英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。
ようやく自由行動日です。


74.自由行動日、ミナズキにとって長すぎる1日前編

 

 

7/18日曜日、AM4:00、第3学生寮食堂───

 

普段なら誰も起きないこの時間にミナズキはとある品を用意していた。

「エビの姿焼き、ブリの照り焼きは完成・・・次は伊達巻・・・酢の物は紅白なますで・・・栗きんとんも忘れちゃダメだ・・・」

手を一切止めずに動き続けるミナズキ、彼が現在こしらえているのはいわゆる「おせち」である。別に何かめでたい事や祝い事がある訳では無い、今日ミナズキは帝都に行くのだが、彼は直感でとある人物にあることを予感していた。

もし今日この直感が無ければマローラかレナと何処かに遊びに行っていたかもしれない、だがこの予感だけは先送りには出来ず2人からの誘いは断っていた。

「煮物も・・・これならいけるな」

ようやく最後の品も用意でき、そのまま普段から実習の時に使っている木製の使い捨ての弁当箱に丁寧に詰めていく、弁当箱の大きさが足りないので2つ使いまるでお重のように重ねた。

 

「これで良し・・・もうすぐ始発の時間か・・・」

料理を用意し終えたミナズキは時計を確認する、もうすぐ帝都行きの始発がやってくる。

 

急いで身支度を整える、帝都に行くということで懐には以前レナと帝都に行った際にリィンの妹であるエリゼから貰った銀色の小さな時計も懐に入れ、弁当を持ち外に出て駅へと急ぐ、幸い寮から駅までは近いし日曜の早朝から列車に乗る者は少ない。眠そうな顔の駅員から切符を買い改札を通りホームに出る、ちょうどやってきた帝都行きの始発列車に乗りミナズキは帝都へと向かった。

 

AM6:00、帝都・マーテル公園───

 

夏ではあるがまだまだ日が昇り切っていない時刻、そのため特別暑くはない、むしろ少しだけ霧がかっていて涼しいくらいのこの時間のマーテル公園のベンチにミナズキは腰掛けた。

「・・・・」

静かに息を吐きその人物を待つ、予感はしていたが確信は無い。もしこの予感が外れていたならそれはせっかくの休日を棒に振ったことになる。

緊張した面持ちで待つミナズキ、しばらくすると1人の老人が公園に入ってくる。

「ほっほっほ、・・・どうやら少しは勘が鋭くなったようじゃのう、ミナズキ」

「・・・・ジジイ、お久しぶりです」

やってきた老人、ユン・カーファイにミナズキはジジイ呼ばわりで返す。初めて会った時から変わらない、この老人が如何に優れた剣士であろうと周りから《剣仙》と呼ばれていようとミナズキにとってはユンは滅茶苦茶に強いがスケベで酒好きで温泉道楽なジジイだった。

 

ただそれでも一応の敬語を外さないのはミナズキにとってのユンは精神的に追い込まれていた自分を救い、八葉一刀流を教え、力の制御方法を教えてくれた恩人であることには変わりないからだった。

「ふむ、最後に見た時よりも背が伸びたようじゃの。纏う雰囲気も以前のような刺々しさは薄まっておる」

「ジジイ、飯を用意してきました。食べますか?」

ミナズキを見ながら過去の姿と比べるユンにミナズキはぎこちない素振りでおせちを見せる、するとユンは呆れるように笑いながら頷いた。

「相変わらず生意気な割に下手な敬語と律儀さは変わらんのう・・・ちょうど酒の肴が欲しかったところじゃ、いただこう」

そう言ってユンは懐から大きめの酒瓶を取り出した。

やっぱり持ってた、とミナズキは心の中で少し笑いながらおせちの蓋を開けるのだった。

 

「ほう、おせちを作ってきたか。誰かに習ったのか?」

「えっと、とある遊撃士に教わってから本で出来るだけ勉強を・・・ジジイの出身地の料理はこういうのだって知ってたんで練習してた。最近は作ってあげたい連中もできた」

ユンの問いにミナズキは少し嬉しそうに返す、それを聞きながらユンは箸を使ってブリの照り焼きを口に運ぶ。

「ふむ、ふっくらと焼きあがった鰤にタレがよく絡んで美味いわい。よく練習したと見える」

そうしてユンとミナズキは暫くそのまま話をしていたがふとミナズキは少しの間ぼーっと空を見上げた。

公園に来た時間とは違い今はしっかりとした水色の空が広がっている、そんな風に空を見上げているミナズキにユンが声をかけた。

 

「悩んでおるのか、ミナズキよ」

「ん、まぁ・・・」

自身の問いに少し空返事気味なミナズキにユンは微笑みながら切り出す。

 

「なるほどのう、過去の自分がした事を思い出して思い詰めておるか」

「・・・・それも勘・・・ですかジジイ」

「そうじゃな」

ミナズキの悩みを看破したユンの言葉にミナズキは苦笑を浮かべたが、それもジジイだからと諦める。

そんなミナズキの顔を見たユンは続ける。

「今は好きなだけ悩むが良い、だが忘れてはならぬのはお主自身が何をしたいのか、そしてお主にも心配してくれる人物がいるということじゃな」

そう言ってユンはミナズキの頭をくしゃくしゃに撫でる、ミナズキも特に嫌がること無く頭をユンに近づけて受け入れる。

 

その後、おせちを食べ終わったユンはミナズキと軽く談笑をした。ミナズキも久しぶりに会うジジイに笑いながら話す。レナと一緒に彼女の探し物を手伝っていること、マローラと図書館で勉強をしたこと、紡績の町パルムでの事件や戦闘、トリスタ付近の集落で起きた異変、ノルド高原で初めて馬に乗ってその馬に振り回されたこと、嬉嬉として語るミナズキにユンは何も言わず微笑みながら相槌を打ち続けていた。

 

いつの間にか時間は8時まで進んでいた、公園にもちらほらと人が出入りを始め少し賑やかになっていた。

「さて、そろそろ行こうかの」

「そっか・・・リィンに伝言はありますか、ジジイ」

不意に立ち上がったユンにミナズキはもう1人の弟子の事について訊ねるとユンは首を横に振った。

「あやつもお主と一緒じゃよ、自分なりに迷い思い詰め、誰かに支えられて答えを得るじゃろう」

ではの、と言ってユンはマイペースに公園の外に出ていく、ミナズキはそれを見送るとしばらくの間空を見上げて過ごす、目一杯に空を見て満足すると早速使い捨ての弁当箱を片付け公園を後にした。

 

「あの人、こんな朝からなにしてたんだろう?」

そんな様子を見ている1人の少女にミナズキは気付かなかった。

 

 

 

 

AM9:10、アルト地区、音楽喫茶《エトワール》───

 

「いらっしゃいませ」

「えっと、スペシャルピザと味わいハーブティーください」

「かしこまりました」

以前レナと来た音楽喫茶に入ったミナズキはメニューを確認してすぐに注文する。まだ時間としても少し早いこともあり客自体は少ない、だが以前と同じように蓄音機から『琥珀の愛』が流れ店内を優しく包んでいた。

「お待たせしました、スペシャルピザと味わいハーブティーです」

「どうも・・・」

程なくして運ばれてきたピザとハーブティーをミナズキはゆっくりと食べ始める。おせちはジジイの為に作ったものだから自身は手を付けず、かと言って朝は味見以外では何も口にしていなかったのでお腹はペコペコだったのだ。

ちなみにおせちの残りは冷蔵庫に入れ張り紙を貼ってあり───

 

 

本日AM8:30くらいの第3学生寮───

 

「これはなんて言うんだ?リィン」

「これは伊達巻だな、そっちにあるのが紅白なます、そっちの魚料理がブリの照り焼きで、そこにあるのは栗きんとんか・・・ミナズキも良く材料集めたな」

興味津々で聞いてくるマキアスにリィンがテーブルに広げた料理を紹介していく、しかしリィンはミナズキの料理の腕に感心しながらも1つの疑問を持っていた。

 

「(これはお祝いに出す品ばかりだ・・・少なくともミナズキにとって特別な人物、それでいて東方の文化に理解のある人物・・・・まさか)」

「リィンも食べようよ!すごく美味しいよこれ!」

リィンの頭の中に1人の老人が浮かぶ、しかし近くまで来たエリオットがリィンにおせちの盛られた皿を渡してきた、皿に盛られているのは味が染みているであろう煮物と、ブリの照り焼きだった。

「(まぁ、今はいいか・・・)」

箸で今日に煮物を掴みながらリィンは推測を止める、今はただ頭の中に浮かんだ老人が好きであろう品の数々を味わうことにするのだった。

 

なお一方で───

「ぐぬぬぅ・・・私も食べたい・・・」

「いけませんよ、サラ様・・・あら、このブリの照り焼き香ばしくて身がふわふわでとても美味しゅうございます♡」

「ぐぅ!・・・あんたねぇ・・・!」

美味しそうにおせちを食べるⅦ組を横で酒とミナズキの作った料理を禁止されたサラが恨めしそうに睨みつける、シャロンはそんなサラに少しだけ見せ付けるようにおせちを食べるのであった。

 

 

音楽喫茶《エトワール》───

 

「ハーブティー、お代わりしようかな・・・」

ピザをあっという間に食べ終えたミナズキはハーブティーを飲みながら一息ついていた、そんな時店のドアが開き1人の男が入って来る。

その男は白いコートを纏い何故かリュートを持ち歩いていた。

「いらっしゃいませ」

「あぁ、実は待ち合わせでね」

店主と軽いやり取りをした男はミナズキの座る席へ迷うことなくやって来てそのままミナズキの正面に座る。

「やぁミナズキ、今は漂白の詩人、オリビエと呼んでくれたまえ」

「久しぶりだなスチャラカ詩人」

かっこよく決めたオリビエ(オリヴァルト)に辛辣な言葉をミナズキは返す、そんなミナズキに怒ることなくオリビエは笑ってそのまま話を進めた。

「相変わらずのキレだねミナズキ・・・さて、私の方はあまり時間が無いから少し手短だが話しておきたくてね」

「その前に1つ聞くが、どうやって俺の居場所を知ったんだ?」

「なに、ちょっとした推測と勘だよ。君の性格的に個人的な事で面倒な事はさっさと片付けてしまうだろう?だから午前、君が早起きなのは知っているから8時から9時くらいを狙って来たのさ、場所に関してはヴァンクール通りとかだと人通りが多いし、オスト地区は朝は働く人々が多い、目立つことが嫌いな君は人目の多いところは避けるだろう?その点このアルト通りは日曜でも人通りはまばらだし落ち着く雰囲気の店もある、君ならこういう所を選ぶとそう思ったんだ」

「そうだったか・・・お手間をおかけしたな・・・ハーブティーお代わり・・・彼にも同じ物を」

楽しそうに喋るオリビエに少し申し訳なく思いながらミナズキはハーブティーのお代わりとオリビエの分のハーブティーも頼んだ。

「おや、良いのかい?」

「俺の奢りだ、ここまで来てもらった手間賃として受け取って欲しい。以前も飲んだがここのは美味い」

訊ねてくるオリビエにミナズキは頷いて返す、その後すぐに運ばれてきたハーブティーを1口飲んでからオリビエは真剣な顔つきでミナズキに切り出す。

 

「さて、ここからは少しだけ真剣な話をさせてもらうよ。・・・結論から言おう、君たちⅦ組の次の実習先はここ、帝都だ」

「なんでそんなこと知ってるんだ?」

「簡単さ、僕があの学院の理事長だからだよ」

ガタッ、という音を立てミナズキが前のめりになってオリビエを凝視した。そんな彼にオリビエはしてやったりといった顔でニコリと笑う。

「君の驚く顔は久しぶりに見るね、僕が君に士官学院に入ることを勧めた時以来だ」

「あんた理事長だったのかよ、俺はあんたが上としての権力を使って入学させたとばかり思ってたぞ」

「まぁ理事長って意味では上の権力というのも間違いではないがね。さて、そんな訳で今回の実習だが君にお願いがあってね。端的に言って力を貸して欲しいんだ」

「力といっても色々あるでしょ、どうして欲しいんだ?」

いまいち要領の得ないオリビエの言葉にミナズキが首を傾げる、するとオリビエは1つの写真を取りだしミナズキに見せる、写っていたのはマーテル公園の奥にあるクリスタルガーデンと呼ばれる施設だった。

「夏至祭ではマーテル公園のクリスタルガーデンでVIPたちが集まる機会がある、そこに君も潜入して欲しいんだ」

「潜入?何故?」

「理由は2つ、1つは僕の妹のアルフィンや帝都知事を警護してして欲しい。2つ目は」

指を折りながら話すオリビエ、ミナズキも聞く姿勢を改めて整えていると不意にぐ~というお腹の音が聞こえた。

「オリビエ、腹減ってるのか?」

「おや?ミナズキの腹の虫ではないのかい?」

そうお互いに言った2人、するともう一度ぐ~という音が聞こえた、音の発信源はオリビエ、ではなく彼の後ろの何も無い空間からだった。

「・・・!誰だ!」

ミナズキが声を張り上げる、瞬間店のドアがひとりでに開きすぐに閉まった。

「まずい!追いかけるぞオリビエ!今の話聞かれてたかもしれない!」

「あぁ、勿論だとも!」

2人で席を立ち、多めのミラをテーブル置いて店を出る。残された店主は目を丸くしながら注文よりも多い支払いを回収するのだった。

 

 

 

外に出て2人は辺りを見渡す、しかしもう人通りが増え始めているためどれがあの時いた人間かわからなかった。

「このままでは見失ってしまう、ミナズキ、何とか見つけ出せないかい?」

「待て、今探ってる・・・」

少し余裕の無いオリビエの声にミナズキは1度目を閉じる、そして目を開くとミナズキの目はまるで猫の目のような縦に伸びる瞳孔に変わっていた。

「その目は・・・」

「以前同じ士官学院の生徒に渡された薬を飲んだらこうなった・・・これは・・・花の香り?この店から続いてる・・・あっちだ!」

かなり前にベリルに渡され飲んだ霊薬、その効果は未だに続いている、というよりあの霊薬の影響でミナズキはその効果を意識的に発生させられるようになっていた。

今のミナズキには本来見えない物が見えるようになっており、それは例えば匂いを色の着いた帯のように見る事が出来る。その力で自分たちを見ていた人間の匂いを辿り追うことが出来た。

 

 

暫くその匂いの帯を追って走ると1人の少女が息を切らしていた。

「はぁ・・・はぁ・・・ここまで来れば・・・ってなんで追って来れるの!?」

少女もミナズキたちが追ってきている事に気付き走り出す、そのうち少女は走りながら導力杖のような物を取り出すと少し大きめに声をあげる。

「『月の光よ、汝の力をもって我を隠匿せよ』!」

すると少女の足元に魔法陣が現れ次の瞬間には少女が文字通り消える、ミナズキは驚いたが匂いの帯はそのまま走り抜けて行く。

「なるほど、姿を消せるのか・・・オリビエ!ちゃんと着いて来れてるか!?」

「あ、あぁ!」

ミナズキの言葉にオリビエは返事をするがその声は疲れが出ていた、余程大事なのかリュートを持ちながら走れば流石に疲れも出るだろう。

「俺1人で行くから休んでて良い!」

「ま、任せたよ」

疲れた様子のオリビエの返事を聞きミナズキは走り出した。

 

そうして暫く匂いの帯を追って行くと行き止まりに辿り着いた。

「ふむ・・・」

立ち止まり辺りを見渡すとそこにあるのはいくつかの樽、フェイントでもしたのか匂いの帯はその全てにかかっており何をしたのかいまいちわからない状態になっていた。

「・・・・・」

しかしミナズキは特に慌てる様子もなく、自身にとって向かって一番右の樽に近づき、そして樽を開ける。

 

そこには何も入っていなかった。

「ん・・・・」

念の為手を突っ込んでみるが何かを触る感覚もなかったためミナズキは樽の蓋を閉める。

そして1つ左の樽に向かう、訳ではなく樽の後ろに目をやる。暫くそこを凝視しているとぼんやりと人型が現れる。

オレンジ色の髪をサイドテールにしてまとめている少女は少し怯えた表情でミナズキと目が合った。

 

「んで、なんであんな事したか聞いてもいいか?」

「う、うん・・・」

ミナズキの問いに少女は首をブンブンと勢いよく縦に振る。

時間はAM9:40、まだまだ昼前なのに内容が濃すぎるだろう、とミナズキは少しだけ疲れたようにため息をついた。

 




ご拝読ありがとうございました。
謎の少女が登場です。
これで出したかった子も出せました。
次話もよろしくお願いいたします。

4章の自由行動や実習は決まっていますが5章はまだです。 ミナズキはレグラムに行くべきでしょうか?いいえの場合はミナズキの向かう実習場所はアルテマになります。

  • レグラムで光の剣匠と勝負して欲しい
  • アルテマに行かせる(レナの故郷)
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