メスガキやめれないんだが   作:かみゃきち

15 / 22
★途中のクソ長い術式は半分趣味なので読まなくてもいいです。前後の簡略化文章を読めば何しているのかは大体わかります。


戦略級魔術士、黒鍵。魔弾ノ射手

 

 

 今、どういう状況……?

 

 あ、天華無槍(ベテランのおっさん)じゃん。他は誰だ……。派遣されるメンバー聞いとけばよかった。暗くてよく見えないな。

 おっ! ア(・)イ(・)ツ(・)いるじゃん!

 

 

 いや、あ~、なるほど。

 あっちの集団が敵ね。わかった。

 

 

 白鍵のみんながいる側にふわりと降り立つ。

 この距離なら回線を繋げられるはず。

 

 

『みんな、お待たせ♡ ワタシが来るまで寂しかったでしょ?』

 

『はいはい、寂しかった寂しかった。いや~実際ほんと助かったよ、敵さん結構手ごわそうでさ』

『カチ、カチ。(※否定。真面目に仕事しろの意。)』

『先あれ片付けてから喋ろうぜ』

『さっさと仕事モード入ろうよ。。。』

 

 

 いやぁ、いつも通りの緩いテンションでいっそ安心するな。

 命かけてる場面でこれなんだから、その精神力には脱帽する。

 

 俺もそうだって? いや、俺はある意味ずっとズルしてるもんだから……。

 

 

 

『敵は正面のみ。あの変な彫像みたいなやつがぶっちぎりにヤバい。。。横並びになってる6人……体?も、嫌な予感がビンビンする』

 

『りょ~かい。最後に確認なんだけど』

 

 

『どうしたの?』

『アイツらって、殺害命令出てる……?』

 

 

 一瞬。何のことか、という雰囲気が流れる。しかしすぐに納得がいったようで、風話が再開された。

 

 

『あぁ、そういう……。そうね、出てる。拘束は難しいだろうってことで。指名手配されてるテロリストですし。。。確認したところ、民間人もいなさそうだった。。。』

 

『そう。そうね。わかった』

 

 

 硬直した状況に、俺という異物が入ったからなのか、敵が急に魔術の範囲を拡大してきた。

 黒いモヤがすさまじい速度で広がる。あれは、死だ。死が迫ってくる。

 

 同時に、6体横並びの敵が、各々、構えのような姿勢をとった。

 

 

 

 

 

 

 来る。

 

 

 

 彫像のバケモノから放たれた禍々しい魔力が、濁流のように木々を、森を、みんなを、俺を飲み込んでいく。

 

 

 なるほど、たしかに手強い。すさまじい規模の魔術行使、現実歪曲の深度。

 侵食される。木々が一瞬で朽ちる。森が禿げ上がる。白鍵のみんなの纏う、【聖火抱擁】の祝福が目に見えて削られていく。

 

 俺の防御膜もゆっくりと侵食されていく。外側から無理やり現実が、防御膜そのものを展開している空間が、『死』に塗りつぶされていく。

 せいぜい、5分もつかどうか……。

 防御膜が消えれば、木々と同じように、この身体も一瞬で朽ちるのだろう。

 

 

 

 でも、ふふ……、だとしても……。5分もつかどうか? ははっ。

 

 

 

 

 【起動せよ、魔弾の射手】

 

 

 

 カチリと、頭の中で何かを切り替える。いや、何かを切り捨てた。

 

 

 

 ――――そっちこそ5分もつの? ワタシ相手に、お前らザコが??

 

 

 魔術を編み込む。ここは学園とは違う。

 誰かを巻き込む危険も、壊してはいけないものも、一切ない。

 

 すべて、まとめて。■■して、かまわない。

 

 

 

《簡略化術式パッケージを展開……》

 

【術式パッケージ=弾種 / 中輪(ポジ―)、射出 / 弾幕形成(カスケード):《焦点は前方空間の大気。N2分子固定、高密度円筒多重形成、機関砲外郭フレームを空間固定》《焦点は砲身内壁大気。弾頭直進用の螺旋溝を形成、回転安定を定義》《観測点は弾幕通過大気。距離・仰角・方位角を捕捉。風向・弾道落下を逆算、照準偏差を並列補正》《焦点は砲身底部。周囲大気よりN2分子集約、高密度尖頭弾頭を形成、初動位置へ装填ロック》《焦点は弾頭直後。第一加速用ポリ窒素を生成、保持》《焦点は砲身内、前方複数区画。第二、第三、第四加速用ポリ窒素を直列配置、起爆待機》《射出開始。第一ポリ窒素解放、窒素再結合による急激な爆発圧力を解放、弾頭初速を付与》《観測点は砲身内を前進する弾頭座標。通過に同調、第二、第三、第四ポリ窒素の解放を順次解除、背後爆風を重畳、弾頭速度を多段階加速》《砲口通過検知。射出完了、砲身内残圧を排気、周囲大気の再流入を待機》《観測点は砲身。常時観測。摩耗時即応解除、砲身再形成》《全パラメータ常時監視。次巡弾頭・ポリ窒素生成シークエンスへ即時回帰。射出サイクル周期0.1秒。連続射出ループを維持》】

 

《簡略化応答、全点正常(オールクリア)》《砲身を多重形成。弾頭、多段階燃焼室を形成。装薬充填。弾頭を連続形成中――。並列して照準――点火》

 

 

 

 

 

 初めにその魔術が表した効果は、破壊ではなかった。

 桜色の少女に向かって、星の子たちの身体が引き寄せられる。

 正確には、否。身体が引き寄せられているわけではない。彼女に向かって急速に引き込まれる周囲の大気の流れに、飲み込まれているだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

【穿て、魔弾の射手】

 

 

 

 

 

 風切り音と同時に、リィンとの位置が近い星の子の頭が抵抗なく抉れ飛んだ。そのまま背後の木々が同じように、次々と抉れていく。まるで射線上の物体すべてが、初めから存在しなかったように。

 そのような不可解な現象がーー止まらない。

 

 世界が遅れて事象に気づいたように、倒壊していく木々が立てる軋むような音と悲鳴が森に鳴り響き始めた。

 

 

 

 

 

 

 正体が見えないまでも、それが広範囲を攻撃する魔術であると素早く判断した星の子たちは防御を固めつつあった。

 

 

 

 

 

 ――さて、リィンの放つ単純な性質の【魔弾】は、その威力によっておおよそ大輪(ラウンド)、中輪(ポジ―)、小輪(コサージュ)に分けら(パッケージ化さ)れる。

 

 『小輪(コサージュ)』の魔弾は学園内にて、敵勢力を殲滅するために用いていたものがそれにあたる。主に展開された魔術障壁の隙間を縫って足を撃ち抜き、機動力を失わせていた。拳銃をイメージしてデザインされている。主に、市街戦を想定した、周囲への被害を考慮した魔弾だ。

 

 『中輪(ポジ―)』の魔弾は各国が抱える精鋭部隊をはじめとする手練れの魔術士であっても、魔術障壁を集中展開せねば貫通を許してしまう威力を誇る。リィンの最も多用する、対物ライフル、大型機関銃、機関砲を模した汎用攻撃魔術であり―――現在、秒(・)間(・)1(・)0(・)発(・)の(・)間(・)隔(・)で(・)敵(・)に(・)バ(・)ラ(・)撒(・)い(・)て(・)い(・)る(・)のが、その『中輪(ポジ―)』の魔弾である。

 

 

 

 

 

 

 

 術式起動から、10秒。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこ」「ふざけっ」「ぎ」「急所を集中障壁で守れ!」「だ、駄目だ削りきられ」

 

 

 

 

 

 広範囲を薙ぎ払う弾幕に対し、防御魔術を広く展開した魔術士はそのまま防御を貫通されて挽肉になった。

 

 頭と心臓を集中して防御した魔術士は、一、二発は耐えた。

 しかし、防御が破れる前に、その他の部位を守りきれずに頭と心臓を残して消し飛び、言うまでもなく絶命した。

 

 

 命令を待っていた屍兵たちも弾幕を集中され、秘められた特殊な能力を行使する間もなく他の構成員と同様に、いや、より念入りに跡形もなく消し飛んだ。

 

 空の英雄は羽ばたきの直後に翼を抉られ、叙事詩にも刻まれた空戦を披露することもなく地に堕ちた。

 ぼろ布を纏った老人の背が突然膨張する。かつて一個大隊を森に「埋めた」その魔術を発動する――――前に、顔面の半分が消し飛び、次に腕が千切れ、そして、バラバラになった。

 鎧武者は見えぬはずの弾丸、その一撃目を両断するも、ほぼ同時に着弾した二、三、四、五発目に敢え無く沈んだ。

 

 他のいずれもが、同じような末路を辿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 起動から、15秒。

 

 

 

 

 

 

 

 むろん、すべての敵がそうであったわけではない。

 

 

 カロン、巨大な彫像のような幹部はすでに防御態勢をとって微動だにしない。表層を覆う屍体の層を凝集した上で、魔術で強化して『中輪(ポジ―)』の弾幕を耐え続けていた。

 大男の方も防御姿勢を固めている。外皮は黒く硬質化し、弾幕によって表層が削れると同時に再生を続けている。

 

 両者、これだけの規模の魔術がそう長く続けられないと判断。全霊での耐えの姿勢、だった。

 

 

 

 だが、無駄だ。

 

 

 『中輪(ポジ―)』の弾幕の維持と並行して、リィンの照準はこの弾幕の嵐に耐えうる、精鋭二名に向けられている。

 

 

 

 

 

 

 起動から、20秒。

 

 

 

 

 

 

 まさか、この強度の魔術を維持したまま……。あり得ない。

 ――迫る死の気配。

 カロンは、彫像の奥で。自身の支配してきた『死』が、今まさに自分の魂に突きつけられていることを悟った。

 

 

 

 【穿て、魔弾の射手】

 

 

 

 無音、不可視。『大輪(ラウンド)』の魔弾がそれぞれの防御を貫いたあと、遅れてけたたましい破壊音が轟いた。

 存在ごと削り取られたかのような痕跡を残して、彼らもまた沈黙した。彼らの背後の地面には同じように削り取られたような大穴が空いている。

 

 

 

 

 森への追撃に出発する前、会長と話して考察した。

 

 

 ――大男の方、確信はないけどたぶんスライムの先祖返りだと思う。

 肉体を再生してたんじゃなくて、肉体を作り足してただけ。そもそも見えてた姿が粘液か何かで作った、精巧な仮の肉体を纏ってたんでしょ。

 

 

 つまり、全部吹き飛ばせば関係ない。

 

 

 身体の7割を消し飛ばされた大男が崩壊し、中から胸から上を失った男がズルリと出てきた。ビンゴ。

 

 

 

 

 

 

 ……反撃はなかった。森は静けさを取り戻し、射線上には残骸以外もう何も残っていない。

 

 

 

 

 あとに残ったのは、地平線まで見渡す限りの木々が弾幕によって削り取られ、開けた広場のようになってしまった森だけだった。

 

 その凶行の主犯となった少女の周囲は異様に冷え切っていた。いつしか霜が降りており、木々が消えたことで差し込んだ月明かりを反射して、砕けたそれらがキラキラと輝いている。

 

 

 

 幻想的な情景に包まれた少女は、感情が欠け落ちたかのような冷たい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 起動から、30秒。

 

 

 

「――掃(・)討(・)完(・)了(・)」

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 学園から少し離れたその森は、高い位置に葉をつける木々が生い茂り、月の光をまばらに遮断していた。まるで木漏れ日のように、仄かな光が木々のすき間から漏れ、辛うじて光源が確保されている。

 

 

 

 そんな深い森の中で、地面が動いて、土の中から枯れ木のような老婆が這い出るようにして現れた。

 

 

 

 

 老婆の半身はえぐり取られている。まともな人間なら生きているはずのない傷であった。つまり、この老婆はまともではない。

 傷口というよりも、もはや断面というべきであろう。そこでは無数のミミズのような触手が蠢き、ゆっくりと再生、修復が行われていた。

 

 

 彼女はカロン、星の子の第四軌道である。彫像のような外殻を失ったが、彼女は未だ生きていた。

 

 

「み、みあや、まった。あれほど、とは」

 

 

 

 彼女は、リィンの魔術が身体を屍でできた外殻ごと吹き飛ばす直前、ひどい悪寒をおぼえた。

 長く生きた魔族としての勘を信じ、自らの『外殻』を構成する屍の一つ、地面に潜航することに特化した屍体を使って土中に潜ることを選択した彼女は、半身を抉られながらも地中深くに逃げることに成功していたのだ。

 

 その後、自分の肉体と魂を限りなく『死』に近づけることで魔力を希薄にし、その後の索敵を回避していた。

 

 

 とはいえ、無視できる傷ではない。このまま最低限の傷を癒し、逃走する。どれだけかかっても、預言者の、教主の、最期の望みを叶えねば。

 

 

 

「い、まは、修復に、せんね、ん」

 

 

 

 がさりと、音が聞こえた。

 

 

 

 追手か。と思い音のする方を見れば、小柄な魔物が一匹。

 ただの、魔物だ。

 

 

 

 

 次の瞬間、彼女は自分の視点が変わっていることに気づいた。

 急に視界が瞬間移動したかのような不可解な挙動。違和感。まるで一瞬気絶したかのよう。

 

 

 

 

 ―――!?

 

 

 なにがおこった。

 なにが。

 あれは、なんだ。

 

 

 人がたおれている。首のない、枯れ木のような老婆が。

 

 違う、あれはわたしの身体だ。

 

 

 

 

 

「あぁ、まだ意識があるのですね。馬鹿げた生命力です。先祖返りとは、恐ろしい」

 

 

 

 

 

 男はカロンの首を掴んでいた。中肉中背で、どこにでもいそうな男に見える。きっと町中に彼の姿を見ても、雑踏の中に消える彼のことなど誰も気に留めないだろう。

 

 

 

 

 

 カロンをして、まったく気配を感じなかった。

 

 

 

 

 カロンは自身の首の断面から、一部を切り離して『屍体』と定義。

 カロンの、屍公魔リッチの先祖返りとしての固有魔術の1つ――『屍体を操る魔術』によって、首の断面から触手を生やし男の首を狙う。瞬間、男はカロンをもつ手と反対の手を目にもとまらぬ速度で振るうと、そのすべてを切断した。

 

 

 その手には何の変哲もないナイフが握られており、男の腕にはぼんやりと淡い光が纏わりついていた。

 

 

 

 

 

「あなたがたは天華連邦(くに)というものを舐めすぎです。彼らが始末していなくとも、事を起こしてこの国の害悪と認められた以上、無事で済むわけがないでしょう」

 

 

 

 

 男はナイフについた肉片を振り払い、そうして。

 

 

 

「ふっ」

 

 

 

 

 森へ向かってナイフを投擲した。

 

 

 

 

 

 

 投擲されたナイフは恐ろしい勢いで、木々の一本に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――それで、どなたですか?」

 

 

 

 

 

 

 男の右前方、森の木々のうちの一本に彼が目を向けると、観念したように一つの人影が現れた。

 黒い布切れを纏っており、顔には鳥をかたどったマスクを着けている。

 

 抑揚のない平坦な声で、影は話し始める。

 

 

 

『お見事です』

『一応私なりに魔力を隠していたのですが、どうやってお分かりに? 』

 

 

 

「先に所属と、用件。氏名を言いなさい」

 

 

『お先にどうぞ』

 

 

「チョン。そこそこ有望な貴族家、龍亀家に仕える諜報員です。うちのお嬢様から、賊の討伐と情報収集を命じられております」

 

 

 そこそこ有望な貴族家とアピールするように、当主様から念押しされておりますので。とお辞儀をした。

 

 明らかに真面目に答えてはいない。鳥仮面の使者は両手を挙げて首を振り、呆れたようなジェスチャーで返した。

 

 

『チョンとはまたまた、偽名でしょう。どうせ本名は面白みも何もない記号でしょうに。ただの諜報員? 笑わせてくれますね。そんなまともな出自ですか? あなた』

 

『それに、なにがそこそこ、なものですか、【調律者】。今は龍亀家、でしたか? 表向きには別の貴族のモノということになっている領土、資産。そして各界との広い繋がり。それらを加味すれば、四霊大家に次ぐ影響力をお持ちでしょう?』

 

 

 

「……話が長いですね。博識さでも自慢しに来たのですか? さっさと所属を吐くか――、私に同行願います」

 

 

 

『ふふふ……つい癖で。嫌われてしまいましたか。では、私も自分の仕事を果たすとしましょう』

 

 

【誘惑】

 

 

………??………!?………!!

 

 気づいた時には、チョンの手の中にあったはずの老婆の生首は消えていた。

 

 そして、その首は鳥仮面が大事に抱え込んでいる。

 

 

 

「貴様」

 

 

『やる気ですか? おぉ怖い。今あなたと戦えば、相打ちになってしまいます……。それは御免被る。私はまだ死にたくないのです』

 

『私の存在を、上に報告できなくなってもよろしいのですか?』

 

 

「……。」

 

 

 男は黙り込んだ。ここで敵に目的を達成させないことと、目の前の危険人物の情報を伝えられなくなることを天秤にかけている。

 

 自分の意識が一瞬完全に途切れた。あるいは……、全く別のところに向けさせられた。

 

 どんな魔術か知らないが、相手に直接影響を与えられる魔術は非常に特殊である。

 魔術は、魔力を介して現実を改変する術。魔力を豊富に宿す人間相手を直接発動起点にすることは、特殊な条件下を除き極めて難しい。相手の魔力の濃度が最も高い場所ということは、イコール相手の『現実』がより優先される空間であるからだ。

 

 仮に相手の身体を直接魔術で弄ろうとする場合、相当な実力差か、もしくは拘束なりなんなりをして、時間をかけて魔術をかけ続けられるだけの状況づくりが必要不可欠だ。

 

 ゆえに、現代の戦闘魔術理論では、敵の身体への直接干渉ではなく、魔術によって起こした現象をもって敵を制圧することが優先される。

 

 

 

 しかし、先ほどの認識改変は微弱ながら一瞬だった。

 もう一つの特殊例――。セオリーを破壊するほど特定の領域に特化した異相魔術持ち。例えば【先祖返り】……!!

 

 

 

 

 

 

『これで仕事は達成しましたので、そろそろお暇させていただきますよ』

 

 

 沈黙を肯定と受け取ったのか、老婆の頭を掲げながら、鳥仮面は笑う。

 

 

 

 

『それでは――』「しかしながら」

 

「私の任務は残党の抹殺ですので」

 

 

 鳥仮面が逃げの体勢を取った瞬間。一拍も間を置かず、男の手に握られたもう一つのナイフが、その身体を覆う外套を貫いた。

 

 

……っ!!……【幻夢】

 

 

 

 かに見えたが、外套は捻れたように形を変えると、そのまま空間に滲むがごとく消えていった。

 

 

 

「あの生首を狙ったのですが……。庇われましたか」

 

 

 男のナイフには、血が滲んでいた。

 おそらくあの老婆ではなく、抱えている本人の血であろう。

 

 

 

 すでに森は何事もなかったように静けさを取り戻し、月光がそれを静かに照らすのみである。

 

 

 

 

 

 

 ~~~

 

 

 

 仮面の使者は、すでに【浮遊】ではるか上空に逃れ、飛行しながら、負った傷の応急処置を行っている。

 

 広大な森を一望できるはずの高度を飛びながらも、雲が月光を覆い隠しているため、眼下の景色は闇に包まれていた。自分自身も方角の把握が困難になるが、地上から捕捉されるリスクを減らしてくれる点では幸運であった。

 カロン――その生首は驚異的な生命力でまだ生存している。しかし、【誘惑】に抵抗するだけの生命力は残っていない。――すでに彼女の精神は完全に支配されていた。

 

 とりあえず、新たな戦略級候補の確認と、有用な先祖返り(せんりょく)の確保。当初の目的自体は達成されたとみていいだろう。

 

 

「……人形め。【誘惑】で多少誘導してもアレですか。どういう環境で生まれ育ったのやら」

 

 

 彼(・)女(・)は、すでに変声用の魔道具を解除していた。

 今も多数の魔術を並行して使用している以上、魔力の無駄遣いは憚られる。

 

 

 

「しかし――あぁ、まさか」

 

 

 

 

 雲が割け、月明かりが差し込む。眼下に森の姿が照らし出された。

 

 

 

 

「これほどとは。」

 

 

 

 

 森に、まるで子供がキャンバスにイタズラ描きをしたかのような、太い一本線が引かれている。

 線上の木々は削り取られ、倒壊し、なぎ倒され、悉くが破壊されていた。

 上空500m。地上からの探知を逃れるために確保したこの高度をもってしても、その破壊の終端が拝めない。

 

 

 

「化け物め。首領、いやはや、これは……。まともに戦(や)るのは御免被る」

 

 策を弄する必要がありますね。と、使者は乾いた笑いを空に残した。

 




★魔弾
・リィンは中輪の弾幕程度なら、半日は起動を維持し続けることができる。
・通常の魔弾以外にも、手榴弾型、単距離ミサイル型、ガス兵器型など様々。

一章人物紹介においてAIイラストを添付してもいいですか?(デフォルトは非表示にします)

  • いいよ!!!!
  • 嫌!!!!
  • 別にどっちでもいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。