『メスガキ=相手を小馬鹿にするような言動、および挑発的な態度をとる生意気な未成年女性キャラクター』について知っているだろうか?
だいぶオタク文化に触れてる人じゃないともしかしたらピンとこないかもしれない。あの「ざぁこ♡」とか「おにぃさん♡ヨワ〜イ」みたいなこと言ってるイメージのあるアレだ。
そうなんだけど、ぶっちゃけ『メスガキって何歳までを指すんだ……?』というのが今回の問題、いや、議題だ。
『未成年女性キャラクター』、うん。じゃあ18歳までならセーフか?いやでも18歳のメスガキってなんかちょっと嫌じゃない?嫌じゃないかぁ……。いや普通にキツいだろなんか……。
つまり何が言いたいかというとだ。年齢を重ねただけのメスガキは、ただの性格の悪い女、クソ女になる可能性が極めて高い!!
何の話してんだ?と、思うかもしれない。ふざけたこと考えてる暇あったら学校行けとか仕事しろとか、まぁ辛辣な言葉の1つや2つ飛んでくることだろう。
「いや、けっこうやばいんじゃない?これ」
しかし現在俺はこのひじょ〜〜に馬鹿らしい問題について、真剣に対策を講じなければいけない極めて異常な立場にあった。
「どうすんの……?いきなりキャラなんて変えれるわけないだろ……」
よく響く可愛らしい高音声で独り言を言う俺の目には、もうすっかり慣れてしまった女子の体が鏡越しに映っている。綺麗な桃色の目にふわふわした桜色の髪。桃色の羽がこめかみあたりから髪と一体化して生えて、前髪のあたりまで伸びている。
しかしその可愛らしい顔には疲れが見えていた。
嗚呼、前世のメスガキたちはいったいどうこの問題に対処していたのだろうか……。
学園に併設された軍府関係者用宿舎の一室で、俺、リィンは朝の支度をしながら、意味不明かつ打開困難な状況に対する絶望に打ちひしがれていた。
〜〜〜
天華軍府立学園の朝は早い、こともない。
この学園は日本における一般的な高校と大学をごちゃ混ぜにしたようなシステムをとっており、講義に関しては大学に近いシステムで動いている。つまり、自分で受ける講義の科目を選択することができるのだ。各科目に一定の単位が割り当てられており、講義での成績がある程度優秀であれば、その科目の単位が得られる、といったシステムだ。そして進級や卒業にはこの単位が必要となってくる。
つまり、朝早くから始まる講義科目を選択していなければ、せかせかと朝早くに支度する必要もない。一般的な生徒の場合だが。
早朝。誰もいない、すでに見慣れた廊下を歩く。朝の陽射しが途切れ途切れに窓のすき間から入り込む廊下を抜けて、突き当たりにたどり着くと、鳥、亀、龍、一角獣などが複雑に絡み合う細やかな意匠が施された立派な扉が見えてくる。その扉の上部には《学監会資料室》と書かれた表札が掲げられている。
ガチャリと扉を開くと、先客と目が合った。珍しいな、こんな時間に人がいるなんて。
「……っ!君か……。おはよう」
そこにいたのは眼鏡をかけた学監会——学生たちにとっては生徒会という名のほうがなじみ深いだろうが——のメンバーがいた。何かを探しているように忙しなく動いている。
「おっはよ〜。ちびメガネくん。こんな朝早くからなにしてるの?」
うんうん。クソみたいなあだ名呼びだ。こいつ寛容で精神的強者だから、こういう雑な罵倒を許してくれるんだよなぁ。メスガキ的に本当に助かる。メガネ様様だ。いやそうじゃない、こういうのをやめないといけないんだって。
もうこのムーブが体に染みついてしまっている。メスガキ脱却の道のりの遠さを悟って頬が小さくひきつったのを、口元に手をもっていき、少し前傾姿勢ぎみのそれっぽいポーズでニヤニヤすることで誤魔化した。メスガキって嗤うときこういうポーズしてたイメージ。
「はあ、それを言うなら君の身長はどうなるんだ」
「むっ。女の子に身長マウントとか、恥ずかしくないのぉ?」
たしかに俺はちびだが?胸もないが?でもそのほうがメスガキっぽいし?むしろお得ですし?
「いつもの君の軽口に付き合っている暇は私にはないんだ。昼までに必要な書類を探している」
「ふ~ん。それってぇ、こういうの?」
俺はおもむろに、無数にある部屋の棚のうちの一つを開け、その中から《学科交流会 参加概要》と書かれた書類を人差し指と親指でつかんで取り出し、目の前でヒラヒラと揺らした。
メガネくん(ちびはさすがにかわいそうだから心の中では言ってない)は、ぎょっとした表情をこちらに向けている。なんでわかった?ってのが顔に書いてるみたいだ。こういうときのわかりやすさも、こいつの好感度高いポイントである。
「腐っても
あ~だめだ。生意気そうなセリフとまんねぇや。というかやっぱり急に変えられるもんじゃない。改めてそう感じる。
「……感謝する」
さすがメガネ。どれだけふざけたやつにも感謝の言葉もバッチリだ。
彼はそのまま部屋を出ていこうとこちらに背を向けた。
が。
突然扉が勢いよく開かれて、メガネくんの顔面にぶち当たった。あっ、眼鏡吹っ飛んだ。
「ありゃりゃ?こりゃあ真面目くん!この時間にめずいね」
部屋に入ってきたのはいかにもギャルっぽい女子学生だ。例によってこいつも学監会メンバーである。あとそれより先にメガネくんに言うべきことあるだろ。地面でのびてるんだぞ。俺が魔術でさりげなく受け止めてあげなきゃ後頭部打ってたって。
「お〜リィンっちは相変わらず朝早いね〜。はじめのうちはちょっとイメージと違ってびっくりしたけど、もうさすがに慣れたわ〜」
あはは〜、と言いながら肩を組んでくるギャル。う〜ん距離が近い。俺みたいなロールプレイ陽キャではない本物、さすがだ。
「も〜顔合わせてから一ヶ月は経ってるのに、そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃんかぁ。うちら年も同じだし、同じ学監会のメンバーだし!仲良くしようよ〜」
ねぇねぇ〜、と言いながら……、ちょ、俺をグラグラ揺らすな。お前から見たらこっちも同じような陽キャなのかもしれんが、俺のはロールプレイなんです!いや完全にこっちが悪いけど。
む〜、とむくれられながらやっと解放されたところで、メガネくんが起き上がってきた。無傷の眼鏡を拾ってかけ直してる。頑丈だなあの眼鏡。
「それで、フェイ嬢は何をしにきたんだ?」
「あ〜、さっきはごめんね。あと、用事はそのメガネくんがもってた紙に書いてるやつだね。《学科交流会》。それについて、
「まぁ、任せてよ。お家柄、お金に関しては得意だからさ!」
ギャル、もといフェイは豊満な胸をはってドヤ顔をしている。たしかに彼女の家は門閥貴族の中でも商業で成功している家だし、そういったことは家で色々教えられているのだろう。まだ同い年、つまり16歳であることを考えると立派なもんだ。もしかしたらこの人懐っこい感じもなにかしら商売に有利なようにわざとやっているのかもしれない。それは露悪的に見過ぎか。
「ねえねぇ、ワタシが非凡極まる天才的な頭脳で手伝ってあげないこともないけどぉ、どうする〜?」
「お、おぉ〜、これぞ友情!同年代女子の結束を魅せるときってコト?テンション上がってきたわ〜」
「君たちはこんな感じなのに、仕事はできるから調子が狂うんだ……」
メガネくんから若干呆れられてしまった。まぁこの年頃の女子なんてこんな感じでしょ。いやよく知らんが。まぁ心から馴染めなくても同僚の仕事くらい手伝ってあげないと。
「ヨウっちはどこ行くの?一緒に色々考えようよ〜」
「僕は会長が交流会についてどこまで把握しているのか確認をしてくる。僕たちと同じく1年生だからな。よくわかっていないかもしれん」
会長かぁ。極めて個人的な理由だが、あんまり得意じゃないんだよなぁ。悪い人じゃないとは思うんだけど。いろいろとよくないことを思い出すというかなんというか。
「あ〜たしかに、なんなら連れてきてよ。会長にも相談したいことあるしさ」
「あの人に時間がありそうならな」
〜〜〜(※フェイ)
私、フェイは門閥貴族の
そんな龍亀家がこの巨大な天華連邦という国家において
たくさんの貴族たちと友好的な関係を築き、時には敵対する貴族同士を仲介し、特定の派閥に入らないことで敵対者を作らず、味方を増やして生き延びてきた。
もちろん、派閥に入らずに複数の貴族と関係を築くことは、ともすればどっちつかずの『蝙蝠』と捉えられかねない。そうして両方の派閥から敵意を向けられないように、龍亀家は代々『情報』を重視してきた。
各地に忍ばせた家の諜報員や深い関係にある貴族たち、さらに平民の中からも提供を受け、それらを精査するネットワークによって、あらゆる情報を収集し、活用する。そうやって貴族社会を生き残り、情報を活用した商売による利益で家を発展させたのだ。
そして、それは今も変わらない。
「フェイ、天華軍府立学園へ行きなさい」
15歳になった日に、お父様は私にそう言った。私にもこの家の一員として何かをなすべき時が来たのだと、そう思った。
「士族連盟と門閥貴族たちの間の対立が深まりつつあることは知っているな」
「この数十年、成り上がった平民や、家を継ぐことができず落ちこぼれた門閥貴族たちの身分とされてきた下級貴族の士族たちが派閥を作り、その勢力が急激に増しつつある。士族たちの派閥、士族連盟はすでに軍府を掌握し、天華連邦の国家としての武力は実質的に完全に彼らの手に渡った」
「この三千年続いた天華連邦の歴史的にみても、今は間違いなく後世に残る激動の時代の一つといえよう」
「先ほども言ったが、お前には軍府が設立した学園に生徒として入学してもらう。学園内部にはすでに協力者がいる。彼らと共に学園内部の有力貴族たちの令息、令嬢の動向を観察し、報告しなさい」
「お前にとって龍亀家の一員としての初仕事、ということになるだろう。心してかかるように」
「しかし」
父から放たれていた威厳が急激に薄れていく。いや、普段通りに戻っていくといったほうが正しいか。ついには泣き出してしまった。
「無理はしないでくれよ〜。お父さんは心配だ……。お前は小さいころから頑張りやさんだからなぁ」
うん、無理するよお父様。私は家族が大好きなんだ。優しいお父様に、お母様。かっこいいお兄様、綺麗なお姉様、かわいい妹。みんなのために頑張りたい。
それに、次女の私一人くらいダメになっても、家族は問題ないはずだ。
「お〜い。お〜〜〜い!」
「なにぼ〜っとしてるの?このワタシが手伝ってあげてるんだけど??」
目の前で桜色の女の子が手を左右に動かしている。2人で机で書類作業をしていたのたが、どうやら私の手が止まっているのを見て、意識を確認するためにやっているらしい。私がまだ声を出さないのを見て、少し焦っているようだ。
「あ、あれ?お〜い。え、本当に大丈夫……?」
このあたふたと焦っているかわいらしい少女を見て、まさか彼女が軍府が遣わせた、生徒会の書記という立場を利用した学園の監視者である、などと考えるものはいないだろう。協力者からの情報を思い出し、少し面白くなってしまう。
「ふ、ふふふ。ごめんねリィンっち。ちょっとぼーっとしちゃってたみたい」
「わっ……、びっくりした。まぁだいじょーぶならいいんだけどさぁ。ワタシはすごい天才だから?後の仕事なんてあなたがいなくても問題ないし?凡人はさっさとおねんねしちゃえば?」
やっぱり優しいじゃないか。言葉はこの一ヶ月、相変わらず変に強いけど。
うん、龍亀家としての仕事とか抜きにして、もっと仲良くなりたいなぁ。
「フェイ」
「え?」
「だ〜か〜ら〜。凡人じゃなくてフェイだって!もうそろそろ無視できるような付き合いじゃないんだし!名前で呼んでくれたっていいでしょ?ね?ね?」
「……。」
リィンっちは目を左右に泳がせてから、観念したように私の目を見て、やっぱり無理だったみたいで目をななめ下に逸らした。
……、やっぱり駄目だったかぁ。
「……フェイ」
「……!!」
「も、もういいでしょ!せっかく名前で呼んであげたのに、なんで黙ってるの!?」
涙目になりながら怒りはじめたリィンっちを見てまた笑いが抑えられなくなり、ついに顔を背けられてしまった。
友達が一人増えたような気がして、嬉しかった。
たぶんこれからめっちゃ更新遅くなると思います……。
まだほとんど投稿していないのですが、見てくれている方々はよろしくお願いします。
ほそぼそとは更新していく予定なので何卒よろしくお願いします。(一応次の話は書いてる途中です)