桐藤ナギサと空崎ヒナは、実は付き合っている 作:再誕計画シリーズ
ヒナはベアトリーチェの言葉を聞いていなかった。
フェアな戦いも、儀式の試練も、ヒナにとってはどうでもよかった。彼女の心を突き動かすのは、ナギサを救うための一途な愛だけだ。
「フェア? 試練? そんなもの知らない。ナギサを取り戻すためなら、何だってっ!」
ヒナの叫びが祭壇に響き、彼女はアバンギャルドスーツのブースターを全開にした。強化された腕で黒い影を殴り飛ばし、銃を連射しながらベアトリーチェに肉迫した。
ドローンが爆発物を投下し、祭壇の周囲を炎に包む。ヒナの攻撃は必死で、フェアさとは程遠い乱暴な猛攻だった。
ベアトリーチェはヒナの無秩序な攻撃を見下ろし、僅かに眉をひそめた。
「貴方のその感情的な足掻きは、試練に値しません」
彼女が指を鳴らすと、「色彩」の力が膨張し、光と闇の奔流がヒナを押し返した。だが、ヒナは歯を食いしばり、装備の限界を超えて再び突進した。
「ナギサが大好きだから、私は戦う! それ以外の理由はないし、それ以上の理由もない!」
その言葉と共に放たれた銃弾が、ついに「色彩」の障壁を貫き、ベアトリーチェのローブを切り裂いた。血が一滴、祭壇に滴り落ちた。
ベアトリーチェは肩を押さえ、初めて表情に驚きを浮かべた。だが、すぐに冷徹な笑みに戻り、ヒナを見据えた。
「面白い。貴方の愛が、常識を超えた力を持つとは。なら、私も本気を出さなくては」
彼女が両手を広げると、「色彩」が完全な形を取り始めた。それは無数の色が混ざり合う奔流となり、祭壇全体を包み込んだ。アツコの命が尽きかけ、儀式が頂点に達する中、ベアトリーチェはヒナに宣言した。
「貴方が私を倒せば、桐藤ナギサの力を返す。しかし私が勝てば、貴方の全てを『色彩』に捧げる。それを今一度、宣誓しましょう
ヒナは息を荒げながら、銃を握り直した。ベアトリーチェの「フェアな試練」など、彼女には関係なかった。ナギサを取り戻すためなら、どんな手段でも構わない——その一心が、ヒナを突き動かしていた。祭壇は二人の戦場となり、「色彩」の力が試練の幕を開けた。
アリウス自治区の地下祭壇は、「色彩」の力に支配されていた。光と闇が混ざり合う奔流が空間を満たし、ベアトリーチェはその中心で冷徹な女王のように君臨していた。
彼女が呼び出した「色彩」の性質は、反転——ダメージを無傷に変え、攻撃の威力を無効化する力だった。祭壇に滴る秤アツコの血が儀式を加速させ、ベアトリーチェの周囲に不可侵の領域を作り出していた。
空崎ヒナはミレニアムのアバンギャルドシリーズをフル稼働させ、祭壇へと突進した。強化スーツのブースターが唸り、最新鋭の銃が連続で火を噴く。
ドローンが援護射撃を繰り出し、爆発物が祭壇を包む。だが、その全てが「色彩」に触れた瞬間、反転した。銃弾は空気を切り裂く力を失い、爆発は静かに消え、ヒナの拳さえも柔らかな風に変わってしまった。
ベアトリーチェは冷たく笑い、ヒナを見下ろした。
「無駄ですよ。『色彩』は全てを反転させる。貴方の攻撃は私に届かない。貴方には勝ち目がない」
ヒナの愚直な火力
ヒナは歯を食いしばり、装備の出力をさらに引き上げた。アバンギャルドスーツが悲鳴を上げ、ドローンの支援ユニットが限界を超えて火力を増強する。彼女の戦法は愚直だった——「色彩」の反転を打破するために、純粋な火力を高め続けること。
「反転するなら、反転しきれないほどの力をぶつけて倒す!」
ヒナの叫びと共に、銃弾の連射が祭壇を埋め尽くした。ドローンが投下する爆発物が連続で炸裂し、祭壇の石壁が砕け散るほどの衝撃を生み出した。彼女の攻撃は理屈を超え、ただひたすらにベアトリーチェを圧倒しようとする執念だった。
だが、「色彩」はその全てを反転させた。爆発の炎は冷たい霧に変わり、銃弾は無力な粒となって地面に落ちた。ベアトリーチェは手を軽く振るだけで、ヒナの努力を嘲笑うように無効化した。
「分からないというのは悲しいものですね。貴方は何も出来ない。何も守ることは出来ない。なのに何故戦うのです?」
彼女の声は冷たく、ヒナの心を切り裂く刃 のようだった。祭壇の魔法陣が輝きを増し、アツコの命が尽きかけていた。
ヒナは息を荒げながら、ベアトリーチェに叫び返した。
「勝てるから戦うんじゃない。勝たなきゃいけないから、戦うの!」
その言葉は、桐藤ナギサへの愛から生まれたものだった。ナギサの目が見えず、体が動かない姿が脳裏に焼き付き、ヒナに戦う理由を与えていた。
彼女はアバンギャルドスーツの最後の力を振り絞り、ベアトリーチェに肉迫した。銃を捨て、素手で「色彩」の奔流を突き破ろうと拳を振り上げた。
ベアトリーチェの瞳が一瞬驚きに揺れた。だが、すぐに冷徹な笑みに戻り、彼女は「色彩」の力を集中させた。
「愚かですね、空崎ヒナ」
その瞬間、「色彩」がヒナの体を包み込んだ。彼女の拳が届く前に、ベアトリーチェの手がヒナの胸に伸びた。冷たい指がスーツを貫き、心臓を掴んだ。
「——終わりです」
ベアトリーチェの声と共に、ヒナの胸に穴が開いた。血が祭壇に飛び散り、彼女の体が膝をついた。アバンギャルドスーツが機能を停止し、ドローンが地面に落ちる音が響いた。
ヒナは血を吐きながら、祭壇の床に倒れ込んだ。視界がぼやけ、ナギサの顔が浮かんだ。
「ナギサ……ごめん……まだ、終わらせてないのに……」
ベアトリーチェはヒナを見下ろし、冷たく呟いた。
「貴方の愛は立派だったでしたよ。でも、それだけでは『ナプキンを取る者』にはなれない」
「色彩」が完全に顕現し、祭壇全体が光に包まれた。アツコの命が尽き、儀式が完成に近づく中、ヒナの意識は闇に沈んでいった。
◆
アリウス自治区の地下祭壇は、「色彩」の奔流に支配されていた。
ベアトリーチェは冷徹な女王のごとく立ち、鎖に繋がれた秤アツコの血を魔法陣に滴らせていた。「色彩」は、ロイヤルブラッドであるアツコの神秘によって呼び出された存在だった。
それはキヴォトスの生徒たちに宿る神秘に反応し、彼らの自由意志を尊重する性質を持っていた。ベアトリーチェは自らの意志で「ナプキンを取る者」となる力を求め、「色彩」を掌握しようとした。そして、彼女の執念に応え、「色彩」はその力を与えていた。
だが、空崎ヒナの出現が全てを変えた。ミレニアムのアバンギャルドシリーズを身にまとった彼女は、祭壇に突入し、ナギサを救うためベアトリーチェに挑んだ。彼女の胸が貫かれ、血が祭壇に滴り落ちた瞬間、ヒナの意識は闇に沈んだ。
「ナギサ…私が、あなたを…」
死にゆく中で聞こえたナギサの声が、ヒナの自由意志を呼び覚ました。
「ナギサを救いたい」という純粋な願いが、彼女の神秘を震わせた。
「色彩」は、ベアトリーチェだけでなく、ヒナの意志にも反応した。ロイヤルブラッドによって呼び出されたこの存在は、生徒の神秘に共鳴し、その自由意志を尊重する性質を持っていた。ベアトリーチェが力を求めたように、ヒナがナギサを救う力を求めた瞬間、「色彩」は必然的に彼女にも力を与えた。
ヒナの胸の穴が塞がり、血が体に戻った。停止していた心臓が再び鼓動を刻み、アバンギャルドスーツが再起動した。「色彩」の奔流が彼女を包み込み、彼女の体は祭壇の中心で立ち上がった。神秘が共鳴し、ヒナの意志が「色彩」を動かしていた。
「ナギサを取り戻す……それが私の意志!」
ヒナの声が祭壇に響き、「色彩」の光が彼女を中心に渦巻いた。ベアトリーチェが驚愕の表情を浮かべた。
「そ、そんなことが…? 『色彩』が貴方にも力を与えるだと? そんなはずは……!」
彼女が制御を試みたが、「色彩」はヒナの意志を尊重し、ベアトリーチェの命令を無視した。
ヒナは両手を広げ、「色彩」の力を引き出した。それはベアトリーチェに与えたのと同じ力が、ヒナにも与えられた必然の結果だった。彼女の瞳にはナギサへの愛が燃え、ベアトリーチェへの憎しみが刃となっていた。
「全ての不幸を背負って、無限に詫び続けなさい!」
ヒナの叫びと共に、光の奔流が祭壇を貫いた。「色彩」が彼女の意志に呼応し、純粋な破壊力となってベアトリーチェを襲った。
ベアトリーチェは最後の抵抗を試みる。「色彩」を反転させ、攻撃を無効化しようとしたが、ヒナの意志がそれを上回った。
「私が『ナプキンを取る者』だ! たかが、生徒如きに……!」
彼女の言葉は途中で途切れ、光に飲み込まれた。ベアトリーチェの体は「色彩」に溶け込み、祭壇の魔法陣が砕け散った。アツコの鎖が解け、彼女は床に倒れ込んだが、命は保たれていた。ヒナの意志が「色彩」を動かし、ベアトリーチェを討ち滅ぼしたのだ。
祭壇が静寂に包まれた。ヒナは息を整え、「色彩」の残響が消えていくのを感じた。彼女の体に宿った力は、ナギサの奪われた視覚と運動機能を取り戻したことを示していた。「色彩」はヒナの意志を尊重し、彼女の願いを叶えたのだ。
「ナギサ……もうすぐ」
ヒナは祭壇を後にし、ナギサの待つ病室へと向かった。ベアトリーチェは滅び、「色彩」はその役目を終えた。
ヒナの愛と自由意志が、必然の勝利を導いた瞬間だった。