桐藤ナギサと空崎ヒナは、実は付き合っている   作:再誕計画シリーズ

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四話

 

 規則正しい電子音が病室に響く。その音に導かれるように、空崎ヒナはゆっくりと瞼を開いた。

 白い天井。

 消毒液の匂い。

 身体を動かそうとした瞬間、全身を突き抜ける激痛が走る。

 

「っ……!」

「動かないでください」

 

 落ち着いた声が耳に届く。

 ベッドの傍らに立っていたのは、セナだった。カルテを閉じると、安心したように小さく息をつく。

 

「ここはトリニティの医療施設です。あなたは式典襲撃で重傷を負いました」

 

 ヒナは目を閉じる。

 崩れ落ちる講堂。

 爆発と銃声。

 そして――。

 

「ナギサ……」

 

 瓦礫の下で倒れていた少女の姿が脳裏によみがえる。

 

「ナギサは?」

 

 その問いに、セナは静かに頷いた。

 

「命は助かりました。現在も治療中です」

 

 ヒナの肩から力が抜ける。

 

「そう……」

「あなたが助けたんです」

 

 その一言だけで十分だった。しばらく沈黙が流れる。やがてセナは静かに口を開いた。

 

「襲撃後、状況は大きく変わりました」

 

 ヒナは視線だけで続きを促す。

 

「トリニティとゲヘナは共同戦線を組みました」

「……共同戦線?」

「ええ。正式な名称はまだ決まっていませんが、皆『エデン同盟』と呼んでいます」

 

 ヒナは目を細める。信じられない話だった。長年対立してきた二つの学園が手を取り合う。

 それほどまでに、今回の襲撃は深い傷を残したということだ。

 

「皮肉ね」

 

 ヒナは小さく笑う。

 

「条約は壊されたのに、同盟は生まれた」

 

 セナも静かに頷いた。

 

「あなたが桐藤ナギサ様を救ったことが、大きなきっかけになりました」

 

 ヒナは答えなかった。

 そんなつもりで動いたわけではない。

 ただ助けたかった。それだけだったからだ。

 セナが病室を出ていく。

 静寂だけが残る。

 ヒナは天井を見上げながら思考を巡らせた。

 襲撃は終わっていない。敵は必ずまた現れる。今度はこちらから動かなければならない。情報を集め、拠点を突き止める。そして二度と同じ悲劇を繰り返させない。

 そこまで考えたところで、ヒナは目を閉じた。

 脳裏に浮かぶのは、ただ一人。

 

「……ナギサ」

 

 その名を呟くと、身体が勝手に動いていた。

 点滴を外し、壁に手をつきながら病室を出る。

 一歩踏み出すたびに傷口が痛む。

 それでも足は止まらない。

 ようやく辿り着いた病室。

 扉を静かに開ける。

 白いベッドの上で、ナギサは眠っていた。全身に包帯が巻かれ、呼吸器が規則正しく音を立てている。その胸がゆっくり上下しているのを見て、ヒナは深く息を吐いた。

 

「……生きてる」

 

 ようやく胸の奥の重石が少しだけ軽くなる。ベッドの傍らへ歩み寄り、そっと手を握る。冷たい指先だった。

 

「ごめん」

 

 その一言だけが漏れた。

 

 

 

「ごめんなさい。あなたを守り切れなかった」

 

 少しだけ沈黙が流れる。

 夕陽が病室を赤く染めていた。

 ヒナは静かにナギサを見つめる。

 

「次は守る……いや、次は起こさせない」

 

 その瞳に宿るのは怒りではない。

 決意だった。敵が誰であろうと必ず突き止める。

 二度と、この手から大切な人を零さないために。その誓いだけを胸に、ヒナは眠るナギサの手を静かに握り続けた。

 

 

 

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