桐藤ナギサと空崎ヒナは、実は付き合っている   作:再誕計画シリーズ

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二話

 

 講堂は炎に包まれていた。

 崩れ落ちた天井。立ち込める黒煙。焼けた瓦礫の隙間から火の粉が舞い上がり、調印式の面影はどこにも残っていない。

 

 その中心で、ヒナは静かに立ち上がる。

 足元には血に染まったナギサ。煙の向こうから、黒い戦闘服に身を包んだアリウス部隊が姿を現した。

 

「生存者を確認」

「全員始末しろ」

 

 冷たい命令が響く。

 ヒナはナギサをそっと地面へ横たえ、愛銃《終幕:デストロイヤー》を構えた。

 紫の瞳から、一切の感情が消える。

 

「……ナギサに手を出した時点で、あなたたちは終わりよ」

 

 銃声が鳴った。

 先頭にいた兵士の額を、一発で撃ち抜く。

 

「撃て!」

 

 十数丁の自動小銃が火を噴く。だが、ヒナの姿はすでになかった。爆発で崩れた柱を蹴り、瓦礫を足場に駆け抜ける。

 残されたのは煙に揺れる残像だけ。

 

「どこだ!」

 

 兵が叫んだ瞬間、その背後から銃声が響く。

 心臓を撃ち抜かれた兵士が崩れ落ちる。振り返った二人にも、続けざまに二発。急所だけを正確に貫き、ヒナは次の敵へ向かう。

 

 ナイフを振りかざした兵士が飛び込む。ヒナは刃を片手で受け止めると、その腕を捻り上げた。

 鈍い音とともに骨が砕ける。

 苦鳴を上げる暇もなく腹部へ膝を叩き込み、その身体を瓦礫へ叩きつけた。

 

「……めんどくさい」

 

 爆発。

 手榴弾が次々と転がる。

 ヒナは炎の中へ飛び込み、空中で体勢をひねる。銃声と共に投擲した兵士が倒れる。続く二人も、一瞬で沈黙した 残された重機関銃手が弾幕を張る。コンクリート片が飛び散る中、ヒナは射線を見切り、瓦礫の陰から飛び出した。

 

「終わり」

 

 兵はその場に崩れ落ちた。

 静寂が戻る。

 立っているのはヒナだけだった。

 ヒナはすぐにナギサを背負う。

 

「……もう大丈夫。絶対に助ける」

 

 返事はない。

 弱々しい呼吸だけが背中から伝わってくる。講堂を出た瞬間、街の惨状が目に飛び込んだ。

 崩れたビル。

 炎上する道路。

 空を覆う黒煙。

 巡航ミサイルの爆撃は、まだ終わっていなかった。熱で溶けたアスファルトを踏みしめるたび、靴底が焼ける。

 それでもヒナは走る。

 

「ナギサ……耐えて」

 

 背中の体温だけを確かめながら。

 遠くで悲鳴が響く。

 

「助けて!」

「ヒナ様!」

 

 ゲヘナの生徒。

 トリニティの生徒。

 助けを求める手が、瓦礫の中から伸びている。

 ヒナの足が一瞬だけ止まる。

 

(……助けられる)

 

 胸が痛んだ。風紀委員長として、生徒を守ることが自分の役目だった。

 あの子たちは、今も自分を信じている。

 それでも――。

 背中から微かな咳が聞こえた。

 

「……っ」

 

 ヒナは唇を噛む。

 

「ごめんなさい」

 

 誰へ向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。

 再び走り出す。火傷で足の感覚はとうに失われていた。肺が焼けるように熱い。視界も霞む。それでも止まれない。

 

(私は風紀委員長失格かもしれない)

 

 一人でも多く救うべき立場でありながら、今は一人しか見ていない。

 それでも。

 

(……ナギサだけは、絶対に死なせない)

 

 その想いだけが、ヒナの身体を動かしていた。やがて煙の向こうに、まだ崩れていない建物が見える。

 簡易医療施設だった。

 ヒナは最後の力を振り絞る。

 

「ナギサ……!」

 

 その名を呼びながら、炎に包まれた街を駆け抜けた。

 

 

 

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