英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。
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64.出来事は夜更けに

 

その後、Ⅶ組はグエンと少しだけ話していた。

グエンは1年中ここに住んでいる訳ではなく、半分は帝国にいたり各地の知人に会いに行っていること、特別実習にドンピシャでノルドに居たのは偶然ではなくアリサの母でありグエンの娘であるイリーナから最低限とは言え連絡を受けていたからだった。

「さて、ではそろそろ行くとするかの。工具を取ってくるから待っておるがいい」

そうしてグエンは外に出ていく、その様子をアリサが寂しげに見つめていた。

「なかなかに軽妙で面白いお爺さんだねぇ」

「レナは多分それ本気で言ってるわね・・・まぁ確かに飄々としてて趣味人でみんなから愛されてるけど気まぐれでいい加減で・・・5年前だって・・・」

レナに軽く反応しつつもどこか覇気のないアリサの声に皆は無理に聞くことは出来ず押し黙るしか無く、そのままグエンが向かったであろうガレージに向かうことにした。

 

「これで準備完了じゃ。さて、誰かの馬に乗せてもらおうかの」

「あれ、その導力車で行くんじゃないんですか?」

グエンのすぐ後ろにはそこそこ大きな導力トラックがあった、てっきりグエンはそれに乗って行くものだと思っていたリィンが聞くとグエンは導力トラックを軽くコンコンと叩き言った。

「ちょいとエンジンの調子が悪くての、出来れば誰かの後ろに乗せてもらえるかの?」

「言っておくが俺は無理だぞ?暴れ馬に乗せる訳にはいかないだろ?」

ミナズキは自分が乗っている馬を一瞥しながら言う。確かにブレイザーは暴れ馬だ、老人を乗せるわけにはいかないだろう。

「それなんじゃがな・・・もし良ければリィン君、君の後ろでも良いかの?」

「え、まぁ大丈夫ですけど」

「では決まりじゃな、ノルド集落に向かうとするかの」

そんなこんなでリィンがグエンを乗せることになった。

 

「はっはー!なんともまぁ面白いご老人がいたものだねぇ!これは今回の実習は結構実りもありそうだ!」

「実りか・・・確かにここまで心が穏やかに過ごせたのは何時ぶりか分からないな・・・」

馬を走らせ集落に向かう途中、レナに声をかけられたミナズキは顔を少しレナに向けて話す。

「君が士官学院では見せなかった顔も見られた、これはマローラにも良い土産話ができたよ」

「マローラに?そんな話すようなことか?」

いきなり出てきた平民生徒の友だちの名前にミナズキが首を傾げる。

Ⅰ組との戦闘以降、授業以外は外に出ず図書館にも寄らなかったミナズキは知らないがマローラはミナズキがノルド高原に行くにも関わらず資料を集めに来ない事を不思議に感じていた。

そして実習の前日、レナが図書館に訪れた時にこれ幸いとマローラはミナズキに関することを聞いた、レナは少し渋ったが何があったかを話した。

もちろんミナズキが時間学院に入学した経緯までは話していない、レナとしてもミナズキの友人が減ることは心苦しいものがあったため言えなかったのだ。

結果として話せる内容は多くはなく、マローラはなんとか納得はしてくれたものの自分では力になれないことを察してしまったのか露骨に落ち込んでしまったのだそうだ。

「気持ちに整理がついたらマローラにも会ってあげて欲しいね、彼女は君にとって友人なんだろう?」

「そう、だな・・・わかった。今度マローラとも話してみよう」

「あぁ、そうするべきだとも・・・」

納得し頷くミナズキを見てレナは内心胸を撫で下ろした。露骨に落ち込んだ、と言ったが実際はもっと酷いものでマローラにミナズキの事を話した後は普段の落ち着いた態度はどこへやら、擬音をつけるなら『ズーン』などが良く似合うほどにマローラは落ち込みその日の図書館の手伝いを辞退しそのまま寮に帰ってしまったほどだった。

 

「(ほんとう、頼むよミナズキ・・・)」

心の中でそう愚痴る、人に気を遣う事は苦手だ。

マローラになんとかミナズキと話せる機会を作ると約束してしまった手前もしミナズキがやっぱり嫌だ、なんて言ってしまったらマローラから漂う哀愁は実習前の比ではなくなるだろう。自分はともかくマローラとミナズキの友好関係は損得無しのものだ。

 

「(まさか人間関係で胃が痛む日が人生で2回来ようとは・・・)」

実家のドロドロとした人間模様で胃を痛めるよりはマシかもしれない、だがこんな苦痛は無い方が当然良いのだ。

胃が少しだけ痛む感覚に襲われつつもレナは馬を走らせた。

 

 

 

そんな集落へ向かうⅦ組を高台から眺めている緑髪の少女が1人。

「んー、あれって・・・シカンガクインの人たちだ、なんでこんな所にいるんだろ?」

1人呟きながら少女は両の手を頭の後ろで組んで笑う。

「ま、いっか。なんだか色々と面白くなりそうだし♥」

そう言って彼女は右手を上げる、すると彼女の後ろか

白い傀儡が姿を現した。

「うん、それじゃあ任務開始しちゃおうかな♪まったくオジサンたちも要求レベルが高すぎるよねー」

彼女はそう愚痴ると傀儡の腕に乗りそのまま飛び去った。彼女が何者かは今は誰も知らない。

 

 

ノルド集落───

 

あの後、集落に到着したⅦ組とグエンは早速導力車の修理を開始、そのまま導力車をわずか数分で直してしまった。

そして夜、グエンとノートンそしてⅦ組は長老の家に招かれていた。

 

「いやぁ、本当にグエン殿には世話になりっぱなしじゃわい。ささっ、まずは一献」

「これはこれは、ではご返杯を・・・ほれ、ラカン殿もガンガン行くがいいじゃろう」

「では遠慮なく」

長老、グエンそしてラカンが酒を酌み交わしている。それをミナズキは遠目で見ながら1人テーブルの食事を口に運んでいた。

そこそこの人数でご飯を食べるのは嫌いではない、だがそこにお酒があれば話は変わる。ミナズキにとってああいった大人独自の空気はどこか苦手に感じざるを得なかった。

離れたテーブルではリィン、ユーシス、ノートンが話をしており、女性陣は集まって井戸端会議をしている。

輪に入り損ねた、と言えばそれまでだがそんな事よりもミナズキにとっては食事の方が優先だった。

「(考えてみたら結構遠くに来た気分だ・・・)」

明るい住居内の雰囲気に当てられミナズキは少しだけ過去を振り返る、以前の生活は確かに血を見ることの方が多かったが別にそれだけのものでは無い。

昼間にレナたちに話した遊撃士といい人に関わることもあったしなんなら人助けもした(名乗ることもせずことが終わったら逃げるようにその場から去ったが)

 

「(これも何かの巡り合わせ、とでも言うものなんだろうか?)」

1度捕縛されその後に士官学院に入学してからというもの様々な事に見舞われてきた、厄介事も多かったがそれに負けないほどの体験もした。全て無駄になったことはないと自信を持って言える。

「(らしくないな、うん)」

普段ならしないであろう運命論のような考え方にミナズキは苦笑いを浮かべると席を立つ、どうやらこの空気に当てられて過ぎた、食事も満足出来るくらいに摂った。

1つ息を吐くとミナズキはそのまま外に出て行った。

 

「ここならいいか・・・」

外に出てミナズキは周囲に人が居ないことを確認するとそのまま寝転んだ、昼に話をしていた憧れる事をやってみているのだ。

「なかなか良いかも?」

夜風は身体を優しく撫で、星あかりはキラキラと大地を照らす、まるで自分が自然と一体化したような、そんな感覚だった。

「こんな所で何をやっているんだい?」

不意に声が聞こえそちらに目をやるとレナが歩いてきていた。

「お前が昼に言っていた『高原でやってみたいこと』をやって見ているだけだ」

「そう言えばそうだったねぇ・・・ちなみに感想は?」

「やって見ればわかるぞ」

そうしてミナズキはそのまま仰向けで空を眺める、レナもミナズキに倣って同じように寝転んだ。

 

「これは・・・なんとも・・・」

「だろ?」

感嘆の声を漏らすレナにミナズキは笑った、目の前には満天の星空があった、トリスタで見る星空とはわけが違う文字通りの星の海だった。

 

「ふふ、この星空を見れたのはなんとも僥倖だね。本当に綺麗だ・・・」

星空に目を輝かせながらレナは言う、そんなレナを見てミナズキはそのまま目を閉じようとするとレナから声が掛かる。

「今思い出した・・・ミナズキ、以前私とマローラにお願い事を聞くって言ったよね?」

「定期テストの時か・・・確かに言ったな、できる範囲とも言ったがはずだが・・・」

「それは分からないが・・・」

少し自信なさげに笑うレナ、そしてミナズキから目を離し空を見上げ言葉にした。

 

「君、ミナズキって名前は本名じゃないって言ってたろ?出来ればでいいから知りたくてね・・・」

「・・・・」

レナの質問にミナズキはそのまま黙ってしまった、そのまま時間が過ぎレナが気まずくなってきた頃、ミナズキはレナの方に身体を寄せた。

「耳を貸せ、レナ・・・」

「おや、教えてくれるのかい?」

意外そうな反応をしたレナだったが大人しくミナズキに耳を傾ける。

「言っておくが言いふらしたりはするなよ?今の俺は'ミナズキ・バンシア'なんだからな」

「言わないさ、約束する」

レナにそう返されるとミナズキは頷き、レナの耳元で一言だけ囁いていた。

「─── ・・・それが俺の名前だよ」

「・・・いい名前じゃないか、いつか元に戻す日が来るのかい?」

「いや、俺はあくまでもミナズキだ。もうこの名前で生きている、だから変える気はないさ」

「そっか・・・」

 

その話の後2人は何を言うでもなく立ち上がり後ろを振り返る、そこにはコソコソとしているアリサ、リィン、ユーシスそれにガイウスの姿があった。

「盗み聞きとは感心しないねぇ」

「随分と雑なやり方だけどな」

そう言って2人は聞き耳を立てていたクラスメイトを呆れたような顔で見る。

「あ、あれ?見つかっちゃった!?」

「まぁ、少なくともミナズキにはバレると思ってたけどな・・・」

慌てるアリサ、それとは対象的に諦めた顔のリィンはゆっくりと出てくる、ユーシスとガイウスも別の物陰から出てきた。

 

「ちょっと!2人でなんの話ししてたの!?私にも教えなさいよぉ!」

妙にヒートアップしているアリサ、それを見てミナズキはリィンに聞いた。

「なんでこんなに必死なんだ?」

「いや、そのさ・・・」

リィンが言うには外に出ていったアリサを心配したリィンが後を追いそしてアリサの5年前の話を聞いたんだそうだ、実の父(アリサにとっての祖父)を追い出して会長になった母、それに何も反論もせずそのままアリサの元を去った祖父、味方だと思っていたシャロンも何も言わなかった。そしてそんな壊れていく家族に耐えられなかったアリサの気持ちとリィンの決意、そういった話をしていたのだがアリサが気付かないうちにユーシスやガイウスが後ろにおりその話は丸聞こえだったらしい。

そんなわけで自分だけ恥ずかしい思いをしたアリサは暴走していたのだった。

「お願いよぉレナぁぁ!このままじゃ私だけ恥ずかしいじゃない!せめてミナズキと何を話してたかくらい良いじゃないのぉぉ!」

「あ、あはは・・・アリサ、悪いがそれは無理な相談だねぇ・・・これは私とミナズキの秘密さ♥」

「な、ななな、なんですってぇぇぇ!?」

懇願してくるアリサにレナは意地悪にまるで意味深なように返す、するとアリサは更にヒートアップしていった。

 

その後、アリサを何とか落ち着かせⅦ組は床についた。明日はどんな実習になるのかと胸を踊らせながら。

 

 

 

真夜中、監視塔───

「ふう、現在2:55もう少しで交替か・・・共和国軍は今夜も動き無し。まったく本当にこんなことやる意味あるのかね・・・」

1人の見張りの兵士がそうぼやく、彼の仕事は共和国軍が帝国領に攻めてこないかを見張ることなのだが近頃は小さな小競り合いすらない、そもそも監視と言ってもお互いに見合ってるだけであり戦う気なんてさらさらないのだ。

「やれやれ、見張りの任務をなんだと思っている。中将閣下も警戒は緩めるなと仰っていただろう」

そんなふうに気の抜けた兵士に声をかけながら交替役の兵士が外に出てきた。

「わかってるけどよ、現に異変なんて何処にも・・・」

ヘラヘラと笑いながら同僚に振り返った兵士、しかしそこで遠くから爆発音が聞こえた。

「は?」

「なんだ、今の音は・・・」

2人で共和国軍の基地を見るとそこには砲撃でも受けたのか炎を上げる共和国軍基地があった。

「砲撃か!?どっかの師団でも動いたのか!?」

「知らん!そんな話聞いていない!とにかくゼンダー門に連絡を!」

そうしている間にどこからともなくヒューと何かが落ちてくる音に2人は足を止め上を見る、すると。

「なぁ!?」

「敵襲か!?」

砲弾による爆発で監視塔の壁が壊れる、その直後複数の砲弾が2人を含めた監視塔に降り注いだ。

「嘘だろ・・・」

「女神よ・・・」

 

 

1つの悪意がノルド高原で動いていることをミナズキはまだ知らない。

 




ご拝読ありがとうございました。
原作における3章もようやく佳境です。
次話もよろしくお願いいたします。

まだ直接的な関係は無いんですけど逆質問です。ミナズキは士官学院を卒業したらその後はどうなると思いますか?

  • 遊撃士になって仕事をする
  • 帝国の各地を放浪する
  • なんやかんや身を固めて何処かに定住する
  • 行方不明になる
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