお前ッッッ!!!」

 

 

その時、全世界から放たれる殺気を代弁するかのように、ある一人の少年の怒号がモニター内に入り込む。

 

怒りと恐怖が入り交じったような震えた声は、彼の壮絶な運命を想像させる。

 

梢江達も、また同じだった。

 

仲良くしていた友達を、好きだった学校を、もう二度と還らぬ物へと変えられた怒りは。

 

迦楼羅と姫奈に奇しくも笑みを浮かばせ、梢江は静かに深呼吸を挟み、睨みつけた。

 

 

『おー、怖。とりあえず俺が今世紀の神です。そして君達が新世紀の神です』

 

『まず第一の箱。高畑瞬、天谷武、秋元いちか────第十三の箱。久保涼二、ジーナ・ボイド───第五十五の箱.....』

 

『以上、302名。』

 

 

一から百八までの生存者全員の名前を読み上げたその男。

 

巨大なサイコロの上で余裕綽々と語るその姿は、宛ら神そのものだった。

 

だが真実は、時として呆気のないもの。

 

ある者達は見抜いた。

 

その男は、間違いなく人間であるということに。

 

 

『お前らは一の箱だから一年生。明日七時半。このゼッケンをつけて、みんなそれぞれのサイコロに集合。』

 

『動きやすい格好で来ること。』

 

『あ....それと弁当持参。以上、神小路かみまろでした。』

 

『解散。』

 

 

正体を隠す気などさらさらないような、その電波ジャックは彼が国幾つ相手にしようとも関係の無いことを意味した。

 

邪魔はない。

 

必ずその選別は、明日行われる事が分かった。

 

 

「へぇーーー!☆ あのおじ様が神様ですかー?確かに雰囲気はありますね☆」

 

「でも良かった....相手は人間だ。勝てる方法が必ずある」

 

「神小路....かみまろ」

 

 

───幾許かの休息は、突然として幕を閉じる。

 

神の子達は『ゆくか』『ゆかぬか』の狭間に立たされる一日となった。

 

だがその一日は、ある者達にとっての、最大の闘いを迎えることになる。

 

始まりは、ある『孤島』から始まった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァ.....

 

 

ザブン.....キュキュ.....ザァ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き馴染みのあるような、ないような、波と鳥の音色。

 

心地良いような、良くないような、いずれにしてもどこも動かない。

 

呼吸だけ、辛うじてしているような気がする。

 

そんな漠然とした感覚が、頭の片隅に小さく残る。

 

嗚呼、こんな感じか、死ぬって───そうとだけ思い、後のことは身を委ねることにした。

 

 

「───おい、珍しいこともあるもんだ。漂流者だぜ」

 

「まさか。海流に流れただけじゃ絶対に辿り着けん島だぜ?」

 

「それにこの島の周りは奴(鮫)が彷徨いてるはずだ。コイツを避けてきたってのか?」

 

「とにかく、『ボス』のとこに連れて行こう。話はそれからだ」

 

 

抵抗する気など、微塵も起きなかった。

 

抱えられ、数時間ほど縦に揺られながら時を待つ。

 

意識も朦朧としたまま、ある場所へ着く。

 

木造ながらも立派な家の中に寝そベられ、体を拭かれ、口元に水と僅かな食事を運ばれたような気がする。

 

死を覚悟したまま、睡魔に従った。

 

 

 

 

「Good morning。ミスター・バキ」

 

「.......ぁ」

 

「歓迎するよ」

 

 

 

 

顔を覗き込むように現れたその顔は、見覚えがあった。

 

確か刑務所、アメリカ、ブラック・ペンタゴン。

 

元々はしがない『小童海賊』だったが、ある日島の独立を宣言し大統領を名乗る。

 

だがアメリカ統治下であったその島の独立をアメリカは許さず、武力行使による脅しで独立を取りやめさせる計画を立てる。

 

だが彼はその展開を見通し、父より受け継がれし無影流忍術と、想像を絶する鍛錬の果てに、選りすぐりの精鋭軍団が完成する。

 

そして容易く、大統領含む、一家人質。

 

以上をもってアメリカは降伏。

 

所有する組織の危険度から大国と等しく扱われ、その頭領である彼は、人工衛星で24時間の監視を徹底されるに至る。

 

名を純・ゲバル。

 

 

「どうやら、こっぴどくやられたみたいだ」

 

「まさに『心身共に』な。」

 

「ただ、此処に辿り着いたのは、偶然って訳でもないようだ。ん?」

 

 

コップ一杯の水を差し出され、受け取る。

 

そう、その水を受け取ったのは、刃牙だった。

 

 

「アンタ、あれから何日寝ていたか知ってるか?3週間だぜ?流石に土に埋めてやろうかと悩んださ。ハハ」

 

「......なんで助けたんすか」

 

「!...そりゃ、どういう意味なのかな?」

 

 

死んだ魚のような目で、小さく呟いたその言葉は、ゲバルの耳には『何故助けてしまったんだ』と聞こえた。

 

横になったまま、頭の中で蘇るあの日の記憶。

 

涙と、鼻水が、死んだ面に滲んでゆく。

 

 

「全部....誰も....守護れなかった。」

 

「....アンタもそんな風に泣くんだな。そうか。話くらいは聞いてあげよう」

 

「.....」

 

 

刃牙はうわ言のように経緯を話した。

 

何故だがゲバルの顔と言葉に、甘えてしまった。

 

話すごとに、微かに感情が蘇り、心の中で一喜一憂しながら一つ一つ、鮮明に、記憶の仲間達のことを話した。

 

気が付けば、日が暮れていた。

 

そんなに長く話すことも無いだろうに、あまりに濃厚な思い出が、時間を奪い去った。

 

互いの顔が見えなくなってきた頃、ようやく言葉が尽きた。

 

 

「なるほど.....あまりに美しく、そして儚いものを手にしてしまったんだね」

 

「だがそれはかけがえのない宝物....決して手放しては(忘れては)いけない。いいね?」

 

「分かった....分かったよ、ゲバルさん....ありがとう...」

 

「....よし。飯にしよう。今日は歓迎の印にこの島の名物を用意しようか」

 

「これからの話は、そこでするとしよう。」

 

 

刃牙の感情は溢れんばかりの何かでいっぱいになった。

 

その正体は分からずとも、何故か、心が落ち着いた。

 

怒りが消えた訳ではない、悲しみが消えた訳でもない。

 

ただ信じているのは、皆はあの青空から見守っている事。

 

自分を、支えてくれていること。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「飲め飲めっ!!宴だ宴ッッ!!」

 

「い、いや、未成年だから.....」

 

「バーカ!そりゃ日本の法律だろッ!ここは未成年でも酒タバコOKだよ!!」

 

「馬鹿ッ!煙草はもう無しんなったろうがッ!!」

 

「あっ、いっけねッッ」

 

「「「ハハハハハッッ!!!」」」

 

「ようバキ、楽しんでるか?」

 

「あ、はい、賑やかっすね」

 

「コイツら盗み聞きしてやがったんだ。気遣ってるつもりなのさ」

 

 

焚き火を囲み、島民の者達と食事を共にしていた。

 

バキの隣に座ったゲバルは、和やかに話しかけた。

 

 

「どうだい。だいぶ落ち着いたようだが」

 

「....えぇ、お陰様で....こんなご馳走まで頂いて、めそめそしてらんないっすよ」

 

「久々の観光客だ。もてなしもするさ」

 

「....貴方も十分、お人好しだ」

 

 

ゲバルは目を丸くさせた後、笑いながら首を横に振った。

 

過去、ゲバルと刃牙はビスケット・オリバを打倒するという同じ目的で出逢った間柄。

 

加えて刃牙には史上最大の目標も目前にしていたため、血の気も多く、その時には随分失礼な態度も取った。

 

ゲバルからすれば、とんだ悪ガキだったろう。

 

そんな自分を、当たり前のように受け入れてくれている。

 

 

「このご恩は....一生忘れません...ッッ」

 

「勘違いしてもらっちゃ困るな。俺はただ、お前から面白い事が聞けるかもと思っただけだ。」

 

「だとしても....俺にもう一度、機会(チャンス)を与えてくれた大恩人ですッッ」

 

「.....やる気かい、神と。」

 

「あぁ。ケリをつける」

 

 

二人は暫く見つめ合う。

 

赤く輝く眼の光が、ゲバルの全身を強く揺さぶった。

 

肩を組み、特製の酒を一気に飲み干した。

 

 

「死ぬにはいい日だ。」

 

「.....そんなの、一度だってない。」

 

「その通り....いつだって、今日を生きるしかない」

 

「───船出の時だ」

 

 

『船員』達の視線が一気にゲバルへ集まる。

 

その表情たるや気炎万丈、漲るような、ワクワクとした笑みが張り付けられる。

 

刃牙は唖然としていたが、何かが始まる予感がした。

 

 

「ボスッッ!!」

 

「ボスじゃねぇ。船長(キャプテン)だ」

 

「「「おぉッしゃぁッッッ!!!」」」

 

 

太鼓が鳴る───笛が鳴る─────嵐が来る。

 

バサバサと風に煽られるゲバルの衣服は、長い長い船出の時を報せた。

 

ところが、ゲバルが片腕を天に向かって突き上げる。

 

するとピタッ、と声も、太鼓も、風すらも止んだ。

 

静寂の中、ゲバルが刃牙を見下ろしこう言った。

 

 

「さあ、どうする?生憎明日から"向かい風"だが」

 

「.....イエス キャプテン」

 

 

固い、固い握手を二人は交わした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「「「.......」」」

 

 

カミーズJrが集う、異空間に浮かぶ一軒家。

 

リビングに居座る皆の顔は、暗雲に覆われていた。

 

あの後、レッスン1『帰宅』により、自分の最も大切な物を持ってくるという至極単純な試練があった。

 

そしてレッスン2『鬼退治』。

 

それは地獄と言うより、戦争に近かった。

 

桃太郎、金太郎、二人と相対するのは自分達(鬼)。

 

激闘の末、生き残った数人には、生き残った実感と耐えようのない喪失感だけが漂っていた。

 

 

「......」

 

 

『明石靖人』

元すなとりチーム、リーダーだった少年。

 

あの後、ジャンケンにて、すなとりチームで生き残った者は『明石靖人』『丑三清志郎』『持田涙』『星川芽衣』『夏目メグ』の四人に絞られた。

 

そして『鬼退治』にて、夏目メグと星川芽衣を喪い、生き残ったのはその三名だった。

 

『丑三清志郎』

 

『持田涙』

 

二人は明石の両隣に、ただ座っていた。

 

 

「.....こんなこと、いつまで続けたら、いいんやろ」

 

 

体育座りで俯き、そう呟くのは『蓬莱やえ』。

 

唯一のいすとりチームの生存者、福満重里を喪い、唯一ただ一人生き残ってしまった。

 

その声は力無く、限界はもうとうに超えていた。

 

親友、友人、恋人(恋した人)、全てを喪った今のやえの目には、真っ暗な絶望だけが浮かび上がった。

 

 

「......勝つまでだ。私は、絶対諦めない。」

 

 

そして最後の一人『紗倉ひびき』。

 

あやとりチームリーダーにして、唯一の生存者。

 

彼女は折れずにいた。

 

最期まで立ち向かった彩也香と、刃牙の姿が背中を押し続けた。

 

次なる試練に、神経を研ぎ澄ます。

 

 

以上、五名がカミーズJrとして選抜された。

 

 

 

「───皆さんお疲れ様でした♪どうでした?『戯(アジャラ)』は?」

 

 

 

セイン・カミが地面から現れる。

 

『戯』とは鬼退治の試練にてカミから付与された、擬似的な神の力である。

 

自分の最も大切な物、それを媒介に超能力的なまでの力を発揮するというもの。

 

上機嫌なカミを前に、殺意を剥き出しにした明石がその能力を使おうと『サッカーボール』を手に取った。

 

───しかし、何も起きなかった。

 

 

「残念。『戯』はとっくに没収済みです♪」

 

「ッックッソぉぉぉッッ!!!お前っ、お前はっ、何なんだよッ。こんなことさせて、何がしてぇんだよぉッッ!!」

 

「だから言ったじゃないですか。貴方たちには神の子と戦っていただきます。」

 

「あのかみまろってヤツ、お前ら仲間なんだろッ!?裏があるに決まってるッッ」

 

「.....♡」

 

 

カミは怪しい笑みを不気味に浮かばせる。

 

明石は歯を噛み潰すので精一杯だった。

 

何をどうしようと、カミを倒すことは出来ないからだ。

 

例えそれが、地上最強であっても。

 

 

「安心してください。次が最後のレッスンです♪」

 

「最後....?!」

 

「レッスン3は『影踏み』!対戦相手は神の子です!!」

 

「これから貴方たちには第一の箱の神の子....つまり一番最初に選別を合格した猛者達と戦っていただきます!」

 

「ルールは影踏み。選別を終えた休憩中の彼らにバレず、隙をついて影を踏んでください。」

 

「これを終えればとうとう神の子VSカミーズJrの決戦の時です。これはそのための準備みたいなものですから、殺し合いはNGですよ」

 

 

 

どぷんっ

 

 

 

「なっ!?」

 

「影が....っ」

 

 

皆の体は自分の影に飲み込まれてゆく。

 

黒い水のような感覚で、何故か泳ぐことが出来ずに溺れ始める。

 

やえは暴れることもなく沈んでゆく。

 

これからどうなろうか、生きようが、死のうが、先に見えるのは暗闇だけだったから。

 

 

「You達がカミーズJrだとバレたらOUT。影を踏む姿を見られてもデスですよん♪」

 

「まあ詳しいことはカミーズフォンでお確かめを~~~」

 

「(ヤバッ、息がッ.......!?)」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッゲホッ.....?」

 

 

やえが放り出された先は、地上の世界。

 

場所はどこかの建物の廊下。

 

咄嗟に身を隠し、息を整える。

 

 

「(何処やろ、ここ.....足音がする)」

 

「(あ、いた....カメラを持ってる?.....あの雰囲気、もしかしてここ、TV局.....?)」

 

 

やえの推察通り、その建物はTV局内。

 

人の目を欺きながら進むことは困難を極める。

 

一度カミから渡されたカミーズフォンを手に取り、電源をつける。

 

そこにはターゲットの位置を知らせるレーダーが映し出されていた。

 

その名は『秋本・クリストファー・健人』。

 

 

「この人がウチのターゲット.....分かりやすくて良かった」

 

 

ハーフ顔に金髪、それに肥満体型。

 

人の目を引き、何より影も大きくなることから、影を踏むこと自体の難易度は低そうだが。

 

一般人がTV局にいることは基本許されないため、見つかれば追い出されることは必至だろう。

 

慎重に、一歩一歩、着実に、やえは自慢の脚力で廊下を巡る。

 

 

「この後のスケジュールなんだけど.....ん?」

 

「どしました?」

 

「いや、なんか.....なんでもない。」

 

 

 

不思議と、身を隠す力が養えていた。

 

鬼退治で散々逃げ回り、隠れてきたからか、背後を忍びながら物陰に隠れるくらいは造作もなかった。

 

生き死にの闘いは不本意ながらも、やえに生き残るための力を与えていた。

 

 

「ふぅー.....よし、誰もおらへんな....」

 

「なんかあの奥騒がしいような....行ってみ───」

 

「あの」

 

 

やえの体が固まる。

 

誰も居ないはずのこの空間で、何故か自分の背後にいる誰か。

 

振り向きも出来ず、黙り込む。

 

 

「こんな所で、何してるの?」

 

「あ.....いえ、その....しょくば、体験で....迷って....」

 

「....君.....」

 

 

 

 

 

 

「カミーズJr?」

 

 

 

 

ドキッッッ

 

 

 

 

「はッッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

自分の正体を、他者に知られてはならない。

 

破れば、死。

 

何故知られているのか、何故これから死ぬのか、分からない。

 

 

「(あぁ....死ぬんやなぁ、ウチも)」

 

 

十分ここまでやったろう。

 

今まで散々おんぶに抱っこだったんだ。

 

自分の最後なんて、このくらい呆気ないものだろう。

 

けれど、最期に人の姿くらいは見ておきたい。

 

驚きの風貌のまま、やえはそんな不思議な存在へ振り向いた。

 

───そこには、涙を流す老人がいた。

 

 

「あの....分かりますか?俺の事」

 

「......へ...?」

 

「....あぁ、これはその、事情があって....顔知られちゃいけなくて....」

 

「いや....あの....え?」

 

「.....俺だよ」

 

 

 

 

「バキ。範馬刃牙です。生きてて良かったよ。やえちゃん」

 

 

 

 

真っ暗だった世界に、射し込んだ一筋の灯り。

 

誰が相手だろうが、あの人なら何とかしてしまうだろうな。

 

そんな風に考えるような、過去の人だった。

 

過去にすがるのはやめよう、やめよう、やめようと。

 

考えていた、そんな矢先。

 

私の、私達の『最強』が────。

 

 

「───こっ、ちの....こっちのせりふだよぉ"....ッ」

 

「今まで、どうしてたん"?.....どこで、なんで....なに、してたん"....?」

 

「後でちゃんと話すよ。」

 

「うん....う"ん"っ.....ふっぐっ"ッッ.....」

 

 

場所が場所のため、抑え込む。

 

涙も鼻水も止まらない。

 

生きていて欲しかった人が、生き返って欲しかった人に、身を委ねると、こんなにも堪らなくなるのを初めて知った。

 

止まらなかった、数分、数十分、延々と彼の胸の中で泣いた。

 

あまりにも、耐え難かったから。

 

そしてそれは、互いの希望が、生き返った瞬間だった。

 

 

 

「───そう....うん....分かった....」

 

 

 

全てを聞いた。

 

カミの嘘、それからの事、今の事。

 

心は痛む。

 

だが、彼は安堵していた。

 

まだ待っていてくれている人がいると。

 

 

「今生きているのは、ウチと明石と、丑三、涙ちゃん、ひびきちゃんの五人や」

 

「....ごめん」

 

「...謝らんといて。天国にいる皆も、バキくんが生きとることに凄く喜んでるだろうから」

 

「....みんな、上で見ていてくれてるかな」

 

「きっとそうだよ。苦しみも、悲しみもない世界で、みんな過ごしてるよ」

 

 

二人は微笑む。

 

口元は見えないが、彼の目は間違いなく生きていて、光が灯っていた。

 

聞きたいことは山ほどあるが、今はまだ、その時ではない。

 

 

「にしても、なんで正体バレても大丈夫なんやろ...」

 

「まだ俺もあの中の一員なんだろう。追い出されこそしたけど、多分登録は取り消された訳じゃないんだ」

 

「そっか....でも、これからどうすれば....」

 

「やえちゃん。俺の我儘、聞いてくれないか」

 

「え?」

 

「けどこれは、もしかしたら、君と俺どころか、みんなを死なせてしまうかもしれない」

 

「それくらいリスキーだけど....これは、たとえ死んでもやりたいことなんだ。」

 

「!」

 

 

刃牙の目に、赤い光が灯る。

 

覚悟、執念、あらゆるものが込められた瞳を前に、やえは呆れながらもクスッと笑った。

 

 

「もちろん、自信はあるんよね?」

 

「当然。」

 

「...分かった。ウチの命、くれたるわ!」

 

 

拳を打ちつけ、明るく笑う。

 

そうこなくちゃと、刃牙も口角を吊り上げる。

 

 

「で、どうするん?」

 

「───ん?おい君達ッ!!ここで何をしてい」

 

 

 

ドッッ

 

 

 

「御免。」

 

 

無造作な蹴りが、的確に顳顬を打ち抜き、意識を手放させる。

 

後続の数人が、二人を取り抑えようと襲いかかるが、そのことごとくが一瞬で、かつ無傷で崩れ落ちる。

 

 

「御免....」

 

「(刃牙くんや....ほんとに、刃牙くんがっっ)」

 

「急ごうッ」

 

「ひゃっ!?」

 

 

やえを抱きかかえ、バキはTV局内を駆け巡る。

 

目的地は、ターゲットの背後(影)一直線。

 

最中、やえは数十日振りに笑う。

 

これや。

 

この感覚。

 

絶対に切り抜けてくれる、そんな感覚。

 

まずは、最後は、神退治。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「(ようやく、ようやく気がついた)」

 

 

明石はターゲット、『高畑瞬』の影を踏み、影の中へと飲み飲まれた。

 

そして高畑瞬が神小路かみまろに激昂する姿を目の当たりにし、真実に気がつく。

 

神の子は敵ではなく、自分達と同じ戦友であると。

 

同じ理不尽を突きつけられ、同じ試練を乗り越え、同じ敵と対峙する同志であると。

 

今後カミが予定している神の子VSカミーズJrは、果たすべき目標ではない。

 

彼らがかみまろを殺すのなら、自分達はカミを殺す。

 

肝心要が抜けていた。

 

敵は、はなから決まっていた。

 

 

「(利用されてたまるか。何でもいい、何でもいいから隙をついて、奴を、カミをッッ)」

 

 

再度、明石はカミハウスへと足をつける。

 

そこには既に、丑三、涙、ひびきの三人がいた。

 

ひとまず、胸を撫で下ろす。

 

 

「遅かったな、明石」

 

「明石くん、お疲れ様」

 

「うん....ひびきちゃんも」

 

「ん....」

 

 

ひびきの瞳はいつになく暗かった。

 

親友を二人失い、あまつさえこの弄ばれようだ。

 

"希望"など、とうの昔にいなくなってしまっていた。

 

明石は同情するにも、どんな言葉をかけてやればいいか分からなかった。

 

 

「丑三のターゲットはどうだった?」

 

「天谷武。アイツは未曾有(ヤバイ)。クレイジーエンパワフル」

 

「!....アンタがそこまで言うって、相当ヤバイ奴なんだ」

 

「.....涙ちゃんは?」

 

「秋元いちかって子がターゲットだった。少し話をしたよ。その子も、私達と同じだった。」

 

「...そうなんだよ。神の子は、俺らと同じなんだ」

 

「敵じゃない。一緒に戦う仲間(戦友)だ。アイツらがかみまろをやるなら.....」

 

「私らがカミを殺して、全て終わる。」

 

 

ひびきが拳を固く握る。

 

ギリギリと唸る力には、深い哀しみによる怒りが含む。

 

紗倉ひびきは決して諦めてはいなかった。

 

彩也香がそうだったように、希望は無くしても、諦めることだけはしたくなかった。

 

 

「でも.....」

 

「誰が出来る?それが出来ればはなからそうしてる」

 

「だからってこれから同じような闘いをしたって、元は断てないだろ。私は神になることなんかこれっぽっちも興味ねぇ。」

 

「だったら、死んででもカミをぶち殺しに行く。もううんざりだ」

 

「落ち着いてひびきちゃん!挑みかかったって、返り討ちに遭うだけだよッ」

 

「いや、ひびきちゃんの言う通りだ。」

 

「「!」」

 

 

明石は神妙な眼差しで空を見つめる。

 

かつての仲間達を、最期に好きだと伝えてくれたあの人達を、弔う為に。

 

 

「どんな方法を使ってでも倒さないと、俺らは永遠に囚われの身だ。」

 

「けど返り討ちにされるのは目に見えてる。だったら待とう。カミの隙が生まれるその瞬間まで」

 

「不意打ちでも、ゲームでも、俺らはいつか挑まなくちゃならないんだ。カミに」

 

「みんなのためにも....」

 

 

唾を飲み下した後、涙は静かに頷いた。

 

丑三はその輝きに恍惚とし、ひびきは覚悟の決まった皆の風貌にうっすらと笑みを浮かべた。

 

カミを倒す。

 

それが彼らカミーズJrに与えられた使命であることを意識した。

 

 

「───ハーイ皆さんお疲れ様でした♪どうでした?影踏み。中々スリルがあって楽しかったでしょう?」

 

「....おや。何やら"ヒリヒリ"してますねぇ」

 

 

地面から現れる、セイン・カミ。

 

既に彼らの思惑が筒抜けであるかのような、カミの不気味な笑み。

 

いつまでも、いつまでも、いつまでも、その人を小馬鹿にするような喋り方と表情は、単純なひびきの芯を貫いた。

 

殴りかかろうとするひびきの腕を、丑三は抑える。

 

 

「カミ....これで最後のレッスンなんだろ。」

 

「えぇ、ようやく本番ですよ。ですがまだ一人帰ってきてませんので、暫しお待ちを♪」

 

「....お、噂をすれば」

 

 

カミの頭上、天井に、黒い気泡がぶくぶくと現れる。

 

取り敢えずは五人全員無事に揃ったことに、皆は安心から溜息をつく。

 

 

 

 

バシャァッッッ

 

 

 

 

「「「?.....─────ッッ!?」」」

 

 

その光景に、皆はついた溜息を中途半端に止めてしまった。

 

それから暫く、しゃっくりを堪えるのに必死だった、ような気がする。

 

そんな事を気にする暇もないままに、その黒い影から現れた、どこか見覚えのある老人と少女は。

 

───カミとの闘いへ、挑みかかった。

 

 

 

 

「カミ"いいぃいいぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃぃ"ぃぃぃい"いッッ"ッッッ」

 

 

 

 

 

その純粋で、真っ当で、芳醇な右拳は。

 

今までどんな出来事でも嘲笑っていたカミの顔面をぐにゃりと歪ませる。

 

焦り、困惑、愕然、数多の感情が入り混じったカミの表情を、皆に見せつけた。

 

 

 

バカアァァァァッッッ

 

 

 

「(みんな、見ていてくれ)」

 

「(俺が、仇を討つよ)」

 

 

開いた口が塞がらないとは、この事だった。

 

唖然とする明石達に、やえは駆けつける。

 

 

「みんなッッ」

 

「やえ....ちゃん?」

 

「みんな....帰ってきたで────最後の希望(チャンス)や。」

 

 

「バキ先輩ッッッッッ」

 

 

ひびきは一目見て分かった。

 

あの時死んだはずだって、もう過去の人だって、そんなことは分かってる。

 

ただ、変わってない、ちっとも変わってなかった。

 

あの背中を追ってきたから、ここまで生きてこられたのだ。

 

 

「みんなのっ.....彩也香と朱美の仇をッッ、取ってくれぇぇッッッ」

 

 

老人は───少年はひびきに拳を突き出した。

 

ひびきは安心して笑い、その場に泣き崩れ、そして見届ける。

 

私達の、最後を。

 

 

「ごぺッ....なッ、なんですか、You....ッッ!?」

 

「....やりに来たんだよ、俺の番」

 

「は....?」

 

 

 

 

「ジャンケンだよ。」

 

 

 

 

まだ終えていない、自分の番。

 

今ここで、終わらせる。

 

 

 

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