遊戯王GXの世界に入ったからダークコーリングする。 作:どるねお
あらすじ。アンティルールで決闘することになった。
「その代り、俺が勝ったらあんたの切り札を貰うッ!
それくらいの条件は飲んでもらうッ!」
俺は人差し指をケンジに突きつける。こっちは切り札どころか、
生きがいを賭けようってんだからな。それに見合うものを賭けて貰わねば
釣り合わないというものだ。どう出るかと思案していると、ケンジは
口の端を吊り上げ、
「いいぜ。交渉成立だ。お前、名前は?」
「……阪乃、阪乃蓮児だ」
「そうかそうか。いいかぁ阪乃。人を指で指すもんじゃねぇって習わなかったのかい?
まぁ、いいか。明日ここにもう一度来い。そこで決闘だ」
「明日? 今ここでするんじゃないのか?」
「こういうのはムードってのが大事なのさ。
せっかちな野郎だ。人が最高の舞台を用意してやろうってんだ。察せよ」
くッ……言い回しがいちいちかっこいいじゃねぇか。
ケンジはさらに「時間は夕方だ」と付け加える。
「分かった。だがよ、デッキ調整の時間を与えたこと後悔させてやるよ」
「言ってろ。お前こそ、吠え面かかねぇように今日のうちにカードに
別れを告げるんだなぁ! ハハハ……ッハハハッハハハッ!!」
「くッ……その言葉そっくりそのまま返してやる」
「ふッ、おもしれぇ。おもしれぇよお前」
そうして互いに不敵に笑い合う。面白くなってきやがった。
「……なにかしらこの妙に、胃がキリキリするような会話は」
◆
「帰ってデッキの調整でもすっか。で、なんでついて来るわけ?」
「対策を練るのでしょう? それにまだそのカードのこと聞いて無いわ」
あーそう言えばそうだったすっかり忘れてた。けど、なんと言えばいいやら。
元々、これは俺が持参。あちらから持ってきたものだ。説明も何もないだろう。
かと言って、「このカードは前世からの相棒さ」なんて言おうものなら、痛い目
でみられるんだろうし。さっきのようにな。
「その、貰ったんだよ……」
結果的に、嘘は言わずに答えることにした。元々このカード、
《ダーク・コーリング》を人から貰ったからこそ、俺は遊戯王を始めた。
もうその貰った奴とは会えないが……
「なるほど。ま、今はそういう事にしておきましょうか」
「何だよ、その含みのある言い方……怖いなぁ。さ、用事は済んだだろ?」
帰れよと言おうとしたわけだが、さえぎられる。
「まだよ」
他に何があるんだよ……まさか、こいつ押しかけ女房よろしく家までついて来る
つもりじゃ無かろうな? いやいや、そんなアニメ展開があってたまるか。
そもそもあそこは俺の家じゃない。俺、居候だし。
「俺、今の家に居候してるんだよ。だから、なんだ……ついて来られるのは」
困るんだよ。と続ける。すると、
「きっと大丈夫でしょう。きっと――――」
「は? え、何その自信? 何処から沸いてんの? 根拠は?」
「あるわけないでしょう? さ、行きましょう。こっちで合ってるわね?」
「お、おう……」
もう何が何やら訳が分からないが、もうどうでもいいやと説得をあきらめる俺。
そのまま宗次さんの家へと行くことになってしまった。どうなんの、これ?
◆
「やぁ。遅かったね、蓮児君―――――ん? そちらの御嬢さんは……?
さては、蓮児君の“これ”かね? いらっしゃい。ささ、上がって」
宗次さんは小指を立てると、笑った。
「ちょッ! そんなんじゃ……たまたまついて来ただけっていうか――――」
「そうです。とても不快です訂正を」
そう言うと、塵あくたを見るような目で一瞥された。さっきタッグデュエル
までした仲なのに。その言いようはどうだろうか。
「不快で悪かったな……」
別に吊り橋効果ワンチャンあんじゃね?とか思っても無かったけどな。
本当だからなッ! mm単位も思って無いから……思ってない、から。
「あぁ分かった分かった。皆まで言うな若人たちよ。さ、今丁度シチューを
作っているところなんだ。当然、君も食べていくだろう? ビーフシチューに
関しては一家言あるぞ。そんじゃそこらでは食べられない物を御馳走しよう」
「シチュー……それは一体?」
こいつ決闘以外のことに関しては割と無知なんじゃないのか?
「宗次さん。こいつを卓に呼ぶと俺らの分が無くなりますよ? マジで」
「ハハ、蓮児君は何を言っているんだね? さては、女子が遊びに来てくれた
から照れているんだね? 若さだね。いやはや、全く」
このオッサンなんなんだよ……妙に達観しやがって。
「さ、外は冷えるだろう? 上がって、上がって」
「では、御邪魔します」
「え、マジでお邪魔する流れなの?」
結局、こいつの狙いは何だ?
◆
“さて、一日目は終了か。割と楽しめそうだ。さて、チュートリアルクリア
のご褒美でも上げようかな。必要だよねぇ“飴”は、さ”
◆
「とまぁ、これが俺の持ってる全部のカードな訳だが……」
俺の借りている部屋でカードを広げる。その数デッキが6つに、こちらで
買い足したカードが20枚ほどだ。カードを見せろって言うから広げたが……
「なるほど……ちなみにエクストラデッキはどこに?」
「あぁ、そこに……ん?」
今、こいつエクストラデッキって言わなかったか? 気のせいか?
「なるほど。さっきのカードが三枚に……その他色々ね」
気のせいか。この時代じゃ《融合デッキ》だったしな。
「それで今使っているデッキがこれね?」
「なぁ? なんで俺のデッキを全部みてんの? そういやさ」
ここまで見せてる俺も俺だけどさ。
「なるほど。ひどい完成度、まるで寄せ集めね」
「聞けよ……後、お前寄せ集め馬鹿にするなよ? 拾ったカードで世界救った
決闘者もいるんだぞ! 後、持ってるカードが決闘盤に読み込まねぇんだよ!
俺だってな、もっと強いデッキ組めるんだぞ」
「ふぅん。そう」
こいつ信じて無いな……自分のデッキはどうなんだってんだよ。
「最悪、《ダーク・コーリング》さえ発動しちまえばいいんだよ」
あの圧倒的攻撃力、見ただろうよ? と付け加える。
「で、その唯一の取り柄も明日負ければ奪われるのよね?」
「ふ、甘いな……」
別のガードケースを開け中のカードを取り出すと床にずらっと並べる。
「誰が《ダーク・コーリング》を一枚しか持っていないと言ったよ?
使用用・観賞用・保存用さらにさらに、布教用まで持ってんだよッ!」
その枚数はデッキにフルに積んでも余裕で余る。約50枚。ガイアさんが10数枚。
手持ちにはこれくらいしかないが、元の家にはこれの倍はある。近隣のカード
ショップからは大抵買占め、さらに入荷しようものなら買っていたからな。
※買占めは他のお客様の迷惑になるので控えましょう。
「これは……素直に凄いわね。驚いた。同じカードをここまで持ち歩いている
人がこの世にどれほどいるかしら。もはや、気持ち悪いわね」
「ねぇ、この場合どう捕えればいいんだ? 称賛されてんの? 侮蔑されてるの?」
「想像に任せるわ」
「いや、そこまで褒めるもんじゃないさ。世の中にはな、「無限回収」を目的に
している猛者がいてだな。その中じゃ俺は下の下だぜ。あ、やらないからな?」
「いらないわよ。けど、ならなんでデッキに三枚いれないの?
その方が結果的にドロー確率も上がるはずじゃないの?」
その説明は何度目だろうか。皆、「お約束」ってもんを分かっちゃいない。
「決まってんだろ? 一枚の方が引いたときに「―――――来たかッ!」って
出来るじゃねぇか。切り札ってもんはそういうもんだ。当たり前だよなぁ?」
「あなたの感覚を押し付けられても困るわ。呆れて何も言えないわね……」
けど、それだけじゃ無いんだよ。そう思っていると、
ふと口から言葉がこぼれていた。
「けどそれだけじゃねぇんだ。こいつをデッキに一枚しか入れない。その理由
はな……」
「ほかにもあるの?」
「あぁ。まぁ、な。くだらない過去話さ。こういう話はするもんじゃねぇ。
語り手も聞き手もいい思いしないからな……」
『2人共! 夕餉の支度が整ったぞ!!!』
下からの呼び声に一言を返すと、俺はカードを片付けることにする。
「ちょっとは手伝えよ……お前が見たいって言ったんじゃねぇか」
「ねぇ、これは?」
だが、彼女の視線は開けられていないかなり古びたデッキケースに注がれる。
「あ、あぁ。それはなんでもないんだよ」
「そう。開けてもいいかしらって言うのは……野暮よね?」
「察しが良くて助かるよ。……本当に」
俺はそう言うと、そのデッキケースをバッグの一番奥に仕舞い込んだ。
◆
結局、夕飯のシチューをほぼ一人で平らげたこいつを駅まで送っていく
事になった。ほんとにどんだけ食うんだこいつ。
「蓮児君。ここまででいいわ」
「そうか? なんなら、駅まで送ってくよ。もう遅いしな」
「……そう。ならお願いするわ」
えッ……これ割とええ雰囲気ちゃうんですか? 教えてエロい人!
人生におけるスプリングがカモンなんじゃないの? どうなの!?
出会って一日とはいえワンチャンあるんj――――――
「あなたも生物上は男だしね。いないよりは多少マシよね?
でも、あまりくっついて歩かないようにお願いね?」
「……あぁ」
悲しいなぁ……
そうして暫く歩いていると、最寄りの駅に着く。
「それじゃ、また。今日は楽しかったわ」
「お世辞でもそう言ってくれると嬉しいわ。また、な」
そのまたがいつなのかは分からないけど。俺はそう言って送った。
変だが、憎めない相手だったなと思いながら、俺はその背中を見続けた。
出来ればまた会いたいと思いながら。
◆
朝起きると、枕元にカードが散らばっていた。昨日のは全部片したはずだ。
「なんだこれ? ……何も描いて無いじゃんか。エラーカードか?」
それは何も描かれていない遊戯王カード。枠を見れば、一枚は魔法カード、
もう一枚は融合モンスターカードのものだと判断はできる。ただ、如何せん
イラストも効果もない。
「んだよこれ……なにも描いて無いカードとかある意味レアだぞ」
訳が分からないが、とりあえずそれをケースに仕舞って下へ降りることにした。
台所からオッサンが顔をのぞかせる。
「ん? 起きたかね蓮児君。そう言えば、君に手紙が届いていたぞ?」
「手紙? 誰からですか? 学園ですかね」
「それが困ったことに、宛名もなにも記載されていないのだよ……
誰かの悪戯か? と言っても、君はこの近辺の知り合いなぞおらんのだろう?」
「そうですね……まぁ、とりあえずありがとうございます」
そのハガキを受け取ると、その裏にはただ一文、
『大事に使いたまえ君だけの権利だ。あぁ、面白く頼むよ』
と書かれていた。権利? 面白く? なんだこれ。
「何だねこの手紙は? まるで意味が分からんぞッ!?」
横から見ていたオッサンが声を上げる。そのネタは素で言ってんのか?
「いや、それ俺の台詞……」
なんでこうも俺の周りには、勝手に台詞を掻っ攫っていく連中が多いのか。
「兎に角、もっときますよ」
「あぁ。さ、朝食にするとしよう。今日は早起きして一からコーンスープを
作ってみたんだ! きっと美味しいはずだ!」
「常々思っているんだが、その新婚早々の妻並みの気合は何なんだ!?」
何も描かれていないカード、身も蓋もないこの手紙。この二つには、なにか
関係があるんじゃなかろうか? だが、それを確かめる手がかりは無かった。
◆
「やっときやがったな……待ちくたびれたぜ。そういう戦略かぁ?
約束の時間には15分前に来るもんだぜ? お前、モテないぞ」
「ちょっと迷った。悪い――――――って、時間指定してねぇだろうがッ!」
危うく全部俺の非にされるところだった。時間指定なんか無かったじゃねぇか。
夕方しか聞いて無いってぞ。
「細かいこたぁいいんだよ」
昨日の約束を果たすために裏路地へとやって来た。
だが、そこにはケンジしかいなかった。昨日はあんなにうるさかった
ギャラリーの声も無い。察したのか、ケンジが口を開く。
「言っただろう? 最高の舞台を用意してやったのさ。ん?
今日は、あの女は一緒じゃないのかい?」
「まぁ、元々ちょっと顔見知りってくらいだからな」
「ふんなるほど。まぁ、俺としてはどっちでも関係はねぇがなぁ。
けど、戦いの場に華があるってのも乙なもんだろうぜきっとよ……」
じゃあ聞くんじゃねぇよ。それとアイツは花より団子だと思うがな。
「……一人の方が気が楽だっつの」
「おうおう、ロンリー気取りか? ほらよッ! ロンリーなお前に
プレゼントだ。決闘盤に付けな」
「これは?」
それは、何やら端末のようなものだった。決闘盤の本体の方にジャストに
入る仕組みになっているが、一体どういう機械なのかはさっぱりだ。
「まぁ、説明はいいだろう? やりゃ分かる。さっさと始めようぜ、なぁ?」
「せっかちな野郎だ……んじゃまぁ、そこまでお望みとあらばてめぇの切り札。
頂くとしますか! 昨日のままの俺と思うなよ?」
「俺の台詞だ。今のうちに、そのテストカード置いて帰ってもいいんだぜ?」
「ハッ馬鹿抜かせ!」
互いに決闘盤を展開し、そして吠える。
「「デュエルだッ!!」」
これは男の決闘だ。だが、俺は密かに感じていた。彼女が居ないという違和感を。