息抜きにマローラの入学理由を書きました。
セイルズさんは凄いね───
彼女、マローラ・セイルズにとってこの言葉は呪いとも言えるものだった。
彼女の生まれたセイルズ家はいわゆる名家であり、爵位は無いものの貴族にも劣らない力を持つ家だった。
理由は簡単、セイルズ家は代々多くの名医を排出してきた由緒正しき医者の家系で現在存命の親戚はその8割が医療関係の仕事をしている。
そんな家系に生まれたマローラも当然将来は医者になる事を期待された1人であり幼い頃から英才教育を受けていた。
そしてマローラ自身もその期待に応えるように努力を続けた。
なによりマローラは優秀だった。
日曜学校での成績はトップ、医療本を読めばその内容を理解し家族間の会話で挟まれる医療にまつわる物ならどんなクイズも難なく答えた。
その正答率は実に100%でセイルズ家でもどんどん期待が大きくなっていった。
その期待が当時のマローラには誇らしく思えた。
だからその期待に答える為に出来る努力はした。
寝る間も惜しんで医療本を読み、日曜学校から帰れば即机に向かい、周りの生徒や兄妹が遊びに行く中でも彼女は図書館に行き本を読んだ。
唯一の趣味らしい趣味であった導力銃での射的、これは昔父親に教わり自身もハマったものだがこれも封印していた。
親にとって誇れる自分でありたい、全てはそれだけだった。
だがその気持ちはある時を境に少しずつ崩れていく。
「初めてとったな・・・99点」
日曜学校、その中等教育のテストで初めてとった100点以外の点数。
減点理由は単純なケアレスミスだった。
両親にはなんて言われるだろうか、この時マローラは不安がありつつも両親の反応がどんなものか気になっていた。
もしかしたら激励や慰めの言葉をかけてくれるだろうか。
「お前には失望したぞ、マローラ・・・・」
「え・・・」
そんな彼女の考えは冷めた父親の目と言葉が静かに砕いた。
「お前はセイルズ家の人間だ、爵位を持たない家でありながら貴族にも劣らない実力を持った家の人間だ。ましてやお前は私の子供の中でも特に優秀で天才な娘、他の兄妹のように脇見をする必要は無い」
話は終わりだ、そう言うと父はマローラを部屋から出て行かせた。
「失望、されちゃった・・・・」
自室に戻りながらマローラは呟き、そして窓からの景色を見る。
夕焼けに照らされた外では街の人々が家路についていて自分と同世代の子供は何人かで談笑しながら歩いている。その中には自分の弟と妹もいて2人とも友達と話しながら笑っている。
同じ家族なのに、同じセイルズなのに───
マローラの頭の中で一瞬だけ暗い感情が芽生えた。
「っ、私は何を・・・」
頭の中の思考を振り払うように机に向かい、医療本を開く。自分は期待されているのだからと己を奮起させた。
でもその日はあまり勉強が手につかなかった。
「98点・・・」
次のテストで点数が1点落ちた、今度は明確な誤答だった。
「(なんで、あんなに頑張ったのに・・・)」
そう思いつつも心のどこかでマローラは納得していた。
父に失望されてから彼女は更に机に向かう時間が増えていた。
寝る時間も以前より削り、ただでさえ少ない自由時間すら消した。
生活の中で勉強の事を考えなかった時間はその少ない睡眠時間くらいなものだった。
そんな彼女に教師であるシスターが声をかける。
「セイルズさんのような天才だってミスくらいはあります、あまり気を落とさないでください」
「は、い・・・」
シスターの言葉に頷き自分の席に戻る、周りのあんまり話したことの無い同級生たちからも声をかけられた。
「大丈夫だよ、セイルズさん。そんな時もあるよ」
「そうそう!セイルズは天才なんだから次は100点とれるって!」
話したことも、なんなら名前すら知らない同級生たちに慰められた。
「セイルズさん今回98点だってさ」
「やっぱりセイルズ家の天才って高得点ポンポンとるんだな・・・」
「100点じゃないから落ち込むあたり、やっぱり天才は見てる世界が違うのね・・・」
遠くからもこちらを窺うような話し声が聞こえる。
「(違う、私は・・・わた、しは・・・!)」
また、セイルズ家って───
私は天才なんかじゃない───
本当は出来る限りの努力をしているんだ───
あなたたちに何がわかるんだ───
ぐちゃぐちゃになった思考が顔に出ないように努めた。
「そうか、98点か・・・・・どうした?まだ仕事があるんだ、出て行ってくれ」
「っ・・・・」
帰宅し父にテストを見せたがその反応は冷たかった。
顔どころか目も向けずに書類を捌いていく父、それを見てマローラは呆然とし俯いた。
何も言ってくれないのか、叱責すらしないのか。
それほどまでに父は自分を見なくなったのか。
自身の心がどんどん冷え込んでいくのがわかった。
次の日曜学校の日、マローラは聖堂には行かなかった。
向かったのは街から出た街道、手には勉強のためのペンではなくしっかりと手入れされた導力銃。
そして魔獣を見つけては遠くから狙い撃った。
「あ、あはは・・・」
自然と笑いが口から漏れた。今は、今だけは普段と違って無理に考えずにいられた。
マローラはその日初めて門限を破り、初めて父から平手を受けた。
「何をやっているんだ!『セイルズ家の天才』と、そう呼ばれているお前がそんな真似をすれば貴族たちに隙を見せてしまうだろう!」
「・・・・・・」
この間は何も言わなかったのに、言わなかったくせに。
ヒリヒリと痛む頬を無視しながらマローラは父親の目を見て1つの結論に辿り着いた。
あぁ、そうか。父が見ているのは『セイルズ家の天才』であって『私』じゃない。
そう結論付けた時、マローラの動きは速かった。
ドォン、という発砲音が部屋に響き、父親の右耳を弾が掠める。
ドサッ、という音を立てて父親は尻もちをつく。
「な、何を・・・」
「もう、どうだって良いです・・・・・家の事も、医学の事も・・・みんな、そうです・・・みんな・・・ただの1人も」
私のことを『私』として見てくれた人はいない───
最後の一言は言わなかった。
マローラはフラフラとおぼつかない足取りで部屋から出る。残ったのは呆気に取られた父親だけだった。
「どこか別の場所へ・・・私の事をただのマローラとして見てくれる人・・・そんな人に会えたら良いのに・・・」
ベッドの中でぼそっと呟く。記憶を辿れば辿るほど彼女にとっての友達らしい友達はおらず、思い出の中には勉強用の机とその上に乗った教本、そればかりだった。
「ただの友達になってくれる人・・・」
最後に普通に遊んだのは何時だったろうか。
探せば探すほどに出てくるのは勉強の記憶しかなくてマローラは顔を歪ませ涙を流した。
そんな中1つの学校がマローラの脳裏によぎった。
「・・・トールズ士官学院、ならもしかして?」
何故その選択肢が出たのかは分からない、だがマローラの頭の中には何故かそれが正解な気がしてならなかった。
「・・・このまま何も無ければ本当に・・・だったら・・・!」
本気でわがままを言うのは何時ぶりだろうか、そう考えながらマローラは床についた。
翌日、マローラは朝から父親に詰め寄った。
「お父様、私はトールズ士官学院に進学します」
「なっ!?・・・いや待て何を言っている?お前は来年にクロスベルの聖ウルスラ医科大学に・・・」
「嫌です。私はトールズ士官学院に行きます」
父親の言葉を遮りつつ手に持った導力銃を構える。それを見た父親は昨日の件もあり後退るがひとつだけ条件を出した。
「もしもトールズ士官学院に入学すると言うなら授業料を免除にする奨学金制度の試験を受け合格しろ。そうすれば2年間好きにするが良い」
「分かりました」
短く返事をするとマローラはさっさと外に出て行く。
昨日からの彼女の変貌ぶりに父親は冷や汗を流すしか無かった。
そしてテスト当日、マローラは全教科で満点を取り文句無しのトップを取った。
これには父親も何も言えず(言ったところで弾丸が飛ぶが)マローラは無事にトールズ士官学院に進学する事が出来た。
これできっと自分の人生は変わる、そう思っていたマローラであったがそこまで現実は甘くなかった。
トールズ士官学院に入学して1週間───
「あの子が・・・?」
「あぁ、セイルズ家の才女だ・・・」
「平民と言えど名家であるセイルズ家の人間ならサロンに誘った方が良いのでは無いか?」
学生会館1階でお茶を飲んでいる時、遠くから聞こえたのはコソコソとした貴族生徒の会話。
丸聞こえなのに妙に聞こえないように話しているのだから余計にマローラの神経を逆撫でした。
「(ここでも、ですか・・・・)」
話をかけられる前にマローラは学生会館を出て、そのまま図書館へと向かう。
今の彼女にとって1番の癒しは図書館だった。
実家にいた頃は読めなかった小説などを読み耽るのが日課となっていた。
最近では司書とも話すようになっており将来は医者ではなく司書になる事も視野に入るほどだった。
しかし、どこにでも煩い人間はやって来る。
「へぇーここが図書館か!・・・お!あっちにいる貴族生徒さん可愛いじゃん!」
導力カメラを手に持ち図書館でも構わず声を上げたのはマローラと同じ平民生徒のレックスだった。
彼の妙に高いテンションと声に本を読んでいた生徒たちの視線がそちらに集中し、中にはレックスに対して怪訝な表情をする者もいる。
「(流石に、止めた方が良いですね・・・)」
司書さんが席を外していたために代わりに入口横のカウンターに座っていたマローラは立ち上がりレックスに向かっていく。
レックスもまた、歩いてくるマローラを見て何故か目を輝かせた。
「あー!君が貴族生徒たちにも名前が知られているセイルズ家の才女だな!」
「・・・・・ここは図書館です。騒ぐなら出て行ってください」
自身にとっての地雷である『セイルズ家の』という言葉を聞いた時点でマローラは少しキレつつあったが初対面の人間にいきなり怒るわけにもいかず出来るだけ淡々とした口調で出口を指差す。
しかし、レックスはその意を全く汲むことなくマローラにカメラを向けた。
「悪ぃ!でもさ、せめて貴族生徒の間で話題になっている才女の君を撮らせてくれ!」
後に図書館にいた生徒たちは語る、あの時何故かブチッ、という音が聞こえた気がしたと───
カメラのシャッターを切ろうとレンズを覗き込んだレックスが見たのは綺麗に拳を振りかぶる才女の姿だった。
「フンっ!」
「ぐぼぁ!?」
マローラの正拳突きがレックスの鳩尾に突き刺さりレックスは腹を抑えて膝から崩れ落ちる。そんな彼の制服を掴みマローラは力任せにドアの方に投げ飛ばした。
「いだぁ!?」
「さっさと出て行きなさい!」
更にマローラは手の形をグーからパーに変えレックスの頬に力一杯に平手打ちを放つ。
バチィン!という破裂するような音が図書館に響きレックスは図書館のドアに背中をくっつけて何とか立ち上がるが膝はガクガクと震え完全に怯えた顔でマローラを見る。しかしマローラは止まらない、まだ出て行く様子が無いとみると更に追撃の姿勢をとった。
「まだ出て行きませんか・・・ならこちらも更に思い切りいかせてもらいます」
そう言うとマローラは懐からガチャリと導力銃を取り出す。それを見たレックスは図書館に入ってきた時の威勢の良さを無くし完全に戦意喪失していた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」
「早く出ていってください、10、9、8・・・」
マローラがカウントダウンを始めた時レックスはようやく立ち直ると後ろのドアを開けて勢い良く出ていく。
「す、すんませんでしたぁぁぁぁ!」
「二度と来ないで下さい」
逃げながらも謝るレックスをマローラは冷たい目で見送る。図書館にいた生徒たちも何も言えず、ただこの人を怒らせない方が良いと目を逸らすように本を読み始めた。
「さて・・・私もカウンターに・・・ん?」
「・・・・・えっと」
図書館のドアを閉めようとしたマローラ、不意に感じた視線に目をやるとそこには赤い制服に身を包み、白と灰色、所々に赤毛が散らばるように混ざっている髪の青年が立っていた。
「利用者ですか?」
「あ、あぁ・・・授業で分からない部分があるから参考書を見たくて」
事務的な問いをするマローラに対して先程の光景を見ていたからか青年は戸惑うように答え、襟を正す。
「参考書、ですか?」
「クラスに頭の良い奴多いから、置いていかれるのも少し嫌で・・・」
「なるほど・・・そういえば貴方の服装・・・」
青年の格好を見てⅦ組の生徒だとわかったマローラは頷くと、青年に中に入るように促す。
「どうぞ、騒がなければ図書館は誰だって歓迎ですよそれと自己紹介がまだでしたね。私はマローラです。マローラ・セイルズ」
「ミナズキ・バンシア・・・です。よろしく?」
「ふふ、はい、よろしくお願いしますね」
何故か慣れない様子で自己紹介を返してくる青年ミナズキ、それを見て何となく笑ってしまったマローラはそのままミナズキを中に引き入れる。
なんとなくだが彼は良い人な気がしたのだ。
こうして後に色々と仲良くなり、なんなら事件も一緒に解決する2人は出会ったのであった。
ご拝読ありがとうございました。
帝都編書いてる途中でしたが、上手く筆が乗せられなかったのでこちらを先に出しました。
本編もよろしくお願いいたします。
4章の自由行動や実習は決まっていますが5章はまだです。 ミナズキはレグラムに行くべきでしょうか?いいえの場合はミナズキの向かう実習場所はアルテマになります。
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レグラムで光の剣匠と勝負して欲しい
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アルテマに行かせる(レナの故郷)