英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。

最近の自身の投稿頻度について一言
「お前は週刊誌か」

それでも続けていきますのでよろしくお願いします。

※前回のアンケート終了しました、ありがとうございました。
新しいアンケートもよろしくお願いします。


87.恐れ知らずだよアイネちゃん

 

「取り敢えず、一旦ここまでにしようか」

「な、長かった・・・」

「つーかーれーたー・・・」

話し合いが始まって早くも3時間、主な話の内容は夏至祭初日のミナズキとアイネが護衛として付き添う行事に出席するVIPの情報とタイムスケジュール。

普段ここまで長い話し合いの経験の無い2人は完全に音を上げていた。

 

「ははは、すまないね。本当はもっと長期的にゆっくりと話したかったんだがそうも言ってられなくてね」

「・・・何かあったのか?」

「今回のクリスタルガーデンでの懇親にも出席するクロスベルからのVIPであるマクダエル議長、彼本人は誠実で穏やかな人物なんだが問題はそのクロスベルの方さ」

オリヴァルトの言葉にミナズキは眉をひそめる、一方そういった政治には疎いアイネは首を傾げた。

 

クロスベル自治州とはエレボニア帝国、カルバード共和国という2大国家に挟まれた緩衝地であり経済交流の名所として知られている。

自治州内には七曜石が豊富に採れるマインツ鉱山などもあるため経済的にも政治的にも要所なため熾烈な領土争いの対象でもあった。

それ故に議会では帝国派と共和国派の議員たちが蹴落とし合う状態で政争自体も激化している。

治安自体も決して良いとは言えず、1度裏通りに行けば外国から流入したマフィアなどが幅を利かせている上に犯罪者が出ても帝国、共和国出身であれば警察ですら強気には出られない始末。

おまけに宗主国である帝国、共和国の意向で軍隊を持つことを禁止されており、国境を守る警備隊ですら戦車や飛行艇を持てず装甲車が限界。

強い光を持つ一方でその分暗い闇の部分も強く持つ事から1部からは『魔都クロスベル』とも呼ばれている。

 

「そんな所から来るその議長さんってその・・・大丈夫なの?」

「さっき言った通りマクダエル議長自体は潔白な男さ、だが最近クロスベルではある事件が起こっていてね」

そう言ってオリヴァルトは2人にある資料を差し出す。その資料をミナズキとアイネはサラッと目を通すと更に訝しげな顔をした。

「えっと・・・《ルバーチェ》?」

「クロスベルのマフィアみたいだけど・・・あ、でも無くなってるみたい?」

2人が読んでいる資料には以前クロスベルで幅を利かせていたマフィア組織、ルバーチェの名前があった。

しかし、アイネの言葉の通り現在は解散してしまっている。

 

資料から目を離しオリヴァルトに視線で説明を催促する2人に彼は切り出す。

「あぁ、見ての通り現在は解散している。原因はとあるカルト宗教が引き起こした事件でね。そのルバーチェという組織はかなり長いことクロスベルの裏社会で幅を利かせていた、それこそ何人かのクロスベルの議員を動かせてしまうくらいにね。しかし少し前から共和国の方に本拠地を置くシンジケート《黒月(ヘイユエ)》が台頭し、それに焦ったルバーチェの会長マルコーニがそのカルト宗教に協力を願い出たそうだ。結果ルバーチェはそのカルト宗教から渡された薬を服用、力は得たものの理性を失い様々な事件を起こし最終的には全員逮捕されてしまったそうだ」

 

オリヴァルトは1度口を閉じ紅茶をぐいっと飲むとふうっと一息つく。ミナズキは彼の言いたい事が何となく分かり代わりに切り出した。

「つまり、現在のクロスベルの裏社会は過去1番と言っていいレベルで不安定ってことか?」

ミナズキの指摘にオリヴァルトも頷く。

 

「あぁ、ルバーチェの影響で良くも悪くも治安が守られていた状態が瓦解している。だからこそ今回のVIPの1人であるマクダエル議長に何かあればそれはクロスベルにとってかなりの痛手になるだろう・・・」

そこまで言うとオリヴァルトは口をつぐみ、この場に自分たち以外に誰もいないことを確認しながら言った。

「阻止しなければならない、もしもクロスベルが危うい事になれば帝国も共和国もそれを理由にアクションを取りかねない。結果として多くの血が流れるだろう、そんなことはあってはならない」

 

そう言ってオリヴァルトは俯き手を組む、様々な可能性を考えているのかその表情は暗い。

「すまない・・・本当は君にもっと伸び伸びと学生生活を送ってもらいたかったんだ」

「気にしなくていい、昔と比べれば今は楽園と感じるくらいには充実している」

 

謝罪してくるオリヴァルトにミナズキは静かに笑って返すとテーブルに置かれたカップに手を伸ばしお茶を飲む。その様子にオリヴァルトも安堵したように笑ったがアイネだけは話が分からずハテナマークを浮かべていた。

 

「ねぇ、ミナズキって昔何かあったの?」

「ブフっ!?」

「・・・そう言えばアイネ君はミナズキの過去を知らないわけか。いやしかしどう説明したものかな」

何も知らないアイネの爆弾発言にミナズキはお茶を吹き出し、オリヴァルトは困ったように頭を抱えた。

内容が内容だけにまだ15歳にもなっていない外の世界を知らない箱入り娘には刺激が強すぎるのだ。

 

どうしたものか、2人がどうアイネに説明すべきか考えていると不意に扉が開き人の男が部屋に入ってきた。

 

「その男、ミナズキ・バンシアはかつては今と違う名で帝国各地の多くの野盗や猟兵崩れを斬り殺し多くの屍の山を築き上げた。彼の影響は決して小さくは無く、殺された野盗たちの所持品から多くの腐敗貴族との繋がりが見つかり結果として帝国の治安の回復だけでなく、多くの汚職貴族の排斥や貴族位の剥奪、他の貴族派の者たちへの牽制にもなった。しかし、去年の6月始め頃に帝国情報局、並びに鉄道憲兵隊により捕縛され拘留される。1度は処刑をする事になるも先程言った功績に対する恩赦や口封じに加えその類稀な隠密能力、それに付随する戦闘能力を欲しがった表立った勢力が2つあった。1つは帝国正規軍、2つ目は貴族派の領邦軍、そしてそれとは別に密かに目をつけていたのはアルテリア法国だ」

 

ミナズキの経歴をツラツラと言いながら入って来た男、ギリアス・オズボーンをミナズキは睨みつけ、オリヴァルトは困った顔をし、アイネはポカンとした表情で固まっていた。

しかし、そんな3人をよそにギリアスは話を続ける。

 

「しかし、身代わりを処刑し彼と本格的な取引をする前に現れたオリヴァルト殿下によって各勢力の思惑は阻止され、今ではミナズキ・バンシアと名乗りを変えトールズ士官学院に在籍している。以上だ」

そこまで言い切ると満足そうに自身を睨みつけているミナズキに向き直る。

やはり2人の空気は最悪であり、ミナズキは今からでも斬りかからんばかりの剣幕でギリアスはそんな事など何処吹く風といった様子で睨み合いが続く。

 

 

そんな雰囲気を吹き飛ばしたのは早々に復帰したアイネだった。

「はい!そこまで!」

「む?」

「は?」

睨み合う2人の間に立ったアイネはまずはギリアスの方に向き合う。

「おじちゃんが誰か知らないけど人の過去を勝手に言うのは良くないと思うよ!気になってたあたしが言うのも変だけどさ!」

「おじちゃん・・・」

「だって名前も知らないからね!あたしはアイネ!アイネ・アルコバーノだよ!よろしくね!」

「あ、ああ・・・ギリアス・オズボーンだ。この帝国で宰相をしている」

胸を張って軽く説教をし自己紹介をするアイネに流石のギリアスですら少し押され気味に答える。

次にアイネはその様子に唖然としているミナズキに向き合った。

 

「ミナズキも!色々あったのは分かったけどそんな逐一殺気出してたら疲れるよ!」

「いや、しかしだな「でももだっても無いでしょ!」あ、うん・・・」

大の男2人がたった1人の少女の剣幕に言い負かされ押し黙る。そして2人が大人しくなったことを確認するとアイネは2人をソファーに座らせる、途端ミナズキが不安な顔で切り出す。

 

「でもアイネ、さっきの話を聞いてどうも思わなかったのか?」

「うーん、驚きはしたけど違う意味でも驚いたかな?」

「違う意味?」

「だってあたしがお母さんから聞いてた『抹消された英雄』にそっくりだったんだもん」

 

アイネの口から出た『抹消された英雄』。その言葉に驚いたのはミナズキやオリヴァルトだけでは無く、一緒に座らされていたギリアスもだった。

「抹消された・・・英雄・・・?」

そう呟いたギリアスの顔は普段の彫りの深い不敵な笑みでは無く心底驚き、動揺しているようにも見えた。

 

「そう!まんまミナズキみたいな経歴の人だったみたい!まぁ、まだその人の文献を集めている最中だからさ、名前は勿論実際にどんな晩年だったのかは分かってないけどね・・・みんなどうしたの?」

少し残念そうに笑うアイネだったが、他3人が唖然としていることに首を傾げた。

 

「いや、俺みたいな人が過去にいたのか・・・正直普通に驚いたぞ」

自身と似た人物がいた事に驚くミナズキ。

 

「教科書にも、ましてや皇城にある書斎にもその情報は残っていなかったはずだ。恐らくはかなり昔に消されてしまったんだろうが」

顎に手を当てて思い出すように呟くオリヴァルト。

 

「・・・そういった物があったのか。いや、何とも興味を惹かれる話だ」

少し微笑んだ後でソファーからゆっくりと立ち上がるギリアス。

 

3人の反応はそれぞれだったがアイネとしては反応は貰えた事に満足したのかニッコリと笑って返した。

 

「さて、私はもう行こう。西ゼムリア通商会議の準備がまだあるのでね」

そう言うとギリアスはさっさと出口に向かって歩いて行き、そのまま扉を開き出て行った。

残された3人は軽く見送りだけするとまた明日以降の為に話を再開した。

 

 

廊下───

 

廊下に出て軽く歩き始めるギリアス。その足取りはどっしりと重く、彼の存在感そのものを表すようだった。

そしてある程度歩くと窓から帝都を見つめ、誰にも見せない微笑を浮かべ1つ呟く。

「・・・ルーグ」

そして軽く目を閉じ、暫くするとまた何時もの不敵な笑みに戻ったギリアスは自身の仕事場である執務室へと戻って行った。

 

 

午後19時、談話室───

 

「よし、今日はここまでとしよう。明日は2人ともよろしく頼むよ」

「あぁ、分かった・・・」

「やっぱり疲れるねー」

 

話が纏まりオリヴァルトが笑顔で締め括るとミナズキとアイネがソファーにぐでっとへたり込む。その様子にオリヴァルトは笑うが1つ言い忘れていた事を話し出す。

「そうだ、2人とも今日はここの客室に泊まってくれ。流石に何度も呼ぶ訳には行かないからね」

「ん?そうなのか?」

「お泊まり!?良いの?」

驚くミナズキとアイネにオリヴァルトは笑って答える。

 

「勿論さ、食事も用意しているから楽しみにしていてくれ」

「まぁ、そういう事なら」

「楽しみー!」

食べたことの無い宮殿の料理にアイネはピョンピョンと飛び跳ねながら喜ぶ、しかし途中でピタリと止まるとミナズキに真剣な顔で切り出した。

 

「もし嫌だったら良いんだけどさ、ミナズキって本当の名前はなんなの?」

「あ・・・・」

アイネの質問にミナズキは困った顔で黙り込む、そこにオリヴァルトは助言をした。

「ミナズキ、君が本当の名前を言わないのは下手に自分が生きている事を知られないようにする為だろう?だがアイネ君は少なくとも言いふらす様な子じゃないし信頼も出来るんじゃないかな?」

「・・・・他のⅦ組や親しい奴にも言ってないんだが」

「いつか言う日は来るさ、きっと。でもその時どう呼んで貰うかは君自身が決めればいい」

 

諭す様なオリヴァルトの言葉にミナズキは小さく頷くとアイネの耳元に口を寄せ、静かに名前を呟いた。それを聞いたアイネは目を輝かせニッコリと笑う。

「綺麗な名前だね!星の名前かな?」

「あぁ、確かそうだな」

「正直僕としてもミナズキにはよく合う名前だと思うよ」

 

アイネとオリヴァルトの反応を見てミナズキは目を閉じて改めて決心した。

いつかで良い、受け入れられなくても良い、それでも絶対いつか本当の名前を仲間たちに知ってもらおう。初めて出来た対等な、ただの友達と言えるそんな存在に。

 

不安気でもミナズキは笑った。

 




ご拝読ありがとうございました。

何とか自分で考えて書き続けています。
次話もよろしくお願いいたします。

エピソードの中で書くつもりなので明かしたりはしませんが皆さんがより気になるのはどれですか?

  • ミナズキの本名
  • レナの正体
  • オリビエがミナズキに優しい理由
  • ギリアスが呟いた「ルーグ」という言葉
  • アル・カフラにあるトビラの中身
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