今回ちょっと長いです。
★いつも誤字脱字報告大変助かります。あとで修整しておきます。
襲撃翌日――。
学生の大部分は引き続き、学科交流会(という名の瓦礫撤去、復旧作業)を楽しんでいた。
含みのある言い方をしつつ、普通に楽しい部分もある。
なんといっても前世と違って魔術があるからな。そもそもこういった復旧、特に大まかな作業の苦痛度が圧倒的に違う。
時間をかければ、人よりも圧倒的に大きな瓦礫を学生一人で移動させられるし、材質にもよるが、瓦礫自体をバラバラに分解するなんて芸当も可能になる。
そのような有様だからか、あんなことがあったにも関わらず、大半の学生はお祭り気分で作業に臨んでいた。
……奇跡的に死人が出なかったのも大きいな。簡単には治らないような怪我を負ってしまった人は少なくないけど、死ぬのと怪我とじゃ大違いだ。
料理系の出し物を行っているグループなんかが前日までに使用しきれなかった材料を使って、仮設のお店で料理を提供している。
どうやら無料だそうで、呑気にはしゃいでいる学生も多くいた。
「あ、リィンさん。だ、大丈夫でしたか?」
「その声は……リリエ? あんたこそ大丈夫――って、大丈夫そうだね」
両手に、肉串のような食べものを大量に抱えたリリエがそこにいた。
俺の呆れたような視線に気づいたのか、「こ、これはお姉ちゃんとユーのも合わせてです!」と言い訳してきた。
いや、それでも多いわ。一人五本も食うつもりかよ。
「あっ、リィンじゃない。なんか久しぶりな気がする」
「いや昨日も会ったでしょ……。ちょっと学監会で書記の仕事があって遅くなったのは、たしかにそうだけど」
今の時間はオヤツ時といったところだ。
午前中は、事件により発生した被害をまとめたレポートの処理と、そのあと実は軍府としてのレポートにも追われていた。
だるすぎる。
「ユーも元気そうでなにより」
「ははは、元気だ」
「おい、顔見て話せよ」
黒髪のっぽ野郎は、一日でこちらの顔を直視できなくなっていた。
「どうやら、事件の大きさに衝撃を受けて、俺の『
「真面目なトーンで言うな、そんなこと」
こいつの女性恐怖症、やっぱりなんかちょっと変だろ。本当に女性恐怖症で苦しんでいる人に謝ってほしい。マジで。
でも、少し安心した。仕事中のモード見られたから、そのせいで怖がられているのかなぁ~、と。
それなら悲しくなるとこだった。ただでさえ自信をもって友達だといえる人少ないのに。
ちなみに、直視できなくなったのはリリアとリリエもらしい。
リリエがそれを利用して、リリアと二人で周囲をウロチョロして、ユーが視線を高速で動かして避けるカス暇つぶしをしていたそうだ。
というか、今やってくれてる、目の前で。
お嬢さん方、それは虐めって言うのでは?? マジで他の人にやるなよそれ。
ユーも首を高速で動かしながら笑うな。このカオスはお前が元凶なんだぞ。
「『きゃはは、おっもしろ~い♪♪ 壊れた玩具みた~い(笑)』」
…………??? なんか急に気持ち悪くなってきたんだけど。
何? ス〇ンド攻撃??
いや、まって、この声、この喋り方……。既視感が凄い。嘘でしょ。
「ね、ねえねえ、リリエ。その変な喋り方って、何…カナ?? この天才リィンおねいさんに聞かせてクレル??」
「これ? リィンさんの話し方を真似てみたんです!」
あがががががが。ぎぎぎぎぎぎgggggg。pi-------。
シヌ。
「いつも自信満々で、その、これを真似すると、リィンさんみたいになれた気がして、勇気がもらえるんです。ダメ……、でしたか?」
「う゛う゛ん゛!! い゛、良いYO……!!!?????★??!♡★」
「絶対良くないんでしょうけど、リリエ。ありがたくもらっときなさい」
……。
「(´~`)モグモグ。美味しいわねリリエが持ってきたこのお肉」
……。
…………。はっ!! はぁ、はぁ、危ないところだった。三途の川見えたぞ。
それにしても、声似すぎじゃない? ほとんどワタシの声だったぞ!?
「ちょ、ちょっとリリエ、さっきの真似を、あ~~、別に台詞はほんとマジでいったんやめてほしいんだけど、声だけ、ね。一単語だけでいいから、もっかい聞かせて?」
「……? いいですよ? う~~んと、『霊亀家産肉獣の、濃厚塩だれ串』」
おい、さっきの串じゃん。そんな気に入った? ここぞという時の単語としてピックアップするくらい??
まぁ、たしかにリリアも、リリエは昔食べるのが好きだったとか言ってたけど。
そういえばこの前も、寝ぼけて俺の髪をもしゃもしゃ食ってたっけ。
「ひもじいときに口の中に残ってくれるから」とかいう激重エピソードを聞かされたときは、驚きと悲しさで錯乱して、思わず髪の毛の防御膜を解いちゃったぞ。……髪の毛だけね。
いやいや、そうじゃなくて。
やっぱり声似すぎ、というよりも、ほぼ同じに聞こえる。
特に他の二人が聞いた場合、ほぼというよりもはや完全に同じに聞こえるそうだ。
「俺も疑問に思っていたのだが……」
と、ユーが口を挟む。
「
「そう、なのかなぁ。でも、擬魔にそんな能力あったかなぁ?」
正確なことはわからないけど、単純なモノマネ上手というよりも、なんらかの能力が目覚めている気がする。
天華連邦に古くから伝わるタイプの魔族じゃないこともあって、あまり詳しくない。今度調べてみようかな。
「あ、そうそう。遅く来て悪いけど、今日はしばらくしたら帰るね」
「また学監会の用事でもあるの?」
人をまるで社畜かのように言うじゃあないか。
のんのんのん。俺はコミュ障だが、社畜ボッチというわけじゃあありゃせんぜ?
「ちょっと学園外の友達がいてぇ、その子と待ち合わせしてる感じ」
リリア、リリエ、ユーがぽかんとした顔でこちらを見てくる。
な、なに? 何か俺変なこと言った? 何かやっちゃいました? ってやつ?
「「「外部に友達なんていた(の / のか / んですか)!?」」」
――なんだァ? てめェら。
〜〜〜
ここは天華軍府立学園、裏門。
門の内側からは、先日大規模な襲撃があったにも関わらず、お祭りのようなガヤガヤした声が聞こえてくる。
裏門にもまばらながら人が集まっており、喧騒から外れたこの場所で、屋台で買った料理を友人と分けるものたち、ここなら声が聞こえると言って二人で雑談するものたち、それぞれの憩いの場になっていた。
そんな裏門に、まるで穴が空いたように人がぽっかりと寄りつかないスペースがあった。
いや、正確には、その穴の中心には一人の男が、周囲をジロジロと睨みつけるようにしながら壁をもたれかけている。
青いメッシュの入った金髪を刈り上げた野性的な髪に、浅黒い肌のその男は、ラフなシャツのような服を身に纏っている。
その雰囲気は、貴族たちがほとんどを占めるこの学園においては些か不釣り合いに見えた。
そして、男の鍛え上げられた大きな身体の放つ威圧感と、何よりも獲物を探すかのような、獣のような双眸が見るものを萎縮させ、人が寄りつかないスペースを作っていたのである。
「何あの人……。」
「賊……? 賊………?」
「女殴ってそう」
散々な言われようである。
聞こえてんぞお前ら。
彼の聴覚は非常に鋭く、学生が小声で話した程度では聞こえてしまうのだ。勘弁してほしい。
お貴族様が勝手なこと言いやがって……。
そもそもそこまで……? オレ、そんなにヤバそうに見えるぅ……?
普通にショック。
なんとなく不安になって、昨日別れ際に渡された待ち合わせ場所を確認する。合ってる。
……早く来てくれ、もう耐えられん。
彼は待ち人を探すために目線を彷徨わせるのをやめ、一旦心を閉ざそうと決意した。武の修行だと思え、精神統一~、心頭滅却~。
〘〘ネ・ト・リ♡〙〙
「うおっ!!」
左から耳元に向かって囁くような声が聞こえ、驚いてそちらを振り返る。
次の瞬間、背後から何者かが覆いかぶさる感覚を覚えた。
柔らかい感触。――危ない危ない。精神統一and心頭滅却してなかったら致命傷だった。
【白鍵】だから耐えられた。そうじゃなければうんぬんかんぬん。
あとオレの名前はネイルだ。そのよくわからんあだ名で呼ぶのをやめなさい。
「やっほぉ〜! 元気ぃ〜??」
「ちょっ! だからそういうのやめろって!」
桜色の少女はいつも通りケラケラと笑うだけだった。
くそっ、これ引っかかるの何回目だ?
わかっていても急に囁き声が来ると反応してしまう。
「まぁまぁそうカッカしないしない〜。さっさと帰ろ帰ろ!」
「あのなぁ〜」
にやにや顔から一転、屈託のないペカーっとした笑顔で服を引っ張る彼女に、思わずあきれた声が漏れる。しかし、なかなか動かないオレに業を煮やしたのか、ふわりと、顔のそばまで浮き上がって――今度は直接、耳元で囁いた。
「ワタシのお家でぇ、イ・イ・コ・ト、しよ♡」
「そ、それって……。」
ゴクリとつばを飲む。目と鼻の先。桃色の双眼は、妖しく光を放っているように見えた。
二人の姿は、学園併設、軍府関係者の上級寮にある、リィンの部屋に消えていった……。
〜〜〜
程なくして。
「じゃじゃ〜ん! スーパー★群雄儀★DX2!!」
「うぉおおお!!! 激アツ!!」
娯楽の提供を得意とする貔貅家発売の新作ボードゲーム! めちゃくちゃ複雑化した将棋をエンタメ方向に魔改造したみたいなゲームだぞ★
ふふん。実は学園祭が始まる前に買ってたんだよ。
「ではいっちょ、買い込んだ飯を肴に合戦とでも洒落こもう、ZE!」
===少年少女遊戯中===
●ダイジェスト
「……組み立ての仕方これであってる?」
「……お前が今踏んでる説明書に書いてあるんじゃね?」
「いつも思ってたんだけど、なんでお前毒兵とかいう陰気臭いゴミカスウンチばっかり採用するんだ? 性根??」
「は???????????????(ブチギレ)」
「ヒャッハ~!! お前ザコザコザコザコザコザコザコザコ!!!」
「はぁ~クソ! 二度とやらんわこんなゴミゲー! 卑怯な手ぇばっか使いやがって!!」
===少年少女遊戯中===
いやぁ、面白かった。
前作もそうだったが、やっぱりガチャガチャと駒が変形するのは見ていて壮観だ。
今回は地形効果も凝っていて、流れる川が再現されていたのには感動した。
ただ、ちょっとビジュアルに力入りすぎてて、プレイのノイズになってた感があるな……。
前世のゲームで例えるなら、『グラフィックに振りすぎ』ってところか。次回作ではそのへんの改善求む。
さて、十分楽しんだことだし。
「ドキドキ~~♪ 抜き打ち、テスト!」
「……は?」
ほれほれ、ポカンとしている場合ではないぞ。
あっ、びっくりしてお菓子落とすな。掃除が面倒。
「連邦貴族之作法、第3章、魔術決闘の章より出題!」
「決闘において、使用可能な魔術系統に縛りはあるか、ある場合は具体的に使用不可能な魔術系統を答えよ!」
突然のおふざけ 兼 家庭教師モードの俺に面食らいつつも、必死に考えている。ふふふ、俺の作ってあげた学習計画通りなら、とっくにこの範囲は読んでるはずだよなぁ??
「ブブーーッ! はずれ〜。正解は『魔術系統に縛りはない』でした〜。ある場合の出題条件が細かいから、そっちに誘われたでしょ〜。や〜い、単細胞〜。ざ〜こ」
「もっと補足すると、『特定の魔術系統にルール上の縛りはないけど、別のルールによって事実上使用可能な魔術は制限される』って感じかな〜。じゃあ、そっちのルールはわかる?」
「え〜、え〜、っと。たしか、マジで死ぬレベルのやばい魔術はダメ、とか?」
「まぁ合ってるかも。正確には、『対処に失敗した場合、対象が即死するような致死性の魔術の行使』が禁じられてる感じ」
ははは、これ意識してないと危ないからな。本当に。もし将来偉くなって、余興とかで貴族と決闘やるなら、どれだけ焦っても加減できる技以外使っちゃ駄目だぞ〜。
本当に取り返しのつかないことになるから。
「まぁいいや、計画通りにちゃんと読んではいるみたいだねぇ。まだまだ弱々だけど」
「おぅ…。マジ、助かってる。でも正直……、ここまでしてくれるとは思ってなかったぞ。ほんのちょっと、お前なら知ってるんじゃないかなぁ、と思って……。貴族社会について勉強するアドバイスをしてもらうだけのつもりだったんだ。まさか、参考書選びどころか、勉強計画と……、これ、手作りのまとめテストまで用意してくれるとは思わなかった」
「俺みたいなやつに、ここまで……。いや、それは余計か。いつもありがとう。なんでも言ってくれ。あ、いや別にコレがなくてもなんでも言ってくれていいけど」
ネトリが小さな冊子のようなものを取り出す。そこにはこじんまりした文字で『連邦貴族之作法、テストその壱〜伍』というタイトルが書かれていた。
あ、それ持ち歩いてるんだ。さすが勉強熱心なこと。やっぱり上昇志向あるやつは違うなぁ。俺とはモノが違ぇや。
パラパラ見ながら、「なんど見てもすごいなコレ」と呟いている。いやはや、褒められるのは気分がいいですなぁ。
「いやいやぁ、ワタシにとっては朝飯前だし? 頭の出来がガチで違うから、ほんと。そんなんで喜んで貰えるんならチョロいもんよね〜。友達なんだから、こんなのトウゼン、トウゼン!」
いやでもやっぱり、友達に感謝されるのは気持ちいいぜ。ちゃんと大喜びしてますよ。
でも、この身体(ワタシ)のスペックは凄いんだから、こんなの本当に朝飯前なんだよ。だから、こんなの感謝されるようなことじゃない。
でも、ただ感謝を受け取るだけってのも、『ワタシ』らしくない……、か?
へっへっへ。おやおや?? もしやこれは、『チャンス』かぁ〜〜??
気づくとニマァっと口元が自然に変形していた。無意識でこうなってる辺り、ロールプレイにかなり人格が引っ張られている気がする。怖や怖や。
しかぁ〜〜し、退かぬ、媚……、るかもしれんが、省みぬ!!
メスガキに撤退の二文字はもはやないのだぁ〜〜!
おや、ネトリ君、何ちょっと後ろに下がってるんだい? 君ぃ、『感謝』したよね今。『なんでも』って言ったよね? じゃあいつも通り、俺のロールに付き合ってもらう、ゾ♡
《外骨格の固定を解除》《外骨格の展開を維持しつつ、動作補助を解除》《クッションモードに移行》
ついでに……。
《黒鍵サブモジュール、次元鍵門を解放。位置、臀部》
ふぃ〜〜、これですっきり。それじゃあ……。
「こっちきて、ね」
〜〜〜
ネイルの眼前で、桜色の少女が突然、ベッドに横向きに倒れ込んだ。
いや、倒れ込んだというよりも、むしろ崩れ落ちた、という表現のほうが適切であろう。まるで一瞬で全身から力が抜けたように……、あるいは、
そして、いつの間にか、髪色と同じ色の、背丈と同じくらいの、
桜色の鱗は光を鈍く反射し、桃色のフワフワした鬣がその背面と先端を覆っている。
「……何ぼんやり見てるの? これが初めてじゃないでしょ。ほらほら、なんでもやるって言ったよね? 手入れを手伝ってよ」
またもや不自然な動きーー筋肉を使っているようには見えない動きで、リィンは起き上がった。
彼女はベッドの上に座っているように見えるが、よく見ると不自然だ。
自分の力で姿勢を維持しているのではなく、見えない何かに腰掛けているように見える。
その一見異様な光景に反して、こちらを見る彼女の表情は笑顔そのもの。擬音にするとしたら「ニマニマ」であろうか。
こいつ。オレがこれにどう思ってるのかも知らずに……。
なんとなくだが、身体に触れさせることでオレがあたふたするところを楽しもうって魂胆だろう。なんと浅はかさ。
しかし、その魂胆はクリティカルです。降参。
背後に移動し、慣れない手つきで尻尾の根元を支え、近くに無造作に置いてあったブラシで鬣部分を梳いていく。
これが正解かどうかは知らん。本人が何も言わないからたぶん、大丈夫。
……。いつも思うけど、この尻尾ってどういう感覚なんだ? 無い側からすると、生えているイメージができない。なんなら造り物のように感じてしまう。
オレは貴族じゃないし、こんな立派な『特色』なんて出ない。せいぜいこめかみの部分にちょっとした角のなごり?らしい出っ張りがあるだけだ。それも普段は髪に隠れて見えないが。
しかし、膝と手に伝わる確かな重みと体温よりもわずかに低い熱が、それが目の前の少女の身体の一部だと否応なく伝えてくる。
……あんまり意識しないようにしよう。
わぷっ。うわ、なんだ。
モフモフした何かで急に視界が遮られた。
……。尾の先端を顔にぶつけてきやがった。
ケラケラ笑ってるんじゃない。
「いやぁ、なんかフリーズしてたからさぁ。起きてますか〜ってね、そんな感じ」
気取られたか。
尻尾が身体の一部だと思ったらドギマギしてきた、とか正直に言ったら、本気で爆笑されそうでヤダ。絶対言わない。
くそ〜。
そもそも、色々無防備すぎるのが悪い。
貴族の女ってもっと、こう、なんかおしとやか〜なイメージだったんだけど。
「手が止まってるぞぉ〜? ちゃんとやらないと、他のところも手入れさせちゃうよぉ? いいの?」
くねくねと変なポーズをとりながら、わざとらしく「キャッ」なんて言ってやがる。流し目やめろ。
服をピラピラするんじゃない! うわっ、変なとこ見える、やばいって。
話題を変える。話題を変える。話題を変える……。
「こ、これ自分でできねぇの?」
リィンはキョトンとした顔で、動きを止めた。
……よし! やめてくれたぞ。
「できなくはないけどさぁ、自分で尻尾の手入れするのってかな〜り厄介なんだよね。背中側見えないし、根元とか特にね。それに……、ねぇ、こんな状態だし」
ピタリと、櫛を動かす手が止まる。
「……。」
「何その表情……? もしかして、罪悪感? やめてよ。ワタシは、ネトリいなかったら死んでたんだから。命の恩人だよ、命の恩人。もっとドヤ顔していいんだってば」
それは、そうかもしれない。オレが助けに入らなかったら、あの戦線でコイツは死んでたかもしれない。
でも、オレは何回も命を救ってもらった。オレが命を救ったのは一回だけだ。
それに、コイツの命一つと、薄汚いスラム出身の、こんなオレの命一つじゃ釣り合わない。
「それに、別に意外と動けるよ、ワタシ。ちょ〜〜っとトロくなっちゃったけど。ほら、今でも、ゆっくりだったら歩けるレベルだし。大げさなんだってば」
ベッドの端から垂らした脚をぷらぷらと動かす。手指がゆっくりと開いて、閉じてを繰り返す。
大丈夫だと、問題ないのだと。
それでも明らかに、オレにはそれが何の問題もない動きには見えなかった。
なおも手を止めたままのオレの様子を見て、ため息をつかれた。
「とにかく、命が助かったんだから。いいの!」
「いい? ネトリもね、『上』を目指すのももちろんイイコトだと思うけど。命だけは大事にね」
「途中で死んだら、なんにも残らない。命が、この世で一番大切なんだから」
いつもと違う、どこか有無を言わせないような圧を感じさせる声色で、リィンはそう言った。
友達の背中が、いつもより酷く小さく見える。
今、リィンがどんな顔をしているのか、ネイルには想像できなかった。
リィンが、パタリと倒れ込む。
逆さまのリィンと、目が合った。
据わった目だ。何かに駆り立てられているような、どこか不安になる目だった。時々、彼女はこんな目をする。
ネイルはその目が映す感情を知っている。戦場で、敵がそれを浮かべるのを何度でも見てきた。
――恐怖。
何が怖いのだろうか。彼女は強い。今の彼女の命を直接脅かせるものなど、簡単には思いつかない。その地位だって、生まれだって、何一つ問題なんてなさそうに思えてしまう。
……数秒見つめ合ったあと、自分で作った空気に気まずくなったのか、彼女は申し訳なさそうに目を逸らした。
いつの間にやら頭の翼がペタンとたたまれている。先ほどまで大きくゆらゆらと動いていた尻尾はピタッと静止し、先端部分だけが申し訳なさそうに揺れている。
……こういうところは可愛げあるんだけどなぁ……。
★人物
●ネトリ(
前話と前々話に【白鍵】の部隊にいた、敬語が「っス」で近接戦闘してた若い男。
二年前に終結した西方戦線における功労者。
いろんな面で割と重要な人。この人のせいで発生するバッドエンドはいくつか思いつくけど、この人いないとグッドエンド以前に主人公の発狂が段違いに加速する。
あだ名は主人公が勝手につけた。本人はその意味を知らない。
★あと数話で第一章が終わる予定です。
書いてて思ったけど、やっぱり主人公がメンヘラすぎる。