英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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お久しぶりです。

生存報告です。


100.事件のコラム~徘徊する強欲、潜む飢餓~

 

 

8/25(水)8:00、クロスベル行き列車内─────

 

「すぅ・・・」

「・・・ふふ」

クロスベルに向かう列車の中、スーツ姿で眠るミナズキを自身にしなだれ掛からせたマローラは帝国時報を読みながら静かに笑う。

彼女もまたミナズキと同様の黒色基調のスーツを身に包んでいた。

「本当によく眠っていますね・・・」

体勢を崩さないように気を付けながらマローラはミナズキを見る、何時もは仏頂面なミナズキが今は子供のようなあどけない顔で静かに寝息を立てている。

 

そんなミナズキを下から上まで見渡しマローラは表情を歪めるとミナズキが起きないように気を付けながらミナズキの頭を撫でた。

「無理はさせませんから、絶対に・・・」

そう呟くとマローラは帝国時報に目を移し、事件のコラムに書かれていることに顔を顰めた。

「なんですかこれ・・・?」

 

 

『帝国各地で不審な事件が頻発、通商会議開催の影響か─────』

 

『クロスベルにて通商会議が開催されようとしている昨今、帝国は近年稀に見る不可解な事件が各地で発生している』

 

 

『バリアハートの宝飾店で謎の爆破事件、犯人らしき人物を追った領邦軍の小隊、未だ行方不明─────』

 

『サザーラント州、身分関係なく複数の子供が謎の失踪。捜索続ける家族の悲痛な叫び─────』

 

『帝国時報の記者複数名が数日前から音信不通、目撃情報あれば帝国時報社まで────』

 

 

「通商会議の影響でしょうか・・・帝国全土でなにかが起ころうとしている、ということ?」

渋い顔でそう呟くとマローラは窓から見える景色を眺める。

今日は見事なまでの晴天で、なのに彼女の中に宿った妙な胸騒ぎは強くなるばかりだった。

 

 

そんな彼女に不意に声がかかる。

「・・・マローラ?なにかあったのか?」

「ミナズキ?すみません、起こしてしまったようですね」

「いや良いんだ。それよりそれ、帝国時報だよな?何か書いてあったのか?」

「えぇ、このコラムなんですけど・・・」

少し眠そうに聞いてくるミナズキにマローラは自分が読んでいた帝国時報のコラムのページを開いて見せる。

 

 

最初は寝ぼけた顔でページをぼんやりと見ていたミナズキだったがコラムを読み進めるうちに眠気が飛んでしまったようで全てを読み終わる頃には何かを抑えるように右手を握りしめていた。

「ミナズキ、何か思い当たる事でも?」

「・・・・いや、特に無いな。少し欠伸を堪えただけだ」

「そうですか・・・」

 

質問してくるマローラの言葉をミナズキはぶっきらぼうにバッサリと否定し、帽子を目深にかぶるとまた背もたれに身をあずけて目を閉じる。

そんな様子を見たマローラはもう1度だけコラムに目を通したあと帝国時報を仕舞い、外の景色に目をやる。

「(なにも教えてはくれないんですね・・・)」

 

心の中でそう呟く。ミナズキは嘘をつく事があまり得意ではない、少なくともマローラにはそう見えている。

そんなミナズキがこの態度だ、どう考えても何かある。

だが聞けない、理由は分からなかったがマローラには何故かミナズキにそれを聞くことは出来なかった。

皇族に依頼されて動くミナズキとそのオマケ程度で着いてきた自分、隣にいるはずなのに妙な距離を感じた。

 

 

「ミナズキ・・・」

「なんだ、マローラ?もう1回寝ようとしていたところなんだが・・・」

「・・・えっと、お腹空いてませんか?私、実はお弁当を用意しておいたんです」

「・・・実は俺も作っていた」

「・・・ミナズキのお弁当、なんやかんや初めてですね」

「お菓子は何度かあったな?」

「モナカ、また食べたいです」

「クロスベルから帰ってきたらまた作るよ」

 

重くなった空気を何とかしようとそんなやり取りをしてお互いのお弁当を見せるとマローラは卵サンド、ミナズキは照り焼きチキンのライスバーガー、という食材は違えど同じ鶏同士だった事に2人して笑い合う。

そうして2人はお互いのお弁当を半分こし合い談笑を始める。さっきまでの堅い空気は霧散ししばらくの間和やかな雰囲気で列車はクロスベルに向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

未明、バリアハート付近の獣道────

 

「見つけたぞ!」

1つの怒り混じりの声が響き、それに応えるように10名ほどの領邦軍の兵士が1人の男を取り囲んだ。

 

その男は身長としては1.9アージュ(1.9m)ほどで顎には短く髭を蓄えた40は超えたであろう渋さがあり、黒いまるで喪服のような服に身を包み腰には見事な宝剣を差していた。

 

そんな囲まれた男は兵士たちなど気にも止めず右手に持った翡翠色の宝石をまるで舐め回すように怪訝そうな表情で眺めていた。

「領邦軍の間では少数だが話が出ているぞ!貴様《蒐集鬼》だな!?貴様にはバリアハートで爆破事件を起こした容疑が掛かっている!大人しくついて来てもらおうか!」

 

兵士がそう声をかけるが男は暫く反応を示さずやがて宝石から目を離すと漸く兵士たちの存在に気付いたのか目を丸くした。

「おや?これはこれは・・・ご機嫌ようクロイツェン領邦軍の捨て駒諸君。随分とせわしないが私に何か用かな?」

「なんと無礼な!」

「貴様には爆破事件の容疑が掛かっている!大人しくついて来てもらおうか!?」

男のあまりにも舐めた態度に憤慨する兵士や同じ口上を口にして各々の武器をを構える兵士たち。

そんな彼らに男は宝石を見せるように前に突き出し言った。

「これを見たまえ、『過去最上級の品質と磨き上げ』などと謳っていたからわざわざ見てみれば・・・所詮ミラで買う程度の価値しかない。嘆かわしい事だ、それを平気な顔で見せびらかす技無き職人も、それにアリのように群がる見る目の無き者たちも・・・全て価値の無い贋物だ。だから─────こうなる」

 

男がそう言った途端、宝石は少しずつその色を熱を帯びるように赤く変え最後には黒く変色しボロボロと灰となって朽ち果てた。

「撤退をおすすめしよう、私の手間が省けて助かる」

「どこまでも舐め腐りおって・・・!構わん!引っ捕えろ!」

男の言葉に兵士の1人が憤慨しながら指示を出すと他の兵士たちも男へと近づいて行く。

そんな様子に男はため息を吐くと口を開いた。

 

「無意味な事を・・・折角だ、諸君に1つアドバイスをあげよう・・・捕り物をする時には無駄な口を叩かず時間をかけないことだ、相手の自由な時間を作れば作るほど勝ちは遠のく」

そう言いながら男は右手をフィンガークラップの形にし自身の顔の横に持っていく。

「ではご機嫌よう」

そして男がパチンと指を鳴らす。

 

 

 

 

瞬間、辺り一帯は爆音と共に炎を纏い爆ぜた。

爆風がその場にいた兵士たちを消し飛ばし、近くの草木も一瞬で灰燼と帰した。

 

「まぁ、アドバイスをしたところで諸君らにはもうそれを活かす場は無いわけだが・・・」

男は薄ら笑いを浮かべ周りを見る、よく見ると少し遠くに這いつくばりながら逃げる1人の兵士を見つけた。

「伝え、なければ・・・急、ぎバ、リアハートに・・・救援、をもと、めなければ・・・!」

「ふむ・・・」

 

兵士を一瞥すると男はゆっくりと兵士に歩いて行く。

決して速くはない、だが虫の息な兵士よりもずっと速くすぐに追い付くとその兵士の前で足を止めた。

「どこへ行くのかね?」

「ひっ!?」

声を掛け、兵士の怯えた顔を確認すると男は這い蹲る兵士の顔を鷲掴みにしてそのまま持ち上げた。

 

「敵に襲い掛かりそれで味方がやられたら我が身可愛さで逃走か、いやはやなるほど清々しい」

「ち、ちがう・・・」

「違わないとも、君たち領邦軍の兵士は皆そうだからな・・・多方武功を上げようとして他の仲間に着いてきたに過ぎないのだろう?」

はははと薄く男が嗤うと兵士は悔しそうに唸る、その表情を見て満足したのか男はおもむろに右手の締め付ける力を強めた。

「まぁ、撤退するよう言ったのに掛かってきたのは諸君だ。こうなるのが筋というものだろう」

そう言った男の右手からは黒い粉が舞始め、兵士に纏わり着いた。

苦しそうにしながらも不思議な光景に目を見開く兵士に男は親切心で教えた。

 

「導力ライフルなどが出回ってからというもの、中々お目にかかる機会は減ったろうからな・・・火薬は初めて見るだろうか?」

「か、やく?」

自分にこれから何が起こるのか、それを察した瞬間兵士は慌てて男の手から逃れようともがき始める。

しかし男の力は強く、なおかつ爆破のショックで動きにくくなった腕では何も出来ない。

「お、おいやめろ、やめろよ!はなせっ!おい!?」

「断末魔がそれか・・・つまらないな、ではさよならだ」

 

直後、兵士が炎を纏って爆ぜた。

今度こそ何も残らなかった。

 

「無駄な時間を過ごした、か・・・どれ、では次なる宝を求めて行くか」

何も無くなった空間を見つめると男はまたのんびりと道を歩き始めた。

数分後爆発を聞きつけた兵士たちが駆けつけるもそこにあったのは焼け焦げて吹き飛ばされた草木だけだった。

 

 

 

 

未明、サザーラント州の人里離れた家────

 

 

「いやー本当に助かりました!」

「ほんと!まさか人の住んでいる家を見つけられるなんて!」

「・・・そう言っていただけると幸いです」

その日、2人の夫婦の旅人が急な雨に襲われた。

雨具は持っていたのでそれほど困らなかったが雨宿り出来る場所が無いことに困りながら歩いていると不意に古めの家を見つけ、そこに明かりが灯っていることに気付いた。

これ幸いとドアをノックすると中から現れたのは恐ろしく肌の白い美女だった。

真っ黒いドレスに身を包み、それに相反するように肌と髪は白く艶やかで瞳は夜空のように青く澄んでいる。

 

「でもすみません、ご飯までご馳走してもらっちゃって」

「お気になさらず・・・たまにあなた達のように迷い込んで来る方がいらっしゃいますので慣れているんです、それに新鮮なお肉もありましたから」

申し訳なさそうな女の旅人に対して丁寧な物腰で返す、そして窓へ近付き景色を見ると旅人2人に向き直った。

 

「雨は今日の所は止みそうにないですね、もう遅いですし最近は物騒ですから今日はここで休んでいってください」

そう言って女は毛布を引っ張り出し2人に渡す。男旅人は嬉しそうにそれを受けとったあと女に聞いた。

「物騒、とは何かあるんですか?例えば危険な魔獣が出るとか・・・」

「魔獣の仕業ではありません。ただ最近サザーラント州では子供の失踪が相次いでいまして、最近増えて聞いた話では2人いなくなって合計だともう14人ほどいなくなっているそうです」

「そ、そうなんですか・・・」

女の説明に女旅人は少し引き気味で返す、折角ご飯を食べた後にそう言った不気味な話は勘弁して欲しかったのだ。

 

「ではまた明日、私はやる事がまだありますので・・・」

そう言って女は別の部屋に入っていった。

2人の旅人はそれを見送るとお互いの顔を見合せ静かに用意されたベッドに入る。

 

「少し眠くなってきたな」

「えぇ、さっきの不気味な話を聞いて不安だったけどこれなら・・・あ、今日買った帝国時報読み忘れてた」

「明日で良くないか?今日は寝ようよ、折角あの人がご馳走してくれたスープのお陰で身も心も温かいんだからさ」

「だって日課なんだもの、少しだけ、ね?」

そう言って女旅人は帝国時報を読み始める。

不思議とまぶたは何時もより重く、下手に気を抜けばそのまま夢の世界へ旅立てそうな心地だった。

 

「と言っても本当に眠いわね、疲れてるのかしら・・・ねぇあなた・・・あら?」

眠い目をこすりながら女旅人は自分の夫の方を向くと夫はもう眠ってしまっていた。

「もう・・・あれ、この記事・・・」

すぐに寝てしまった夫に呆れたように笑い記事を読み進めていた女旅人だったがあるコラムに目を止め固まった。

 

『サザーラント州、身分関係なく複数の子供が謎の失踪。捜索続ける家族の悲痛な叫び─────』

 

そこには先程この家の家主の女が教えてくれた

「これ、あの人が言っていた事件ね・・・え・・・」

少し身を震わせた女旅人だったが記事の続きを読んで目を見開いた。

 

『昨日夜までの失踪した人数は12人、新たな魔獣の仕業の可能性も視野に────』

「え・・・え・・・」

小さく声が漏れた、同時に頭の中に先程の家主の女の言葉が響いた。

 

『魔獣の仕業ではありません。ただ最近サザーラント州では子供の失踪が相次いでいまして、最近増えて聞いた話では2人いなくなって合計だともう14人ほどいなくなっているそうです』

確かに彼女は14人と言った。だが記事に書いているのは12人、つまり13人目と14人目の情報は何処にも上がっていない。

だが家主の女は14人と言った、魔獣の仕業ではないとも言っていた。

 

 

「ま、さか・・・」

女旅人は1つの結論に辿り着き、急いで隣の夫を揺すり始める。

分からないことは多い。何故あの女がこんな事をするのか、連れ去られた子供たちはどこへ行ったのか。

しかし男旅人はイビキをかくばかりで全く起きる気配が無い。

そうしている女旅人も意識が少しずつ遠くなるのを感じ始める。

 

意識が薄れていくなか、不意に家主が出ていった扉が視界に入る。

そこには僅かに開かれた扉から夫婦を凝視する青い瞳があった。

「いや、だ・・・」

女旅人の口から声が漏れる、それに反応するように軋むような音を上げて扉が開き、家主の女が彼女の元に歩いて来た。

 

「大丈夫、痛くはしないから・・・それにもう動けないでしょうし、美味しかったでしょう?」

 

 

 

子供たちのスープ────

 

 

 

「う・・・おぇ・・・・」

「あらあら、吐き出そうとしているのかしら?可愛い」

子供たちがどうなったのか、自分と夫が何を食べたのか、それを知った女旅人は最後の抵抗をするようにえずき始め、家主の女はそれを微笑みながら見守る。

 

「なん、で?」

「薬が回ってきたのよ、もう指1本動かせないでしょ?」

何度も吐き出そうとした女旅人だったが身体が石になったかのようで声を出すことすらままならなくなっていく。

「大丈夫、全部余すことなくいただくから・・・」

「や、・・・いやぁ・・・!」

笑顔で話す女はいつの間にか手にしていたスティレットを動けない女旅人の首を突き立て────

 

 

その日、2人の旅人が行方不明となった。

この家には秘密がある。家主の女の部屋には隠し扉があり、その先には冷凍室とも言えるよく冷えた部屋と14個の肉がフックに掛けて吊るしてあるのだ。

そして今日、その数は16に増えた。

彼女はその光景を見て満足そうに言うのだ。

 

『今年は食べ物で苦労しなさそうね────』と

 

 

 

 




ご拝読ありがとうございました。

かなり長い時間を開けてしまいましたが首を長くして待ってくれると幸いです。

次話もよろしくお願いいたします。

ミナズキが教えてくれた4人の裏の人達、読者の皆様は誰と遭遇したくないですか?

  • 《蒐集鬼》
  • 《狐面》
  • 《死喰み》
  • 《天泣》
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