桐藤ナギサと空崎ヒナは、実は付き合っている 作:再誕計画シリーズ
アリウス自治区
礼拝堂を照らす蝋燭の灯が、シスターフッドのリーダー・サクラコの横顔を静かに照らしていた。
彼女の手には、古びた革装丁の書物がある。隣にはマリーが立ち、祈るように静かに見守っていた。
「これが……アリウスに関する記録です」
ページをめくるたび、数百年前の歴史が姿を現す。
第一回公会議。
トリニティに反旗を翻したアリウス分校。そして、ユスティナ聖徒会による討伐。追放されたアリウスは歴史から姿を消した――そう記録されていた。だが最後のページだけは違った。
「我々は虚無に帰す。全ては偽り、全ては無意味」
その文言は、エデン条約式典を襲撃したテロリストが残した声明と酷似していた。
マリーが息を呑む。
「つまり……今回の襲撃は、アリウスの思想を継ぐ者たちによるものなのでしょうか」
サクラコは静かに本を閉じた。
「可能性は極めて高いでしょう」
静寂が礼拝堂を包んだ。
その頃、トリニティ医療施設では、エデン同盟による緊急会議が開かれていた。負傷したままのヒナは包帯姿で机に向かい、広げられた地図を見つめている。
部屋へサクラコとマリーが入ると、全員の視線が二人へ集まった。
「調査結果を」
ヒナが短く促す。
サクラコは古い書物を机へ置いた。
「襲撃犯の拠点は、アリウス自治区地下のカタコンベである可能性が高いと判断しました」
部屋の空気が張り詰める。
「さらに……今回の襲撃は、かつてアリウスを追放したトリニティへの復讐である可能性があります」
「つまり……私たちの過去が、この惨劇を招いたってこと?」
サクラコは静かに頷く。
「否定できません」
重い沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはヒナだった。
「なら、答えは一つ」
彼女の紫の瞳には冷たい炎が宿っていた。
「その遺恨を根絶やしにする」
夜。
エデン同盟はアリウス自治区へ到着した。荒廃した街の地下には、巨大なカタコンベが広がっている。
ヒナは丘の上から地下施設を見下ろした。
「出入口は百か所、全部封鎖する。誰一人逃がさない」
短い命令だけが飛ぶ。ゲヘナ風紀委員会とトリニティ正義実現委員会は、一斉に行動を開始した。重機が運び込まれ、コンクリートブロックと鋼鉄の隔壁が地下通路を塞いでいく。
「封鎖完了!」
無線報告が響く。続いて爆薬部隊が前進した。大量の爆薬と焼夷弾が各入口へ設置され、爆撃用ドローンが夜空へ飛び立つ。
ヒナは無線機を握った。
「開始」
その一言だけだった。
次の瞬間。
地面が揺れた。爆炎が地下から噴き上がり、夜空を赤く染める。逃げ場を失ったテロリストたちの悲鳴が地中から響いた。
ミカは目を伏せ、サクラコは祈りを捧げる。しかしヒナだけは炎を見つめ続けていた。
「これで終わりじゃない。ナギサが安全になるまで私は止めないし、止まらない」
爆撃を生き延びた者たちは地下から脱出を試みた。
その瞬間だった。
「第一波、突入」
ヒナの命令と同時に、風紀委員会が雪崩れ込む。
閃光弾と手榴弾。
激しい銃撃。混乱した敵は統制を失い、再び地下へ逃げ込んでいく。
ヒナは静かに呟いた。
「罠よ」
続いて第二波。重装部隊が火炎放射器と焼夷弾を展開し、地下通路へ火力を集中させる。炎が酸素を奪い、熱風が逃げ道を塞ぐ。
最後に第三波、掃討部隊が規律正しく前進し、生き残った敵を一人ずつ制圧していく。
混沌で追い込み、火力で砕き、規律で終わらせる。
それがゲヘナ風紀委員会の戦い方だった。
夜明け。
アリウス自治区には黒煙だけが立ち上っていた。
ヒナは焼け跡を見つめながら地図を畳む。
「終わった……」
そう呟きながらも、その瞳から怒りは消えていない。
「まだ残党がいる。狩りを続けるわ」
ミカは何も答えなかった。
サクラコは静かに祈った。
一方その頃、医療施設では、昏睡状態のナギサの指先が僅かに動いた。
報復は終わった。しかし、それが新たな時代の始まりなのか、それともさらなる戦いの幕開けなのか――まだ誰にも分からなかった。