少し早めの生存報告です。
8/18(水)HR前、Ⅶ組教室───
「暑っつい・・・」
「本当だな・・・」
「導力エアコンがあれば良いんだけど・・・」
茹だるような本格的なトリスタの暑さにエリオットとリィンが参った顔で俯くとアリサが聞きなれない単語を言った。
「導力エアコンって何?」
フィーが疑問を投げるとアリサは答える。
「冷たい空気を出して部屋の温度を整えてくれる物よ、まぁストーブの逆だと思えばいいわ」
「そんな物があるのか、まるで魔法みたいだ」
アリサの説明にガイウスが興味深そうに頷くとアリサは次に不満を漏らす。
「母様も理事の1人なら学院の各教室にエアコンを設置すればいいのよ」
「はは、流石にそれは無理だろうな・・・」
「士官学校ですしそこまで学生には甘くないかと・・・」
アリサの言葉にリィンとエマが苦笑い気味に答える、そんな中マキアスが周囲を見渡し首を傾げた。
「そういえばミナズキは何処へ行ったんだ?姿が見えないようだが・・・」
「ミナズキなら調理室へ行ったよ・・・何か作っていたようだ・・・」
マキアスの疑問に項垂れたレナが答えるとタイミング良く教室の扉が開いた。
「持ってきた・・・飲むといい・・・」
暑さゆえなのか何時もより2割増で仏頂面のミナズキがお盆に人数分のグラスを乗せて持ってきていた。
上に乗っているグラスには黄緑色の液体が同じ色の氷と共に入っており、柑橘系由来の清涼感のある爽やかな香りを漂わせていた。
「なんかすごい仏頂面だね「要らないならそう言えばいい」いや飲む!飲むから!」
エリオットの言葉を聞いたミナズキはお盆を引っ込めようとすると、みんな慌ててグラスを掴んだ。
最初に掴んだエリオットが普段飲み物では見ない色に恐る恐る口に運ぶと爽やかな甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。
「あ、美味しい・・・甘酸っぱくて口がさっぱりするしなんだか心なしかさっきより暑さが引く感じがする」
「マクワウリとレモンのすりおろしカクテルだ、暑い時に飲むと夏バテや熱中症に効く。これレシピな」
そう言ってミナズキはリィンにメモを渡した。
「あ、あぁ。ありがとう・・・ってミナズキがこういうの渡してくるって珍しいな?」
リィンが何気なく放ったこの言葉、瞬間クラスメイトの動きがピタリと止まった。
みんなでミナズキの方を見ると彼は何時ものようにぶっきらぼうに答える。
「次の特別実習の期間にクロスベルに行くことが決まってな、悪いが弁当は無しだ」
その言葉にいち早く反応したのはレナだった。
「えっと、それはつまり次の実習先がクロスベルって事かい?」
「いや違う、依頼があってな・・・俺はクロスベルに行く事になった」
レナの質問にミナズキは淡々と答える。
「その依頼とはどんなものなんだい?」
「クロスベルの事前調査と当日のオリヴァルト殿下の付き人兼護衛だな」
またもや淡々とミナズキは答える。
「・・・1人で行くのかい?」
「いや、実はマローラが着いてきてくれる事になった」
「え?」
瞬間レナが固まる。飲みきって空になったグラスをお盆に置きミナズキに歩み寄ると疑問をぶつけた。
「な、なんでマローラ?いや、マローラが駄目とかじゃなくて・・・なんで私を誘ってくれなかったんだい?」
「話せば少し長くなるが・・・元々はトワ会長がクロスベルに代表として手伝いに行くことが決まっていた。そこに志願があれば何人か同行出来るという話があってマローラはそれに志願しようとしていた、だから俺から誘った。理由は・・・単純に俺1人で行くのが嫌だったのがある」
戸惑うレナにミナズキは答えながらも全員からグラスを受け取るとそれをお盆に乗せ持ち上げる。
「レナを誘わなかった理由は2つ、1つ目は期間が特別実習と丸かぶりしている事。2つ目は・・・最近レナとはほとんどまともに話してなかったからだ」
じゃあ、と言ってミナズキはお盆を持ちながら教室を後にする。
「あ・・・」
残されたレナはガクリとその場に項垂れる、気恥しいあまりにミナズキと距離を取っていたことが思い切り裏目に出てしまったのだ。
「レナ、どんまい・・・」
「ふむ、流石に不憫だな」
「だがレナの自業自得でもあるだろう」
項垂れるレナの肩に手を置くフィー、2人のやり取りをよく見ていたガイウスが苦笑いを漏らしユーシスが苦言を吐いた。
「しかしミナズキは本当に分かっていないのかそれとも分かっていてあのスタンスなのか・・・」
「前者はともかく後者だとしたらタチが悪すぎるわよ・・・」
考える素振りをするラウラにアリサがげんなりした表情で返す。
「恐らくは前者かと・・・以前聞いた限りだと本当に分かっていない様子でしたし・・・」
ミナズキから相談されたことのあるエマは呆れたように言った。
ミナズキはレナに避けられているこの状態を嫌われていると誤認している事は分かっていたがまさかこんな事になるとは思っていなかった。
なお───
「はーい帰りのHR始めるわよ・・・ってなんでレナが項垂れてんの?」
HRの為に教室に入ってきたサラは目の前の謎の光景に首を傾げることになった。
「ミナズキは今いないのね、まぁ後から来るでしょう・・・じゃあ早速だけどあんたたちに新しい仲間が加わるわ。ほら、2人揃って入って来なさい」
一旦席を外しているミナズキを放置しつつそれ以外を席に着かせたサラは気を取り直すように声を張り教室の外に対して呼び掛けた。
その呼び掛けに応えるように2人の生徒が入って来た、来たのだが────
「クロウ・アームブラストです!今日からⅦ組の皆さんのお世話になります!趣味はギャンブルとグラビアとサボりです!・・・ってな訳でよろしくな!」
真面目っぽく気をつけの姿勢でだらしない事を言ったのは以前リィンの妹であるエリゼが旧校舎に迷い込んだ時に1番最初にリィンに協力してくれた2年生のクロウだった。
なぜ本来2年生の彼がここにいるのか、その疑問はサラが教えてくれた。
「こいつ1年の時にサボりまくったせいで卒業に必要な単位何個か落としてんのよ。去年のARCUSの運用テストを手伝っていたし、なによりトールズでそんな理由で退学者なんて出せないってことで救済措置って理由でⅦ組に入ったってわけ」
呆れた様子で言うサラ、クロウはヘラっと笑いながらピースする。
そして2人目だが────
「ボクはミリアム・オライオン!それと・・・」
2人目の少女、ミリアムが手を上にかざすと真っ白い傀儡が出てきた。
「こっちはガーちゃん、正式名称はアガートラム!みんなよろしくね!」
天真爛漫を地で行くようにニパッと笑いながら自己紹介をするミリアム、だがⅦ組としては心中穏やかとはいかなかった。
「確かノルド高原で会った・・・」
「やっぱりあの時の子よね」
レナとアリサが声を漏らす。確かにミリアムとはノルド高原で出会って協力もした、だが問題はそこではない。
「遅れました・・・ってそっちのは2年生の・・・なんで情報局の人間がここに居るんだ?」
遅れて教室に戻ったミナズキがクロウ、そしてミリアムを見て顔を顰めた。
しかし、ミナズキはすぐに顎に手を当てて考えると納得したようにサラを見た。
「察するに帝国政府、それも情報局から送られてきたってことか」
「理解が早くて助かるわ」
答え合わせのように言うミナズキにサラが頷いて返す、そうしている間にミリアムがミナズキへと歩み寄っておりミナズキの前に立つと手を出した。
「なんだ?」
「ミナズキ!お菓子ちょうだい!」
「え?」
「言ってたじゃん!お菓子くれるって!」
ミナズキは首を傾げるがミリアムはそれでも手を出してお菓子をねだる。
そんな時、レナが思い出したように声をかけた。
「ミナズキ、確か石切場に入る時に約束してなかったかい?」
「ん?あぁそう言えば・・・」
当時のことを思い出したミナズキは手を叩くとミリアムに向き直った。
「丁度よくケーキを冷やしているところだ、後で取りに来い」
「はーい!」
ミナズキの言葉にミリアムは元気良く笑って返した。
一瞬出た剣呑な雰囲気をぶち壊し一気に締まりの無くなった2人のやり取りにその場にいた2人以外が半ば呆れた顔で見つめるのだった。
その頃、アル・カフラの図書館の禁書庫───
「さてと、今日は何を読もうかなー?」
許可を貰って入った禁書庫でアイネは本棚を物色していた。
アル・カフラの図書館には外から集めた資料や一般的な文庫本、果てにはこの町に昔住んでいた物が書いて遺した物なども保管されていた。
アイネはこの禁書庫に入って自分の知らない知識を取り入れるのがちょっとした趣味となっていた。
「ふんふふん♪・・・ってあれ?何この本、こんなのあったかな?」
鼻歌混じりに本棚を見渡していたアイネだったがふと1冊の本が目に入る、それ背表紙に何も書いていない真っ白な本で表紙と裏表紙、それに背表紙以外はかなり古ぼけていて中の字も所々掠れていた。
「えっと本の名前は・・・『対抗書、白の史書』?著者は・・・ステラ・アル・カフラ・・・・え、あれ?」
目をぱちくりと瞬かせアイネはもう1度著者の名前を確認する。そして今度は頬をポリポリと掻きながら呟いた。
「アル・カフラって人の名前から取った地名だったんだ・・・」
そう言ってアイネは次のページを捲るとこれまた所々掠れた文字の羅列が姿を表した。
「読みにくいなぁ・・・『この書物を─私の─であるル──の悲願の為に記す』・・・むむむ、なんだかとんでもない事が書いてありそうな予感!」
そう言って威勢よく読み始めたアイネだったがその威勢はすぐに挫けてしまう。
「色んなところが掠れちゃってるうえに最初のところ以外は魔女が魔法使わなきゃ読めないようになってるじゃん!どうなってるのさー!?」
何故か文字に認識がずれる魔法が掛けられておりまずまともには読めない状態になっていた。
「あーもうやめやめ!今日はもう良いや!」
そうしてへそを曲げてしまったアイネは禁書庫から出て行った。
アル・カフラ、アイネの家────
「どうしたのアイネ、今日はえらく早く帰ってきたわね」
「お母さん聞いてよー!」
家に戻り何時もより早い娘の帰宅に不思議に思った母親にアイネは禁書庫の白い本について話す。
しかし、アイネの母は不思議そうに首を傾げた。
「白の史書?そんな本ここの禁書庫にあったかしら?」
「え・・・あれ、言われてみれば?」
母親の言葉にアイネは首を傾げて思い返す、アイネ自身も禁書庫には何度も入っている。
それ故にあんな真っ白な背表紙の本を今まで見落としていたとは思えないのだ、ましてや中身が読めない本というのも聞いたことが無かった。
そんな不可解な出来事にしばらく唸りながら考えていたアイネだったが大きくため息をつくとテーブルに突っ伏した。
「わかんないことだらけだよー・・・」
そう呟きアイネは席を立つとすぐ近くの本棚から1冊の絵本を取り出す。
「こういう時は逆に小さな頃から読んでいた簡単な絵本を読むのが1番!」
そう言いながら取り出した本の名前は『7人の巨人』という名前の本でこれはアイネがまだ幼い頃から母親に読んでもらっていた思い出の品であり数ある絵本の中でもアイネが1番好きな作品だった。
「ほんと、不思議なお話だよね。そもそもタイトルが7人の巨人なのに8人目がいるし・・・」
そう言いながらもアイネはお気に入りの絵本を読み始める。
「むかしむかし7人の色の違う巨人がいました。でも世界にたった7人しかいないのにその巨人たちは仲が良くありませんでした────」
アイネは小さな声で軽く音読をしながら絵本を読み進めていく。
「遂に巨人たちが喧嘩を始めてしまい、世界は大きな混乱に巻き込まれました。その時、1つの小さな光が空から降り注ぎ光の指した大地にいつの間にやらもう1人の巨人が姿を現したのです────」
「最後に1番乱暴者の─を成敗した─の巨人と─の巨人、『ありがとう』と─の巨人が言うと─の巨人は何も言わず優しく微笑みゆっくりと歩いてどこかに行ってしまいました。彼がどこへ行くのかは誰もわかりません、でもきっとまだ見ぬ誰かを助けに行くのでしょう────」
「残った─の巨人は小さな人間たちと幸せな国を作ったのでした、めでたしめでたし────」
最後のページを読み終わるとアイネは軽く伸びをして席から立つ。
「うーん!なんだか元気が出た気分!よーし早速禁書庫に!」
「その前にご飯よ、アイネ」
「あれ、もうこんな時間!?」
勉強を再開しよとしたアイネ、しかし母親からの言葉で時間がかなり経っていたことを知るとドタドタと本を仕舞い手伝いに向かう。
彼女の勉強、もとい研究はまだまだ始まったばかりだ。
ご拝読ありがとうございました。
これからも不定期ですが更新していきます。
次話もよろしくお願いいたします。
ミナズキが教えてくれた4人の裏の人達、読者の皆様は誰と遭遇したくないですか?
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《蒐集鬼》
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《狐面》
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《死喰み》
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《天泣》