ついに10話を迎えました。
心より感謝いたします。
「フェンシング部には近づかない・・・プールを見に行く時は2階から・・・」
時間を戻しそして現在、空を仰ぎながらベンチに座っているミナズキは頭の中でベリルに言われたアドバイスを繰り返していた。
文化系部活がボロボロだったならせめて運動部くらいは何とかしたいのだ。
そしてこのベンチから正面にはギムナジウム、水泳部とフェンシング部が活動中だ。
サラが言っていた''クラブ活動も自由行動日にやる事が多い''だったが恐らく今は自主練でもしているのか活気を感じる。
ベリルのアドバイスを頭の中に刻み込みベンチから少し勢いよく立ち上がり深呼吸、ミナズキはギムナジウムへと足を向けた。
ギムナジウムの前に着き少しだけ重量を感じるドアを開き中へ入る。
向かって右にはフェンシング部が活動している修練場が、正面に向かうと水泳部が使用しているプールがある。
「まずはフェンシング部にはあまり近づかない事・・・」
少しだけ廊下の左寄りを陣取るようにゆっくりと歩く。
ドォン!という音とともに修練場のドアが開き、貴族生徒が3人吹っ飛んで来た。
「ひぃ!すすすすみませんでしたぁ!」
「うわぁぁぁ!」
「お、置いてかないでくれぇぇぇ!」
急いで立ち上がりその場から文字通りバタバタと逃げるように外へ走り去って行く貴族生徒たち。
「(真ん中を歩いてたら確実に巻き込まれたな・・・)」
恐らくはベリルのアドバイスが役に立ったのだろうとミナズキは考える。だが───。
「(何故かそれに負けないくらい嫌な予感がする・・・!)」
「なによ、根性のない子たちね」
修練場から1人の貴族の女子生徒が出て来て開口一番にこの一言、彼女こそがフェンシング部の部長であり恐らくは2年生の生徒の中で1番強いと言われているフリーデルだった。
「いや、お前がやりすぎたんだろ」
そして彼女の言葉にツッコミを入れつつ、修練場から出てきたのは同じくフェンシング部の男子で2年生のロギンスであり、その表情は少し呆れ気味だ。
「仕方がないじゃない、あの子たち『女の子にまける訳が無い』って言うからちょっと本気出したら今度は『女に負けてられるか!』とか言い出したんだもの」
「それにしても限度があるだろ!?なんで3人も吹っ飛んでんだ!」
弁明をするフリーデルとそれに反論するロギンス。
確かにさっきの3人は物理法則を若干無視したような吹っ飛び方をしていたがミナズキにとってはそんなことは問題じゃない。
「(どうやってこの場から離れるか・・・)」
今目の前の2年生2人は会話に夢中に見える、だがもしここで見つかり何か起きればベリルのアドバイスの意味が無くなる。
オカルトを信じる訳では無いが流石に友人と思える人物の言うことは信じている。
今日が色々苦労が多すぎたからいつもよりひとしおと言えた。
少しずつ、少しずつ足を横に広げ静かにプールに向かう・・・ゆっくり、ゆっくりと。
しかしミナズキは忘れていた、ベリルのアドバイスの1つ''プールを見る時は2階から見たほうが良い''という言葉を、そして2階へ上る階段ではなくそのまま1階から向かおうとした結果。
ゴンッ!
「・・・いっ!?」
よりによって階段の手すりの角に肘をぶつけてしまいミナズキは声を上げる、そして───。
「ん?」
「あら?誰かしら?」
ロギンスとフリーデルに見つかってしまうのだった。
「貴方!・・・やっぱり!剣の腕に!覚えが!あるのね!」
「まじかよ・・・フリーデルの突きをあんなに避けてやがる・・・」
「良いから、あんたは・・・この人を止めてくれ・・・!」
楽しそうにレイピアを振り、突き、薙ぎ払ってくるフリーデル、ロギンスはそんな彼女の攻撃をちゃんと避け切っているミナズキに驚愕し、ミナズキはひたすらに避け続けていた。
あの後2人に捕まり、そのまま修練場に連行。
初めは適当に言い訳して帰ろうとしたミナズキだったがフリーデルに武術の覚えがあることを見抜かれてしまい、そのままこの現状まで引き込まれてしまったのだ。
「ほらほら!貴方の腰に差している東方の武器は使わないのかしら!」
まるで雨のような突きの連打を避けながらミナズキは考える、どうすればこの状況から抜け出せるか。というよりどうすれば逃げられるか。
恐らくスイッチが入ってしまったフリーデルの攻撃はどんどん加速しておりロギンスはもう止めるのをとっくに諦めている。
太刀を使えば確かに止められる、伊達に八葉一刀流の剣士ではない。だがもし使えば最悪フリーデルがもっとヒートアップする可能性もある。
しかしそんなこと考えている間にもフリーデルの剣撃は加速しそろそろ避けるだけでは余裕が無くなってきた。
「(やむを得ない・・・ならば!)」
キィン!
「あら?」
ミナズキが太刀を抜き、フリーデルの動きが止まる。
そしてそのまま太刀を収めるとフリーデルのレイピア、その刃が根本から折れる、いや、切れた。
「伍ノ型・・・残月・・・!」
ミナズキは最も得意としている型、残月でフリーデルのレイピアを切っていた。
恐らく弾けばもっと長引くし下手に手を抜いても多分避けられなくなる、そう考えたミナズキの苦肉の策と言えた。
「ふ、ふふふ・・・」
切られた自分のレイピア、その根本を見つめながらフリーデルは静かに笑う。
「な!?おい1年!早く逃げ「ロギンス君?」は、はい。」
何かを察したロギンスがミナズキを逃がそうとするも既に手遅れだったようでその場で静かになってしまった。
「貴方、名前は?」
「ミ、ミナズキ・・・」
「そう、ミナズキ君って言うのね。ふぅん、そう・・・」
遠目からロギンスが手を合わせて謝罪をするようなポーズをしてくるがミナズキにとってはそんな場合では無い。
何故なら目の前にいるフリーデルは息を荒げ、恍惚な表情でこちらを見ている。それはまるで良質な獲物を見つけた肉食獣のような眼光だった。
「貴方、フェンシング部に入らない?」
「い、いや辞めておく。ただでさえⅦ組だから他のクラスよりカリキュラムもハードだし・・・」
「勉強なら私も見てあげられるわよ?」
少しだけフリーデルが前に、ミナズキが後ろに進む。
まだ、まだ大丈夫だ。引き返してもらうことは出来る。まだフリーデルからは理性を感じる。
「いや、特別実習とかもあって忙しいし」
「もしかしたら実習で荒事もあるかも・・・私なら鍛錬に付き合えるわよ?」
またもや1歩、フリーデルが前進しミナズキが後退する。
後ろのロギンスの顔はどんどん青ざめていく。
恐らくは悪い方に進んだのだろう。
どこから取り出したのかフリーデルの手にはいつの間にかもう1本レイピアが握られていた。
「改めてもう一度言うわ、フェンシング部に入りなさい?」
「謹んで辞退させていただきます・・・」
背中に修練場の壁が着いた。
ついに勧誘から命令調になったフリーデルの勧誘を再度断る。後ろのロギンスの顔色が青から白っぽく変わる。
ミナズキはこの手のタイプを知っている。つまるところ彼女は''バトルジャンキー''なのだ。
恐らくは本気で戦える相手に会えずにフラストレーションが溜まっていたのだろう、そこに運命的に(ミナズキからすれば完全に貰い事故)出会った自分が本気を出しても恐らく勝てないかもしれない人物。
逃がす、なんてお預けのような選択肢は彼女の中には初めから無かった。
「───!?」
一瞬だけ感じた悪寒、それに従いミナズキが右に避けるとその次の瞬間にはフリーデルの放った突きが修練場の壁に突き刺さる。
「入りましょう!?きっと楽しいわよ!」
先程よりも更に数段早い突きの連打をミナズキは太刀を抜き弾く。
躱し、弾き、そしてこちらからも仕掛ける。それでも彼女は楽しそうにミナズキの攻撃をレイピアで受け止め笑う。
「やっぱり貴方もこちら側よね!ねぇ!?」
「そんな趣味は無い・・・!」
「誰か止めてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」
荒ぶるフリーデルとそれに対抗するミナズキ、そして1人この状況に着いていけないロギンスの悲鳴が修練場に虚しく響いた。
数刻後───
「・・・なにこれ?」
修練場の異変に気づいた他の生徒からの通報により駆け付けたサラが見たものは───。
「はぁ、ふぅ♡・・・最・・・・高・・・♡」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ。・・・オリエンテーリングより疲れた・・・こいつ化物かよ」
「・・・・・・もう、やだ」
汗ばみ頬を紅く染め、艶っぽく恍惚とした表情で息を切らしながら倒れているフリーデルと太刀を収めた鞘を杖のようにして立つミナズキ、そして死んだような顔でうずくまるロギンスとボロボロになった修練場の姿だった。
ご拝読ありがとうございました。
途中から面白くなってきて今回で放課後を終わらせられなくなりました。
フリーデル部長みたいな人、面白くて好きなんです。
次話もよろしくお願いいたします。
今更なのですが、ミナズキとレナ、それにマローラのプロフィールってあった方が良いでしょうか?
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あった方が良い
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無くても良い