今まで更新を心待ちにしてくださっていた皆様、大変お待たせいたしました。
就職活動と体調不良で長らく更新ができていませんでした。申し訳ございません。
連休で数話を連続投稿したのち、体調と相談しながら、また一、二週間に一話ほどのペースで更新を再開していけたらと思います。
もし引き続き読んでくださる方がいらっしゃるのなら、大変嬉しく思います。
●期間が空いたので、ここまでの非常にざっくりしたあらすじ
ファンタジー世界の古代中華風国家に転生したイカれ主人公ことリィンが、メスガキロールプレイをやめようとしたりやめられなかったりするお話。
リィンは自身の所属する軍事組織『軍府』からの命令で天華軍府立学園に入学することになる。
軍府側の意図がよくわからないまま、軍府の計らいで生徒会にあたる組織『学監会』に就任し、学園生活を送っていた。
学園生活の中で
しかし、入学後に開催された学科交流会中に謎の宗教団体『星の子』により学園が大規模襲撃を受ける。
リィンと生徒会メンバー(会計ギャル:フェイ、お嬢様会長:フィーシャ、ロマン片眼鏡:コウ)、友人たちは各々で襲撃に対処すべく動き出した。
リリア・リリエ姉妹は襲撃者をなんとか撃退したようだが、他のメンバーは果たして――?
しばらく妹と抱きしめ合った後、リリアは考える。
結局コイツらの狙いはなんなの? たぶん私たちがその一つなのはわかる。けど、そのためだけにこんな大規模なことをする必要なんてないはず。
仮に先祖返りという存在が彼らにとってどれほど大事であっても、リリアとリリエだけが目的というのなら、誘拐でもすればいい。
もしくは、勧誘などのもっと穏やかな手段をとる可能性もあるだろう。少なくともこんな、大規模な『襲撃』のようなことを起こす必要性が見当たらない。
学園への襲撃そのものが目的……? 何のために。
もし襲撃そのものが目的でないのなら大規模な襲撃は――
――
~~~
一人の観客もいない歴史博物館を、灰色のローブを纏った集団が進んでいた。
文化研究科の歴史博物館は大して人気がないためもとより人が少ないが、学園各地で発生している騒ぎにより、今や静まり返っている。
「おい、ガキさっさと動け。その魔道具を捨ててついてこい」
「あの、これ煙止まらないんですけど……」
「すぐに消える! 言われたとおりに捨てればいいんだ!」
【星の子】の構成員が、みすぼらしい青年に命令している。
青年の手には、この作戦の開始合図を出すときに使用した魔道具が握られていた。
目立つ煙を伴う光を発生させる信号用魔術をこめた使い捨ての魔道具だ。
「それか、お前の魔術で縮めればいいだろ!」
「わかっ、りました。《縮め》」
青年の手の中の魔道具が急に小さくなっていく。腕ほどの長さの魔道具は、最終的に手のひらにすっぽり収まる大きさにまで縮んで、その分煙もほとんど出なくなった。
「ぐずぐずするな! わかってるのか!
その構成員の言葉に、青年は「知らんわボケ……」と周囲に聞こえないよう、小さく呟いた。
青年はそこいらの小国の元難民である。天華連邦の門閥貴族たちの侵略に踏みつぶされた、数多の小国の片隅に、幼い彼は住んでいた。
しかし、それもはるか昔のこと。国への帰属意識などとうになくなって久しい。いや、元からなかったかもしれない。優しかった両親を奪った天華連邦は憎いが、そんな憎しみばかりを考えて生きられるほど、戦争孤児の境遇は甘くはなかった。
自分がいる地域がどこの国かもわからないままに、自分の『特殊な魔術』で窃盗を繰り返して食いつないできた。
その青年の頭を占領している目下の悩みは、年端もいかぬころに戦火に巻き込まれて難民となったことではなく、つい最近まで根城にしていた町が突然不気味な集団に襲われ、支配されたことにある。
「おまえを奴隷ではなく『屑星』として使ってやっているのは、お前の魔術に利用価値があるからだ。その価値を示せ」
知るか、ワイに生意気な口きくな。
と言いたいところを抑えて、青年は目の前の不気味で、巨大な謎の生き物の死骸に魔術を使った。
「《縮め》」
なぜか青年は、生まれた時から自分がモノを小さくできると頑なに信じていた。信じ込んでいた。
……信じているという表現では生ぬるいかもしれない。確固たる自信どころか、彼の現実の中ではそれが当然の摂理であった。
ちなみに、この学園の生徒は誰一人として、青年のようにモノを小さくする魔術を使用することはできない。
それを魔術理論の知識もなければ、正しく魔力を操舵する鍛錬もしたことのない彼が会得していた。
……ここに魔術理論学者がいれば、この青年が『識相持ち』であると論じるだろう。
生まれ持った精神の異形による世界への特異な認識、それがもたらす特定のイメージの偏執的な強化。または、異常に偏った特徴的な魔力適性。もしくは先祖返り、つまり祖先の原始魔族に近しい魂構造の特化。
それらによって発現する、特別な魔術を『異相魔術』といい、それを持つものを『異相持ち』と、一般的に呼ぶ。
彼の場合それが『認識』からくる異相魔術なので、『識相持ち』というわけだ。
「おい、なにをやってる? さっさとしろ」
「その、なんかよくわからん、のですけど。このデカいキモイやつ、変なテカテカみたいなのに包まれてて」
「なに? やはりか役立たずめ。気持ちの悪い魔術を使う、お前なんぞを連れてきたのが間違いだった。プランBに移行する。総員、騒動の混乱に乗じてこの【星遺物】を運搬するぞ!」
もとから信用してなかったくせに。
そもそも、もし彼らが「青年が初めから成功する」と確信していたならば、こんな手間暇かけた陽動や、複数人での行動など必要ない。失敗前提の、うまくいったらラッキーくらいのノリで、教徒たちが自分を死地に連れてきたことが彼は腹立たしかった。
「リ、リーダー。だめです」
「どうした?」
「何かが、我々の干渉を阻んでいます! 魔術が通らないっ」
「――まぁ結界張ってるしねぇ」
突然、物陰から服を着崩した一人の女子生徒が現れた。
普段の朗らかな声のまま変わらないはずなのに、どこか仄暗さを含んだ声を震わせながら。
展示ガラスの上から結界が張られている。馬鹿な。そんなものは昨日の時点ではなかったはずだ。
この星遺物に大した防犯は施されていないことは、【星の子】構成員による前日の下調べによって確認されていた。つまり、これはごく最近用意された結界だということだ。そしてこの強度。そうそう広範囲に展開できるものでもないはずだ。
となると、ごく最近、ピンポイントで、ここに結界を張られている。
この不可解な現象の主は間違いなく突然現れたこの女。
「なぜ、我々の狙いがわかった……!?」
「わかってたわけないっしょ。考えられる選択肢、全部潰してっただけ」
突然現れた女子生徒、会計のフェイは先日、入場者の中に怪しいものたちがいるとわかってから、考えられる外部勢力を全てリストアップ。そこから直近に事件を起こす可能性が現実的でない組織を一つずつ除外していった。そして、残ったそれぞれの勢力の狙いの予想を立て、その全てに仮の対応策を打った。
自分を凡人であると自嘲する彼女がとったのは、しらみつぶしという手法だった。
そうした中で【星の子】の想定目標が的中し、対応策が機能した。ただそれだけ。
彼女は尊敬する父親のように、他の家族のように、天才的な頭脳で一つの結論を導き出すことはできない。
他者が聞けば称賛を送るであろうこの行為も、フェイ本人は、『愚鈍』であると断じている。『天才』であれば、もっと素早く、スマートな解決手段をとれるはずだと。
「いやぁ、今のアタシ、寝不足で機嫌悪いんだよねぇ。つ、ま、り。さっさと制圧されちゃえ、ってこと!」
《焦点は無。水を生成。焦点を水に変更。鞭に形成。操作》
水でできた鞭が空中に浮かび、蛇のように曲がりくねりながら教徒たちに向かって飛んでいく。
「くだらん」
しかし、教徒たちも重要な作戦を任されるに足る精鋭。いとも簡単に水の鞭を手にもった剣で切り払う。
そのまま一人の教徒がフェイのもとまで一息で距離を詰め、両断すべく斜めに剣を振りぬいた。
「メガネくんヘルプっ!!」
しかし、その剣はフェイの身体に届かない。
機械の腕のような構造が、フェイと教徒の剣の間に割って入っていた。
一瞬両者は拮抗していたが、教徒は死角である真横から飛んできたもう一つの腕を、ローブの下に隠した短剣で切り払いながら下がる。
二つの腕は空中で旋回しながら一か所に、操者のもとに戻っていく。
そこには、ゴテゴテした機械的な頭部を身に着け、腕を重厚な機械鎧で――――そのほかの身体部分をピッチリした黒いラバースーツのようなもので覆った小柄な男子生徒がいた。
「うわぁ、何回見てもダサっ」
「それが命の恩人への態度か!?」
しかたないだろ、頭と腕以外まだ完成してないんだから。とブツブツいいながら現れた学監会員、コウの周りには、複数の腕ファンネルが、主人と同行者を守るように飛び回っている。
「いやでも、マヂ助かった。死んだかと」
「油断するなよ、あれはヒエロポリス系の強化魔術だ。普通の剣じゃない。舐めた防御魔術では諸共切られるぞ」
「さすがメガネくん、適切なアドバイスぅ! ……やけに
「……。無駄口たたくな、魔術行使に集中しろ」
「へーい。じゃあ、防御だけヨロシク」
《焦点は水》
再度自らの周囲に、拳大の水球を複数生成する。
水球は彼女の周囲を巡るようにぐるりと浮遊したのち、様子見している窃盗犯たちに向かって飛んだ。
馬鹿の一つ覚えか。
先ほどコウの機械腕を切った剣士は、再び剣で切る、というよりも弾くために、剣の持ち方を変えた。
液体操作の魔術は、操作中の液体が分散するほど制御が難しくなる。
それを踏まえての持ち替えだったが、それ以前に変化が起こった。
……!? 爆発?
水球は彼らの手前で爆散し、霧のように拡散し広範囲の視界を奪う。
「お前たちは無理に動くな! 同士討ちと、背後を警戒しつつ、元素魔術の心得があるものは霧を晴らせ!」
仲間に声をかけると同時に、正面から迫る何かを切り払った。視界の大部分を失ってもなお、剣の冴えは衰えない。霧の僅かな揺らぎから攻撃の気配を察知し迎撃した。
が、切れていない。
まるで金属と接触したような音が響いた。
先程の水の鞭と比べて硬度、込められた魔力量が段違い。
この剣で押し負けるか……。
……? 霧で方向感覚が失われているせいか、上手く普段通りに剣を振るえていない。
霧を無理やり抜けることも考える。しかし、相手は当然その瞬間に攻撃を集中するだろう。
優れた元素魔術の使い手は、自身が魔力を与えた元素に触れているものを知覚できる。
当然動きは読まれており、手痛い反撃を食らう可能性が高い。
このまま防御に徹し、仲間が霧を晴らすのを待つ方が安牌……。
突然二方向からの気配を感じ、それも迎撃する。
増えた……、おそらく先程の物体を分割している。
切り結びつつ、袖の下に隠した機械弩を起動した。張力の解放に伴い、太い
遅れて二度、硬い何かに突き刺さる音の反響が聞こえる。
防がれた。
おそらく、もう一人の男に。
……そう甘くはないか。
ゆっくり霧が晴れ始める。
ようやく魔術の上書きに成功したのか。
……。まて、おかしい。仲間の気配がない。先ほどから、いくら何でも静かすぎる。
「おい! へんじをし。なに、ぁった」
ろれつが。
――――少しさかのぼり、霧に包んですぐ。
フェイがズバりと、なんの躊躇もなく手首を切った。
「ちょっ」
「?」
ぶしゅっ。勢いよく飛び出た血がすぐさま体外で固体化、鞭のような形状に成形される。そのまま、矢のような速度で霧の中に飛んで行った。
「……急に手首を切るな。驚く」
体内は意識せずとも常に、最も自身の魔力が満ちている場所。水魔術が得意な以上、血液を武器として使う、という理屈は理解できるが……。
微塵も躊躇がない、しかも真顔で、というのはちょっと怖い。と思うコウであった。
「作戦は聞いていたが、このままでいいのか?」
「うん。防御だけよろしくぅ★」
「了解した。《
コウが発動したのは身体強化魔術を目に集中する技だったが、実際反撃で飛んできた矢は
「……なるほど。しかしこれまた――」
霧が晴れる。記憶よりも離れた、そう、霧に絶対に触れないような位置に学生二人は立っていた。
先ほど撃った矢は、見当違いの方向の壁に突き刺さっている。
後方では、仲間がすでに倒れていた。
猛烈な嫌な予感、それが確信に変わっていく。
先ほどの霧、霧が。
「――毒とは、意外と便利なものだな」
ロマンに欠けるが。と、奇妙な格好の男子学生は、仮面の上から無理やり装着したモノクルを弄りながら告げる。
ま、まさか、毒……? 毒だと……?
毒などという複雑な物質を作り出し、操る魔術など……、まさか……。
先祖返り……? いや。
「ぃっ、ぁ、異相魔術っ……!! 異相持ち、かぁ……!?」
「違う」
「――これ、な〜んだ?」
フェイの手には、ガラス製の小瓶が握られていた。中にはわずかに、
…………!!
「答えは、いらないっしょ? すっごい単純。瓶の中身を水に混ぜただけでした〜」
生成した水をこれ見よがしに自分の周囲に浮遊させていたあの時に。後ろ手で敵から見えないように、瓶の中身の薬品を水に混ぜていた。たったそれだけ。
異相魔術なんて分かりやすい『特別』を、フェイは残念ながら持ち合わせていない。
フェイがしたことは、毒を用意して、単純な水魔術をあらかじめ使うことで『こいつは水で戦う元素魔術士』と印象づけただけ。
水魔術の水鞭を使用――そしてそれがあっさりと破られていなければ。その後に似た、しかしより強力な血液操作の魔術を経験しなければ。彼はもう少し様々な可能性を「霧」に対して想起していたはずだ。
毒――呼気・経口吸入麻酔薬を、霧の微細水滴から一定量体内に取り入れる前に、速やかな脱出を図れたかもしれない。
ともあれその場合、生け捕りを断念して「攻撃」する手段は、二人にはいくらでもあったわけだが。
「で、後ろにいるやつ、まだやんの?」
フェイの鋭い目は、廊下の奥、先ほどの霧の魔術の射程外に存在する星の子団員に向けられていた。
背後の警戒役にして――おそらく、緊急時の連絡役。それが、逃亡の構えを見せている。
「追いかけて捕まえて―― /ヒュッ」
フェイの言葉を遮ったのは、弩から放たれた、一本の矢。
「ま、だぁ、ぁ」
剣士の男は、まだ動く。
そもそも常人なら数秒で昏倒する霧の中で三十秒以上意識を保っていた時点で、この男もただ者ではないのだ。
「のま、ま……、ぉ、おわれるかっ」
男が、ふらつきながらも剣を持った右腕を大きく後方に反らせ、肩をしならせる。
――投擲の構えだ。
その刃の強化魔術には未熟な学生の防御魔術を貫通するのに充分な魔力が込められており、その構えも破れかぶれではなく堂に入ったものだ。この投擲術にはヒエロポリスの力学魔術も併用されており、投擲中に軌道を複雑に変化させることで回避を困難とする効果が込められている。
誇張ではなく、そのまま学生二人の胴体を泣き別れにする威力が込められていた。
しかし、そうはならない。
けたたましい音とともに何かが炸裂した。
彼の身体は投擲を行う前に床材とともに一瞬浮き上がり、その後完全に動かなくなった。
こうして、星遺物盗難班の最後のあがきは、彼の足元の突然の爆破により阻止されたのである。
「まぁ、そもそもお前たちははじめから詰んでいたというわけだ」
そう告げた全身ラバースーツマンの手には、何やら小さなボタンの複数ついた装置が握られていた。
この博物館の廊下には、あらかじめ等間隔に大量の活性霊晶爆弾が敷き詰められている。起動装置がコウの手にある時点で、彼らが助かるには撤退の選択肢しかなかったわけだ。
そもそも生け捕りにしたかったし、仮にこれらを一斉に起爆しなければならないような事態に陥っていたら、この博物館は半壊していただろう。だからこそ、使う事態にならなくてよかったが。
「僕たちには丸一日、準備の時間があったんだぞ? 結界しか仕掛けが無いわけないじゃないか。とはいえ、よくこれだけの爆弾を用意できたな。遠隔起爆装置付きのタイプなんて、天華連邦じゃ珍しいだろう」
「まぁウチ、金だけはあるんで」
お金マークのジェスチャーを手で作りながら、フェイはおどけてみせた。
「ただまあ……。一人逃げられたねぇ。正直、半分わざとだけど」
直後。
ビィ―――――!!!!!!
ブザーのような、アラートのような耳障りな音のあとに、キィーーンという甲高い音が、響き渡った。
「撤退信号……ってところかにゃ?」
「むしろ好都合だろう。初めから殲滅が目的ではなかったからな」
遺物確保班 vs フェイ、コウ―――――、とりあえずフェイとコウの勝利。
「……おぉ~怖ぁ。すぐに《縮んで》て助かったわ……。ほな、さっさと退散しよ……」
★Topic
毒は作れないと言っていますが、ぶっちゃけ単純な構造の毒物(一酸化炭素とか)なら作ろうと思えば作れます。ただし品質は不安定になります。また、複雑な構造をもつ有機毒とかはそもそも作れません。たぶん作ろうとしたものと別の物質ができます。
今回使用された毒は神経に作用する植物アルカロイドとかですね。
また今度その話もするつもりですが、文明レベルと比較して自然科学の発展が遅いので、その辺りの事情も毒に関係してます。
★お詫び
以前まであとがきで書いていたプチ設定集のようなものを見返していたところ、設定に不備のある部分が多数見受けられました。そのため、該当部分を訂正、または全削除して書き直そうと思います。そもそもステータス的なものは今後も変動するので、いったん消すかもしれません……。
何卒、宜しくお願い致します。
★明日は17:00更新予定です。
あと数話以内で主人公を活躍させます。