桐藤ナギサと空崎ヒナは、実は付き合っている 作:再誕計画シリーズ
規則正しい電子音が病室に響く。その音に導かれるように、空崎ヒナはゆっくりと瞼を開いた。
白い天井。
消毒液の匂い。
身体を動かそうとした瞬間、全身を突き抜ける激痛が走る。
「っ……!」
「動かないでください」
落ち着いた声が耳に届く。
ベッドの傍らに立っていたのは、セナだった。カルテを閉じると、安心したように小さく息をつく。
「ここはトリニティの医療施設です。あなたは式典襲撃で重傷を負いました」
ヒナは目を閉じる。
崩れ落ちる講堂。
爆発と銃声。
そして――。
「ナギサ……」
瓦礫の下で倒れていた少女の姿が脳裏によみがえる。
「ナギサは?」
その問いに、セナは静かに頷いた。
「命は助かりました。現在も治療中です」
ヒナの肩から力が抜ける。
「そう……」
「あなたが助けたんです」
その一言だけで十分だった。しばらく沈黙が流れる。やがてセナは静かに口を開いた。
「襲撃後、状況は大きく変わりました」
ヒナは視線だけで続きを促す。
「トリニティとゲヘナは共同戦線を組みました」
「……共同戦線?」
「ええ。正式な名称はまだ決まっていませんが、皆『エデン同盟』と呼んでいます」
ヒナは目を細める。信じられない話だった。長年対立してきた二つの学園が手を取り合う。
それほどまでに、今回の襲撃は深い傷を残したということだ。
「皮肉ね」
ヒナは小さく笑う。
「条約は壊されたのに、同盟は生まれた」
セナも静かに頷いた。
「あなたが桐藤ナギサ様を救ったことが、大きなきっかけになりました」
ヒナは答えなかった。
そんなつもりで動いたわけではない。
ただ助けたかった。それだけだったからだ。
セナが病室を出ていく。
静寂だけが残る。
ヒナは天井を見上げながら思考を巡らせた。
襲撃は終わっていない。敵は必ずまた現れる。今度はこちらから動かなければならない。情報を集め、拠点を突き止める。そして二度と同じ悲劇を繰り返させない。
そこまで考えたところで、ヒナは目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、ただ一人。
「……ナギサ」
その名を呟くと、身体が勝手に動いていた。
点滴を外し、壁に手をつきながら病室を出る。
一歩踏み出すたびに傷口が痛む。
それでも足は止まらない。
ようやく辿り着いた病室。
扉を静かに開ける。
白いベッドの上で、ナギサは眠っていた。全身に包帯が巻かれ、呼吸器が規則正しく音を立てている。その胸がゆっくり上下しているのを見て、ヒナは深く息を吐いた。
「……生きてる」
ようやく胸の奥の重石が少しだけ軽くなる。ベッドの傍らへ歩み寄り、そっと手を握る。冷たい指先だった。
「ごめん」
その一言だけが漏れた。
「ごめんなさい。あなたを守り切れなかった」
少しだけ沈黙が流れる。
夕陽が病室を赤く染めていた。
ヒナは静かにナギサを見つめる。
「次は守る……いや、次は起こさせない」
その瞳に宿るのは怒りではない。
決意だった。敵が誰であろうと必ず突き止める。
二度と、この手から大切な人を零さないために。その誓いだけを胸に、ヒナは眠るナギサの手を静かに握り続けた。