生存報告です。
ミナズキが強く閉じていた目を開けると目の前には
「・・・・ここは、レナの部屋?・・・そうか、戻ってきたのか」
元の場所に戻ってこれた事にミナズキは少しだけ安堵した、だが当然それで終わりな訳がない。
なぜなら───
「う、うぅ・・・うぁ・・・」
自分の腰にしがみついて嗚咽を漏らしているレナがいるのだから。
「だがら・・・だ、から言ったんだ・・・!見られたくないって!」
レナの叫ぶような言葉にミナズキは目を背ける。
考えていなかった訳じゃない、ノルド高原での実習でも不思議な事は起きていた。
悪しき精霊と戦った時、弱点を知るためにレナが懐中時計を自身のこめかみに押し付けると懐中時計はそのままレナの頭の中に入り込んでいった。
Gによって吹かれた魔笛の音色、聴いた人間は最低でも耳を塞いで動けなくなり最悪の場合は死んでしまう者もいた中でレナだけは全く影響を受けていなかった。
もしかしたら懐中時計は何か特別な遺物なのかもしれない。
もしかしたらレナは特異体質で偶然あの音色に影響を受け無かっただけなのかもしれない。
そう頭の中で出来る限り片付けていた。
そうやってもう1つ、ほんの少しだけ出ていた仮説をミナズキは頭のどこかで否定し続けていた。
『もしかしたらレナには人間以外の血が混ざっているのかもしれない』という仮説を。
なぜなら実際ありえないと思っていたから。
人間同士で産まれた国が違う者同士ならわかる。
だが人間とそれ以外の種族の間に生まれた子供なんて聞いたことがなかったしそもそも倫理的にもアウトな類だし不可能だと思っていた。
そんな事をする、或いは思いつく人間なんて居ない、いて欲しくないと思った。
だが昨日の1件と今しがた見た過去の出来事によってその気持ちは否定されてしまった。
あの少女の言葉、そして倒れた悪魔に対する接し方、それは倫理観を抜きにすればまるで子供が産まれる前の夫婦のやり取りに聞こえた。
そして少女の言った『産まれたらわたしたち自由になれるのかな』という言葉は少なくともあの少女は自由の無いところで子供を産む事を強要させられていたことを裏付けるわけで───
「ミナズキ・・・」
不意にレナがミナズキに声をかける。
ミナズキが視線を下ろすとそこには縋るような目をしたレナが出来うる限りの笑顔で、涙を流しながら懇願して来る。
「お願いだミナズキ、私を・・・殺してくれ・・・」
「・・・・は?」
レナの言葉にミナズキは気の抜けた声をあげる。
対してレナの目は強い悲壮感を孕んでいた。
「あの回想を見てなんとなくだけどわかったんだ、あの2人はきっと・・・」
そう言いかけてレナは口をつぐむ。
言おうとしていることをミナズキはなんとなくだが理解できた。
恐らくあの2人は自由になんてなれなかった。あるいは自由になったとしてレナを川に流すという選択をした。
川に流したのはどういう意味なのかは分からないが少なくとも良い理由では無いだろう。
「私は・・・わたしはただ知りたかったんだ。実の親がなんで私を捨てたのか、どんな人たちだったのかを・・・なにより、私は愛されていたのか・・・それだけを知りたかった・・・」
自分が養女であることはレナは幼い頃から知っていた。他の家族とは似ていないし家中のメイドたちも一部を除いて妙によそよそしい。
両親に訊ねれば案の定自分だけが拾い子であることが分かった。
『それでもお前は私たちの娘だ』
父と母はそう言ってくれた。
それ自体は嬉しかった、だがだからこそ自分の実の親が何故自分を産み、捨てたのかを知りたかった。
ろくでもない親とかそういった類ならそれでも良い、むしろ見返してやろうと思える。
何処ぞの貴族とかの隠し子とかであればいつか仕返しをしてやろうとも思える。
だが蓋を開けてみればあの回想で、得体の知れない場所に得体の知れない父親と痛々しいまでに痩せこけた幼すぎる母親、おまけに聞こえ方によっては自分は『自由になる為の道具』にも聞こえてならなかった。
レナにはどうしてもその現実を受け止めきれなかった。
「私は、なんなんだ?なんで産まれてきたんだ、なんで今生きているんだ、なんで?なんで、なんでなんでなんでなんで・・・・・なんで!」
疑問の声をどんどん荒らげながらレナは力任せに床を殴り続ける、次第に手は赤くなりそして傷ができ始め血が流れ出る。
「レナ、もう止めろ。血が「うるさい!」・・・」
ミナズキが声をかけてもレナは止まらない、力任せに床を殴り続け、そしてそれが終われば両腕を力無く下げミナズキを力の無い目で見つめる。
「もう、良いんだ・・・産まれなければ良かったんだ、私みたいな存在なんて・・・こんな命、あっても意味が無い、生きてて良いわけがないんだ・・・」
そう言ってレナは首を差し出すようにカクンと俯いて見せる。
「さぁ、さっさと終わらせてくれ・・・君が殺ってくれるなら私は本望だよミナズキ・・・・・ごめん、君の学生生活の大切な時間をこんな女の為に使わせてしまって・・・懐中時計は・・・そうだな、壊してくれると嬉しいな。出来なければ何処ぞの海にでも捨てておいてくれ」
そこまで言うとレナは目を閉じ、ミナズキがくれるであろう自身の最期を待つ。
「・・・・・」
ミナズキは何も言わない、1度太刀に手を付けたが直ぐに首を横に振りレナを見つめる。
言ってやりたい事はその実結構ある。
今はそれがごちゃごちゃと頭の中で渦巻いていてどうすれば良いか、なんと言えばいいのか分からなかった。
だからミナズキは敢えて全部言うことにした。
「聞こえてるよなレナ、言いたいことは多い。一方的に言うだけ言って介錯求めるなとか、お前を殺したとしてその後どうするんだとか、そもそも懐中時計はまだ欠片が1つ残っているからそれはどうするんだとかな」
そう言って一息つきレナの目の前まで歩く。
そして俯いているレナにも見えるように太刀を落とした。
「ミナズキ?」
「・・・・・お前のことは絶対に斬らない」
顔を上げ力の無い目で見てくるレナ、ミナズキはそんな彼女と向き合うように座る。
そしてダラリと垂れているレナの右手を自身の左手で優しく持ち上げる。
「正直どんなことを言えばいいのか分からない、お前が生きる事に義務感だとか使命感とか、ましてや倫理観とかそんなものを持ち込めるとも思わない。そもそもお前の方が頭良いしな」
次にレナの左手を自身の右手で持ち上げる。
「だから、これはそんな物を抜きにした俺自身の感情、意思の言葉になる」
そしてレナの両手を合わさせ、自分の両手で包み込んだ。それにレナは反応しミナズキを見つめるとミナズキはその目を真正面で見つめ返した。
「レナ、俺はお前に死んで欲しくない。お前が誰から産まれたとか、生きる意味だとかそんなものは関係無い、俺はお前に生きてて欲しい」
一切の捻りも無い、文字通りの感情だけの言葉。
レナはそれに呆然とした。
「で、でも私は「知らん、関係ない」え、えっとその・・・」
理論もへったくれもない真っ直ぐな言葉にレナは言葉を詰まらせた。
「お前が自分をどう言おうがな、俺にとってレナは頭良くて、色んなこと教えてくれて、紅茶が好きで、なんかビリビリしてて、あと胸が大っきくて、実は結構寂しがり屋で面倒くさいところがあって、たまに人が作った料理つまみ食いしようとしたりして・・・それで、そういったところも魅力的な女だよ」
「な、な・・・なぁ・・・!?」
自分の目を見ながらどんどん色々言い始めるミナズキにレナは先程までの気持ちをどんどん消し飛ばされていき頬を赤く染め始める。次第に限界が来たのかミナズキによって包まれている自分の手を引き抜こうとするがビクともしない。
「み、ミナズキ?頼むから止めてくれ「いーやダメだお前が死のうとするのを止めない限り言い続ける」そ、そんなぁ!?」
狼狽えるレナの目を見ながらミナズキは更に続けた。
「俺が作るお菓子の中でもお気に入りはモナカでこしあんだと更に喜ぶ、その時の顔は子供みたいな顔になる、料理の中だと鶏の照り焼きが好きで俺が鶏肉を買ったことを知った時は少しだけそわそわしてる、その上でお預けを食らうと目に見えてしょんぼりしてる、あとそれから・・・」
「も、もう良い!分かった!止めるから!だからもう勘弁してくれぇぇぇ!」
更に続けようとするミナズキに真っ赤になったレナが懇願し、ようやくミナズキが止まる。
「わかったか?もう二度と死ぬなんて、殺してくれなんて言うなよ?」
「わかった!わかったから手を離してくれ!」
再度確認してくるミナズキにレナはもう1度頼み込むがミナズキは中々動かない。
その時、何故かミナズキはゆっくりとレナに顔を近付けた。
「っ!?」
咄嗟のことにレナはギュッと目を瞑る、頭の中では『いきなりか!?』と思考が暴発し心臓が早鐘を打つ。
しかし、何時までも自身の唇には何も来ず、代わりにおでこに何かが触れた。
「・・・え?」
「んー・・・レナ、体調悪いのは本当みたいだな、風邪引いてるだろ?」
レナが恐る恐る目を開くとミナズキは自分のおでこをレナのおでこにくっ付けていた、どうやらレナの様子を見て風邪を引いていると判断したらしい。
「レナ、お腹減ってるか?」
「え・・・・あ、うん・・・」
「じゃあお粥作ってやる、鶏の照り焼きも用意してやるからベッドで寝てろよ・・・と、その前に」
何かを思い出すようにミナズキはレナの傷付いた手を見るとARCUSを使い回復のアーツであるティアを発動させるとレナの傷を癒した。
「もう自分で自分を傷つけるなんてことすんなよ?」
そう言って今度は懐から包みを取り出した。
「後これ、ハーシェル雑貨店で買っておいた。」
「これは・・・」
レナが包みを開けるとそこには全体的には群青色で銀色の装飾が施されている万年筆が入っていた。
「なんというか綺麗でさ、ノルド高原でレナと見た夜空を思い出したんだ・・・出来れば貰って欲しい」
そう言うとミナズキはさっさと部屋を出て行った。
「・・・・・」
残されたレナはよろよろと立ち上がり貰った万年筆を机にゆっくりと置く。
そしてそのままベッドに向かい寝間着へと着替えベッドに入り目を閉じそのままゆっくりと夢の世界に・・・。
行けるわけが無いだろう───
「んなぁぁぁぁぁ!!!」
横になりながらも悶えるレナ、そこに普段の彼女はおらず顔を真っ赤に染めた乙女の姿があった。
目を閉じた瞬間に先程の記憶が蘇る。自分を死なせないために言った言葉なのか、はたまた本当に全てただの本音なのか、そんな事は最早どうでも良い。
熱い、ただただ顔が熱い。
なにより先程の文字通りの眼前まで迫ったミナズキを思い出す。確かに『いきなりか!?』と思った自分もいたが同時に『まぁミナズキになら良いか』と彼を受け入れようとした自分も居たこと、そしてそれが勘違いであったことも余計に彼女を爆発させた。
「ま、まさかミナズキが私のことをあんな風に見ていたなんて・・・っ!?」
両手で顔を覆うもその手すらミナズキがアーツを使って癒してくれた事を思い出させる要素でしかない。
自分の手を優しく包んでいたミナズキの竹刀ダコのあるゴツゴツした手、自分の事を色々言ってきていた時の真っ直ぐな眼差しとその後の傷を癒してくれていた時の優しい瞳を思い出しレナは更に爆発する。
「私は風邪では無い!風邪ではぁ!」
最早自分でも何を言っているのかわからなくなり始めたレナはベッドの中で暴れ始める。
誰が風邪だ、顔が熱いのは君のせいだ。
確かに寝不足ではあったがそれだけで体調を崩すほどヤワではない。
やがて少しづつだが冷静さを取り戻したレナは改めて大の字に寝る。
「どうするべきか・・・・」
頭の中で思考するのは今後のミナズキとの付き合い方だ。
如何せん初めての経験なのだ、誰かにこんな感情を抱いたのは。
今まで色んな貴族とその子息に会ってきたがどれもこれも上っ面だけの男だったり、レトロノーツ家の養女である自分を品定めするような男ばかりだった。
「上手く話せるだろうか・・・」
今でも先程の事を思い出すだけで顔が赤くなり始めるし心臓がうるさい、でも不思議と嫌ではない。
ぐるぐると頭の中で考えた結果、レナは1つの結論に辿り着いた。
「1度ミナズキを連れて行くとしよう、アルテマに・・・そして養父に会わせるんだ」
我が養父ならミナズキをきっと気に入る、そうしてお墨付きを貰えば後は攻め攻めで行くだけだ。
まぁミナズキが受け入れてくれればの話ではあるが。
そう決断をすませると少しだけ身体が軽くなった気がした。
初めての感情を抱き締めるように自分の胸に両手を当ててレナはゆっくりと目を閉じた。
ご拝読ありがとうございました。
今回で一応帝都編は終了になります。
次話もよろしくお願いいたします。
ミナズキは帝都編以降はどうなりそうに見えますか?
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なんとか色々切り抜けそう
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クロスベルでは地獄を見そう
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昔の仲間に期待
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今の仲間を信じろミナズキ
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少しはヒロインたちと接近しろミナズキ