英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。


生存報告です。


98.ヘタクソな警告

8/10(火)15:30、Ⅶ組教室───

 

授業も終わりHRも済んだ頃、ミナズキは教室を出ようとするとリィンとサラを呼び止めた。

 

「リィン、それに教官、ちょっと今良いか?」

「ミナズキ?まぁ大丈夫だけど・・・」

「ん?なにかしら?」

呼び止められたリィンとサラは不思議そうな顔でミナズキを見てくるがミナズキは特に気にすることなく1枚のメモ用紙を用意し机に広げた。

 

「これは?」

「まぁ少し待ってくれ・・・今書くから」

首を傾げるサラにミナズキは軽く制するとメモ用紙に名前、と言うよりも異名のようなものを書き始めた。

 

「えっと、これはなんなんだ?」

「次の特別実習、俺は着いていけないから・・・だから予めもし遭遇したら戦わない方が良い奴を軽く箇条書してある」

「待ってそれ初耳なんだけど」

リィンの問いにさらっと返すミナズキにサラが真顔で反応する。

 

「言ってなかったな、オリヴァルト殿下からお願いされてな・・・ゼムリア通商会議、その際の護衛に付けたいそうだ。俺はそれに答える予定だ、命だって賭ける」

「命って・・・」

淀むことなく言い切るミナズキにサラはなんとも言えない顔で呟く。暫くするとミナズキは紙に4つほど書き2人に見せる。

 

 

 

《死喰み》

《狐面》

《蒐集鬼》

《天泣》

 

 

「えっと、なんて読むのかしら・・・」

「3つはわかるけど1番下が分からないな」

「上から順に『シバミ』『キツネメン』『シュウシュウキ』『テンキュウ』って読むんだよ」

ハテナを浮かべた2人にミナズキは読み方を教えると1つづつ指を差しながら話し出した。

 

「さっき言ったがこの4人に遭遇したら下手に戦おうとしない方が良い。理由は幾らかあるけど1番の理由はロクな事にならないからだ」

「ロクなことって言われてもな・・・」

「・・・もしかして書いてある渾名は全部、裏の異名?」

ミナズキの説明にリィンは困惑したような表情を浮かべる。対してサラは何かを察したような声を漏らすとミナズキに回答を求めた。

 

「やっぱり教官には分かるか、確かにこれは裏の連中の異名だよ」

「やっぱりね・・・」

「ミナズキ?サラ教官まで・・・その《裏》っていうのはなんなんですか?」

ミナズキの答えに少しゲンナリした表情をしたサラとまだイマイチ分かっていないリィン。

それを確認するとミナズキは口を開いた。

 

「《裏》っていうのは文字通り表沙汰にはなっていない連中のことだよ。理由は色々だけど例えば被害範囲が広すぎて人為的なものに見えなかったり、やってる事が凶悪過ぎて表沙汰の事件にするには無理があったりとかな。今書いた4人はそれぞれ倫理だとかそういったものが外れてる連中なんだよ」

「こういう奴らの厄介な所って表沙汰になってないからギルドでも探しにくい事なのよねー」

ミナズキの説明にサラが嫌そうな顔で補足をする、リィンもなんとなく掴めてきたがそれでも疑問点はあったようで質問を返した。

 

「なんでミナズキがそういう事を知っているんだ?」

その言葉を聞いた瞬間ミナズキが軽くずっこけた。そんな姿にサラはなんとも言えない顔でミナズキを見る。

 

「リィン、あんたミナズキの普段の行いのせいで忘れがちかもしれないけどこいつも世間一般では死んでいる扱いよ?オマケに処刑後に裏取引きする予定だったみたいだから十分裏側の人間よ」

「そういえばそうでしたね・・・」

呆れるように言うサラにリィンも思い出したのか納得したようだった。

 

「話を続けるぞ?・・・今このことを知らせているのはもうすぐ西ゼムリア通商会議があるからだ。クロスベルか或いは帝国のどちらかは分からないが必ず何か起きる。そして何か起こるならそれはこういった裏の人間も関わってくる」

そう言ってミナズキはひとつの異名を指差した。

 

「特にこいつ、《蒐集鬼》は何をやってきても不思議じゃない。次にⅦ組が行く実習地がどんな所かは知らないがもし遭遇したのなら可能な限り逃げた方がいい」

「そんなにマズイやつなのか?」

「・・・例えにはならないが、もし俺なら何か喋られる前に斬りに行ってる。あいつの喋る言葉は人に対して毒でしかない」

 

キッパリとしたミナズキの物言いに質問したリィンも押し黙る、サラの方はミナズキに対して質問を投げる。

「というかあんた、少なくとも今書いてる4人とは会ってるのよね?よく無事で済んだわね」

 

サラの言葉にミナズキは露骨に顔を顰め少し俯いて言う。

「・・・今まで出会った連中全員が悪い奴らって訳じゃない。それにそういう時・・・俺は、無事だっただけだ」

 

そう言ってミナズキは1つ息を吐く、そして改めて2人を見ると弱く微笑んで続ける。

「それに味方だっていたんだ、みんなと過ごした時間は少なからず俺に影響を与えた。もちろん良い方にな・・・教官、俺にだって遊撃士の知り合いはいるんだぞ?」

「え?」

「シトリニカ・ロットレイル、この名前に覚えは?」

「え゛・・・よりにもよってその名前が出るの!?」

ミナズキの放った名前にサラはギョッとした表情で後退る、それを見てリィンは首を傾げた。

 

「サラ教官、その人と知り合いなんですか?」

「会ったことは無いけど同じ遊撃士だから知ってるわ、ただまさかその名前が出るとは思わなかったわ・・・一言で言うなら問題児よ」

「問題児?」

あまり遊撃士に対して使うことの無い言葉にリィンは一層首を傾げたがサラは構わず続ける。

 

「噂だけどね、例えば上の指示に噛み付いたから本来ならB級遊撃士くらいの実力があるのに未だにD級だったり」

「事実だな」

「犯罪者を追い詰める為に魔獣を消し掛けた事があるとか・・・」

「それも事実だ」

「・・・野盗の集団を一斉捕縛する為に人を集めている最中に協力者を用意して無断でアジトに突撃したり・・・」

「事実、というより俺と一緒によくやったやつだな」

サラに相槌を打つように肯定していくミナズキ、その様子にサラは耐えきれなかったのかミナズキに声を荒らげた。

 

「当時あの子が赴く場所にたまに《死の精霊》の噂が出てたけどやっぱり協力者ってあんただったのね!?・・・ていうか今『よく』って言わなかった?」

「そうだな、シトリィ・・・シトリニカとは偶に一緒に賊の討伐に行ってたし、会う度にそんな感じだったぞ?」

質問に対してあっけらかんと肯定するミナズキを見てサラはガクッと机につっ伏す。

 

「はは・・・えっと、他の3人はどう危ないんだ?」

直ぐには起き上がらないサラを見て今度はリィンが訊ねるとミナズキは頷き今度は《死喰み》の文字を指差した。

「《死喰み》は・・・そうだな、縄張り意識が強い奴だ。以前遭遇した時は廃墟になった教会を住処にしてた・・・異名の由来は簡単だ、主食がな・・・共食いって言えば分かるよな、まるで家畜を屠殺するように・・・これ以上は言わない方が良いよな?」

リィンの質問にミナズキは最後の部分を若干濁して答える、リィンは理解してしまい少し顔色を悪くして生唾を飲み込んだ。

 

 

そんなリィンを見たミナズキは気を取り直すように今度は《狐面》の文字を指差した。

「次は《狐面》だ、こいつは・・・ある意味1番不気味かも知れないな・・・」

「不気味?」

身震いするミナズキにリィンが問うとミナズキは少し言葉を選んでから答えた。

「色々分からないことだらけなんだ・・・そもそも《狐面》って名前は個人の名前じゃなくて集団の名前だ。ただ性別、人数、目的がさっぱり分からない、分からないことだらけで薄気味悪い・・・1度戦ったが1人斬ってもすぐに3人迫ってきた、同じ面で同じ体格、武器も戦い方も全く同じ、攻撃を受けてもほとんど声を上げない・・・はっきり言って得体がしれない存在だ」

 

当時の事を思い出したのかミナズキは軽く身震いをし最後に《天泣》の文字を指差した。

「最後に《天泣》だ・・・こいつとは敵対はしていない、だがもししてしまったら・・・恐らく、いや確実に死ぬ。強さだけならこの中で、というよりゼムリア大陸全体で見てもトップクラスだと思う」

「あんたがそう言うなんて随分なやつなのね?」

ミナズキの説明にいつの間にか復活したサラが返すとミナズキは頷いて答える。

「例えばだけど・・・屋外にいて雨が降った時、教官やリィンは一切濡れずにいられるか?」

ミナズキの質問にサラとリィンは少し考えると首を横に振った。

「無理ね、傘をさしたとしても足元は濡れるし・・・」

「レインコートを着たとしても限界はあるだろうしな」

2人の回答を聞いてミナズキも頷く。

「あいつとは味方として過ごした時期もあるから知っている・・・《天泣》は文字通り水を好きなように操れるどうやったって一瞬で雨の降らない所に逃げるなんて出来ないし出来たとしても今度はそこに雨が降るだけだ」

 

だが、と一息置いてミナズキは続ける。

 

「《天泣》の唯一救いなところは本人は特に争い事に興味が無いことだ。刺激さえしなければそこらの人間と変わらない、談笑も出来るし買い物だってする」

「で、怒らせたら?」

「・・・辺り一帯が雨のせいで大変な事になる」

説明の途中でサラに言われた言葉にミナズキは目を逸らして返すとそのまま席から立った。

 

「とりあえず言いたいことは言った、次の特別実習頑張れ・・・あとクロスベルに発つ前に何か作って欲しい物があれば言え、なるべく用意しておく」

そうしてミナズキは教室から出て行く。

残されたサラとリィンはそれを見送るとミナズキが書いていた紙に書かれた4つの異名を見つめ、そしてサラが口を開いた。

 

「いつも思うけど、あいつ器用なようで実は不器用よね。多分他のⅦ組のメンバーを気遣ってこういうアドバイスをしてるんでしょうけど」

「全員では無くて俺とサラ教官に言ってるあたりそうですね・・・」

内容が内容だけに恐らくそういった話に慣れていなかったりこれから部活だったりするメンバーに気を使ったのだろう、それにしても少しぶっきらぼうが過ぎるが。

 

「まぁ、とりあえずあいつがくれた情報は折を見てみんなにも教えましょうか。少なくともミナズキが危険に感じる存在だしね」

「ですね・・・というかミナズキってあんまり学院の人間と関わってないですね」

「言われてみればそうね、まぁあいつなりの距離の取り方なんでしょうけどちょっと他人行儀感が否めないわね・・・ある意味あいつが1番問題児なのかもしれないわね」

そう言ってサラは軽くため息をつく、リィンはなにか答える訳でなくただミナズキが去っていった廊下を見つめていた。

 

 

 

 

 

16:00、図書館、司書室───

 

 

「クロスベル、ですか?」

「あぁ、今度の通商会議に色々あって行く事になった」

机の上にクロスベルに関する資料を広げながらミナズキはマローラの質問に少し濁して答える。

 

「通商会議・・・なるほど・・・」

「マローラ?何かあったのか?」

「いえ・・・実は私の方にも実はとあるお話が来ていまして・・・」

そう言いながらマローラは1つの大きめな封筒を取り出しミナズキに見せる。封筒には『生徒会』の文字があり中には1枚のプリントが入っていた。

 

「なんでもトワ会長が今回の通商会議に同行することになりまして、その際に他の委員会へ通達がありました。他に志願する者がいれば若干名ですが随伴を許可するというものです。恐らくは後進の育成でしょうか」

プリントをミナズキに見せながらマローラは説明し、そして意を決したように頷き席から立ち上がる。

 

「先日の帝都での1件は聞いていますし各雑誌で何が起きたかも理解しています。察するに今回の貴方のクロスベル行きはそれと多少は関係があるものだとも想像がつきます」

ですから、とマローラはミナズキを見つめて言った。

 

「形は違うかもしれませんが私もクロスベルに行きます。見聞は広げておいて損はないと思いますし何より・・・」

そうしてミナズキの手を取ってマローラは言う。

「1人だと何かあったら自分を簡単に投げ出しそうで放っておけませんから、あなた」

 

 

 

 

この時、マローラの言葉を聞いたミナズキの頭の中には2つの声が浮かんでいた。

『友達や仲間には頼っても良いんだぜ、メラク?1人でなんでもかんでもやろうとすんな!』

そう言ってバシバシとメラクの背中を叩き笑う青年、その腰には今ではミナズキが持っている銀の牙を下げており夜営の焚き火の火に照らされて鈍く光っていた。

 

 

『あなたはすぐに無理をして怪我をするんですから!もう!』

そう言って金色の長い髪の少女は青い目をメラクに向けてむくれると手際良く怪我をしたメラクの腕に包帯を巻き始めた。

『そうやってすぐに自分を投げ出すような生き方をしていると空の女神様にも、なによりあなたを大事に思ってくれている人にも失礼です。もちろん私にも・・・』

そのまま長いお説教を始める少女、その胸元には金色の十字架が首から下げられていた。

 

 

 

「・・・ズキ、ミナズキ?」

「・・・・え?」

「いきなりぼーっとしてどうかしたんですか?体調が悪いとか?」

ふとマローラに軽く揺すられてミナズキは我に返る、目の前には心配そうなマローラがいた。

 

「いや、大丈夫だ・・・特に問題は無い」

「そう、ですか?なら私はこの書類をトワ会長に渡して来ます」

ミナズキの返答を聞くとホッとした様子でマローラは出口の方に歩き始める。

 

「・・・・えっと、マローラ」

「・・・はい?」

ついマローラを呼び止めた、なんでかはミナズキ自身にも分からない。だが自分の中でフラッシュバックした光景の影響なのかミナズキはほんの少しだけ人を頼ろうと思った。

 

何故か1人になるのが少しだけ怖かった。

 

「その、書類は出さなくていい・・・その代わりちょっと頼みがある・・・」

「頼み、ですか?」

困惑の表情を浮かべるマローラ、そんな彼女の手を引きミナズキは図書館を出た。

 

 

 

旧校舎前───

 

 

人気の無い旧校舎前にあるベンチ、そこにミナズキはマローラの手を引いてやって来た。

「あのミナズキ?話の続きを・・・」

「待ってくれ、すぐに終わる」

マローラの言葉を遮るとミナズキは懐からARCUSとよく似た妙にアンテナが長い端末を取り出すとボタンを押した。

 

呼び出し音が出始めてすぐに応答された。

 

「やぁミナズキ、これで話しかけてきたのは初めてだね。もしかして愛の告白とか♡」

「・・・やっぱり斬るわ」

「まちたまえ!?というかなんか通信を切るじゃなくてお前を斬るって言われた気がする!」

突然のボケについ本音が漏れた。

通信の相手はオリヴァルト、この特殊な端末をミナズキに渡した張本人である。

 

少しの間慌てていたオリヴァルトだったがすぐに軽く咳払いをして続けた。

「気を取り直して・・・何かあったのかな?」

「一昨日に手紙を出したが届いているか?」

「恐らくは明日の朝に届くだろうね、その感じからしてクロスベルの件は引き受けてくれるってことで良いのかな?」

「それに1つ条件を付けたい、いけそうか?」

「条件、かい?」

興味を持つように聞いてくるオリヴァルトにミナズキは少し言いずらそうに返した。

「1人協力者を連れて行きたい、元からトワ会長の随伴に立候補しようとしてたみたいだから本人も行く気だ・・・ダメそうか?」

恐る恐る、といった体でミナズキが訊ねるとオリヴァルトは嬉しそうに答えた。

 

「君がそういった事を言うなんて珍しいじゃないか!概ねは承諾しよう。ただしその協力者にはあくまで君のサポートをしてもらう、君と違って荒々しい場面には慣れていないんだろう?」

「あぁ、平民生徒だし流石にそういう場面に巻き込みたくはない出来るとすれば調査とかだと思う」

「了解した、いずれまた連絡するからその時にしっかり詰めておこう」

 

そうして通信は切れミナズキは端末をしまいマローラを見る、そこには呆気にとられたマローラがいた。

「あの、ミナズキ?私はどうすれば・・・」

「聞いての通りだマローラ、突然だけど一緒にクロスベルに来てくれ・・・これならトワ会長に出す書類はいらないだろ?」

戸惑うマローラにミナズキは当然のように返した。

 

「あの、私はクロスベルで何をすれば・・・」

「俺と一緒にクロスベルの調査だな、護衛は流石に出来ないだろうし・・・多分、前日かその前にクロスベル入りして一緒に調査とかだと思う。それ以上は出来る限りオリヴァルト殿下と詰めていくしかないな」

「え・・・」

質問するマローラにミナズキはさらっと答えるがそんな簡単に決めて良い物なのかとマローラは口をあんぐりと開けた。

 

 

「そんな訳で、よろしくマローラ」

「え・・・・・・・えぇ!?」

そんなことお構いなしにサムズアップするミナズキにいきなりクロスベル行きがほぼ確定したマローラは驚く他なかった。




ご拝読ありがとうございました。

まさかのマローラさんが着いていきます。


※遅くなって申し訳ないです。
リアルの方で激務でして、帰ったらそのまま最低限の事をして気絶するように寝てます。

辞める気はありませんので次話もよろしくお願いいたします。

ミナズキが教えてくれた4人の裏の人達、読者の皆様は誰と遭遇したくないですか?

  • 《蒐集鬼》
  • 《狐面》
  • 《死喰み》
  • 《天泣》
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