英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。
話がなかなか進みませんが暖かい目で見ていただきたいです。


79.ブリーフィング室にて

 

帝都のホームに降りた一行だったが、序盤から空気は最悪だった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「(おい、誰か何とかしてくれ・・・!)」

「(いや無理だよ・・・?)」

今回の実習の為にとⅦ組を迎えに来たクレア・リーヴェルト大尉とそんな彼女を睨みつけるミナズキ、2人のせいで場の空気が凍結地獄のように冷え込んでいた。

その様子を見て小さな声でマキアスとエリオットが助けを求めるが悲しいかな、この場にこの空気をどうにかできるものは居ない。

あのレナでさえ『暑い夏にはピッタリの冷たい空気だねぇ』と現実逃避するように頭の中で感想を述べている。

 

この場にいる人間、少なくともⅦ組の面々はミナズキとクレアの間にあった因縁を知らない。それ故になぜ2人がここまで酷い空気なのかも分からないしどうにかする手立ても思い付かないのだ。

 

そんな中切り出したのはこの空気を作り出している2人だった。

 

「・・・・では皆さん、とある方が待っておりますのでご案内します」

「・・・どうしたんだ、行くぞ?」

軍人らしく淡々と言って歩き始めるクレア、ミナズキもそれに続くように歩き始めるが他の人間からするとそうもいかない。

 

「な、なんかその・・・今夏よね?」

「底冷えするような冷気を感じたな・・・」

アリサの言葉にラウラが同調する。

この茹だるような夏に涼しさはむしろありがたいはずなのに今の涼しさ、と言うよりも寒さはミナズキ以外のⅦ組を不安にさせるには十分すぎるものだった。

 

「と、とにかく置いていかれたらまずい。行こうか」

なんとか場を持ち直すためにリィンが声をあげると、みんな何も言わずに頷きミナズキたちについて行った。

 

 

 

鉄道憲兵隊司令所、ブリーフィング室───

 

「こんな所、お借りしてもいいんですか?」

「はい、今回皆さんと会う方があまり時間が無いもので特別にこの場所を提供させてもらいました」

平時で、それも一般人が使うことは無いであろう施設に入れてもらったことに戸惑うリィンにクレアが微笑みながら返す。そこに先程の氷のような冷たさは無く、朗らかな笑みにⅦ組も安堵を浮かべる。

 

暫くすると部屋のドアが開き2人の男性が話をしながら入って来る。

1人は深い緑色の髪、眼鏡をかけぴっしりとしたスーツ姿の中年の男性、もう1人は銀髪に濃い紫色の瞳、そして黒いシャツに黒いチノパンとかなりラフな格好をした20代半ばくらいの青年だった。

「いやー悪いね知事閣下、俺まで同席させてもらっちゃってよ」

「いえいえ、貴方ほどの方を無下にするわけにはいきません。それに今回の実習にも決して無関係ではないのでしょう?」

「お、そこは知ってたか。やっぱ情報早いね」

 

談笑しながら知事と呼ばれた男は席につき、青年はその左後ろに陣取る、呆気に取られていたⅦ組だったが我に返ったマキアスが声を上げた。

「父さん!?なんでここにいるんだ!」

「・・・・あぁ、マキアスのお父さんか・・・あれ?ということは」

マキアスの言葉にリィンが一瞬納得しかけ、そしてすぐに思い直す。他の面々も直ぐに気付いたようで顔を見合わせていると男性は少し笑いながら切り出した。

 

「改めて自己紹介をさせてもらおうかな、カール・レーグニッツだ。帝都で知事をさせてもらっている、そして・・・君たちの通う士官学院、その常任理事の1人でもある」

そう自己紹介をするカールを目の前にⅦ組、特に実の息子であるマキアスはパクパクと何も言えずにただ口を動かす他なかった。

そんなマキアスたちをよそにもう1人の男性も自己紹介を始める。

「俺はラポール、ラポール・ヒュギ・アナトミアだ。今回の特別実習で少し関わりがあってここに居る。気軽にラポちゃんで良いぞ?」

「ラポールさん、それは少し軽すぎるような・・・」

銀髪の男性、ラポールのあまりにも軽い発言にカールが苦笑いを浮かべながら言うが言われた本人は大きく笑って返す。

「あっはっは!良いじゃないか、こんな年寄りでもはっちゃけたい時くらいあるんだよ!」

「いやしかしそれでは貴方の威厳が・・・」

「大丈夫だ、普段はただの不良じみた町医者だ。威厳もへったくれもあったもんじゃねぇさ!」

豪快に笑い続けるラポールとそれに押されるカール、2人のやり取りを見ながらⅦ組も苦笑を浮かべる。

 

「あ、あの父さんが押されている・・・」

「レーグニッツ知事はよく帝国時報の写真に出ているけど・・・」

「もう片方の男は医者のようだが、特に記憶に無いねぇ」

父の様子にあんぐりと口を開けるマキアス、エリオットとレナは知事であるカールから敬語を使われているラポールなる人物を記憶の中から探すが思い当たる人物が居らず首を傾げた。

 

そうしてひとしきり笑うとラポールはふうっと一息付きⅦ組を見る、カールもそれに倣うように1つ咳払いをして向き直った。

 

「さて、では改めて今回の特別実習の内容を説明させてもらおう各班、受け取ってくれ」

そうしてカールはA班、B班に封筒を1部ずつ配る。しかし普段貰っている封筒以外にも何故か住所が書かれた紙が1枚、そして鍵が1本両班に渡された。

 

「アルト通り・・・僕の実家がある地区だけどこの住所には見覚えが無いかも」

「ヴェスタ通りといえば西の大通りか・・・行ったことは無いな」

実家が帝都で自身の出身地区のエリオットと最近よく帝都に遊びに来ていたミナズキが反応する、するとカールは笑いながら切り出した。

 

「まずは両班、そこに書いてある住所を見つけてくれ。オリエンテーリングと思ってもらおうか」

いたずらのようにニッコリと笑うカールにⅦ組は苦笑を浮かべるがそれにラポールが補足をつける。

「とりあえず今回の実習はヴァンクール大通りを中間地点としてA班は帝都の東側、B班は帝都の西側の二手に別れて行ってもらう。結構ざっくりとした分け方だが分かりやすいだろう?」

それを聞いたⅦ組はそれぞれの住所や行くことになる地区を確認しているとカールは時計を見て席を立つ。

「どうやら時間のようだ、今から夏至祭の為に色々なところに顔を見せる必要があってね、君たちの健闘を祈るよ。それと帝都内ではARCUSの通信機能も試験的に働いている、何かあったら使うといい」

そう言ってカールは1人で部屋を出て行くと少しの間静寂が訪れる。

残されたⅦ組とクレア、そしてラポールだったがエマがおずおずと手を挙げた。

「あの、ラポールさん」

「ん?なんだ?」

「いくつかお聞きしたいんですが・・・」

「おう、良いぞ?」

恐る恐ると言ったていのエマに対して軽く返すラポール、彼の承諾を得たエマはでは、と問い始める。

 

「まずその、失礼かもしれませんが何故まだここに?」

「それは思うよな、でもちゃんと意味があるんだ。B班の依頼の中に1つ、俺からの依頼があるだろ?俺は基本帝都内を回っているからな。わざわざ帝都内で探されるとかなり手間ってことで先に依頼の詳細の確認をしようと思ってな」

ラポールの言葉を聞いてB班のアリサが依頼書を確認する。すると確かに『巡回医の手伝い』という依頼があった。

「で、では次に貴方は一体何者なんですか?医者といっても普通の町医者の方がここに来れるとは思えないのですが・・・」

2つ目のエマの質問、確かにただの医者ならここに入れる理由は無い。何かしらの権限や軍人としての地位があるならまだしも彼は町医者と名乗っている以上それも無いだろう。

ラポールはエマの質問を聞くとクレアに目配せをする、クレアもそれに気付くとコクリと頷き、それを確認したラポールは切り返した。

「まぁ、普段は町医者だ。これは間違いないさ、だが俺にはもう1つだけ立場がある・・・それはな・・・」

そうしてもったいぶるように言うとラポールはⅦ組に対して手招きをする、不思議に思ったⅦ組が彼に寄っていくと彼は小声でたった一言返した。

「俺のもう1つの立場はな・・・ズバリ、侍医だ」

その言葉に意味の解った者はギョッとした。分からなかった者、フィーやガイウスも皆の変わりようによっぽどの事だと身を震わせる。

 

侍医、というのは一言で言うのなら皇族を診察し医療行為を行う仕事であり帝国における皇族、アルノール家お抱えの医者ということだ。

「いや、だとしたらそんな男が何故ここにいる!?」

流石に嘘と感じたユーシスが声を上げる、確かにもし彼が本当に侍医だったなら何故バルフレイム宮の方に居ないのかが分からない。

しかしここでクレアからⅦ組に声が掛かる。

「本当ですよ、この方は先代の皇帝の晩年を見届け、現在の皇帝ユーゲント3世、プリシラ皇妃や他の皇族の方に月に2、3回診断をしています。普段帝都内で町医者をしているのは皇族の方々とそういう契約の下で侍医を務めているからです」

「いやー、バルフレイム宮に四六時中居たら肩が凝っちまうからなー!」

困ったように言うクレアを他所にまたもや豪快に笑うラポール、皆も苦笑を浮かべる中エマはもう1つだけ質問をした。

 

「では最後に・・・先代の皇帝から診ている、と仰ってましたがその・・・年齢はお幾つなんですか?」

エマの言葉に他の面々もハッとする、ラポールの見た目ははっきり言って20代中間から後半、サラよりも少し上くらいにしか見えないのだ。

緊張の面持ちで聞いてくるエマとそれを神妙な顔で見守る一同、それを見たラポールは少し困ったように笑うとⅦ組の目の前にパーの形をした右手を突き出した。

「えっと・・・50代?」

「まぁ、確かに?」

「納得は・・・した方が良いかな?」

戸惑うようなエマ、フィー、エリオット。

他の面々も納得はしきれていないが顔を見合わせて頷く。

そんな様子を見たラポールは満足そうに笑うとそのポーズのままで左手を突き出す。

「あと1年でこの大台に乗るな」

その左手には指が3本立てられていた。

 

「はっ?」

誰が発したのかも分からないほどの素っ頓狂な声、でも誰も気にかけてられなかった、目の前の見た目20代が学院長であるヴァンダイクや保健医であるベアトリクスよりも歳上なのだから。

「そう言えば君たちの学院で学院長をやってるヴァン君と保健医のベア子ちゃんは元気かい?」

「ヴァン君?」

「ベア子・・・ちゃん?」

聞き慣れない学院長たちのあだ名にリィンとエマが引きつった声でそのあだ名を繰り返す、するとラポールは笑って答えた。

 

「あぁ、軍にいた頃の後輩でな。懐かしいな、新兵の頃はそそっかしかったヴァン君がいつの間にか学院長、衛生兵として入隊してきて1日目で大泣きしてた泣き虫ベア子ちゃんがいつの間にか《死人返し(リヴァイバー)》なんて呼ばれて今じゃ保健医だもんな、いやー人生分からないものだな!」

またもや豪快に笑い始めるラポールを見て各々絶句した、言いたい事はある。まさかそんな歳上だとは思ってなかったし学院長たちの昔話を聞くことになるとは思わなかった。侍医という立場も驚きだが1つどうしても言いたい事をアリサが代表して叫んだ。

 

「わ、若作りとかアンチエイジングだとか・・・そういう次元じゃないんですけど!?」

アリサの絶叫がブリーフィング室に木霊した。

 




ご拝読ありがとうございました。
分からない人の為に言っておくと
この時点でのヴァンダイク学院長の年齢は70歳だそうです。

次話もよろしくお願いいたします。

本編とは直接関係は無いかもですが質問です。ミナズキにはユン以外にも色んな意味での師匠枠がいます、現在判明しているのは2人ですがどちらが気になりますか?

  • 料理を教えた暗器、拳使い
  • 片手剣である銀の牙を託した人物
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