トロピコ in テラ 〜Presidente, salva el Terra〜   作:トロピコ外務省広報部

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一般人 in プレジデンテ
異世界トロピコってマジっすか?


 


『By his wish, you are given to Terra.』

『Time to get back into the game...』

『Do what you feel in your heart to be right.』


 

 

 

 

 

「……起き‥…い!プ…デ‥!…きてく…い!プレ……テ!」

 

暗闇の中、どこかからか声がする。

これは私に対して呼びかけているのか?

それにしても声がだいぶ曇っていてよく聞こえない。

ベットに寝かされているのか背中がフワフワして心地が良い。

 

ゆっくりと瞼を開ける。

目を開けると一気に声が鮮明になった。

明るい蛍光灯によく効いた空調、病室特有の謎の模様の天井。

私は病気にでも罹って入院していたのだろうか?

 

 

「ああ!プレジデンテ!!よかった…お目覚めになりましたか!」

 

 

まず声、何回も聞いたことある声だ。

どこで聞いた……?

 

プレジデンテか。

…プレジデンテね。

……プレジデンテ???

いや待て、ちょっと待て。今まで声に気を取られていたが

今聞き間違いでなければ私が目を開けた瞬間に『プレジデンテ、お目覚めになりましたか』と…

は?これでは私がプレジデンテだという事になるのでは…???

恐る恐る、口を開く。

 

 

「私が…プレジデンテ?」

 

 

うわぁ……聞いたことのある声だなぁ、私はついにイケボになることができたぞ〜 ヤッター

プレジデンテという名詞、私の声、話し相手の声。

この時点で現在どう言った状況なのか何となく察しがついてしまうが、現実であってほしくない。

ゆっくりと手を頬に付け、強くつねる。

とても痛い、更に言えば手で触れた感触が明らかに今までの自身の顔では無い。

 

 

「プレジデンテ…まさか記憶が!? この私め…ぺヌルティーモ*1が国難の中とはいえ、プレジデンテのお体の事をきちんと考えていなかったばかりに……」

 

 

 

ぺ ヌ ル テ ィ ー モ

うーん…これはトロピコ確定だな!

嫌じゃ!反体制派に殺されとうない!!

 

そもそも一体私はどうなっているのだろうか…?

プレジデンテに憑依と言うところだろうか?

それなら現実世界での私は?

気になるが、今は考え続けていても仕方がない。

 

ゆっくりと上体を起こす、別に体がだるいなどと言ったことはなし。

ふと視線の先に鏡が見える。

適度に日焼けしたラテン系の肌色、焦茶色の大きく蓄えられたゴワゴワした顎鬚。

うん!トロピコ6のパッケージにも居る公式のプレジデンテそのままだね!!

ひと目で分かる違いといえば…

服があの軍服っぽい服じゃなくて入院衣な事とサングラスをしてない所か?

ぺヌルティーモの話を信じるなら恐らく過労で倒れたのだろうし当たり前か。

 

 

ぺヌルティーモの声が聞こえる方向へゆっくりと顔を向ける。

私が寝ているベッドの横でぺヌルティーモが不安そうな顔をしながらこちらを見ている。

さて…どう言うべきか、記憶が消えていると伝えるか…

私の内面へと思考を移し、記憶を探る。

 

俺は日本の東京に住むごく一般的な社会人のオタクだったはずだ。

確か昨日は有休を取って独裁国家シミュレーションゲームである【トロピコ6】を現代まで遊んでいた。

ゲーム内時間が2024年ほどまで遊んだところで夜中になってしまったので明日の仕事の為にも就寝したはずだ。

 

……いや違う。

 

私は戒厳令発令の指示をした。

空港や港に残っていた航空機や船を強制的に接収した。

貿易が停止したことへの対処のため数百枚の書類に印を押した。

海賊や特殊部隊に周辺海域の探索と人命救助を命じた。

空母トロピコに戦闘機を周辺探索のために使うよう命じた。

ぺヌルティーモに1晩の休憩を要求されたので2時間の休憩を許可した。

スイス銀行に預けていた裏金数千万ドルが失われた事に気づき泣いた。

 

昨日のことを思い出そうとすると昨日の現実世界の記憶と同時に、昨日のプレジデンテとしての記憶が溢れ出てくる。

 

…人格を乗っ取っただけでプレジデンテとしての記憶は残っている…?

 

いや、それに以前の私の一人称は【俺】だったはずだ。

なぜ【私】を使っている??

更に言えば、ペヌルティーモが話しているスペイン語を理解して、話そうと思えばおそらく完璧にスペイン語を話せると言う今の現状…。

まさか乗っ取ってすら…人格の融合…?

とりあえずこう言った小難しい事は、情報を手に入れた後考えれば良い。

 

少なくとも記憶喪失というわけでは無いのだろう。

 

 

「記憶が消えたわけでは無い。大丈夫だ、ぺヌルティーモ」

 

「ふぅ…心臓に悪いですぞプレジデンテ!あなたの記憶が消えていればこの国はもう終わりですから…、ひとまず安心しました」

 

 

 

ぺヌルティーモは滝のように流れていた汗をポケットからハンカチを取り出し拭う。

 

ひとまず状況把握だ、先ほどぺヌルティーモは【国難】と言っていたはずだ。

トロピコは私の支配下にあるのだ、トロピコの難は私の難と言ってもいいはずだ。

 

国難について何かわからないか記憶を探る。

 

 

…2024年2月3日午前0:00~0:02 正体不明の全空発光現象が発生…

 

…同時にトロピコ宇宙探索プログラム群や国外への全通信回線が途絶…

 

…付近を飛行中の航空機の同時多発的電源喪失及び一時的な通信途絶…

 

…到着予定であった船や航空機の未着…

 

…星々の運動の不規則化 既存の観測ログと天体の不一致 潮汐サイクルの大変化…

 

…そして何より、月が二つになったこと…

 

 

???????

記憶を思い出しているだけの筈なのに理解が追いつかない。

え?え?これってそういう事なのか?

要するに異世界トロピコって事か???

 

落ち着け…落ち着け……

 

本当に異世界ならドラゴンやら魔法やらが存在する可能性もあるということだ。

最低限のファンタジー対策はしておかなければ……

ひとまず、まだ情報収集だ。

私が眠っていた間の事を尋ねる。

 

 

「ぺヌルティーモ、私が眠っていた期間は?」

 

「プレジデンテが倒れられたのが3日の午後9時ごろ、現在は4日の午前10時ほどです」

 

「12時間ほどか、私が倒れている間に何かあったかね?」

 

「メイソン・ベルモンテ*2とハーランド・ザンダー*3から見舞いのラム酒と葉巻が…あとは…」

 

「あとは?」

 

「ボニータ島の産業用倉庫からチョコレートが警察たちに押収されてしまいました…、私がせっかく数十年をかけ、貯めていた物なのですが…」

 

「……周辺地域の探索に関しては?」

 

「本来フロリダ半島のある場所まで戦闘機を向かわせたのですが、全く既知の地形と現在の地形が一致しないそうです」

 

「反体制派はどうした?」

 

「状況が落ち着くまで反政府的な行為をやめてもらえるよう、リーダーにコンタクトを取っているところです。今の所はデモやゲリラ活動などは起こしていませんね」

 

「ふむ…」

 

 

うーむ…聞いている感じは大きなことは特に無く平和だ。

地形が一致しないと言うのは月が二つ存在している時点で想像できうる。

それにしても戒厳令を敷いているとは言え、あまり不安定化していない?

貿易が出来なくなっている国の様子とは思えない…

 

それにしても【国難】…2024年2月3日… か。

 

ふと現実の記憶とプレジデンテの記憶を比べて考えてみると、私がゲームを終了した時のゲーム内時間が2024年2月付近だった気がする。

 

さらには、島の形状や数、大きさ、国民の人数、建物などはある程度現実的なものになっているが、街づくりや政策,布告は自分のプレイと一致する点が多い。

 

全く、不思議なものだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

病室に掛けられているハンガーから正装の軍服のような紺色の服を着付け。

ベッドサイドテーブルからスマホとサングラスを拾い装着する。

最後に帽子を被って…プレジデンテ完全モードに復活だ!

 

こう言った服は現実で着たことは無かったので心配だったのだが、プレジデンテとしての記憶に助けられたのか、スラスラと身に付けることが出来た。

 

 

「プレジデンテ。もう職務にご復帰を?」

 

「そうだ、私とお前の安全のためだ。休んでいる暇はない」

 

「このペヌルティーモ、プレジデンテが私の事をそこまで思って頂けているとは…」

 

「あ…あぁ……」

 

 

ペヌルティーモには少し申し訳ないが実際にはゲームと現実となったこの世界との差異を今一度自分の目で確認する為だ。

幸い倒れてから12時間の休息が取れた為か、心身ともに不調は全く感じず、むしろ快調すぎるほど。

 

 

「おお…暑いな」

 

日本の夏と遜色のない気温と湿度だ。

足元のコンクリートから太陽光が反射して照りつけ、日に当たっていない場所も暑い。

 

太陽が燦々と照りつけ、戒厳令の影響で人気のない高層ビルだらけのダウンタウンを照らす。

静寂に包まれた街には時折、微かに軍の車のエンジン音や戦闘機のジェットエンジン音がこだまする。

 

「さあプレジデンテ、こちらにお乗りください」

 

「気が利くな、ペヌルティーモ」

 

いかにもな高級車の後部座席にペヌルティーモと共に乗り込み、ぺヌルティーモが運転手に「宮殿まで」と伝えると、車はゆっくりと加速し道路を駆けて行く。

道端に私の看板や像が時々時たま見え、通り過ぎて行く軍の人々は車を見るなり、こちらに対して敬礼してから手を振ってくる。私は笑顔になり、彼らに手を振り返した。

ガタガタと車が揺れる。

幹線道路こそある程度は綺麗に舗装されているが生活道路はかなりガタガタでアスファルトが所々剥がれている。

なんとも退廃的な光景だ。

 

 

そんな景色を40分ほど眺めながら車に揺られていると、数個の検問所や監視塔,陸軍基地を通り過ぎ、次第に巨大な官庁街へと車は進んでいるようだ。

 

省庁、入国管理局、税関、裁判所、国立銀行、大使館などが集まるこの地は正にトロピコの政治の中心地。

その中心に聳え立つ建物こそが…トロピコ宮殿だ。

青い空に浮かぶ雲を思わせる美しい白い壁を佇ませる大きな宮殿であり、プレジデンテの邸宅でもあり、執務室でも演説台でもある。

 

宮殿はゲーム内のデフォルトの物とほぼ同一の見た目だった。

ゲームとしてプレイしていた時も、宮殿の庭は色々と弄ったものの本体の色や形は変えない主義だったのでとても馴染み深い見た目だ。

私を乗せた車はゆっくりと減速し、宮殿の前でピタリと止まる。

 

車から降りると、ペヌルティーモに導かれて宮殿の2階に上がり執務室に入る。

宮殿の他の場所は豪華な内装なのに比べ、執務室は非常に質素だ。

無垢フローリングに白い壁、地球儀と本棚に国旗に蓄音機、あとはウィスキーと葉巻でいっぱいの棚。

そんな部屋の中心には良さげな机と椅子が一つ。

机の上には、昨日から電源が点いたまま放置されていたのだろうか?

陽気なラテンのリズムを奏でる真空管ラジオが灰皿とランプの隣で騒がしく音を立てていた。

 

「ではプレジデンテ、私は少し…海の荒くれ者たちとの救助の仕事がまだ残っていまして…」

 

救助ねぇ…確か私はゲーム内で海賊の住処を使って救助を繰り返すように設定していたはずだ。*4

プレジデンテの記憶でも同じような指示を出していたのでおそらくそれだろう。

 

「なるほど…分かった、なるべく多くの人間を救助して来るがいい」

 

「…了解です!もしもまた体の調子が悪くなりましたら、すぐに警備の者にお言いくださいね!」

 

そう言い放つとペヌルティーモは走って執務室から出て行く。

どうやら時間的に相当ギリギリだったようだ…

 

「書類は…特に今は無い、自由時間か…」

 

周辺には人は誰もおらず、警備の者もほとんど2階には入ってこない。

さらにはここでさまざまな派閥の者と話し合うこともあるため、防音もきちんとしていたはずだ。

 

体はフラフラと酒と葉巻の棚へと向かい、ケースから最高級のキューバ産(Cuban)葉巻(Cigar)を一本取り出し棚を後にする。

黒光りするレザーの椅子にゆっくりと腰掛け、引き出しからマッチを取り出し、葉巻を吸う。

葉巻など現実世界の自分は見たことすらなかったが、プレジデンテとしての記憶が私の手に葉巻を取らせる。

 

ゆっくりと煙を吸い込み、吐き出す。

緊張とストレスが口から抜けていくようだ。

 

「昨日まで一般国民だったのが、今や一国のリーダーか…ハハッ」

 

数百万と言う民の命を預かっている事を考えると恐ろしくてたまらない。

顔の筋肉がピクピクと痙攣し、乾いた笑いが顔に張り付く。

吸い終わった葉巻を灰皿に擦り付け、帽子を机に預けて椅子から立ち上がり、ベランダへと歩く。

 

選挙の際は演説用として使われるベランダには観葉植物が置かれている。

ゲーム内では常にレッドカーペットや演説用の機材があったがこの世界ではそうでは無い。

私はベランダの手すりに手を掛け、遠くを見る。

遠くに青い、青い海が…そして地平線の少し上に地球の月よりも大きく、明るく輝く二つの半月が見えた。

私とベランダを熱い太陽がほぼ真上から照りつける。

 

 

「…ひとまず憲法から変えるか…」

 

 


 

まだ太陽は高く。今日は長い。

 

-西暦2024年2月4日午前11:45分-

 

【国難】から一日と約半日。

 

 

*1
プレジデンテの忠実な右腕であり、秘書にして一番のファン!

*2
トロピコ6 資本主義派閥の代表者

*3
トロピコ6 産業推進派閥の代表者

*4
ゲーム内のシステムとして特定の建造物では略奪行為などが可能です




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