バキ×神さまの言うとおり   作:夢中さん

9 / 19


 

 

 

 

 

 

「他の2つのオーディションも終了したみたいだね!みんな、校庭へ集合だ!!」

 

 

今までの形相とは打って変わって、聞か猿は明るい笑顔でそう言った。

 

どうせなら、手合わせ願いたかったのに。

 

そんな欲望を押し殺すまでもなく、興醒めしてしまった刃牙は、続々と校庭へと歩を進める列に着いてゆく。

 

 

「刃牙」

 

「!....ミツバさん」

 

「...ホントに、ありがとう。貴方のお陰で、藤春が望む方に進めた気がする」

 

「いや...礼を言うのは俺の方です。もしあの時、俺を抑えつけてくれなかったら、間違いなく死んでいた」

 

「!...どうだかね...だって貴方、凄く強いから.....とてもそうは思えないわ」

 

 

ミツバが悪戯に首を横に振る。

 

首を横に振られた刃牙もまた、首を横に振り返す。

 

 

「そんな万能じゃないよ。アイツは俺達を殺そうとしていたのに、生き長らえようとしていた、生き延びようとしていた──やられて当然だ」

 

「ッ...だからって....いや、そうなのかもしれないわね」

 

 

苦笑いでそう取り繕ったが、ミツバは思う───そんな訳ないじゃない、と。

 

アイツは普通の人間の何倍も、何十倍も強かった。

 

それをそんな、漠然とした理屈で変えられる筈がない。

 

ならどうして?

 

ミツバは静かに認識した。

 

この男は、あまりにも強すぎているのではないか...?

 

 

「そういえば貴方.....何処かで会ったことある?」

 

「え?...あーー....いや、気の所為じゃないかな」

 

「....そう....あっ」

 

 

何かの記憶が靄にかかっているような気がした。

 

ジッ、と刃牙の顔を見つめるも、彼は何故か目を逸らして合わせようとしなかった。

 

するとある所から、妙な視線を感じた。

 

自分達の後ろにいたやえが、チラチラとこちらの様子を伺っていたのだ。

 

どうやら、お邪魔だったようだ。

 

やえの手を引き、耳元でこう囁いた。

 

 

「ファイト♡」

 

「ふぇっ!?───あっ、ど、どーも....!」

 

「どうも?」

 

「あ、あはは。なんでもない...!」

 

 

自分と位置を入れ替え、刃牙とやえを前にする。

 

勘づかない疎い男と、自分の気持ちに気付きかけている初い女の姿は、好きな人を喪うという大きな失恋をした彼女にとって、とても、とても羨ましいものだった。

 

少しだけ、目を伏せて、思い浮かべる。

 

嗚呼.....貴方と買い物して、映画を見たかったなぁ....。

 

 

「ミツバ...校庭、着いたで」

 

「あっ.....うん、今行く....わ」

 

 

未だに立ち直れずにいるミツバに、なんと声をかけてやればいいか分からなかった。

 

そっとしておくのが正解なのだろうか。

 

ただきっと、藤春はまだ、ミツバをこちらに来ることを許さないだろう。

 

生きる為に、心は強くいなければならないのだ。

 

やえはミツバを抱き、頭に手を置いた。

 

 

「まだ時間あるっぽいから.....泣いていいんよ」

 

「っ......うっ、うぅうぅヴうぅぅ....ッッ!!!」

 

「うん...うん....ええ子や」

 

 

その光景は正しく、泣きじゃくる子をあやす母の図だった。

 

刃牙の目が僅かに大きく開き、そして薄まる。

 

あんな腕の中で泣けたのなら、きっともう大丈夫だろう。

 

暖かくて、安心する温もりを、やえは誰よりも与えられる存在となっていた。

 

 

「色々....あったみたいだね」

 

「あっ、スージーさん。無事だったんですね」

 

「頼りがいのある仲間が出来たヨ。アンタにも勝るとも劣らないくらいのね」

 

「.....敵にならないことを祈るよ」

 

「それは、こっちも同じだヨ」

 

 

スージーと笑みを交わすついで、その仲間とやらを遠目に見つめる。

 

確かに良い面構えをしている者が多く、流石に生き延びてきた故の貫禄があった。

 

しかし何故か、その集団の中から強い眼差しを感じた。

 

眼差しを受けた刃牙は振り返り、気配を探るが、息を潜めたように静かに消えてしまった。

 

敵意というより、興味や関心に近いものに感じた。

 

 

「ミツバ....大丈夫?」

 

 

そしてその間、すなとりのメンバーが泣き崩れるミツバへと寄り添っていた。

 

まめまきで知り合いだった者達だろうか、既に面識がある様子だった。

 

 

「みんな....藤春が.....っ"!」

 

「そっか...藤春...」

 

「大丈夫?ハンカチ....はい」

 

「ありがとうっ....」

 

 

誰かに支えられることで、誰かは強く生きることが出来る。

 

死んだ藤春はミツバの中で、強く生きるよう鼓舞していた。

 

何もかも嫌になって、死にたいとさえ思っていた心が、少しずつ生きなければならないことを意識する。

 

最後まで強く生きることが、藤春にとっての冥福だった。

 

 

「アンタら、ミツバの知り合い?」

 

「うん。まめまきの時に一緒に行動してたんだ。君は?」

 

「いすとりの生き残りの蓬莱やえ。よろしくね」

 

「OKやえちゃん よろしく。俺は────」

 

 

 

 

 

ゴッッッ

 

 

 

 

 

「「「?....────ッ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ

 

 

 

 

 

突如発生した大地震が、全員を恐怖で包む。

 

死の恐怖を連続で与えられた人々は頭を抱える者や、歯や膝を小刻みに震わせる者で溢れていた。

 

この地震である者は悟る。

 

これが次の試練の合図であるということに。

 

 

 

 

ブォンッ

 

 

 

 

 

ある模様が広大な校庭に浮かぶ。

 

それは実に7×7のマス目。

 

そしてマスの中心に現れる、謎の和式便所。

 

 

「なんだ、あれ」

 

「なんか凄く嫌な感じがする....."恐い"」

 

「お、おいあれッ」

 

「ひぃっっ」

 

 

和式便器の中から、両腕が伸びる。

 

そこから這い上がってくる人型の何かは、ゆっくりとその全貌を露わにし、こちらに振り返る。

 

恐ろしいという感情を剥き出しにされるその雰囲気は、いつからか知っていた、慣れ親しんでいた。

 

且つ、人が知り得ない領域(ところ)───幽霊であり。

 

市松人形.....否、トイレの花子さん?

 

 

「みーなさん ごーくろーさーまでーした♪」

 

「わーかれーたまーんまーで3ちぃーむ♪こーーーれは不思議な陣地取り♪」

 

「マスに隠れる学校の不思議♪倒して解決っ、自陣のマースを増やしーましょ♪」

 

「さぁーさぁーみんなで葬ってくだしゃんせ♪」

 

 

 

「学校の7×7不思議 はーじめーましょ♪」

 

 

 

 

ぞろぞろと学校中に溢れ返る、学校の不思議たち。

 

本能的にくすぐってくるような恐怖は、嘗て一度見たか見てないか、そんな幽霊と瓜二つの感覚だった。

 

顔を青ざめさせ悪寒する者、そもそも恐いモノが苦手な者、皆が皆言葉にならず、大勢が怯えていた。

 

 

「うぇぇっ....お、お化けぇ...!?」

 

「不気味ね....」

 

「ッッ.....」

 

 

やえとミツバも流石にこたえているようだったが、刃牙は恐怖より好機、打ち震えていた。

 

神様って奴は、幽霊とだってやらせてくれるッッ

 

一体どんだけ強いんだって...想像がつかない。

不謹慎かもしれない、場違いかもしれない。

 

表情には出さず、心の中で歓喜(よろこ)ぶ。

 

 

「流石の刃牙くんもっ、お化けは恐いんね....」

 

「あ、あぁ.....恐いよ」

 

 

武者震いが恐怖のものと勘違いされたが、確かに恐い。

 

何をしてくるかさえ、どんだけ強いかさえ分からない。

そんな相手と、またやれる日が来るなんて。

 

恐ぇ、怖ぇ、こえぇ.....呼笑(こえ)ぇッッッ

 

 

「え、今君、笑ってた...?」

 

「!....そんな訳....気の所為っすよ」

 

「.....そっか」

 

 

ある少年から怪訝な視線を向けられ、咄嗟に顔を背ける。

刃牙はこっそりとその風貌を盗み見た。

 

良い目をしていた。

 

絶望を断固拒否する、並々ならぬ意志を感じた。

 

ハートだ。

 

良い心を、その少年からは感じた。

 

 

「ウチ花子。あんたらにはこれからまず、三つのBOXに分かれてもらうねん」

 

「いすとりチームはあの校舎の裏。すなとりチームはグラウンドの向こう側。あやとりチームは体育館の横にあるの」

 

「そこでそれぞれの制服に着替えたら、また会おうね」

 

 

しゅうぅぅ───お化けたちが消えてゆき、三猿もまた知らぬ間に姿を消していた。

 

唾を飲み下す音すらが、こんなにも大きく響く。

 

ただ次第に行動を起こし始め、それぞれのBOXとやらにチームが動く。

 

他チームとの別れ際、先程のすなとりチームの少年が、あやとりチーム含む自分達に告げる。

 

 

「敵同士かもしれないけど、全員で生き残れる方法があったら必ず協力し合おう」

 

「もし...そう出来なかったら、その時は恨みっこなしにしよう」

 

 

偽善者かと思えばそうではなく、闘う意思はハッキリとその場で全員に明確にした。

 

間違いないのは、あの少年がすなとりの砦だということ。

 

少しの会話でも通じ合えることもある。

何でも力で解決してきた彼とは、ある意味正反対に位置する存在かもしれない。

 

そんな彼の存在に、やえはホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「すなとりチーム....話せば分かってくれそうな感じや」

 

「.....あっちはどうかな」

 

 

あやとりチームで、明らかにガタイの良い男がいる。

 

不気味な作り笑顔、所作から滲み出る横暴さ、言いなりな様子の他生徒。

 

刃牙はただ一人、不穏な空気を感じ取っていた。

 

 

「───あった、BOX....てここ、カラオケBOX...!?」

 

 

BOXを見つけ、慎重に中へと入ると、そこには見慣れたカラオケBOXの内観があった。

ドリンクバーにマイク、デンモクも置かれていた。

 

更に探索し扉を開くと、個人部屋が用意されていたのだ。

 

扉には各々名前が明記されており、一旦全員、中にあるであろう制服に着替えてくることとした。

 

 

「ベッドに風呂....小綺麗な部屋だ」

 

 

部屋に入るや否や、軽く内装を見る。

自分の家が古びていたからか、ビジネスホテルのような内装に慣れず、そわそわとしていた。

 

それを押し殺し、クローゼットを開けると、確かに制服が予備用含めて2着揃えてあった。

 

しかし自分が着ていたのも、学ランだった。

 

 

「変わんねぇじゃん.....」

 

 

汚れていたため、一応着替えておいた。

 

外へ出てカラオケルームへと戻ると既に全員揃っていた。

 

見慣れない女子のセーラー服姿は何故だかちょっぴり新鮮さを感じた。

男子陣はそんな色気に少しばかり頬を染めている。

 

やえとミツバもまた、高校生の姿をしていた。

 

 

「お待たせしました」

 

「あははっ。刃牙くんやっぱり変わらんかったっ!」

 

「元々学ランだったから....」

 

「さて....全員集まったところで.....」

 

 

 

 

バンッッ

 

 

 

 

「私たち、どうするの?」

 

 

ミツバが突然、テーブルを両手で叩きそう言い放つ。

 

その言葉はこれからの試験の話ではなく、彼らいすとりチームが一体どのような形を作っていくかの話だ。

 

そう、いすとりは友情を、人情を、全てを狂わされた最悪のゲームだった。

 

誰かの椅子を奪い、生き、殺した。

カルト宗教のように壮絶な洗脳で操った者もいた。

 

今も尚、仲間同士の亀裂が消えないのは当然のことだったのだ。

 

絶対にこのままではいけないと、ミツバは一刻も早くこの"話し合い"を設けたかった。

 

 

「私達はいすとりで殺しあった敵同士だった。でも今は違う。一緒に行動する仲間になったのよ」

 

「まだこの状態が続くのは、絶対にダメだと思う」

 

「この状態って....?」

 

「派閥よ」

 

 

ミツバは呆れたような顔を浮かべ、紫村に寄り付く者たちを指さした。

 

 

「未だに宗教ごっこをしている紫村派と、私たち刃牙派でまだ派閥があるってことよ」

 

「お、俺ッ....!?」

 

 

驚く刃牙を意に介さず、ミツバは紫村たちに詰め寄った。

 

15人中7人が紫村に寄り付き、消して離れようとはしなかった。

そしてそんな彼らに紫村は困ったようにあたふたとさせている。

 

するとある一人の信者が立ち上がり、負けじと食い下がる。

 

 

「誰のお陰であのゲームが終わったと思ってるッ!愛甲に操られても尚ッ、シャイナー(光導者)は我らを光に導いて下さったのだぞッッ」

 

「そうよ!シャイナーがいなかったらこんなに生き残っていなかったッッ」

 

「今の純粋無垢な状態が、シャイナーのあるべき姿だったんだッッッ」

 

「ねぇシャイナー?まだ光は我らを見捨ててはいないでしょう!?」

 

「えっ、え、と.....」

 

 

彼らの言い分は支離滅裂とはいえ、命を救ってもらった恩は確かに紫村にある。

 

ゲームを終えられたのも、最初に音の在処を発見したのも、確かに紫村による功績だったのだ。

 

ただそれと引替えに、彼らは多くの物を失った。

 

ミツバは詰め寄ってきた男の胸倉を掴み、思いを告げる。

 

 

「いい加減気付きなさいよ....。いい加減目を覚ませッッ 現実から目を背けるなッッ!!」

 

「アンタたちはシャイナーという"神様"にすがって生きることを放棄しているだけだッッ」

 

「挙句にその神様は平気で人を殺して仲間すら生贄に使った最悪の人間だッッ!」

 

「じゃあ彼(刃牙)はどうッ!?アンタたちの目を覚まさせようと自分から敵になって、シャイナーが嘘っぱちであることを命懸けで伝えたのよッ!?」

 

「彼に命を救われた人も絶対にいるはずだッッッ」

 

「なんでまだソイツに頼るッ!?もう分かってんでしょ!?もうソイツに未来も光も見えちゃいないってッッッ」

 

 

シン.....静寂に包まれるカラオケルームは異様だった。

 

迫真の問いかけに信者たちは嫌でも効いた。

心の奥底の、何処かでは何かを理解しているはずが、それを認めようとはしない。

 

不安なのだ、安心したいのだ。

 

男はミツバの手を払うが、それから何も言うことはなかった。

 

 

「....私はこの男を絶対に許さない。私の好きな人を殺したんだ.....それが操られていたとしても、私がアンタに心を開くことはないってことだけは伝えておくわ」

 

「っ.....!」

 

 

紫村はその視線にギョッとし、震えた。

 

強い殺意が込められた視線に紫村は何も言い返すことが出来ず、ただ怯えて押し黙っていた。

 

『どうして何もしていないのに』───臆病な彼は記憶にないことすら否定できず、そう思うこともなかった。

 

完全に吹っ切れたミツバにはもう、和解の余地もなく。

 

 

「勝手にすればいい。ただ絶対に私たちの邪魔をするのだけはやめてよね。生きたいのなら、表面上だけでも協力することだけは約束して」

 

「(ひぇぇ~~~~~~~....ッッ)」

 

 

刃牙は怯えていた。

 

いやもう、ただ純粋に、女子って怒ると怖いって。

 

知っていたことではあるが、あまりにも本気の怒りが過ぎて度肝を抜かされた。

 

ミツバさん 怒ったら怖ぇ~~~~~~ッッ。

 

 

「待ってッッ」

 

 

誰もが声を上げる勇気も出ない中、静寂を打ち破ったのはあろうことか紫村影丸その人だった。

 

ミツバも思わず呆然としていると、彼は正座の状態に膝を直した。

 

たどたどしく、一言一言口にした。

 

 

「話は、聞きました。僕が、何をしたか。貴方が僕を、許さない理由も、分かります」

 

「でも分かってもらいたいのは....豆まきからの記憶が、僕には全くないんです。気付いたら、あのいすとりのゲームに参加してた」

 

「"だから....でも....本当にごめんなさい"」

 

 

ぺたん、と地に額をつけるその姿はまさしく土下座。

信者達は愕然とする、そしてミツバ達も。

 

ミツバとて理解していた。

 

今の紫村はいすとりの時の紫村ではない、操られていただけなのだと。

だが同じ人間であることで、怒りが抑えきれなかった。

 

全く知らない怒りを買っても尚、切に謝罪する男の姿は誰が何と言おうと『優しい』ことだった。

 

身に覚えのない事でも、土下座で謝れるこの男をどう責めろというのだろう。

 

ミツバは歯を食いしばり、首を横に振り、自分の頬をピシャンと叩いた。

 

怒りに取り憑かれるのはもうやめだ。

 

シャイナー(仇)はあの時、死んだんだ。

 

 

「頭上げて?もう、大丈夫だから」

 

「でも.....っ」

 

「いいからっ、ほら」

 

 

肩を掴み、頭を上げさせる。

 

紫村は目の前にある泣き顔を見て、更に胸が苦しくなった。

 

 

「決まりやね。もう、シャイナーはいない」

 

「しゃ....シャイナーは不滅だッッ」

 

「そ、そうよ!寛容なシャイナーに感謝しなさ───」

 

「僕はシャイナーなんかじゃないッッ!」

 

 

紫村は立ち上がりざまにそう言い切った。

 

唖然とする信者だがそれでも尚、腑に落ちない様子。

 

 

「.....えっ」

 

 

性懲りのない人間達に紫村ですら呆れに近い感情を抱いたが、ふと彼はある者に視線を寄せられた。

 

見覚えのある姿だった。

 

そう、それは嘗て、家の中で引き篭っていた時だ。

 

弱い自分に、体も心も弱い自分が嫌になっていた時だ。

 

テレビの画面に映し出されたある映像。

 

 

鬼と鬼が比べ合う、強さの結晶(エネルギー)体

 

 

紫村は録画して何度も見返した。

 

幾度も、幾度も、幾度もその強さの頂点を見張った。

 

これが僕の成りたかったモノ。

目指したかったモノ。

自分がそれに届き得ることなんて、肩身が狭くて考えることすら失礼とさえ思っていた。

 

紫村は大きな鬼よりも、小さな鬼に目を奪われていた。

弱い自分だからこそ理解できることもあった。

 

嗚呼、貴方は、本当に成り上がってしまったのだろうと。

 

弱い弱い自分に嫌気が差して、自分を苦しめてさえ強くなろうと、死ぬ気で努力してようやくなれた姿なんだ。

 

行動できない自分なんかとは、雲泥の差。

そして僕の理想を、まんまと成し遂げてしまった小さき鬼の姿は。

 

いつしか彼の、憧憬(あこが)れと化していた。

 

 

「うわあぁああぁぁあぁぁぁぁあああッッ!!!」

 

「!?」

 

 

奇声の後、刃牙の前に跪く。

 

刃牙も紫村も汗で塗れるが、紫村の汗の量は尋常ではなかった。

 

ミツバ達も信者達も何が起きたのか理解が出来ていない様子だったが、紫村がまるで神のように崇めるその姿に、ある信者はハッとさせた。

 

 

「まさか.....シャイナーが崇める存在はただ一つ...ッッ」

 

「シャイナーより判断を先んじていたのはひょっとして貴方が....!」

 

「「「光(シャイン)故に....ッッ!!!」」」

 

 

信者達も揃ってバキの前に跪く。

 

果たしてコレは良いことか、或いは悪しきことか。

その結論は崇められる存在によって決められる。

 

しかし当本人、状況を全く理解出来ずに唖然。

ミツバもやえも、まさかの展開に固まっていた。

 

ただこれはこれで.....『理想的』?

 

 

「ま、まあ....一件落着...?」

 

「和解って意味では...でも私はこの形で問題ないと思うわ」

 

「───彼がリーダーと云う一点だけはね」

 

 

正常な者たちはこぞって頷き、彼をリーダーにすることが決定された。

 

本人の意思に耳を傾けない、多数決ではあるものの。

 

 

「ないない、それはないッッ....ミツバさんでいいでしょうよ....あと頭上げてくれよ....」

 

「そう言ったらまたごねてきそうだからお願い!」

 

「ッッ.....一旦トイレ......」

 

 

ミツバに合掌され頭を抱える刃牙は、一先ず信者達を押しのけトイレへと逃げ込んだ。

 

その刹那だった。

 

体の緊張が一気に抜け、立ち上がっていた者は自然と腰を下ろしていた。

幾ら緊迫した状態だったとはいえ、これほど緊張するものかと疑問を抱くが、紫村は苦笑しながら当然のように語る。

 

 

「そりゃそうだっ,...あの方は、あの方が、こんなちっぽけな、部屋の中にいたんだ...ッ」

 

「みんな体が、知らない間にビビってるんだ...!」

 

「紫村、彼のこと何か知ってるの?」

 

 

何か含みのある言い方にミツバは思わず問いかける。

 

すると紫村はポカンと、何故そんなことも知らないんだとでも言いたげな風情で言った。

 

 

「ミツバさんほんとに何も知らないの?他のみんなも?」

 

「何が....?」

 

「....家の中のテレビで見た人も、実際に見に行った人だっているはずだよ。そんなに前の出来事でもない...」

 

「あの方は....."地上最強の生物"さ...!!」

 

「地上最強?......────はっ!!!」

 

 

ミツバの中の微かな記憶が今、掘り返された。

 

実際に現場を見た、実際にそのシーンを目の前にしていたのに、どうして忘れていたのか。

 

遠くていまいち顔が分からなかったとはいえ、あの忌々しいまでの存在感があれば何処だって判ったはずなのに。

 

 

───全員がその時、彼が何者であるかを理解する。

 

 

そして思う、彼の圧倒的なまでの闘争力は或いは....

 

神にまで、届き得るのではないか。

 

 

「───分かったよ.....その代わりみんなも協力してくれよ...」

 

「.....聞いてる?」

 

 

トイレから帰ってきた時に向けられた視線は、明らかに先程とは異なるモノだった。

 

それを理解しないまま、彼は訝しげに腰を下ろした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ていうことでっ、これからは刃牙"さん"がリーダーとします!」

 

「なんでさん付け....?」

 

 

呼び捨てだったはずのミツバが堂々と紹介するが、勿論違和感しかない空気だった。

 

周りの反応も妙にわざとらしく、何だか気を遣われているような気がした。

 

しかしその理由を知ることなく物語は進む。

 

 

「確か制服に着替えたら、あの市松人形がまた会おうって言ってたけど.....」

 

『こ~~んに~~~ちは~~~』

 

「おっ、とデカッッ」

 

 

やえは咄嗟にテレビの音量を下げる。

 

テレビに映った市松人形(花子さん)はどんよりとした不気味な笑みで、ゲームの説明が行われる。

 

 

『第3次試験、学校の七×七(なななな)不思議の説明をしていくねん』

 

『ルール自体は単純明快~。合計49マスの中に潜む"不思議"を一日一回解決していくだけだよん』

 

『最終的に解決した不思議(陣地)が16日後、一番多かったチームが合格。カンタンでしょ?』

 

『プレイ人数は原則3人まで。1人はリーダーをウチが強制的に選別する。あとの2人は相談して決めたらええ』

 

『あとは道具(アイテム)。不思議を解決するのに必要なアイテムが七つある。1人1個やで?あと、アイテム無しでクリアするとかは考えん方がええな~』

 

『不思議がいつ、どこで、何が起こるかは行ってみてからのお楽しみ。これがホントの肝試しやな』

 

『プレイ時間は夜10時から朝5時まで。プレイヤーは一度外に出たらクリアするか時間切れになるまでBOXには帰れんから、気をつけるんやで』

 

『ルールは以上。あとは自分たちで考えな~』

 

 

 

 

プツンッ

 

 

 

 

時刻は21時50分、ゲーム開始まで残り10分。

 

悩んでいる暇は無く、自然と刃牙を中心にデンモクへと‎集まっていた。

 

画面に表示される真っ白な49マス───これをより多く、自陣の色に染めた者の勝ち。

 

 

「どれにする....?」

 

「最初は考えることもないんじゃないかな....刃牙くん、ビシッと決めちゃってや!」

 

「....さっきも言ったけど、後悔しないでくれよ」

 

 

刃牙は何の考えも持たず、ただ直感で『3』をタッチした。

 

するとテレビが砂嵐の後に何かを映し出す。

 

 

 

『鬼さんこちら 天に成る方へ』

 

 

 

「天に成る方へ....なんか、お札がある」

 

「難易度...か?」

 

 

題名の下に難易度と思われる凶と印されたお札があった。

 

その数、実に7枚。

 

多いのか、或いは少ないのか、それを知るのは数分後。

 

 

『ある五人の少年達は鬼ごっこをしていました』

 

『じゃんけんで鬼を決め、鬼になった少年はこう言いました』

 

『「鬼さんこちら!手の鳴る方へ~~~!」』

 

『鬼になったというのに、逃げようとする少年に、他の少年達は怒り心頭でその少年を追いかけました』

 

『ところが全く追いつけません。何度も何度も、回り込んでもどうしても追いつけません』

 

『彼らは追い続けた。何処までも、何処までも。やがて彼らは空腹で野垂れ死んでしまいました』

 

『そして意識が遠のく中、みなふと思いました』

 

 

 

『あんな子、いたっけ.......?』

 

 

 

薄っぺらいストーリーではあるものの、妙な得体の知れなさを感じられた。

 

不気味な映像と語り手が、肉体をぞっと震え上がらせる。

映像が切り替わると、そこには今回のリーダーが表示された。

 

それを見た時、滲み出る愉悦が抑えられなかった。

 

 

 

本日のリーダー 『範馬刃牙』

 

 

 

「上等.....」

 

 

題名からしてこれは、明らかに自分を挑発していると悟った。

 

鬼さんこちら 天の成る方へ....?

 

やれるもんならやってみろと闘気が溢れ出る。

 

震えは武者震い、恐怖は微塵もない。

 

 

「刃牙くんがリーダー....あと2人どうする?」

 

「「「......」」」

 

 

自ら進んで手を挙げる者が皆無なのは、ルールを知らされてから周知していた。

 

同じ人間が何度も出てはならないという決まりは無い。

 

そもそもリーダーに選ばれない限り、出なくとも良い。

 

わざわざ死に至る領域に踏み入れる必要性は無いに等しかったのだ。

 

 

「じゃ、じゃあウチが!」

 

「やえ?大丈夫?」

 

「うん....なんか、ぬるま湯に浸かってたら生きてけないって思ったんよ...今のうちにこのゲームに慣れないとって!」

 

「確かに....なら、お願いするわ。あと1人....いないなら私が行こうと思うんだけど....」

 

「あっ、私いいかな?」

 

 

ある一人の少女が名乗りを上げた。

 

お団子ヘアーに茶色の肌、細身ではあるが衣服の中には、鍛えられた筋肉の曲線美がある。

 

そしてまさに彼女がいすとり第1ゲームの時、最初に椅子に座った『ある少女』だった。

 

少女はやえと刃牙の前に近付いた。

 

 

「"上原彩也香"っていいます。よろしくね」

 

「君は....あの時は助かったよ」

 

「え、私なんかしましたっけ?」

 

「ラジカセのこと、分かってたんだろ?視野が広い」

 

「あ....いや、ほとんど賭けみたいなもんだったから...私の方がよっぽど助けられてるし...!」

 

「ハハ....チーム結成だ」

 

 

───アイテムを手にする。

 

やえは拳銃を、彩也香は刀を、刃牙はお札を。

 

 

学校の七×七不思議 第1夜───開始。

 

 




分かる人は分かったでしょうか?
はい、上原彩也香は別作品『ダンベル何キロ持てる?』のキャラクターです。
何故と思う方もいらっしゃるかもしれませんので説明します。
ケンガンアシュラとダンベル何キロ持てる?の作者様が同じな為、世界観も同じになっています。
よく『ダンベル何キロ持てる?』本編にもケンガンアシュラのキャラクターがチラチラ顔を出しています。
そして昨今『刃牙』と『ケンガンアシュラ』がコラボ映画として公開され、スピンオフ的な所はありますが「刃牙も同じ世界観に存在する」という説が公式で認定されました。

じゃあ『ダンベル何キロ持てる?』のキャラクターもいるじゃん!ということに気が付いたため、恐れ入りますが参加させていただきました。

「皇桜女学院の生徒」は全員出ると思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。