英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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明けましておめでとうございました(過去形)

生存報告です。
いつもより倍近い文字量です。


94.予想外の事態

 

ミナズキによって放たれた炎を纏った上段切り。

しかしそれはGに届くことはなく、いつの間にか割って入るように差し込まれた朱い槍によって遮られた。

 

 

「流石にそう上手くはいかないだろ」

「っ!?」

まるでどうって事ないかのように笑いながら攻撃を防いだのは他の帝国解放戦線の兵士たちと同じ戦闘服を纏いながらもヘルメットは着けていない槍使いの男だった。

 

髪は煤けた金髪で目は海のような群青色で切れ目、ミナズキよりは少しだけ上背の高い男がいつの間にかそこにいた。

 

「ふ、ははは!残念だったな!貴様の攻撃は私には届かな「うるせぇぞ、さっさと下がれ」ぐ・・・!」

1度は声を上げたGだったが自身を助けた本人に遮られ苦い顔を浮かべ静かに後ろに下がる、同時にミナズキも槍使いから少しだけ距離をとった。

 

「まぁ、一応は自己紹介しておくか。オレはアスラ、雇われの傭兵で金を貰えればある程度の仕事は引き受けることにしている」

「・・・ミナズキだ・・・で、そのある程度の仕事にテロリストの手伝いは含まれているのか?」

「正直気乗りはしてないな・・・『帝国の未来に関わる大事な仕事』なんて変な謳い文句で依頼してくるし妙な金払いの良さもあったからキナ臭くは思っていたんだが、蓋を開けたらまさかまさかで皇女殿下を人質にしようとするんだからよ・・・ぶっちゃけお前が助けてくれてホッとしたぞ」

 

ミナズキの問いかけに笑って返す槍使いの青年アスラ、あまりに潔い、というかサッパリとしている物言いにミナズキも少しだけ口を開く。

 

「本当にぶっちゃけてるな・・・今回のテロの目的はなんだ?」

「さぁな、そういった依頼内容の理由を深掘りしない事がこの仕事を長く続けるコツだからな」

ミナズキの問に答えるとアスラは槍を構え直してミナズキに向ける。

 

「問答はこのくらいで良いだろ、やるならさっさとやろうぜ、そっちの魔導杖持ちも含めて良いからよ」

「そうだな・・・アイネ、サポート頼む」

「まっかせてー!・・・っとその前に、他の近衛兵の人たちは出席者の人たちを守ってね!」

 

アイネの言葉に近衛兵たちが出席者と帝国解放戦線の間に壁を作るように並び武器を構える。

 

「うん、これなら邪魔は無いか?・・・んじゃ、始めようか!」

「まぁ、やるしかないしな・・・」

「勝つよー!」

 

ミナズキもアイネも武器を構えた。

 

 

 

次の瞬間、アスラは一瞬のうちに距離を詰めながら突きを放ち、ミナズキはそれを残月でいなしていた。

 

「うぉっ!?」

「っ!?」

2人揃って驚愕の表情で互いを見合う。

 

「(マジか、今の一瞬で貫いて終わらせるつもりだったのに抜刀間に合うのかよ!?)」

「(あの朱槍、どう見ても重量があるのに一瞬で詰められた上に一瞬見失った・・・どんな敏捷性してるんだ?)」

互いに評価し合い頭の中で少し考える、その結果2人が出した結論は全く一緒だった。

 

「「(こいつ、面白いけど長引かせるには面倒くさい奴だ・・・!)」」

 

構えは解けない、依然として膠着状態だ。

しかし、2人はどこか楽しんでいる。何処と無く気が合いそうな相手に、久しぶりに楽しく打ち合えそうな相手に、そして何故か笑ってしまっている自分たちに。

 

「へへ・・・たった1合だけどよ、悪くないな」

「正直癪だけど同感だ・・・!」

アスラは槍を構え直し、ミナズキももう一度抜刀の構えに戻る。

 

 

「じゃあ、これならどうだよ・・・シュトルムランツァー!」

アスラが放ったのは先程よりも倍以上速い神速とも言える一撃、しかしそれを見たミナズキの対応も速かった。

 

「・・・・重要塞」

咄嗟に左手で抜いた銀の牙による防御クラフト、重要塞でその突きに合わせるように太刀と剣を振り抜き正面から槍を受け止めた。

 

「止めたか!」

「そう何度も同じ突きは通用しないだろ・・・!」

「速さは段違いだろうがよ!」

言い合いをしつつお互いに押し合うような体勢、それに割って入ったのはアイネだった。

 

「パンプキンボム!」

ミナズキの後ろにいたアイネが魔導杖を上に掲げるとアスラとミナズキ目掛けて大量のオバケの顔が彫られたカボチャが頭上から落ちてきた。

 

「は?」

「え?」

いきなり出てきたオバケカボチャに2人揃って離れて距離をとる、オバケカボチャは地面に落ちた途端大きな音と共に爆発した。

 

「ファンシーな見た目な割に・・・」

「普通に危ない「ミナズキ!長引かせてる場合じゃないよ!」・・・それもそうだな」

勝負に水を差されたことと、その差し方が思ったよりもファンシーな見た目だったことにアスラは苦笑いをこぼす。

ミナズキも文句が出そうになるが水を差した本人から怒られてしまい相手に向き直った。

 

「いや、まぁそれはそうだな・・・こっちも仕事だし」

「普通に楽しみかけてたな・・・」

ただし、向き直ったは良いがアスラもミナズキもイマイチ緊張感に欠けた。ぶっちゃけ似てはいないし武器だってミナズキは太刀、アスラは槍だ。

全くと言っていいほどタイプも違う。

 

しかし何処かとは言えないが他人な気がしないのだ。

まるで長年一緒に戦った戦友と一緒にいるかのような、稽古をしているかのような感覚にお互いに親近感のようなものを覚えていた。

 

「動くな!」

そんな空気を壊したのは出席者たちがいるはずの方向から聞こえた声だった。

戦っていた3人、いや防衛をしていた近衛兵たちもその声に振り向くとそこには3人の出席者がそれぞれマクダエル議長、アルフィン殿下、そしてエリゼに対して魔導銃やナイフを突き付けている姿だった。

 

面白くなさそうに顔をしかめるとアスラは自分の雇い主であるGに目をやり問う。

「おいG、あれはなんだ?」

「なに、念には念を入れてね・・・何も鉄血宰相に不満があるのは我々だけではない、出席者の中にも協力者を忍ばせておいたのさ」

得意げに笑うG。しかし、アスラの顔がどんどん不機嫌になっていく事には気付かない。

そのまま出席者に扮していた協力者に指示を出した。

 

「では殿下とその侍女、マクダエル議長閣下にはこちらに来てもらおうか。誰一人この場から動くな!」

そう言ってGは銃口をミナズキたちに向ける、ミナズキは咄嗟にアイネを自分の後ろに立たせつつ太刀を仕舞った。

「ど、どうしようミナズキ・・・」

「とりあえずは様子見だな、3人を傷付ける訳にもいかないし」

心配そうなアイネを制しながらミナズキは周りを確認する、近衛兵とテロリストの戦闘では装備の差があるのか近衛兵の方が負傷者が多い。下手に自分がここで暴れれば人質3人はもちろんアイネも他の近衛兵たちもただではすまないのは明白だった。

 

「おい、早く来い!」

怒鳴りながら人質を連れていくテロリストたちは3人をかなり強引に引っ張りながら移動している。

力が強いのかアルフィンとエリゼは痛みに耐えるような表情をし、マクダエル議長も苦悶の表情を浮かべていた。

 

「おい、ちょっと強引過ぎやしないか?銃も突き付けてるんだ、そう簡単に逃げようとはしないだろ」

「はっ!どうだかな?いずれにせよこちらの目的が達成出来ればどうだって構わないだろう」

人質の表情を見たアスラが苦言を呈すが彼らそれを聞き流し、そのままエリゼの首に腕を回し強引に連れていく、首が絞まっているのかエリゼは回された腕を掴みもがく。

 

「う、うぅ・・・」

「エリゼ!」

もがくエリゼにアルフィンは声を上げる、しかしテロリストは気にすることも無く強引にエリゼを引っ張る。

エリゼの首を絞める手にはナイフが握られている。

そしてそのナイフがエリゼの首に小さく食い込み少しずつ血が流れていた。

 

「おい止めろ!あの娘は関係無いだろ!?」

「騒ぐなたかが傭兵如きが!何度も言わせるな!この行動は帝国を元のあるべき姿に戻すための崇高な活動なのだ!」

「ははは!そうとも!アスラよ、そこに居る目障りな2人を拘束しろ!」

アスラが止めるように声を荒らげたがテロリストたちは止まるどころか更に血走った目で笑う。

そんな彼らを見たアスラの目は落胆と軽蔑、そして失望の色が孕んでいた。

「・・・やっぱり、所詮テロリストはテロリストだったか・・・まぁ、丁度いい落とし所だな・・・」

 

そう言うとアスラはゆっくりとエリゼたちを拘束しているテロリストたちへと向かっていく。

その様子にテロリストたちはなんとも言えない不気味さを感じた。

「な、なんだ傭兵?」

「別によ、お前らがどんな思想持ってようが良いんだよ、帝国を昔みたいにしたいとかそう言うよく分からない考えも・・・その為にテロ行為をするのも1万歩譲ればまぁ、仕方ないって折り合いだってつけてやる。だがな・・・」

そこまで言うとアスラはその場から消える。

 

「無抵抗な人間や子供に手を上げるのはどう考えても違うだろうよ!?」

そしてアスラはアルフィンたちを拘束していたテロリストたちを槍でいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。

 

「な、貴様!裏切る気か!?」

「は?そもそも俺が承諾したのは妨害された時の対処だけだ、人質に手を出すのを加担すると言った覚えは無い」

「き、貴様!高い費用を払ったのに中途半端で仕事を投げる気か!そんな真似絶対に「なしつけて返してやるよ!」ぐはぁ!」

Gの抗議にアスラは恐らくは貰っていたであろうミラ硬貨が入っている袋をGの顔面に叩きつけるように投げつける。

そのあまりの勢いにGは後ろにぶっ飛ばされた。

アスラには流儀があった、『無抵抗の人間と女子供には手を出さない』という流儀が。これさえ守ればアスラは多少の事には目を瞑る、しかし逆に言えばそれを破ってしまえばアスラは味方につかなくなる。

Gの危惧していた事が、腕利きの傭兵が自分たちを裏切り敵に回るという危惧が現実のものになってしまった。

 

 

「ふぐっ、き、貴様・・・許さんぞ!同志たちよ、こうなれば実力行使「それは無理だろ」・・・は?」

しかしそれでも折れずに鼻を抑えながら声をあげるG。しかし、それはミナズキの言葉で遮られる。

 

「近衛兵と戦ってた奴らはもう対処し終わったぞ?」

「もう出席者のみんなに手は出せないよー!」

「は、はぁ!?」

 

Gとアスラのやり取りの間、ミナズキとアイネはちゃっかりではあるが近衛兵と戦っていたテロリストたちを強襲、そのまま無力化してしまった。

あまりの事に素っ頓狂な声をあげるG、目の前にはミナズキとアイネによって気絶させられた自身の同志たちの姿、他の無事な同志は自分の後ろにいるほんの数人だけであり、傭兵として雇ったアスラはもうあちら側に寝返っている。

完全に詰みの状態だ。しかしそれでもGは諦めない。

 

「こうなれば・・・・!」

そして懐から禍々しい笛を取り出し、吹き始める。

 

「なんだ?音楽隊の真似事か?」

「おいアスラって奴、気をつけろ。その笛の音には・・・!」

首を傾げるアスラにミナズキが忠告のために声をかけるが遅かった。

侵入の際に開けられた穴からゾロゾロと蜘蛛型の魔獣が大量に現れる。

 

「ははは!今のうちに撤退させてもらおう!同志たちよ、撤退だ!」

「お、おう!」

そう言ってGと動けるテロリストたちは自分たちが作った穴へと逃げ込んで行く。

残ったのは無力化されたテロリストたちと大量の蜘蛛型の魔獣だけだ。

 

 

「おいミナズキ、今は手を貸してもらおうか。」

「馴れ馴れしいな、まぁいいけどさ」

アスラの先程とは違う完全に呼び捨てで馴れ馴れしい接し方に苦笑いを浮かべつつもミナズキは2人で蜘蛛型魔獣の前に立ち塞がる。

 

 

「アイネ、今度こそ出席者を頼む」

「えー、またー?」

Gたちを追おうとしたミナズキはアイネに出席者の護衛を頼むがアイネは少しばかり不満そうだった。

 

「仕方ないだろ、ここに出席者を放置しておくわけにもいかないし」

「うーん・・・」

ミナズキに説得されるもうんうん唸るアイネ、しかし1つ思いついたのかサイドテールがピコンッと上を向いた。

 

「オッケー!その代わり今度また私の実家に来てね!」

「・・・まぁ、構わないけど」

部外者であるアスラがいる手前アル・カフラの名前は出せないがミナズキには伝わったようでアイネは満足そうにムフッと笑う。

「(これでミナズキに美味しいお肉料理を作って貰える・・・!)」

「(多分何か新しい発見でもあったんだろうな・・・)」

 

細かい部分が伝わっているかは定かではないが───

 

 

「んま、まずは目の前の気色の悪い蜘蛛共をやってからにしようか」

「だな、これじゃ進めない。だから─── 」

「「5秒だ─── 」」

そう言った瞬間アスラとミナズキは立ち塞がる蜘蛛型魔獣たちに襲い掛かる。

「アルティウムセイバー!」

「紅葉切り!」

槍を鋭く力強く薙ぎ払い突撃してくる蜘蛛型魔獣を軽く吹き飛ばすアスラと同じく突撃して来た蜘蛛型魔獣を通り過ぎざまに真っ二つにするミナズキ。

 

2人の宣言通りに魔獣たちはものの5秒で殲滅された。

 

「・・・すごっ」

「槍使いの方も凄いですがミナズキさんも流石に兄様の兄弟子ですね」

「・・・・」

いとも簡単に魔獣を倒して除ける2人にアイネとエリゼは感嘆の声を漏らす。一方でアルフィンは何かを考えるように口に手を当てていた。

 

やがて結論が出たのかアルフィンは槍に付いた魔獣の血を振り払っているアスラの元へと歩いて行く。

 

「片付け終わったが・・・アスラ、あんたは来るのか?敵対するにしても一応古巣なんだろ?」

「さて、な。一旦フリーだがこのままじゃお尋ね者だから取り敢えずは「あの、待ってください!」ん?」

魔獣を倒し改めてGたちを追うミナズキに声を掛けられたアスラが決めあぐねているといつの間にか近くにいたアルフィンが声を掛けてきた。

 

少し驚いた顔をしたアスラだったが周りに危険が無いことを確認するとアルフィンの前に立ち答える。

「なんだよ皇女様、こんな時に」

「えっと、まずは私はアルフィン・ライゼ・アルノールと申します。先程は私の親友を助けていただきありがとうございます」

 

気だるげに聞いてくるアスラにアルフィンは毅然と微笑みながら自己紹介をする。自分のことを言われたと理解したエリゼも遠くから頭を下げる。

そんな態度にどこかむず痒くなったアスラは目を逸らしながら話を促した。

「えっとよ、んで、用件はなんだ?」

 

そんな言葉にアルフィンはなんて事ないように口を開く。

「私に雇われませんか?」

「・・・はぁ?」

「え?」

「姫様?」

 

アルフィンの言葉にアスラだけではない、ミナズキもエリゼも言葉を失う。

周囲の出席者も遠くからざわついており、そんな周囲にアルフィンは首を傾げる。

「あら、もしかして傭兵の方を雇うには正式な手順が必要だったかしら?」

「あー・・・周囲の反応が妥当だろうな、少なくともさっきまで自分を害そうとしたやつを味方に引き入れるのはそこそこ勇気が必要だと思うぞ」

 

半ば呆れたような顔をするアスラ、しかしアルフィンはそれでも笑って答える。

「そうですか?でも私の考えは変わりません。アスラさん、私に雇われませんか?」

 

なおも変わらないアルフィンの言葉、それに対してアスラは苦い顔で答える。

「・・・言っとくが傭兵だからな、報酬は必要だぞ。今起きたことは抜きでな」

「なるほど・・・ではこちらを」

 

そう言ってアルフィンはドレスのポケットから1枚のハンカチを取り出して差し出す。

それは真っ白で隅にはエレボニア帝国の国旗である黄金の軍馬の刺繍が施されていた。

「物々交換か?悪いがそういうのはやってないぞ?」

「いえ、今は持ち合わせがありませんので後日これを持ってバルフレイム宮へ来てください」

 

首を傾げたアスラにアルフィンはそのまま1歩出てハンカチをアスラの手に押し付ける。

「報酬はその時に差し上げます」

そう言ってまた微笑むアルフィン、そんな彼女にアスラはしばらくハンカチを見つめると1つ息を吐いてハンカチをしまった。

「わかった、とりあえず契約成立だ。そんで、雇い主殿?俺はどうすれば良い?」

「今しがた逃げたテロリストの撃退、可能であれば捕縛をお願いします」

「承知した。おいミナズキ、皇女殿下からのお願いだ、さっさとあいつら捕まえるぞ」

「話がまとまったみたいだな、じゃあ行こうか」

 

そうしてミナズキとアスラは逃げたGたちを捕まえるため彼らが開けた穴の中へと降りていった。

 

 

 

その10分後───

 

 

クリスタルガーデンの扉が勢い良く開かれⅦ組のA班、B班の面々がなだれ込む。

特にリィンの勢いは凄まじく、すぐに自分にとって1番重要な人物を見つけ駆け寄った。

「エリゼー!」

「兄様!」

お互いを呼び合いリィンとエリゼは抱きしめ合っていた。

その様子を他のメンバーはなんとも言えない顔で見ていたが、クリスタルガーデン内が思ったよりも落ち着いている事に気付く。

 

「思ったより大丈夫そう?」

「少なくとも緊急感は外より薄いねぇ」

武器を構えながらも首を傾げるフィー、レナも周囲を見渡し敵がいない事を確認し出席者たちの前にいるアイネを見つけた。

 

「アイネ君?」

「あ、レナって人」

お互いによそよそしい呼び方をした2人だったがレナが1度咳払いをして話を始める。

 

「ミナズキはどこへ行ったんだい?君と一緒に動いてたはずだろ」

「あっちからテロリストを追いかけて降りていったよ。あたしはここにいる人たちの護衛中」

レナの質問にアイネはそう返すと大きく開いた穴を指さした。

レナは少しと奥にあるそれを見ていたが視界の端にある物を見つける。

 

「ん?おや?・・・これって」

視界の隅で鈍く光った物、それはレナがミナズキと一緒に探していた欠けた懐中時計の欠片の1つだった。

未だに少し禍々しいオーラを放ってはいるがレナにとってはそこまで気にすることではない。

「なるほど、恐らくはGと戦ってその時に落としたのか」

そう言ってレナは懐中時計の欠片に手を伸ばし拾い上げる。

 

 

 

 

瞬間、レナの視界は真っ赤に染った。

 

 

 

 

 

クリスタルガーデン、地下通路───

 

「臭いは残ってる、このまま真っ直ぐだ!」

「便利な能力だな、どこで習った?」

ミナズキとアスラはGたちを追っていた。

アルフィンと契約の話をした分少し遅れてしまっているがそれでもそこらの人間より2人は速い。

 

ミナズキがいる分相手を探すのに手間取ることもないので迷うことも無い。

すぐにGたちの背中を2人の視界が捉えた。

 

「待てやG!」

「クソッ、思っよりも速い!」

怒鳴るような声をあげるアスラが迫っているのを見てGは苦虫を噛み潰したような表情を見せながら逃げる。

 

そのまま両者は少し広めの広場のような所に到着する。

そこには大きな生き物の骨の残骸があった。

 

「観念しろや。今しがた俺は皇女様と契約を結んだからな、もうお前にとって味方じゃないぞ」

「こっちとしてもテロリストを見逃す訳にはいかないからな、大人しく捕まってもらおうか」

武器を構えて迫るアスラとミナズキ、2人を見てGは忌々しげな表情を浮かべるが何かを思いついたのかすぐに魔笛を構えた。

 

「同志たちよ!時間を稼いでくれ!」

「おう!」

そう指示を出すとGは魔笛を吹き始めた。不協和音とは言えないが聞くだけで不穏さや不快さを感じさせる音色が広場に響く。

 

「邪魔だな!」

「どけや!」

そうしている間にもミナズキとアスラは向かってくるテロリストたちを切り伏せていく。

しかしGの思惑が成功するには充分な時間だった。

 

 

『giaaaaaaaaaaa!!』

 

聞こえきたのは咆哮、その発信源は広場にあった生き物の骨の残骸からだった。

 

「はぁ!?」

アスラが声をあげる、先程までただの残骸だったはずのそれは禍々しいオーラをまといながら静かに成形されていく。

しばらくするとそこには暗黒時代に滅んだはずの翼竜の形に変わっていた。

 

「クックックッ・・・ハハハハ!これがこの魔笛、《降魔の笛》の力!暗黒時代にいたとされる竜すらも操る古代遺物(アーティファクト)だ!」

高笑いしながらGは告げ、そのまま竜を2人に突撃させる。

 

『geaaaaa!!!』

咆哮を上げながら前足を振り下ろしてくる竜、2人はそれを躱し距離を取った。

「さて、どう倒したものか」

「やる事は変わんねえだろ、ぶっ叩くだけだ!」

 

太刀を構え直しながら愚痴をこぼすミナズキとお構いなしに吠えるアスラ、2人にとってこの竜はそこまで脅威ではない。

動きは思ったよりも遅く、何よりわかりやすい。

骨がバラバラに動く、とかがあればそれは大変かもしれないがそんな事も無さそうだ。

 

何より、この2人は妙に息が合う。

それこそ今まで一緒に戦ってきた戦友のようだった。

 

「さて、行こうか!」

「おうよ!」

余裕の表情を浮かべた2人、いざ突撃しようとした次の瞬間だった。

 

 

『aaaaaaaa!!!!』

 

 

背後からまた違った咆哮が聞こえた。

 

 

「なんだ?」

「新手か!?」

振り向いた2人が見たのは自分たちとそう変わらない体長をした背中に翼の生えた人型の魔獣、いや獣と言うよりは魔物だった。

 

「な、なんだこいつは!?・・・いや、構うものか!やれ!」

Gも同様に驚くがすぐに竜に指示を送る。

竜はそれに応えるように1度鳴くと前足をその魔物に向かって振り下ろした。

 

ドシン、と重たい音が響き、前足が魔物に直撃した。

 

 

 

しかし───

 

『aaaaa・・・aaaaaaa・・・aaaaaaaa!!!!』

踏み潰されたはずの魔物はその決して大きくない体躯で竜の前足を押し上げ、そのまま前足を掴み叩き折った。

 

『giaaaaaaaaaaa!!!!』

「なんだと!?」

悲鳴にも感じる竜の咆哮と驚きを隠せないG、しかしそれでもその魔物は止まらない。

そのままもう片方の前足へと突っ込むとそれも同様にへし折った。

 

「な、まさか、こんな、こんな事が・・・ありえ、ない・・・暗黒時代の竜だぞ?古代遺物の力だぞ?それまるで玩具みたいに・・・嘘だ、これは夢だ、覚めるべき悪夢だ・・・あ、あはは・・・」

Gは現実から目を背けるように笑い始める。

共に行動していた同志はミナズキとアスラによって倒され、頼みの綱である竜は今目の前に突然現れた魔物に蹂躙されている。

もはや打つ手は何も無かった。

 

『aaaaaaaa!!!!』

 

そうしている間に魔物は動けない竜の頭に登り右手に握りこぶしを作る、右手には青白い稲妻が走りまるで力を貯めるようにその輝きは増していく。

 

 

そしてそのまま拳が振り下ろされ竜は頭を叩き砕かれた。

 

 

「なんつー力だよ・・・素手であの竜をぶっ壊しやがった・・・ミナズキ?どうした?」

「・・・・」

驚きつつもどこか楽しそうなアスラ、しかしそんな彼に呼ばれたミナズキは神妙な面持ちで魔物を見つめていた。

 

 

魔物をまじまじと見てみるといくつかの特徴があった。

髪の毛は肩まで伸びた茶髪、魔物にしては胸は大きく、身長は自分よりいくらか低い、そして何より先程見せた青白い稲妻、ミナズキの中にある人物が浮かび上がる。

 

この魔物はまるで───

 

「同志G!無事か!?」

「逃げるわよ!」

ミナズキがそんな思考を重ねているといつの間にかやってきたGの仲間2人がが放心しているGを連れてその場から立ち去る。

残ったのは倒れている帝国解放戦線の兵士たちと目の前で動きを止めて立ち尽くしている魔物だけだった。

 

「Gは逃がしちまったがそのほかの兵士たちは捕縛だな。だがその前にこの魔物を倒して「待て」あ?」

楽しそうに魔物に対して構えるアスラ、しかしそんな彼をミナズキが止め、手で押し退けると魔物に向かって歩いていく。

 

「お、おい!危ねえぞ!」

「・・・・」

アスラの警告を無視しミナズキは魔物の前に立ちその顔を見つめる。

 

『aa・・・』

「・・・・やっぱり」

肩を上下しながら苦しそうに呼吸する魔物、ミナズキは確信がいったようである名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・・レナ?」

『・・・・・・』

ミナズキの一言に魔物は静かに目を閉じてその場に倒れる。シュー、と音を立てて禍々しい煙が上がるとそこにはⅦ組の制服を着たいつものレナがいた。

 

「は?人間・・・なのか?」

「あぁ、そうだ。人間だ」

呆気にとられたアスラの言葉にミナズキは短く返すとレナをお姫様抱っこで持ち上げた。

そうこうしていると自分たちも通った道からⅦ組のメンバーが走って来る。

 

「おーい!無事かー!」

「レナがいきなり走って行ったんだけどいるー?」

遠くからリィンとエリオットの声が聞こえる。

 

しかし2人はそれどころではなく───

 

「そいつは、その・・・お前の友達か?」

「・・・あぁ」

レナを抱えるミナズキにアスラが耳元で聞くとミナズキは頷く。それを確認したアスラは更に続けた。

 

「・・・・黙っておいてやる、だが誤魔化しは自分で何とかしろ」

「・・・助かる」

短いやり取りを終えるとアスラはリィンたちの方へと歩いていく。

 

「おう、悪いが手伝ってくれるか?こいつらを縄でふん縛るのをよ」

「えっと、誰か分からないが・・・ミナズキの協力者ですか?」

「おう、そんなところだ」

そう言ってアスラはⅦ組の面々に捕縛を手伝わせる、ミナズキがどう誤魔化すかを考えさせる為の時間稼ぎなのか、はたまた単純に捕縛が面倒なだけなのかは定かではない。

 

そんな中ミナズキは考える。

 

「(誤魔化す、どうしたら良い?正直何も浮かばない・・・)」

ぐるぐると思考が回る、いきなり誤魔化すと言っても状況が状況なのでいっぱいいっぱいだった。

ふと、気を失っているレナに視線を落とす。

人の気も知らないで未だ眠り続けている彼女を見てミナズキはノルドでのやり取りを思い出した。

 

 

『─── ・・・それが俺の名前だよ』

『いい名前じゃないか、いつか元に戻す日が来るのかい?』

 

「(なんで今こんなことを思い出すんだ、でもまぁ・・・)」

 

 

誤魔化すには不自然でも使えるか───

 

 

「ミナズキ、そっちは大丈夫か?」

「ってなんでレナのことをお姫様抱っこしてるんだ?」

「あら、あらあらあら!」

駆け寄ってきたⅦ組のメンバー、その中のガイウス、マキアス、アリサに声をかけられる。いや、アリサはただミナズキの状態を見てあらあらしているだけだが。

 

「いや、助けに来てくれたんだが手痛いの受けてしまったみたいでな気絶しちゃったんだ。さっき傷を処置し終えたところでさ、とりあえず地上まで運ぶことにする」

そう言ってミナズキはさっさとレナを抱えながら歩いて行くが足を止めて顔だけ振り向いて切り出す。

 

「それと、タイミングが可笑しいが今言うよ・・・俺の名前はミナズキじゃない。本当の名前はメラク・・・姓はない、ただのメラクだ。俺が生まれてからすぐ死んだって言う実の両親が唯一俺にくれたものだ」

 

覚えておいてくれ、とそう言ってミナズキは静かに歩き始める。

みんながポカーンとした表情をしているうちにある程度離れ通路を曲がる、するとレナが目を開け、弱々しくミナズキの顔に手を伸ばす。

 

「ミナ、ズキ・・・君は、見たのかい?・・・わた、しは・・・」

「今は眠ってていい、俺以外Ⅶ組の人間は誰も見ていない。俺も言うつもりは無い。だから今は良いんだ」

「・・・そう、か・・・」

ミナズキに諭されるように言われレナは泣きそうな表情を浮かべながら目を閉じた。

その後、捕まえたテロリストたちを引き渡し事態は収拾され、Ⅶ組は翌日にバルフレイム宮に招待されることになった。

 

 

しかしその日の夜、後悔の念で押しつぶされそうになったレナは全く眠れなかった。

 




ご拝読ありがとうございました。
かなり間が空いてしまい書き方がおかしくなって結構大変でした。

次話もよろしくお願いします。

ミナズキは帝都編以降はどうなりそうに見えますか?

  • なんとか色々切り抜けそう
  • クロスベルでは地獄を見そう
  • 昔の仲間に期待
  • 今の仲間を信じろミナズキ
  • 少しはヒロインたちと接近しろミナズキ
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