桐藤ナギサと空崎ヒナは、実は付き合っている 作:再誕計画シリーズ
崩壊した街を駆け抜け、ヒナはようやく簡易医療施設へ辿り着いた。
焼けたアスファルトを踏み続けた脚は火傷で血に染まり、立っているだけでも激痛が走る。それでも背中のナギサを離すことだけはしなかった。
「誰か!」
叫び声に、医療班の生徒たちが駆け寄る。
「重傷者です!」
「すぐ治療室へ!」
ヒナは慎重にナギサを担架へ乗せた。
離れていく手を見つめ、小さく呟く。
「……お願い」
「必ず助けます」
その言葉を聞き、ヒナはようやく息をつく。
――その瞬間だった。
耳を裂くような風切り音。ロケット弾が病院へ向かって飛来する。
ヒナは反射的に銃を抜いた。
「させない!」
乾いた銃声。
弾丸はロケット弾を正確に撃ち抜き、空中で爆発する。爆風が病院を揺らした。煙の向こうから、新たな武装集団が姿を現す。
「病院ごと吹き飛ばせ!」
銃撃が始まった。
ヒナは瓦礫へ身を滑り込ませる。
(ここを抜かれたら終わる)
病院にはナギサだけではない。
傷ついた生徒たちが大勢いる。
ここだけは、絶対に落とせない。
ヒナは立ち上がった。機関銃を構えた敵へ一直線に駆ける。弾丸の雨を潜り抜け、一発。敵はその場に崩れ落ちる。振り向きざまに二発。さらに二人。
息をつく暇もなく次の敵へ。
飛来する手榴弾。
爆炎。瓦礫が降り注ぐ。それでもヒナは止まらない。
ロケットランチャーを構えた敵を見つける。
跳躍し空中で照準を合わせ、射撃すると、ロケット弾が空中で爆散した。
十分。二十分。三十分。
戦いは終わらなかった。銃弾が肩を貫く。爆風が身体を吹き飛ばす。火傷した脚は感覚を失い、折れた肋骨が呼吸のたびに軋んだ。
それでもヒナは立ち上がる。
病院だけを見つめて。
(まだ終われない)
その一心だけで銃を握る。
敵が迫る。
一人倒す。また一人。銃声は途切れない。やがて敵兵たちの表情が変わった。
「撤退!」
「この化け物は殺せない!」
命令とともに武装集団は後退を始める。静寂が戻った。ヒナはその場へ膝をつく。《破壊の宣告》が手から滑り落ち、乾いた音を立てた。
全身が血で濡れている。
肩には銃創。腕には爆発で裂けた傷。焼け爛れた脚は、もう立っていること自体が奇跡だった。
呼吸をするだけで胸が痛む。
それでもヒナの視線は病院から離れない。
(守れた)
その事実だけが、彼女を支えていた。
医療班の生徒が駆け寄る。
「ヒナ様! 治療を!」
ヒナは首を横に振る。
「……先に、中を」
かすれた声だった。
「ナギサを」
それだけを言い残し、一歩踏み出す。しかし脚は言うことを聞かない。視界が揺れる。膝が崩れた。倒れる寸前、なおも病院の入口へ手を伸ばす。
(生きていて)
願いは、それだけだった。
次の瞬間、張り詰めていた意識が途切れ、ヒナの身体は静かに地面へ倒れ込んだ。