かなり遅れてしまいました、何とかペースを直さなくては。
少年の放った言葉にオリヴァルトは首を傾げた。どちらの名前も聞いたことが無い、正規軍でも領邦軍でももちろん遊撃士にもそんな名前の人間はいなかったはずだ。
「すまない、その2人は君の友人かい?」
「・・・あぁ、それなりに1ヶ月ほど一緒に過ごした」
少し遠くを見るように返事をし少年は続ける。
「で、話とはなんだ?」
禍々しい殺気を消し聞く態勢をとった少年にオリヴァルトも気を取り直して話し出した。
「あぁ、聞きたいんだが・・・そうだな、先ずこの者たちは一体なんなんだい?」
「・・・そいつらはアルスターを襲撃する予定を立てていた野盗だ。二の腕の方を見ろ」
少年は顎で死んだ頭目の二の腕を見るように促す、オリヴァルトがそれに従い頭目を見ると黒いスカーフのような物が巻かれていた。
「それが奴らが徒党を組んでいる証、・・・1ヶ月ほど前の事だ。俺が1つの野盗のアジトを襲った時、そこの頭が手紙を持っていた内容はアルスターを襲撃する為に広範囲で他の野盗を集めている、というものだった。俺はそれから他にいた野盗を尾行し奴らの共通点を探し当て、そして決行日の前日である今日奴らを襲撃した」
「正規軍には通報しなかったのかい?」
「これでも自分の立場はわかっているつもりだ」
オリヴァルトの質問に少年は腕を広げて自身を見せつけるように話す。確かに彼は現在お尋ね者だ、不用意に他人に会えばそれだけ捕まるリスクも上がる。
なるほどと頷きオリヴァルトは質問を続けた。
「では・・・何故アルスターを助けたんだい?君にとっては特に思い入れも無い場所のはずだが・・・」
「無いぞ、でも人助けに理由や資格や権利は必要なのか?少なくともここには衛兵はいなかった、もし誰もあの野盗たちに気付かなかったら被害は出ていただろうし悲しむ人もいたはずだ」
少年はあっけらかんと答え、オリヴァルトはその返答に驚きを隠せなかった。
色んなところで飛び交う《死の精霊》にまつわる噂、やれ快楽殺人鬼だの子供の血を飲むのが好きだのとある所から派遣された化け物だの色々あったが本物を見てそれらが結局ただの与太話であり本物は善良とまでは行かないが確かな信念を持っていることが分かった。
少なくとも目の前の少年は根っからの悪人ではない。ただやり方を間違えているようには見える。だがその間違えていると感じるやり方で人々を野盗などの悪人から守っている事は変わらない。
そして皮肉な事にこの少年の行いで帝国の辺境の治安が良くなっていたのも事実だった。
そんな彼の精神性を知った時、オリヴァルトの口から出ていたのは勧誘の言葉だった。
「君、今は何歳だい?」
「歳?確か今年で16だったかな・・・」
「・・・決めたよミュラー、私は彼を士官学院で新しく作る予定のクラスに迎え入れようと思う」
「オリビエ!?何を言い出すんだ!」
「いや、彼のような存在が今後の帝国にきっと必要になる!」
少年の年齢を聞き士官学院に十分入れることを確認したオリヴァルトはミュラーの静止も振り切り少年をいずれ新設する予定のⅦ組に入れることを決意したのだ。
「とにかく君と連絡を取り合えると嬉しい、出来ればこのまま着いてきて欲しいが「まだ何も言ってない、それと出来ると思うか?」それはそうだね・・・しかし・・・ふむ・・・」
少年の答えも聞かずオリヴァルトは話を進めていく。来年度にテストを行い、そして再来年度に新設する予定の貴族生徒、平民生徒問わないきっと帝国に新しい風を吹かせてくれる特別なクラス。
様々な障害はあるだろうがとにかくオリヴァルトは彼を入れる事だけは頭の中で確定させた。
「ならば来年の・・・そうだな、12月頃にまたこのアルスターに来てくれたまえ、君を迎え入れる準備をしておくよ」
「いや、だから・・・・・めんどくさ、覚えていたらな」
こうして半ば強引に少年を勧誘したオリヴァルト、もちろん後からミュラーにしこたま怒られた。
だがこれで1人、新設するクラスに入る予定の人間が出来た。
だが───
昨年6月、バルフレイム宮、執務室───
オリヴァルトがいつもの様に書類と格闘していると慌てた様子のミュラーが飛び込んで来た。
「オリビエ!大変だ!」
「ミュラー?何かあったのかい?」
「あの少年が、《死の精霊》が帝国軍情報局、並びに鉄道憲兵隊によって捕縛された!」
「・・・なんだって?」
「場所はアルスター付近、領邦軍を嵌める形で行われた偽装作戦で多くの野盗に変装した貴族派閥の者たちを《死の精霊》に斬らせ、その上で捕らえたようだ。指揮を執ったのは情報局のレクター・アランドール、憲兵隊のクレア・リーヴェルトだ」
やるせない気持ちに襲われ握り拳を震わせながらミュラーは言う。しかしオリヴァルトは冷静を保ちながら口を開く。
「恐らく、いや確実にあの鉄血宰相殿の差し金だろうね。大方彼を自分の子飼いにする気なんじゃないかな?・・・それを前提に考えて、恐らく次に行われるのは・・・彼の処刑か?」
「処刑だと?・・・・まさか偽装か?」
「あぁ、領邦軍の人間が斬られた手前、彼らを納得させるにはそれしかない。別の人間を処刑しあの少年が死んだ事にすれば幾らでも言い含められる、という所かな」
「そしてその後に彼を自身の子飼いにすれば万事解決か・・・恐らくその斬られた連中も何かしら目障りだったのだろうな」
「だろうね、そんな者たちをアランドール大尉が口八丁で乗せたと言った所だろう」
如何にもあの宰相のしそうな事だ、と2人で頷く。
「だがオリビエ、どうするつもりだ?」
「もちろん取り返すさ・・・狙い目は身代わりを処刑する時間だね」
「・・・オリビエ、悪い顔をしているぞ」
「そう言う君こそノリノリじゃないか、親友」
普段の好青年さは何処へやら、ニヤリと笑いながら2人は少年を助けるために1つの計画を立てた。
─── 題して『《死の精霊》を助けて愛の逃避行作戦』
処刑当日、本物の収監されている拘置所───
2人の兵士がある牢の前で退屈そうに話をしていた。
「今頃はこいつの身代わりが処刑されてる頃だろうな」
「そうだな、これで領邦軍の目を欺きつつかの《死の精霊》を味方につけて正規軍は戦力強化か・・・」
「でも噂じゃ領邦軍の方もこいつをスカウトしようとしてたらしいぞ?」
「え?なんでだ?」
「なんでも色んなこいつが殺した野盗の所持品から貴族派閥に属する有力貴族との繋がりが見つかったらしい」
「なるほど、報酬を弾んで口封じをするってことか。ついでに飼い慣らして自由に操るって魂胆か」
上官がいないこともあって兵士2人の話は盛り上がる。
一方で牢にいる少年はそんな2人を冷めた目で見ていた。
そんな時、外の通路に出る為の扉がコンコンとノックされた。
「は?なんでノック?」
「さあ?お前見てきてくれよ」
「あ、あぁ・・・」
話している間もずっと扉はノックされ続ける、その状態に半ばイライラして来たのか扉に近付く兵士は大して確認もせずに不用意に扉へと近付いた。
「はいはい、何処の誰か知らないが今開けてやりますよー・・・誰だよこんな時にぶぇ!?」
そうして兵士がドアノブに手を掛けようとした瞬間、扉は恐ろしい勢いで開き、扉の前に立った兵士を吹っ飛ばした。
「お、おい!?」
突然の事にもう1人の兵士が驚いていると開いた扉から軍刀を持った覆面の男が突進して来る。
「な、何者だきさ「しばらく眠っていろ!」ぶべっ!?」
狼狽えている兵士の顔面に覆面の男の飛び膝蹴りが炸裂した。
「他には・・・居ないか」
瞬時に周りを見渡し他に兵士が居ないことを確認した覆面の男、もといミュラーは牢の近くにあった大きめな箱を開ける。中には外套や武器のケースそして太刀が入っていた。
「これは君の物だろう?《死の精霊》」
「・・・あぁ」
箱の中身を見せ、ミュラーは少年に確認をとる。本人も頷いたので直ぐに牢の鍵を開ける、予定なのだがミュラーはここで少年に質問をした。
「1つ、聞きたい。何故アルスターに居たんだ?オリビエの言っていた12月とは半年以上も離れている。なのに何故だ?」
疑っている訳ではない。だが去年はほとんど話さずにいた少年の本音をミュラーは聞いておきたかった。
そんなミュラーの気持ちに答えるように少年は口を開いた。
「またアルスターの付近で野盗たちが徒党を組んでいると、話が流れてきていた。だが野盗のくせに妙に統率が取れていたり武器がしっかりとした物で統一されていたりと変だったとも思う」
「では何故・・・」
「それでも決めつけられなかった。少なくともお前の主は12月に来るように言った。もし今回の野盗が本物だったとしたらアルスターは壊滅するかもしれない。・・・あんたらの故郷なんだろ?・・・故郷が無くなるのは誰だって辛いだろ」
「・・・そうか、あいつの目もなかなか捨てたものではないな」
少年の言葉に嘘を感じなかったミュラーは牢の鍵を開け少年を解放し箱から取り出した荷物を渡した。
「急ぐぞ、外にオリビエがいる!」
「わかった」
そうして2人は拘置所から逃げ出す、外に出ると1台の導力車が止まっていた。
「Heyそこの彼氏たち、僕とドライブしないかい♪」
完全に悪ノリを始めているオリビエ、そんな彼を拘置所から出てきた2人は白けた目で見ている。
「オリビエ、巫山戯ている場合ではないぞ」
「乗るべき、なんだよな?」
「ふふふ、勿論だとも!さぁこの車に!」
呆れるミュラーと少年をよそに運転席でドヤ顔を決め込むオリビエ。しかしそんな彼らに背後から声がかかる。
「あ、貴方はオリヴァルト殿下!?」
「そいつを何処へ連れて行く気ですか!?」
背後から来たのは拘置所に詰めていた3人の兵士たち、牢の方が騒がしかった為に見回りに来たのだ。
「おやおや、兵士諸君ご苦労さま」
「で、殿下!そいつは凶悪犯です!今すぐ返していただきたい!」
「凶悪犯?その少年とやらは今日先程処刑されたはずだが?それに僕は久しぶりに会う知り合いと一緒にドライブに出かけるだけだよ?」
「ぐ・・・いや、それでもお離れください!」
何を言ってものらりくらりと躱すオリビエ、そんな状況に兵士たちは痺れを切らし始め武器を手に取り始める。
だが───
「御託は十分だろう」
そう言いながらミュラーも兵士たちの前に立ち軍刀を構える。
「どうする?もしそちらがその気ならこちらも一切手心は加えない。無論こちらの少年にも手を貸してもらう」
「・・・やればいいんだな?」
兵士たちを威圧するミュラー、それに合わせるように少年も前に出て太刀を構える。
「ぐ、ぐぐぐ・・・」
「さぁ、どうする?」
ミュラー・ヴァンダールの戦闘力は勿論、《死の精霊》のこともよく分かっている兵士たちはただ唸るしかない。
少し睨み合いを続けた2者、だがここで兵士が諦めたように武器を下ろす。
「無理だ・・・この人数では時間稼ぎにもならない」
そうして武器を下ろした兵士、ミュラーと少年は急いでオリビエの乗る導力車に乗り込むとそのまま導力車は勢い良く発進した。
アルスター付近───
「ははは!上手くいったじゃないか!」
「あぁ、だが問題はある意味ここからだ」
「・・・・」
作戦の成功に笑うオリビエ、同じく笑ってはいるが真剣さは崩さないミュラー、少年は特に何も言わず後部座席でぼうっとしていた。
「まぁそれはそうだね、彼を何処かで匿わなければ」
「下手なところではすぐに見つかるだろうな」
「・・・・・」
話し合いをしている2人をよそに少年は窓から見える景色を見ている。
「(なんだか、随分遠くまで来た気分だ)」
そうして少年が考えていると前の席の2人から声がかかった。
「そう言えば少年、君の名前は変えるべきだね」
「確かに、そのままではダメだろうな」
「確か今は──クだったね。で、どうするんだい?」
確かにこのまま本名を名乗り続けたらすぐに帝国政府に見つかるだろう、少年は顎に手を当てて少し考えると1つの名前が頭によぎった。
「じゃあ、ミナズキ・・・ミナズキ・バンシアで」
「ミナズキか・・・ちなみに由来は?」
「俺が捕まり、処刑されたのは6月だ・・・東方よりも東の方では月に別の名前がある、6月の名前は水無月(みなずき)だそうだ。俺はその日に死んで、そして新しい人生を生きる。だから俺はミナズキだ」
少年の新しい名前にオリビエは頷く。
「良いんじゃないかな、ちなみにバンシアはもしかしてバンシーから?」
「あぁ・・・」
「とりあえず少年、いやミナズキをどこに匿うかを決めるか」
その後、少年はミナズキと名を変えて生きる事になる。
そして士官学院に入学するまでの間彼は神父見習いの変装をしてクロスベル大聖堂に身を寄せることになった。
ご拝読ありがとうございました。
やはり最近はなかなか書ききれません、長い目でお願いいたします。
今回ミナズキの仲間の名前が出ましたがミナズキの過去って気になります?
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気になる
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気にならない