英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。
結局週一の現象から逃れられていない自分がいます。


88.デスクワークは程々に

 

翌朝7:00、バルフレイム宮、離宮の客室───

 

「・・・・ん、朝か」

目を瞬かせミナズキは客室の天井を見上げる。

本来であれば特別実習2日目、しかし今のミナズキは夏至祭での護衛依頼を優先している為、宿泊場所である遊撃士協会に戻ることは出来ずそのまま離宮内にある客室で休むことになった。

 

「・・・昨日は大変だった」

ミナズキは1人仰向けのままで呟く。

あの後、先ずは実習で依頼を片付けているであろうB班に連絡を取った。

 

取ったのだが───

 

「─── そんなわけで恐らくは実習期間はこっちで寝泊まりを『嫌だ』・・・え?」

『いーやーだー!』

レナが驚くくらい駄々をこねた。

 

『良いじゃないかこっちから通ったってー!』

『ちょっ、レナ!暴れないで!』

『落ち着いてください!』

ARCUSから暴れるレナとそれを慌てて止めるアリサとエマの声が聞こえる。

 

『とにかく嫌だ!あの猫とミナズキが2人きりで寝泊まり!?許すわけないだろー!』

『って、なんで猫に嫉妬してるのよ!?』

『必要なら私が毎朝起こしてモーニングセットを作る!望むならベッドメイクだってするし良く眠れるように色々やってやるとも!だからこっちに!』

『そういう訳にもいかないでしょ!?とにかく落ち着いて!』

『はーなーせー!こうなったら私だけでもそっちにぃぃぃぃ!』

 

その後何とか落ち着いたレナはミナズキ(を介してアイネに)へと約束を取り付けた。

『とりあえず一緒に寝たりはダメだ!朝起きたらいつの間にか同じベッドでしたなんて以ての外だ!』

「それはならないだろ」

『そうなりかねないのが君じゃないか!マローラとだって同衾したくせに!』

「いや、あれは・・・」

『寮で1人で寝るからマローラが来た、だろう?状況はほぼ一緒だよ・・・!』

 

ARCUSからレナの恨めしそうな声が聞こえミナズキは苦笑いを浮かべるが次にユーシスの声が聞こえてきた。

『あー、俺だ・・・アイネだったな、俺からも言わせてもらうが羽目は外さないようにしてくれ。これは特別実習であって遊びではない、勿論ミナズキの受けた護衛依頼にいたっては遊びで済まされるような内容では無い。ただ、1つ言っておく。ミナズキは無茶をする時は1人で勝手にやり始める。だからよく見張って置いて欲しい』

「・・・うん、分かった」

『ならば良い、ミナズキも今言った通りだ。無茶だけはするなよ』

「あぁ・・・肝に銘じておくよ」

『ではな、明日も大変だろうから切るぞ』

そして通信が切れ、その後ミナズキとアイネの部屋に料理が運ばれて来た。客人とは言え滞在理由は護衛でなおかつ皇族が了承していても軍人でもない非公式な人材な以上、会食のようにみんなで食べるなんてことは無かった。

 

「絵本とか物語とはやっぱり違うよね、でもとっても美味しい!」

それでも運ばれて来た料理を目を輝かせながらもぐもぐと食べるアイネはいつも通りの明るさだった。

 

 

そして就寝前───

 

「あたしお泊まり初めてなんだ!・・・枕変わっちゃうけど寝れるかな?」

「どうだろうな、だが明日も多分忙しい。眠れるならしっかりと休息をとるべきだな」

隣のベッドに寝転がりながら普段とは違う枕を抱きしめるアイネの言葉にミナズキは淡々と返すとさっさと横になった。

 

「ねぇミナズキ、今の『眠れるならしっかりと休息をとるべきだ』って誰かに教えられたの?」

「・・・なんでそう思うんだ?」

「なんとなく!」

勘を働かせて笑顔で返すアイネにミナズキは苦笑いを浮かべた。

 

「お前の勘はどうなっているんだ?・・・まぁ、そうだな。とある騎士に教えられた、騎士のわりには型破りでさ・・・例えどんな手でも必要と感じたら躊躇無く使ってた、洞窟に立て籠って待ち伏せしようとした野盗たちに対して洞窟中に油を撒いて松明の火で着火させた時は流石に引いた」

「なんかとんでもない人だね・・・」

「『洞窟に籠るのが好きなら文字通り焼け死ぬまで籠らせてやる』・・・なんて言って慌てて出てきた野盗たちを一網打尽にしてたな」

「本当にとんでもない人だね!?」

その騎士の事を思い出すのか寝転がりながらベッドの横に立て掛けている太刀と片手剣を見詰めるミナズキ、そんな彼にアイネは欠伸をしながら切り出す。

 

「他にも色んな話聞かせてよ、ミナズキはどんな人たちに出逢ったの?」

「ん?・・・そうだな・・・今言った騎士以外だと・・・マジックが大好きでついでに女性を口説くのが得意なオッサン、捕まえた賞金首をそのまま憲兵に突き出すか気に入らないから殺すか、或いは好みだったから襲うかの3択を持ってるドSの女賞金稼ぎ2人組とか、あとよく物を爆破する蒐集家のおっさんとか、あとめちゃくちゃ強くて漢らしいオカマとか・・・?」

「なんか・・・バラエティー豊富なんだね・・・」

 

ミナズキが今まで知り合った個性的な人間たちにアイネは笑顔を浮かべそのまま目を閉じる。

すぐに規則正しい寝息が聞こえ、ミナズキはアイネが寝た事を確認すると自身もゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

そして現在───

 

ミナズキは仰向けのままアイネの寝ているベッドを見る。しかしそこにアイネの姿は無く無造作に置かれた枕と掛け布団があるだけだった。

 

「(もう起きたのか・・・?)」

そう思い身体を起こそうとした時、ミナズキは自身の腰の辺りに何かが巻き付いている感覚がした。

「なんだ・・・?」

布団をめくり何があるのかをミナズキが確認する。するとそこには───

 

「むにゃ・・・・ミナズキ・・・だいじょうぶ、あたしがみちびくよ・・・まかせて・・・」

ミナズキの腰に抱きつき、涎を垂らしながら寝言を言うアイネの姿があった。

「・・・・・」

目の前の状況にミナズキは天井を仰ぐ、レナとの約束は僅か8時間足らずで破られてしまった。

 

 

 

9:00、談話室───

 

「やぁ、おはようミナズキってなんか不機嫌そうだね?」

「おはようオリビエ・・・やはり部屋は別々にするべきだった」

「ごめんってばー!」

 

昨日と同じように談話室で書類を纏めていたオリヴァルトが部屋に入ってきたミナズキとアイネに声を掛ける、しかしミナズキは明らかに不機嫌でありそんな彼にアイネは謝り倒していた。

 

「寝ぼけちゃってたんだよー!」

「だからって人の腰に抱き着いて寝るなよ・・・!」

「ふむ、何やらトラブルの匂いがするね・・・まぁそれも青春の1ページと言うやつさ❤」

言い合いをする2人を見てオリヴァルトは笑いながら書類と格闘を再開する、文字通り山のように積まれた書類は全て今回の夏至祭、そして来月に行われる西ゼムリア通商会議に関する物だった。

 

「さて、今日は夕方からちょっと行く所があるからそれまではこの書類たちの処理に力を貸して貰うよ」

「・・・あぁ」

「多いねー・・・」

オリヴァルトの言葉に2人は少しうんざりした表情で答え席に着く、そのまま休憩を挟みつつたっぷり7時間もの間3人はボロボロになりながらも書類を処理し続けた。

 

16:00、談話室───

 

「こ、ここまでにしようか・・・」

「暫く書類は見たくないな・・・」

「活字怖い・・・活字怖いよー・・・」

若干覇気の無くなった表情で書類を纏めながら言うオリヴァルトにミナズキはダラっとソファーに崩れ落ち、アイネは頭を抱えながら涙目でブツブツと呟く。

 

まさか7時間も部屋に籠って書類を処理するなんて思ってもみなかった、昼ごはんも簡単に用意されたサンドイッチが部屋に運ばれて来たのだから食事時だけは部屋から出れると考えていたアイネは絶望していた。

ミナズキもまさか護衛と言われてこの仕事が来るとは思っていなかった、こんな事なら断れば良かったと後悔すらしている始末だった。

 

「本当にすまなかったね、僕の相棒でもあるミュラーも今は忙しくてこちらに来れなかったんだ」

「いや、わかってる・・・でも今度そういう依頼をする時はせめて先に言ってくれ、事前に覚悟くらいは出来るから、アイネもこうなっちゃってるし」

「活字怖いよ・・・文字見たくないよー・・・」

 

謝ってくるオリヴァルトにミナズキは若干の小言で返す、自分だけならまだ文句は無かったのだが今回はアイネを連れて来てしまった。彼女としても護衛と言われてまさか書類仕事とは思わなかったはずだ。

 

「ははは、でも安心してくれたまえ。今から出掛けるから少なくとも今日はもう書類を見ることは無いさ」

「なら安心、か?」

「明日もきっと書類があるんだ、きっとそうに違いないよ・・・」

オリヴァルトはそう言うと笑って見せ、ミナズキも多少安堵の表情を浮かべるがアイネだけはグググと呻き声を漏らす、そんな彼女にオリヴァルトも苦笑いを浮かべた。

 

「とりあえず僕は支度をして来るから2人とも支度をしてくれたまえ。実は護衛用の衣装も用意してあるんだ、着替え終わったらまたここに集まろう」

そう言ってオリヴァルトは部屋を出ていく、ミナズキとアイネも談話室から出て自分たちの寝泊まりしている部屋に戻るとそこには衣装の入ったケースが2つ置いてあった。

 

「本当にあったね、じゃああたし着替えて来るね!」

部屋の隅にある着替えようの試着室に入りカーテンを閉めるアイネ、ミナズキは自分に宛てられたケースを開け中の衣装を確認することにした。

 

「さて、中は・・・・は?」

ミナズキは中の衣装に言葉を失う。恐らくは護衛という依頼だからだろうか、オリヴァルト否オリビエはノリノリでスパイ物の物語に出てくるような黒スーツと濃いめのサングラスを用意していた。

「ふざけているのか・・・?」

つい口から愚痴が零れる。しかし確かにトールズの特科クラスの赤い制服ではいざと言う時に学生扱いされてしまうのは事実。でもこれは流石に逆に目立つんじゃないだろうか。

 

ミナズキがうんうん唸っていると今度は背後から声が聞こえる。

「ミナズキー!見てこれ!かっこいいよね!」

その声に振り返るとミナズキの物と同じ黒スーツを着てポーズを取っているアイネの姿があった。

なかなか動き易いのかアイネはクルクルとその場で回ってみたり、飛び跳ねてみたり、その場で側転をしてみたりと楽しそうに笑う。

そんな姿に毒気を抜かれてしまったミナズキは自分も同じように試着室に入り着替え始めた。

 

 

16:30、談話室───

 

「いやはや、アイネ君。なかなか似合っているじゃないか」

「ふんふん♪パンツスーツだからしっかり動き回れるね!靴も固くないし歩きやすいよ!」

「そうとも!今回の件で特別に用意してもらったのさ」

 

オリヴァルトとアイネが衣装の話に花を咲かせる、ミナズキが着替えている途中にそのまま談話室へと向かったアイネは先に到着していたオリヴァルト、もといオリビエと話していた。

オリヴァルトは人目を忍ぶ(全く忍べていない)服装である漂泊の詩人、オリビエ・レンハイムとしての格好で待っていた。

そんなオリビエにミナズキとお揃いのサングラスをかけた状態でアイネは笑った。

 

「悪い、待たせた」

談話室の扉が開き1人の青年が入ってくる、アイネとオリビエがそちらを向くと黒スーツに身を包み、サングラスをかけ、手は同色の手袋で覆われ、そしてオリビエが渡した覚えの無い黒色で赤いリボンが付いているホンブルグハットを被ったミナズキがいた。

 

「ふむ、やっぱりピッタリだったね。でもミナズキ、その帽子は一体?」

「昔貰った物でさ、被る機会がそうないから今回は被っておくよ」

吹っ切れたのか案外ノリノリなミナズキに笑顔で訊ねて来るオリビエ、ミナズキはサングラスを外しながら答えた。

 

一方でアイネはその場で固まっていた。

「アイネ・・・どうした?せめて何か感想を言って欲しいんだが「っぽいね・・・」は?」

アイネから何か聞こえた気がしたミナズキはアイネの顔を覗き込む、するとアイネの顔は少し赤くなっていた。

「なんかね、ちょっと色っぽいね!」

「え?」

思わぬアイネの回答にミナズキは呆気に取られた。しかしアイネは止まらない。

「特にその少しだけ開いてる胸元!シャツを第二ボタンまで開けてて少しだけだらしなように見えるようで丁度いい感じに纏まってるよ!ミナズキ自体が色白だし髪の毛も白と灰色、ほんのちょっとの赤毛だから黒色は映えるし良い感じにモノトーンでかっこいいよ!それに首にかけてるお守りもアクセントになってる!」

「ふむ、確かにかなり決まっているね」

謎のサムズアップをしてくるアイネとそれに同調してくるオリビエにミナズキは後退る。そしてちらりと時計が視界に入るとそのまま2人に切り出した。

 

「お、おい・・・確か17時から何か用件があるんだろ?時間が無いんじゃないか?」

「おや、もう16時35分か。これは急いだ方が良さそうかな?」

「そうなの?じゃあもう行く?」

「あぁ、彼らを待たせては悪いからね」

ミナズキに指摘されたオリビエも時計を確認する、確かに時間はもう16時30分を過ぎている。目的地はそこまで遠いわけでは無いがそれでも送れていい理由は無い。

オリビエは何故かリュートを持ちそのまま軽く演奏をしながら歩き出す。

一方ミナズキとアイネはオリビエの言った『彼ら』という言葉に首を傾げた。

 

 

そしてそのまま外に出たのだが───

 

「うぐっ・・・」

「今クラっと来た・・・」

「眩しいな・・・」

約1日ぶりに見た外の明るさに3人揃って若干の立ちくらみにあうのだった。

 




ご拝読ありがとうございました。

ちなみにミナズキは今回の衣装でも以前ベリルに貰ったお守りも着けていますしレナから貰った指輪も手袋の中でちゃんと右薬指に着けています。

次話もよろしくお願いいたします。

エピソードの中で書くつもりなので明かしたりはしませんが皆さんがより気になるのはどれですか?

  • ミナズキの本名
  • レナの正体
  • オリビエがミナズキに優しい理由
  • ギリアスが呟いた「ルーグ」という言葉
  • アル・カフラにあるトビラの中身
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