■桐藤ナギサと空崎ヒナは、実は付き合っている   作:あばなたらたやた

1 / 2
一話

 

 空崎ヒナと桐藤ナギサ。

 学園のトップである二人は道を歩き、古い木製のベンチへ腰を下ろした。穏やかな時間が流れる一方で、それぞれの表情には隠しきれない疲労が滲んでいる。

 

「ヒナさん、お疲れではありませんか?」

「ナギサこそ」

 

 即座に返ってきた言葉に、ナギサは少し驚く。

 

「トリニティも大変なんでしょう。無理して笑ってるように見える」

 

 ナギサは苦笑した。

 

「お見通しですね。最近は紅茶に随分助けられています」

「それじゃ足りない」

 

 ヒナはポケットから小さなチョコレートバーを取り出し、無造作に差し出した。

 

「疲れてるなら食べて」

「ありがとうございます」

 

 ナギサは嬉しそうに受け取る。

 

「代わりに、こちらもどうぞ」

 

 小さな缶から手作りのクッキーを取り出す。

 

「……美味しいわ」

 

 静かな咀嚼音だけが庭園に響く。

 互いを気遣う、その何気ない時間が二人には何より心地よかった。やがてナギサは空を見上げ、小さく呟く。

 

「エデン条約……本当に平和へ繋がるのでしょうか」

 

 ヒナは少し考えてから答えた。

 

「難しいわ。条約があっても揉め事はなくならない。結局、誰かが守り続けるしかない」

「そうですね……」

「めんどうくさいわ」

「はい、とても」

 

 ナギサは静かに頷く。

 

「でも、こうしてヒナさんと過ごしていると、その『めんどくさいこと』を少しだけ忘れられる気がするんです」

 

 ヒナは肩をすくめた。

 

「いい表現ね」

 

 その言葉だけだった。けれど二人の間には、言葉以上の穏やかな空気が流れていた。

 夕暮れ。

 舞い落ちる桜を見つめながら、ナギサは小さく尋ねる。

 

「争いのない日が、本当に来ると思いますか」

 

 ヒナはしばらく黙っていた。

 

「簡単じゃない。でも……来てほしいとは思うし、それに向かうって努力するべきだと思う」

 

 ナギサは柔らかく微笑む。

 

「その日が来たら、またこうしてお茶を飲みましょう」

「……その時は、私もコーヒーだけじゃなくて、ナギサの紅茶を飲んでみるわ」

 

 二人は顔を見合わせ、静かに笑う。

 

「約束、ですね」

「ええ」

 

 短い返事だった。

 それでも、その約束は何より大切なものになった。

 

 ――エデン条約調印式当日。

 

 巨大な講堂には、トリニティとゲヘナの代表者が集っていた。ナギサは壇上で条約の意義を語り、ヒナは会場の警備に目を光らせる。

 

 その瞬間だった。

 空を裂く轟音。

 直後、講堂が爆炎に包まれる。

 ガラスが砕け、天井が崩れ、人々の悲鳴が響き渡った。ヒナは爆風に吹き飛ばされながらも、すぐに立ち上がる。

 

「……何?」

 

 煙の向こうを見た瞬間、息を呑んだ。

 崩れた壇上。

 その瓦礫の下に、血に染まった白いドレスが見える。

 

「……ナギサ!」

 

 炎を踏み越え、瓦礫を掻き分ける。ようやく抱き寄せた彼女の身体は冷たく、呼吸は弱々しかった。

 

「しっかりして。こんなところで終わるわけにはいかないでしょう」

 

 ナギサは薄く目を開ける。

 

「ヒナ……さん……」

 

 震える指先が伸びる。だが、その手は途中で力なく落ちた。

 

「ごめんなさい……約束……」

「大丈夫」

 

 その言葉を遮るように、ヒナは彼女を抱き寄せる。

 その時だった。

 煙の向こうから武装した影が現れる。

 ガスマスクを被った襲撃者たち。

 

「平和条約など幻想だ」

 

 冷たい声が響く。

 

 ヒナは静かにナギサを横たえ、立ち上がった。

 その紫の瞳から、感情が消えている。

 

「…………よくも」

 

 銃声が響く。

 敵が次々と倒れていく。

 

「めんどくさい」

 

 静かな声だった。

 

「本当に……めんどくさい」

 

 その一言に込められていたのは、怒りだった。

 襲撃者は途切れることなく押し寄せる。

 弾丸が飛び交い、炎が燃え広がる。

 それでもヒナは一歩も退かなかい。背後には、守るべき人がいる。

 それだけが、彼女を立たせていた。

 

 ――「また一緒に紅茶を飲みましょう。」

 

 約束だけは、まだ終わらせない。

 その想いだけを胸に、ヒナは炎の中で戦い続けた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。