ギスりながらも特別実習に出発です。
6/26(土)特別実習日早朝、第3学生寮食堂───
「おはようミナズキ」
「おはよう・・・レナ」
「なんだかいつにも増して早いねぇ」
「眠れなくてな・・・ガイウスは俺を信用してくれたが他の皆はぎこちない、当然ではあるし仕方ないとも思う」
あの日から3日経ったがミナズキはちゃんと学院に登校していた。パトリックとその取り巻き、ガイウスとレナ以外のⅦ組メンバーを除けば比較的いつも通りと言える学生生活だった。
ただパトリックは会う度に恨めし気な顔で見てくるし他のⅦ組、特にエリオット、アリサは半ば怯えがあり、マキアスは自然に接しようとしてくれているが警戒心が発動しまくっていた。エマも同様で委員長として最低限は接してくれるがそれでも以前より関わりにくそうにしている。(何故かレナと2人でいる時は顔を赤らめながら見てくるが・・・)
ユーシスは堂々としてくれているが距離感を決めあぐねた様子で、リィンにいたっては同門の先輩なこともあって余計に複雑そうだ。
サラ、フィーはあまり変わらなかった。サラは教官ということもあってかスタンスは崩さず、フィーは元猟兵ということもあってそこまで抵抗感は無いようだ。
そしてラウラだが恐らく彼女が1番態度が変わった、死の精霊の話を聞いて以来ミナズキを避けるようになった。
彼女の性格的にミナズキがやってきた『人斬り』に嫌悪感を抱いている事もあるだろうが、ラウラは死の精霊の噂がどこまでが真実なのかを知らない。レグラムという辺境出身故に情報が回りにくかったり或いは話に尾ひれが付いたのであろう。
それでも顔を合わせる度に鋭い目をされるのはミナズキも堪えた、具体的に自分のご飯は自室で取るようにするくらい堪えた。
わざわざ夕飯を学生会館のシェフラムゼイに持ち帰り用の物を用意してもらってまで人との接触を減らしたくらいだ。
「ところで・・・何か作っていたのかい?」
「あぁ、シャロンさんにも手伝ってもらった」
「東方の軽食、参考になりました」
レナが食堂に漂う良い匂いに聞いてくるとミナズキは頷き、箱を取り出した。シャロンはそれを暖かく見守っている。
既に人数分(+シャロン)用意してある箱を見ながらレナは手を付けようとするが軽く払われた。
「アダ!?・・・ダメかね?」
「ダメだ」
「本当にダメかね?」
「ダメだ」
「本当のほんとーに・・・ダメかね?」
「レナ、流石にしつこいぞ」
ミナズキに軽く叱られトホホと肩を落とすレナ、そんな姿にシャロンはまた笑みを漏らすのだった。
ちなみにだが───
「(なるほど、これがアリサお嬢様が言っていた『もどかしい関係』ですか・・・うふふふ)」
アリサによってシャロンにも2人のなんとも言えない関係性が知られていることはミナズキとレナは知らない。
トリスタ駅改札前───
「ミナズキ、おはよう」
「おはようガイウス」
ミナズキとレナが駅に入ると他のメンバーはもう改札前に集まっていた、リィンたちはミナズキを確認すると少しぎこちなく会釈をしてくる。
「・・・・」
「ミナズキ・・・大丈夫だとも」
ミナズキは1度足を止めるが隣のレナはミナズキに微笑むと背中を優しく叩く、ミナズキは1つ息を吐くとB班の中で1番自身に対して態度が変わっていないフィーへと歩み寄り1つ風呂敷を渡す。
「これは?」
「軽食、いらなかったら捨てても良い」
質問してくるフィーに短く返すとミナズキはレナの元に戻りそのままⅦ組の面々に背を向けた。
「ふむ、よく出来ました・・・と言うべきかな?」
「まぁ、今は仕方ないだろう」
レナとガイウスの評価に少し耳を痛めながらミナズキは腕を組み列車を待つのだった。
その間他の面々はと言うと───
「ラウラとフィーのこともあるがミナズキもな・・・」
「でもどうすればいいのかしら・・・」
リィンとアリサが小声で話しながら頭を抱える。
Ⅶ組が抱えている問題はミナズキのことだけじゃない、現在ラウラとフィーの仲がぎこちなくなっている。マキアス曰く『フィーが元猟兵と知った時のラウラの顔が一瞬険しくなった』との事だが真意は定かではない。
ただでさえこの2人のことがあったのに実技テストでのパトリックの発言により今度はミナズキがクラスで浮いてしまう結果となった。
ガイウスとレナ、フィーは特に対応を変えていないが他のメンバーはそうもいかない。特にラウラにいたっては敵意に近い感情すら向けている。
はっきり言ってこちらはお手上げだった。
「リィン、こちらのことは僕たちに任せておいてくれ」
「うん、何とか頑張ってみるよ」
「その、そちらも頑張ってください・・・」
マキアス、エリオット、エマが同じB班のラウラとフィーの仲を取り持ってくれるそうだがその発言には元気がない。
「あぁ、こっちも頑張ってみるよ」
「そうね、私たちも頑張らなくちゃ・・・」
リィンとアリサも3人に返すがこちらもやはりぎこちない、まあ理由なんて分かりきっているが・・・。
その一方で───
「もうすぐ列車が来る頃だからとりあえず切符を買おうかねぇ」
「それもそうだな、ミナズキ!切符を買わないか?」
「・・・・あぁ」
そんな皆のことはそっちのけでレナとガイウス、ミナズキは切符を買っているのだった。
帝都行き列車内───
「・・・ミナズキの作った弁当、なかなかだな」
「老師から習ったのかな?にしても美味い」
ユーシスの言葉にリィンもまた頷く。
今回ミナズキが作ったのは、おにぎり(天むす、鮭のハラスの2種)、出汁巻き卵、きんぴらごぼう、たくあん、鶏肉の照り焼き、そして緑茶といった献立。
東方の文化を知るリィン以外はおにぎりを初めは手で食べることに驚きもしたが食べてみるとなかなかどうして美味い。
「(今のうちにお礼言っておいた方が良いわよね)」
アリサはこれを機にミナズキに話しかけようと人数の都合上1つ前の座席にいるであろうミナズキに声をかけようと席から立つがそこにはレナの肩に頭を預けて寝ているミナズキの姿があった。
「おや?すまないねアリサ、ミナズキは自分の分は先に済ませていたらしい。すぐに寝てしまったよ」
ミナズキに寄りかかられつつも器用に弁当を食べているレナはミナズキのことを確認しながらアリサに言う、アリサはその光景に頭の中で色々と言いたい言葉を抑えつつ座り直した。
「(それやっていいのはカップルなのよぉぉぉ!)」
頭の中で叫びを上げながら顔には出さないアリサ、気ぶり始める自分を抑えながらもリィンたちに話しかける。
「そ、そういえばこの風呂敷の中に入ってたもう1つの箱は何かしら?」
「『弁当を食べ終えたら開けろ』ってあるから食べ終わったらで良いんじゃないか?」
全員分の使い捨て弁当箱に付属していた外見は一緒だが2回りほど小さい箱が入っており、先に食べ終えたリィンが蓋を開ける、するとそこには───
「・・・なるほど、これは」
「えっと・・・それはなに?」
「甘い匂いはするが・・・」
リィンは感嘆の声を漏らすがアリサとユーシスは疑問符を浮かべる、小さな箱の中身はミナズキが作ったプチおはぎ(2個入り)だったのだ。
ほのかに漂う甘い香り、しっとりと艶のある藤紫色、丸っこく可愛らしいフォルム、他の皆が見慣れないお菓子に躊躇する中リィンは特に抵抗も無くおはぎの1つを箸で半分にわり口へ運ぶ。他の皆はそれを固唾を飲んで見守っているとリィンは緩んだ顔になり、緑茶を飲んでもっと顔を緩ませた。
「リ、リィン?」
「どうしたんだ?」
「試してみるか・・・」
リィンの変貌にアリサとユーシスが驚いている中ガイウスもリィンに倣うようにおはぎを口に運ぶ。
もぐもぐと咀嚼し飲み込むとこれまたリィンとの同じように顔を綻ばせた。
「なるほど、そういう事か・・・」
ガイウスはそう呟きもう一口、更にそのまま緑茶をお供におはぎを食べ進めた。アリサもユーシスもその姿に戸惑いながら恐る恐る口にし、そして口元を緩ませた。
「すごい・・・」
「甘い、だが一切のしつこさが無いしっとりとした上品な甘さだ、口の中に入った途端にふわりとほどけていくような柔らかさ、鼻腔を優しく通る香り・・・リィンがあんなふうになったのも頷ける。そして・・・やはり合う、この緑茶・・・初めは香りが良いものの苦さや渋さがあると思っていたがこの菓子にはよく合う、そして緑茶を飲むとまた甘さが欲しくなる・・・ミナズキは菓子と茶だけで無限とも思えるループを作りだしている」
語彙を失うアリサと逆に妙に饒舌になるユーシス、他の面々もそれを見ておはぎを食べ始めていた。
ちなみに───
「ねぇねぇ、私の分は?」
食堂でミナズキが作った料理を探すサラだったがなかなかそれが見つからない、とりあえずシャロンに聞いてみると彼女は苦笑いを浮かべながら言った。
「ミナズキ様から言伝をいただいております、『たまには自分で作れ、それと昨日あんこを少しとはいえつまみ食いしたのは見たからな』との事です」
「げ!?あいつあれ見てたの!?」
実は昨日の夜、ミナズキがあんこを作っていると酒に酔ったサラがツマミ代わりにミナズキの作ったあんこを食べてしまったのだ。
泥酔していたならミナズキも雷を落とすだけだったがサラはまだまだ素面に近い状態だった為ミナズキは仕返しとしてサラ用の弁当もおはぎも作らなかったのだ。
「ですので今日は私も作っておりません」
「えぇぇぇぇぇ!?」
シャロンの言葉に反応したサラの悲痛な叫びが寮内に響いたのだった。
ご拝読ありがとうございました。
少し短かったですが少しリアルでごたついたのと単純に忙しくなったからです。
次話もよろしくお願いいたします。
まだ直接的な関係は無いんですけど逆質問です。ミナズキは士官学院を卒業したらその後はどうなると思いますか?
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遊撃士になって仕事をする
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帝国の各地を放浪する
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なんやかんや身を固めて何処かに定住する
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行方不明になる