皆様からの温かい応援、感謝いたします。また余裕があるときに感想に返信などできたらなと思っています。ありがとうございます。
これからもできる限り投稿を続けていきますので、よろしくお願いします。
学園中央広場は、すでに原型を留めていなかった。
石畳を破り、大地から突き出す岩の大槍が乱立し、
「うむむ……、ですわ」
飛んでくる魔術弾を的確に地面から即席の盾を生やして弾きつつ、視界の端に映った女子学生を狙った軌道の遠距離魔術をついでに防ぎながら、フィーシャは悩んでいた。
彼女本人を狙うだけでは止められないと考えたのか、敵は少し前から散開、他学生を積極的に攻撃し、気を逸らして来るようになった。
むむむ。まずいですわね。
正直こちらがやられる気はしないのですが……。
リィンさんの救援に向かうのは難しいかもしれません。
私だけならどうとでもなるのですが。
彼女は、周囲を囲む敵の攻撃を捌きつつ、学園中心部の広場から逃げ遅れた学生を並列して保護していた。
それに、加えて。
正面から筋骨隆々の大男が、巨体に似合わぬ速さで突進してくる。
横に跳んで避けつつ、すれ違いざまに手元で形成した黒光りする剣を射出。
剣は男の身体に突き刺さるが、動きの鈍る様子はない。
躱されたと判断した男は、剣が刺さっているとは思えない動きで急転換し、その勢いのまま拳を横薙ぎに振るった。
フィーシャは足場のための石を空中にて一瞬で形成。跳躍の軌道を無理やり変えて距離をとる。
う~~ん。やっぱりこのお方がめんどくさいのですよねぇ。
先ほどの突進に巻き込まれた校舎の一部は瓦礫の山と化しており、その威力のほどがうかがえる。
フィーシャの本能が彼を格下だと断じているが、完全に気を抜いていい相手でもないことはたしかだった。
男の周囲を囲うように地面から大木のような石柱を複数本生やし、足場の石から石柱へ、石柱から石柱へ、四つ足で飛び移る。
いつのまにやら彼女に握られていた黒い大剣が、石柱の立体軌道によってフィーシャを見失った男の巨腕を、肩ごと両断していた。
「獣ですか貴方は」
片腕を失った男は、石柱にぶら下がる彼女を鬱陶しそうににらめつける。
しかしながら、男の身体は傷口から泡を立てるように再生を始めていた。
さっきから明らかに致命傷になりそうな深手は与えているつもりなのですが。
再生魔術が得意……?それにしても連発しすぎですわ。
再生魔術は、その名の通り損傷した肉体を再生する魔術である。
より詳しくは、『自分の肉体を正常(であると認識している)状態に戻す』魔術。
一部の高位の魔術士のみが使用できる、肉体という複雑な要素を扱うために非常に燃費が悪い魔術だ。
明らかに普通ではない。目の前の大男は、致命と思われる傷をすでに五度、治している。
四霊大家の後継者候補である自分ですら、同じような魔術行使をすれば魔力不足は免れない。
なにかしらのタネはあるのでしょうが、こちらにそれを暴く余裕があるのかといえば、びみょ~ですわ。
こうして思考している間にも、他学生への攻撃を、地属性の魔術でマルチタスク的に防御している。
そうしているうちに、また大男がこちらに狙いを定めているのが見えた。
周りには守るべき、自分よりも弱い学生たち、まだ倒壊していない校舎部分、備品etc。
唐突だが、フィーシャは四霊大家、それも宗家の令嬢である。
四霊大家というのはこの国における不動のトップオブトップ貴族。そこらの国家の王族よりも余裕で尊ばれるべき存在。
貴族という特権階級の中の特権階級。
つまり、何が言いたいのかというと――
『優しい』と評判の彼女であっても、他人へのこまごまとした配慮は、案の定あんまし得意ではなかった。
め・ん・ど・く・せぇ~~~、ですわ!!
別に学生たちを守りたいという想いも、貴族として規範となるべき行動をとろうという想いも、もちろん持っている。
彼女は権威のみをむさぼる愚鈍にはなりたくない。
しかし、本心からこの状況に辟易していたのである。
「もう、いいですわ」
後のことは後で考えます。
校舎の建て替え費用は出す、学生は――ちょっと軽い怪我とかするかもしれませんけど、大事にはいたらないように調整して保護する。
「ここら一帯。地盤ごと、あなたたちを平らにしてあげますわ!!」
「【
――キィィィィン――
うん?
耳をつんざくような音響。
そして、目の前の大男の様子がおかしい。
……さっきの音は何かしらの合図?
瞬間、襲撃者たちは散り散りになって逃走を開始した。
秩序のある逃走ではない。まさに蜘蛛の子を散らすようにばらばらの方向に離散していく。
「ちょっ」
潔い逃げの姿勢、それに圧倒され、判断が鈍る。魔術の構築が途切れる。
「—―逃がさない!!」
途中まで構築されていた魔術を無理やり別の魔術に繋げ、発動する。
地面が波打ち、幾人かの襲撃者の下半身を飲み込んで固定した。
しかし、半数以上はすでに効果範囲を外れてしまった。
大男の姿もない。一瞬意識をそらした間に、いつのまにか消えていた。
あの巨体が不自然なまでに、突然掻き消えたかのようにいなくなっている。
「―――っ」
逃がした。しかし。
学園の面するこの都市の東側は森に囲まれている。
国外方向への脱出ならばそこからのはず。
追撃を――。
「まってまって!ストップストップ!!」
空中からの声に冷静さを取り戻す。
日が落ち始めた空に、桜色の少女が浮かんでいた。
「リィンさん!そちらは終わったのですか?」
「うん。広場以外の暴徒は制圧済み。戻ってくる途中で変な音が聞こえて……。この感じだと、逃がしちゃった感じ?」
うっ。と言葉に詰まったあと、絞り出したようにまだ未熟な麒麟は答えた。
「……半分は捕まえましてよ」
その言葉を聞いたリィンは一瞬きょとんとした後、にんまりと笑った。
「ただの確認だったんだけど……、意外とそういうの気にするタイプなんだぁ、かわいいじゃん」
む~~っ。なんだか悔しいですわ。
あ、そうだ。
「リィンさんはこれからどうしますの?」
桃色の少女はこちらに背を向けて。
「うん、仲間と合流して――殲滅してくるよ」
~~~学園近郊の森、国境側~~~
学園から少し離れた森は、国境に近づくにつれてその領域は人の手を離れていく。
学園側から森に入った場合小一時間も経たずに、人の手の入った道は消え、未開の自然が彼らをお出迎えすることになるだろう。
日が落ちた深い森の中のとある地点、月光に照らされる大岩のもとに、いくつもの人影が集結していた。
大男、――ライムスもそこにいた。
彼らはあらかじめ魔力をアンカーのように用いて目印を作り、作戦後の合流場所を設定していたのだ。
しかし、現在合流できている仲間は1/3ほどであった。
逃げおおせただけあって、全員が今回の襲撃者の中でも精鋭たち。それでも。
――敗北。目的も何一つ達成できていない。完全なる敗走であった。
「「「一人デ先走ルカラダ」」」
背後からかけられた声は、複数の無機質な人間の声が重なったような独特の音を伴っていた。
別々の棒読みの音声を、少しずつずらしながら重ねたような、不愉快な声だった。
「第四軌道、カロン様。撤退への支援、感謝いたします」
星の子教団は、先祖返りを多数擁する。その中でも強い力をもつものたちに、古の時代より魔王達の眷属が拝命してきた「軌道」という敬称を踏襲し、その名が授けられている。
ライムスも、その末席である十三軌道に名を連ねていた。
「「「否、マダ何モシテイナイ」」」
「それでも、一人飛び出した私をこうして助けにきてくださいました」
「「「……。」」」
風が吹く。木々が揺れて動き、空いた隙間から月明りがその姿を照らした。
古代ギリシャの白い彫刻のような、おおよそ人間とはかけ離れた姿がそこにはあった。
あえて表現するならば、身体にあたる部位では彫像同士が絡み合って手を取り、その上に、苦悶に満ちた彫刻の顔が複数混ざりあっている。
また、身体(?)の各部位から青白い人間の手足が飛び出ている。
注意深く見れば、彫刻部分も含め、それらがすべて屍人で作られていることがわかっただろう。
「「「焦リスギダ」」」
「「「物事ニハ順序トイウモノガ或ル」」」
「「「生キ残ッタオ前ガ戦力ノ補充ニ逸ルノハ理解シヨウ、ダガ」」」
「「「無謀ナ特攻ハ推奨シナイ」」」
その通りだ。私は他の幹部の救援を待たず、情報の裏取りも行わずに決行した。
冷静ではなかった。――もうずっとだ。
『星の子』教団が正体不明の戦闘集団と争い、事実上壊滅まで追い込まれたあの日から。
突如現れた白と銀の不気味な存在達。妙なことに、彼らからは一切の魔力を感じなかった。
こちらも当然奮戦した。敵にもある程度の打撃を与えた。
しかし、教団の絶対的な指導者である教主、そして第二軌道が討滅され、第一軌道は行方不明、第三軌道は謎の技で封印された。
教団。私の居場所は、唐突な災害のような出来事によって事実上崩壊した。
いや、感傷に浸る前に、やるべきことがある。
反省、情報共有、立て直しだ。
「まずは謝罪いたします。以後、軽率な行動は控えましょう」
「次に今回の作戦の共有を行います。我々は『會』からの情報提供を受けて、作戦を立案しました」
「「「『會』ーー、『百蓮會』カ? アノ集団トハ教義ノ仔細ガ異ナルトハイエ、目的ヲ同ジクスル、異郷ノ同志デアッタハズ。彼ラニ一体何ガ」」」
「楽しそうな話だ。おじさん達も混ぜてくれないカナ?」
「!!」
突如として、森の中に聞きなれない声が響き渡る。
声の主は、木々の太い枝の上に、屈むようなポーズで立っている。
片手には、身の丈ほどもある正体不明の長杖を携えていた。
目元に深い隈をたたえた、どこか覇気のない壮年の男性が一人。いや、他の木々に新手が二人。いや、もう一人。全部で四人か。
正体不明の乱入者は、みな一様に、装飾の施された白いトレンチコートのような服を羽織っている。
白装束が、嫌な思い出を想起させる。が、どうやらかつて教団を破壊した集団ではなさそうだ。似ているが、雰囲気も意匠も全く違う。
「あぁ、お話に混ざる前に自己紹介をしておこうか。おじさんたちは【
「我が国を侵してきた星の子、って連中をお掃除しにきたんだ。知らない?」
「…………」
「おや 黙秘かな? ーー正直、君達が星の子だろうっていうのはわかってるんだ。けどこっちも蛮族じゃない。一応公務員なもんでね。何も聞かないままドンパチ始めるってワケにもいかんのよ」
返答は、投石、いや、投岩であった。
大男、ライムスが腕を巨大化させ、近くにあった人よりも巨大な岩を掴んで砕き、そのまま振りかぶって投げたのだ。
砕かれた岩はさながらこぶし大の散弾のように散らばり、そのまま【白鍵】とやらを名乗る集団のいる枝を巻き込む形で、正面の木々をなぎ倒した。
なぎ倒された木々から、四人の白装束がふわりと降り立った。
ーー全員、無傷。
「ーー
ライムスの号令とともに、星の子たちが一斉に襲いかかる。
熱線、風の刃、衝撃波、矢、爆弾、剣。
次々とけん制の遠距離魔術が撃ち込まれる。
その隙間を縫うように、近接を得意とする星の子たちが打ち出された矢に匹敵する速度で駆け出した。
遠距離攻撃が、見えない結界に阻まれて効力を失う。
熱線は遮られ、風の刃は掻き消え、衝撃波は散らされ、矢は弾かれた。
爆弾は結界にふわりと受け止められて、そのまま接近を試みた者達の近くで爆発した。
結界をすり抜けた剣は、壮年によって片手で受け止められ、無造作に投げ返されたソレが星の子の頭を砕いた。
接近が叶った星の子達も、有効な打撃を与えられていない。
一人は、大柄な白鍵に斬撃を素手で受け流され、返す拳により一撃で心臓を破壊された。
壮年の白鍵の長杖の先端には、いつの間にか青白い、小さな灯のような光が揺らめいている。
彼が見事な体捌きで杖を振るうと、周囲の星の子はバラバラになった。
だが、何にもならない。
接近したものから次々と殺されていく。
――彼らは先ほどまで戦っていた学生たちとは違う。命を奪うことに、一切の躊躇いがない。
『後ろからも来てる。五時方向、距離百五十、敵影二。足を止めて。。。』
『カチ……』
大きく迂回し、背後からの奇襲を試みていた二人も、結界に絡めとられ、直角軌道で天より襲来した銀の弾丸に貫かれた。
これはまずい、全滅する。
ライムスが飛び出そうとしたとき、青白い手の一本が彼を制止した。
「「「少シ待テ、私ニ任セロ」」」
彫像が、目線を向ける。
その先には、壮年の白鍵の姿。
「「「――ヤレ」」」
『……。。。!!おじさん!』
ドスリと、鈍い音が鳴った。
白鍵の一人に、地中から這い出た青白い肌をもつ何者かが槍を突き出したのだ。
獲った……!! 星の子たちは、隙と見て一斉に攻勢に入る。
だが。
「おや、マズったな」
一閃。
何事もなかったかのように、先ほどの攻撃で崩した姿勢を正す。そのままの勢いで槍の穂先が弧を描くように振るい、下手人を両断した。流れるような動作で穂先が二度円を描く。不用意に近づいてきた二人の星の子も、同じ運命を辿った。
槍の穂先が仄かに光り、暗闇に綺麗な青白い円環の軌跡を三つ残している。
『やれやれ、聖火抱擁の祝福にかまけて、油断しすぎたかねぇ』
貫かれたはずの傷は見当たらず、代わりに赤白い不思議な炎が、先ほど傷を負ったはずの場所で揺らめいている。
『すいません。。。わたしのミスです。。。探知怠りました』
『あぁ、いいよいいよ。おじさんも油断してたし。何より、気配が異様に薄い。ただの人間じゃないね』
地面から突如這い出た敵は、精気のない青白い肌に、目と口が縫い合わされたのっぺらぼうのような不気味な姿をしていた。
「「「モウ、
一際大きな存在感を放つ、彫像のような構成員が動き出す。
彫像を構成している無数の腕が、彫像の口から何かを取り出す。干からびた木の枝のような物体。
それが、辺り一面にばらまかれた。
「「「展開セヨ。
不気味な黒い魔力でおおわれると、干からびた枝は急激に膨張していき、それぞれ人のカタチを成した。
彫像の無数の口が、それぞれの名を唱える。
「【英雄】オキュペテー」「【
「「「マダダ」」」
枝は、三つだけではない。
「【火喰い】の禍斗」「【富まれたるもの】ダガン」「【二ノ絶チ】クルスザク」
屍兵と呼ばれたそれらの出で立ちはさまざまであった。軽装の鎧を身に着けた翼をもつ女性、ぼろ布を纏った老人、刀剣を背負った武士。
しかし、みな一様に生気のない、虚ろな瞳をしている。
いや、正しく、それらは死体であった。
だが、死してなお失われぬ傑物特有の覇気が、それらが唯の案山子ではないことを物語る。
「「「戯レハ、終ワリダ」」」
そして、彫像本体から漏れ出るどす黒い魔力が周囲を侵食しはじめた。
黒い魔力に触れた森は、死に、枯れ、腐ってゆく。
それと同時に、先ほど白鍵の一人を貫いたような、青白いのっぺらぼうのような――量産屍兵が、地面から十数体湧き出た。
『う~ん、こりゃあ、予想外にヤバそうなお相手さんだ。最悪半分もってかれるかもねぇ、こりゃ』
【白鍵】の面々が口元と耳元に装着した小型端末は、風魔術を応用した近距離通信装置である。
星の子への声掛けに使用した『拡声』の他、リンクした端末装着者のみに声を届ける『狭声』効果もある。こちらの効果を使って、【白鍵】同士は密に連携を取っていた。
『え、えぇ~~。。。こんな後処理みたいな任務で、わたし死にたくないんですけど。。。』
『オレもマジでいやっス、先輩』
『……(無言で首を振る)』
『ほらそこ! 無駄口叩かない、――やるよ』
両者の間に緊張感が走る。
夜の森の静けさが、その緊張の糸を極限まで引き延ばした。
その糸を断ち切ったのは、にらみ合う両者ではなく――。
「なにしてんの?」
月光を背に、空から舞い降りてきた桜髪の少女だった。
『…………、勝った』
★大して別に覚えなくていい白鍵たちの
・おじさん:【
・っス口調の軽薄そうな男:【
・。。。連発する女性:【
・無言で結界張ってた人:【
ちなみに、屍兵の方々の名前は本当に覚えなくてもいいです()
★前回書き忘れてましたが、次回も明日17:00投稿予定です。