英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。
いよいよ実習も半ばです。


24.戦闘狂

 

「・・・妙だ」

「確か西サザーラント街道に魔獣が増えたって話だったはずだが・・・」

西サザーラント街道に出たミナズキとユーシスの声が静かに霧散する。

遊撃士協会から出ていた依頼は西サザーラント街道に増えすぎた魔獣たちの討伐、だが街道には魔獣がただの1匹も居ないのだ。

魔獣がいないに越したことはないのだが事態が事態なので逆に胸騒ぎが強くなる感覚があった。

 

「と、とにかく急いでイストミア大森林の方へ向かいましょう」

「ああ・・・あれはなんだ?」

エマの言葉に返事をしたミナズキだったが地面に何かが撒かれていることに気付く。

「これセピスだ」

拾い上げたフィーが近くにいたマキアスに見せた。

「これ、よく見るとイストミア大森林の方に続いてないか?」

マキアスの言葉に皆セピスが一本道を描くようにセピスは撒かれていた。

「誘い込まれているのか」

「だとしても行くしかあるまい」

ガイウスの呟きにユーシスが答え、剣を持ち直す

不安が拭えぬままⅦ組はイストミア大森林へと入った。

 

 

イストミア大森林─── 。

「なんだ、これは・・・」

唖然とした様子のマキアスが声をあげる。目の前に広がっているのは昨日訪れた大森林とは違った。

所々に戦闘の痕跡があり、木には何かが強い力で叩きつけられた痕、砕けた岩、木でできた柵もあったがそれも叩き壊されていた。

「昨日とはまるで違うな」

「それにあれを見てみろ」

森を眺めながら歩くガイウスが口を開く、次にミナズキが一つの方向を指さした。

「なぁ!?」

「これは・・・!」

マキアス、ユーシスが驚くのも無理はない。ミナズキが指を差した位置は本来イストミア大森林の手配魔獣がいたとされるエリアだった、しかしそこには魔獣は居らず代わりに真っ二つにされた人の背丈以上の大岩があった。

「まるで刃物で切られたような痕・・・」

「でも、こんな大岩を切るだなんて」

大岩に近づき分析するフィーにエマが困惑しながら呟く、流石に2アージュ(m)以上もある岩を切ったとは考えたくないようだった。

「だがこれをやった奴がどうして欲しいかは分かるぞ」

ユーシスがそう言って足元を指差す、そこには街道と同じようにセピスが線を描きながら奥へと続いている。

「奥に来いということか」

「そだね、なんていうか挑発に近いかも」

ガイウスの反応にフィーも答える。

セピスでできた線を頼りⅦ組は奥へと進む、子供が無事でいてくれるように祈りながら。

 

イストミア大森林最奥─── 。

皆が歩いていると開けた場所に出た、おそらくはここが昨日遭遇した大森林の主の寝床なのだろう。

そしてそこには人影が1つ。

 

「おー遅かったな、ようやく来たかー」

2セルジュを越える体躯、褐色の肌、大きすぎる巨剣と大盾、面識のある顔に皆が驚く。

「確か、酒場宿で会った」

「そう、アメリエラだよ眼鏡のお嬢ちゃん」

声をあげるエマにアメリエラは笑顔で答える。

「何故こんな所に?」

「なんでってお前らを待ってたんだよ」

ミナズキの質問にあっけらかんと答える彼女に皆で首を傾げた。待っていた?なんで?と首を捻る一方だった。

 

「なんで、って顔だな。じゃあ教えてやるよ、アタイはあんたらがここに来るのは分かっていた、いなくなった女の子を探してな」

「な、なんでそのことを」

彼女の言葉にマキアスが聞き返し、そして彼女は答えた。

「簡単さ、あの子を『攫った』のは他でもない、アタイだからね」

「さ、攫った?」

彼女の返しに信じられないと言った様子のエマが聞き返す。

「そう!こうすればあんたらは来る、そう確信していたからな」

まるで世間話でもするかのような、挨拶でもしているかのような、余りにも当然と言うかのように笑顔で返す彼女に皆開いた口が塞がらなかった。

「では質問を変えよう、俺たちをここに呼び寄せ何がしたい?」

「分からないか?殺し合いだよ、殺し合い」

警戒度を高め訊ねるユーシスに彼女はさも当然のように答える。

 

「アタイは戦いが好きでね、特に何度も何度も立ち上がる対戦相手を殴れるだけ殴って、心がへし折れるまで殴って謝ってきても殴って、最後に絶望して倒れる様がね、最高なのさ」

目を輝かせまるで子供のように、はしゃぐように話す彼女に皆硬直してしまう。

「く、狂ってる」

マキアスがそう零した、すると彼女は皆に向き直りまた話し始めた。

「アタイはあんたらと殺り合いたい!なんてったって大森林の主に全員がかりとはいえ、退かせたもんな!」

彼女の言葉にフィーが昨日感じた視線の正体に気付く。確実に昨日の戦いを見ていたのはこのアメリエラだ。

 

「だからアタイは考えた、どうすれば殺り合ってくれるかを・・・だから大森林の主を殺し、イストミア大森林と西サザーラント街道を混乱させた!」

楽しそうに笑い話す彼女に皆愕然とした、今日の課題の半分以上は彼女によって作り出されたものだった。

 

良くも悪くもイストミア大森林はあの主の影響で魔獣が増えすぎることはなく、またある程度の秩序があった。しかしアメリエラがその主を倒したことで大森林の秩序は崩壊、ついでに魔獣たちをアメリエラが追い立てた影響で街道に大量に放たれる結果となった。

 

「そしてその影響で魔獣で溢れた街道やこの最奥までの道を魔獣たちを倒して出たセピスで道標を作りあんたらが辿り着けるように仕向けたのさ!あとは簡単さ、たまたまあんたらに依頼を出していたあのガキを大人たちが見ていない間に攫った、そうすればあんたらが最奥に乗り込むっていう算段さ!いやー楽しく「巫山戯るな!」・・・あ?」

彼女の言葉をさえぎったのはユーシスだった、その顔は普段の気品のある表情ではなく怒りで満ちており今にも飛びかからんばかりの憤慨ぶりだった。

「貴様の趣味などどうでも良い、だが攫った子供は返してもらうぞ!」

「正義の使者か何かの真似か?ま、いいや。あそこを見な」

アメリエラが指す方向には高い木に吊るされたミレーがいた、手足を縛られぐったりとしている。

「貴様、あの子供に何をした!?」

「別になーんにも、ただ連れてくる時に薬は使ったけどな」

怒るユーシスに彼女は興味無さそうに答える。

「ま、あそこから落ちたら痛いじゃ済まなさそうだけどな」

アメリエラはそう言って懐からナイフを取り出し、子供を吊るすロープに狙いを定める。

「まさか・・・おい!止せ!」

ユーシスの静止を無視し彼女はロープに向かってナイフを投げつけた。

ブチッと音を立ててロープが切れ、ミレーが真っ逆さまに落ちる。あわや墜落と言うところで駆けつけたミナズキがミレーを受け止めた。

傷のないミレーを見てミナズキはほっとするがその直後だった。

 

「きゃぁぁぁ!?」

「!?」

エマの悲鳴に思わず振り返ると、いつの間にかミナズキと入れ替わるようにⅦ組の目の前に移動したアメリエラがマキアスの腹部に強烈な蹴りを入れた。

「ぐぶっ!?」

短く呻き声をあげてマキアスは蹴り飛ばされた。

次にユーシスを大盾で思い切り殴りつけた。

「っ!?」

あまりの衝撃に声も出せずにユーシスも吹っ飛ぶ。

次にガイウスに剣を振り下ろすがガイウスはすんでのところで槍で受け止める、しかしそれがいけなかった。

「ふんっ!」

「ぐはっ!?」

いつの間にか大盾を捨てたアメリエラの左拳がガイウスを襲う、1発、2発と殴りつけ防御が弱まった所に3発目の拳をガイウスに叩き込み4発目の拳で殴り飛ばした。

フィーはアメリエラの後ろに回り込み切り付けようとしたが空中にいる間に首を鷲掴みにされる。

「あーあー、ちっこいのはすばしっこくていけないな」

「う、ぐぅ・・・ゲホッ・・・」

苦しそうに呻くフィーを地面に叩きつけ意識を奪うとフィーを取り戻す為に走ってくるエマに思い切り投げつけた。

「ほら、プレゼントだ」

「フィーちゃ、あっ!」

ブォン、という音と共に投げつけられたフィーはエマにぶつかりそのままエマごと吹っ飛んだ。

 

「さて、あとはお前だけだな。」

「・・・・」

「実を言うとお前は強そうだったんだよ、だから残してた」

「・・・・」

「なんだ、だんまりか?」

1人で一方的に話すアメリエラにミナズキは押し黙ったままだった。

ミナズキはアメリエラを見ていない、見ているのはクラスメイトだ。

腹を抑えて動けないマキアス、あまりの衝撃に身体を震わせることが精一杯のユーシス、懸命に立ち上がろうとするが脳震盪を起こしているのか上手く立ち上がれないガイウス、気絶しているフィーを守るように抱きしめアメリエラに背を向けるエマ。

ミナズキにはそれが過去に見た景色と繋がった。

よく覚えているし、よく夢に見る、無くなった故郷の自分に良くしてくれた人たちの死ぬ前の姿に重なった。

だから、だからだろうか─── 。

「(ごめん、ジジイ・・・)」

自分に技を、怒りを鎮める方法を教えてくれた師匠に心の中で一言だけ謝る、怒りを抑えられそうに無いから。

「(まだまだ全然修行が足りなかったみたいだ・・・)」

心の中で自身の未熟を嘆く、もっと強ければこうはならなかったのではと思うから。

 

「ちっ、だんまりかよ。なら仕方がない、こいつらのことを順番に「もう黙れ」グベッ!?」

アメリエラの顔面に1発拳が入る。思わぬ一撃にアメリエラは後ろに下がり口元を拭うと血が垂れていた。

「へ、へへ、それがあんたの本来の顔かよ。」

「もう黙れと言ったはずだが?」

戦ってもらえるとわかったアメリエラは笑い、それに対してミナズキは抑えることを止めた怒りが全身から漏れ出るかのように赤い闘気となって身体中を包んでいた。

 

「楽しもうぜ!」

「・・・殺す」

2人の規格外の戦いが始まってしまった。




ご拝読ありがとうございました。
次回で多分実習が終わるかもしれないです。
次話もよろしくお願いいたします。

ミナズキは次の特別実習は行けません、なので次の実習期間何を書くかを決めます。

  • ミナズキのトリスタでの奉仕活動
  • レナの参加する特別実習
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