英雄伝説 雪月の軌跡   作:モリーもふもふ

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ご拝読ありがとうございます。
遅れて申し訳ないです。

仕事の方でかなり連勤してたもので書く時間がありませんでした。

お気に入り155件、ありがとうございます。


89.気まずいなんてもんじゃない

 

オリビエに連れられてミナズキとアイネはサンクト地区にある聖アストライア女学院に来た。

 

来たわけなのだが───

 

「まぁ!あの御方はオリビエ先生・・・!」

「ですが他のお2人は・・・?」

「女の子の方はぴょこぴょこしててなんだか心が和みますわ・・・」

「あの殿方は・・・危険な色香がしますわ・・・!」

 

少し離れたところから女学院の生徒たちのヒソヒソとした話し声が聞こえる、オリビエは笑顔で生徒たちに微笑みかけ、アイネもサイドテールをピコピコと揺らしながら手を振るがミナズキにとってこの状況はどうしようもなく居心地が悪かった。

「(周りから妙な視線が来る・・・ヒソヒソと声も聞こえる・・・)」

まるで見世物にでもなったかのような気分がしたミナズキは帽子を深く被り直し、周りに手を振るアイネを捕まえるとそのまま手を引きオリビエに着いて行く。

ただそんな様子に生徒たちはより一層沸き立つように好奇の視線を2人に向けるのだった。

 

 

 

温室前───

 

「よし、ここだよ2人とも」

そう言ってオリビエはリュートを弾く手と足を止める。目の前には温室の入口があり中からは人の気配がした。

「そういえば、今日会う人たちってどんな人?」

「ミナズキがよく知っている相手だよ」

「俺が?」

アイネの質問に笑って返すオリビエ、その言葉にミナズキは首を傾げるとオリビエはそのまま温室の扉を開く。

 

「ふふ、来ましたね」

「あ、ミナズキさん?」

先ず見えたのはオリビエ、もといオリヴァルトの妹であるアルフィン・ライゼ・アルノール皇女殿下、そしてリィンの妹であるエリゼ・シュヴァルツァーの姿。

 

ここまでは良い、だが問題はここからで───

 

「ミナズキ、だよな?」

「何故そのような格好を?」

「帝国では護衛はこういった服装なのか?」

「いや、そんなことはないと思うけど・・・」

「いや、でも驚いたな。ところでその子は一体?」

戸惑った様子のマキアス、訝しむような目を向けるユーシス、純粋にはてなマークを浮かべてくるガイウスに苦笑いを浮かべるエリオットとミナズキの隣のアイネが気になるリィン。

 

「っ・・・・!」

「えっと、その子は一体?」

「ふむ、見たことの無い顔もいるが・・・」

「多分、依頼の協力者だと思うけど・・・」

ミナズキよりもその隣にいるアイネに目を向ける、エマ、アリサ、ラウラとアイネにそこそこ当たりをつけるフィー。

 

 

そして───

 

 

「ミナズキ、何故目をそらすんだい?」

ジトっとした目を向けて来るレナにミナズキは思わず目を逸らす。そんなミナズキにレナはジリジリと近寄って行き、ミナズキは逆に後ろに下がり続けた。

「ミナズキ?後ろに下がる理由を聞いてもいいかな?」

「特に何も無いぞ?」

「ならば何故後ろに下がるんだい?」

「お前が近付いてくるからだ・・・」

「別に普段からくっつく事もあったはずだが?」

「いや、それはだな・・・」

 

ミナズキの背中に硬い感触が伝わる。どうやら壁まで下がってしまったようで、横を見て何とか逃げ場が無いかを確認する。

しかし役に立ちそうな物はどこにも無い。慌てたミナズキが前を確認すると目の前、というより文字通り眼前にレナの顔があった。

 

「ミナズキ、何かあったんだよね?」

ペタン、と音を立てレナの右手がミナズキの左耳を掠めて壁に着く。

完全なゼロ距離、胸に至ってはミナズキに当たってすらいる。しかし、レナは表情を変えること無くミナズキと目を合わせる。

 

「自覚はあるし言い訳もしない。私は面倒くさい女だ、君と特別な関係でも何でもない。だがこの際はっきり言っておくよ、私は君に執着している。そしてそんな執着している男が自分以外の異性と1晩同じ部屋で過ごした。私にとっては何も無い方が不自然と感じているよ?」

顔があまりにも近い、レナの吐息の音がミナズキにははっきり聞こえる。本人としても結構大きな暴露だったのか赤くなってしまった耳もよく見える。

 

とんでもない空気で誰も状況には口を出せない。するとそんな状況をアイネが破った。

「えっと、つまりあたしのせいでレナ、さんを不安な気持ちにさせちゃったってことだよね?その、ごめんなさい」

そう言ってアイネはペコリと頭を下げた。

 

その行動にレナは右手を壁から離し、ミナズキから少しだけ距離を取る。

「でも今朝の事はどうか大目に見て!あれは事故だったんだよー!」

「ケサノコト?」

 

レナはベシンっ、と音を立て両の手を使って今度はミナズキの逃げ道を完全に塞いだ。

「落ち着けレナ、話せばわかるはずだ・・・きっと、多分・・・恐らくは・・・」

何とかしようと言葉を絞り出すミナズキにレナはほぼ密着した体勢で詰め寄る。

「ミナズキ、詳しく話して欲しい・・・私は今、冷静さを欠こうとしている」

 

そこから少しの間、ミナズキは光のない目で見詰めてくるレナに張り付かれた状態で今朝の経緯を話す事になる。その間レナはじっとゼロ距離でミナズキを見詰めており、ミナズキは冷や汗をかくのだった。

 

 

 

女学院、聖餐室───

 

 

「み、ミナズキ・・・大丈夫?」

「大丈夫だ・・・オリビエ・・・みんなに話をしてあげてて欲しい・・・ガクッ」

「気絶しちゃった!?」

「ふふ、昨日今日の心労が一気に来てしまったようだねミナズキ。では君の希望通り話を続けよう」

場所を移して女学院の聖餐室、ぐったりした様子で席に座るミナズキを心配した顔でアイネが様子を伺うが本人はオリヴァルトに対して話を続けるように促し、そして気絶した。

 

「でも驚きました、士官学院の理事長が殿下でその殿下がⅦ組の設立をお決めになったなんて」

「元々トールズの理事長職は皇族が務める慣わしでね。元々はただのお飾りだったが一昨年のリベール旅行を機に私は自分の行動を決定づけた。」

 

一息ついてオリヴァルトは気絶しているミナズキを見ると一言。

 

「そしてミナズキ、当時《死の精霊》と呼ばれていた彼の行動が現在の特科クラスⅦ組のモデルになっているのだよ」

「え、そうだったんですか!?」

驚くアリサにオリヴァルトは頷くと続けた。

 

「そうとも、彼はいつも帝国中を歩き回っていた。そうして色んな町を見ていたそうだ。ただミナズキは表立った人助けは出来ない、その時から既に《死の精霊》の噂は広まりつつあったからね。下手に目立てば怪しまれてしまう、だから町の周辺に野盗や賊のアジトが無いかを探っていたそうだ」

「色んな町を巡って人助け、確かにⅦ組にも通じてる部分があるかも」

オリヴァルトの説明を聞きエリオットが頷く、すると突然レナが手を上げた。

 

「殿下、1つお聞きしても?」

「ん?どうかしたかい?」

自身の言葉に笑顔で返すオリヴァルトに軽く頭を下げ、レナはずっと気になっていたことを口にした。

 

「何故ミナズキと貴方はそこまで仲が良いのでしょうか?ミナズキは言ってしまえば平民で元人斬り、皇族の貴方とは接点が無いように感じるのです」

「あ・・・」

「そう言われれば確かに・・・」

レナの質問にエリオットとマキアスが反応した、他のメンバーもざわつき始める。

確かに2人は仲が良い、だがミナズキがオリヴァルトの事をオリビエと呼んでいたり逆にオリヴァルトからミナズキ宛に手紙や依頼が届く等、正直普通とは言えない。

 

これが平民同士、貴族同士ならまだ分からなくもないがオリヴァルトは皇族、ミナズキは平民でなおかつ人斬りという経歴持ち。

そんな2人がどうして気を許し合うような間柄なのか、レナはミナズキが手紙を書いていた事を知った段階から不思議に思っていた。

 

レナの質問の答えを聞こうとⅦ組の面々はオリヴァルトに視線を向ける、対してオリヴァルトは水を飲みコップを置くと切り出す。

「そうだね、君たちには話した方が良さそうだ。だが今は目の前にある食事に集中しよう、はっきり言って食事中にする話ではないからね」

 

そう返されⅦ組は自分たちの目の前にあるスープ皿を見る、少しずつ冷めてきているのか湯気はほとんど立っていない。確かにこのままでは冷め切ってしまうだろう。

 

みんなで慌てて自分のスープに手をつけ始める。しかし、聖餐室で摂られているとは思えないほどその食事スピードは早い。

普段本人の口からはほとんど語られないミナズキの過去の話、何故彼が士官学院に入ったのか、何故人斬りをしていたのか、それらを知る機会がこの先そうそう来るとは思えなかった。

 

「ミナズキ、おきて!ご飯中だよ!」

「・・・んん?あ、そうだったな・・・なんだかみんな食べるの早くないか?」

アイネに起こされミナズキも食事を始める、しかし他のメンバーが早すぎることに首を傾げた。

 

 

 

数分後───

 

「さてミナズキ、すまないがしばらくの間席を外してはくれないか?アルフィンとエリゼ君に女学院内を案内してもらうといいよ」

「え、なんで?」

「まぁ、君以外にしたい大事な話があるのさ。アルフィンたちを連れて行けば他の生徒たちが声をかけてくることも無いだろう」

 

オリヴァルトの提案にミナズキは渋い顔をするが逆らう気は無いのか諦めたように席を立つ、そのまま同じく席から立っていたアルフィンとエリゼと一緒に聖餐室から出て行った。

「さて、それでは話始めようかな」

そう言ったオリヴァルトにみんなは少しだけ前のめりになって話を聞き始める。

 

「先ず僕とミナズキとの関係だったね、一言で言おうかな『恩人』かな」

「恩人、ですか?」

「あぁそうとも、僕は皇族と言っても産まれた時から帝都にいたわけじゃない。僕は元はアルスターという辺境の里の出身でね、ミナズキと出逢ったのはミュラーから賊の巨大な1団がアルスターに向かっていると情報が入った時だった」

 

 

 

一昨年前、バルフレイム宮執務室───

 

オリヴァルトが執務室で書類を整理していた時、扉が勢い良く開け放たれ自身の幼馴染みであり親友でもあるミュラー・ヴァンダールが慌てた様子で部屋に入って来た。

「オリビエ!大変だ!」

「ミュラー?この書類の山よりも大変な事があるのかい?」

「言ってる場合か!アルスター近辺で賊の巨大な1団が目撃されたんだ!数は最低でも80以上、日に日に増えているそうだ!」

「な!?」

 

ミュラーの言葉を聞いてオリヴァルトは言葉を失う。アルスターはオリヴァルトの故郷でもあり今は亡き母との思い出の町、そんな場所を賊なんかに荒らされたくはなかった。

そこからのオリヴァルトの行動は早かった、すぐにミュラーに導力車を用意させたった2人でアルスターへと向かった。正規軍に連絡する時間すら2人には惜しかった。

 

 

 

 

辺境の町、アルスター ───

 

「これは・・・」

「何も起きてない?」

アルスターに着いた2人。

しかし町にはなんの異変も起きていなかった。キョロキョロと周りを見る2人に町の住人が声をかけてくる。

「あ、あの!貴方はまさか!?」

「ちょうど良かった、君に聞きたいんだが町に何か異変は起きてないかい?」

普段のおふざけも忘れて真剣な表情で聞くオリヴァルト。そんな様子に住人も慌てて首を横に振る。

 

「もしかしたら別の方向の山の方かもしれない、そっちに向かおう」

「あぁ、わかった!」

そこからは導力車は使わずに2人は己の足で走った。途中住人が2人を見て首を傾げていたが戸締りをしっかりするように指示をしながら走り続けた。

 

そして山の入口に着いた頃、ようやく2人は異変を感じ取る。

「ミュラー・・・」

「あぁ、微かだが聞こえてくる・・・これは剣戟の音だ」

 

山から吹いてくる風に乗って小さく聞こえてくる金属のぶつかり合う音。それを聞いた2人はそれぞれの武器を構えて山へと足を踏み入れた。

 

 

 

そして───

 

「あれは・・・!」

「恐らく片方は賊の頭目、そしてもう片方は・・・!」

大柄な男を太刀1本で翻弄している少年がいた、周り一面にはその少年によって斬られ絶命した賊が大量に転がっている。

 

賊の頭目は肩で息をしながら得物である斧を振り回すが少年にはまるで当たらない、そればかりか少年は攻撃を躱すとそのまま賊の頭目の足をひっかけて転ばせる。

「ぶべっ!?」

「・・・・」

情けなく転び謎の悲鳴をあげる頭目を少年は冷たい目で見下ろす、しばらくすると頭領は立ち上がったが腰は引けており最早戦意をほぼほぼ失っていた。

「お、お前一体なんなんだよ!?」

「・・・・」

悲鳴じみた頭目の問いかけ、しかし少年は何も答えずただ冷めた目で見詰め返すとそのままゆっくりと頭目に向かって歩み寄って行く。

 

「来るな!来るなよ・・・!」

「・・・・・」

「近付くな!寄ってくるな!」

「・・・・・」

罵声を少年に浴びせながら頭目は後退りし、少年は特に慌てる様子も無くじっくりと頭目を追い詰めていく。

「もう止めてくれ!死にたくない!2度とアルスター襲撃の計画なんて立てないから!な!?」

自身のやろうとしていた事を口にしながら命乞いを始める頭目。しかし少年の歩みは全く止まらず、むしろより身体中から放たれている殺気が増した。

 

「クソっ!」

説得が不可能と分かった頭目は持っていた斧を少年に投げつけ後ろを向き走り出した。

「・・・・『止めてくれ』『死にたくない』・・・か。そう言って命乞いをした人を、罪も何もないような人々を、お前たちはどれだけ殺してきたんだ?」

投げられた斧を弾き、少年はそう呟く。直後彼の姿は煙のように消えた。

 

そしていつの間にか少年は逃走していた頭目の目の前に立っていた。

「ヒィ!?」

「・・・死んで詫びろ」

瞬間、少年は太刀を振り下ろす。頭目は両腕で自身を守るように突き出し目を閉じた。

 

しかし5秒経っても痛みらしい痛みは来ない。

 

「な、なんだ・・・?」

頭目が恐る恐る目を開くと太刀を振り下ろしたまま固まっている少年がいた。

「お、脅かしやがって・・・覚えとけよ!」

自分が死んでいないと分かった途端、頭目はまたも走り出す。その顔は恐怖から解放された為か少しだけ晴れやかで希望を見出した表情だった。

 

だがすぐに異変が起きる。

 

ぼと、べちゃ、という音が背後から聞こえ頭目は振り返る。

見るとそこには肉付きの良い手が落ちていた。

「は、手?」

頭目はつい腑抜けた声を上げる、そして直後自身の両の手の感覚が無いことに気付いた。

「ま・・・さか・・・」

息が荒くなる、そんなはずないと考えるがそれでも自身の腕を確かめずにはいられない。

 

そして───

 

「あ・・・あぁ!?・・・お、おれの・・・俺の腕が!?」

頭目の両腕の肘から先が無い。痛みから地面に膝を着き頭目が唸っていると今度は自身の腹に縦1文字の切込みが入っている事に気付いた。

「ごめんなさい!ごめんなさい!許してくれ!頼む!」

口から血を吐き誰に対してでもない謝罪を続ける頭目。

しかし切込みはゆっくりと開いていきそして───

 

「ごべっ・・・!?」

べちゃり、と音を立て頭目の中身が地面に散らばる。

その場に倒れた頭目は急いで散らばった自分の中身を集めようと短くなった腕を伸ばし、その場で痙攣、そして動かなくなった。

 

 

あまりの光景にオリヴァルトもミュラーも固まっていた。しかし皇族の護衛の任を負っているミュラーの動きは早かった。

「オリビエ、下がれ!」

少しだけ遠くに居る《死の精霊》とオリヴァルトの間に立ち剣を構え惨劇を起こしたであろう少年を睨みつける。

少年も2人には気付いていたようで互いに睨み合うと2人の間に緊張が走る。

 

しかし、ここで切り出したのはオリヴァルトだった。

「君が《死の精霊》だね?意思疎通は可能かな?」

「オリビエ!?一体何を!」

「すまないミュラー、でも僕には彼がただの殺人鬼には見えないんだ」

慌てて止めるミュラーを制しオリヴァルトは少年の前に立つ。

「もう一度だけ聞かせてくれ、君が《死の精霊》なんだね?」

「・・・・人とまともに話すのはキルクスが死んでミネアと別れてからだから・・・3ヶ月ぶりだろうか?」

そう言って少年はオリヴァルトを見詰め返す。

 

 

これが後のミナズキとオリヴァルトが初めて話した瞬間だった。

 

 




ご拝読ありがとうございました。

レナが少しずつオープンになってきています。
次話もよろしくお願いいたします。

今回ミナズキの仲間の名前が出ましたがミナズキの過去って気になります?

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