前回、次は二章一話を更新すると言いましたが、先にこちらの短めの閑話二つをあげさせてください。
二章一話の方もほぼ完成しているので、明日更新します。
一個目の閑話にガッツリ下ネタが含まれているため、苦手な方は二つ目の★までお飛ばし下さい。最悪読まなくても大丈夫な話です。
★感想について
感想返信しすぎて圧を与えているのでは……? という懸念が私の中で生まれており、あからさまに質問っぽいコメント以外はあまり返信しすぎないようにすることにしました。
もちろん、感想はすべて確認しており、モチベーションをいただけています。ありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。「ヨウ」のミスまだあったのか……。
★乙女たちと秘め事(時系列:星の子襲撃翌日)
会長フィーシャと星の子幹部級の戦いにより、学園の中でも中央広場付近の被害が最も大きかった。
そして、中央広場の崩壊に巻き込まれる形で、元あった学監会の執務室は崩れ落ちた。ついでに、会長室も、襲撃者であった大男の突進の影響で壁がぶち抜かれ、吹き抜け状態になっている。
総括すると、書類作業に使用できそうな部屋がすべて根こそぎ無くなっているのである。
ゆえに、復興作業中の学生たちの喧騒から少し隔絶された仮設テント、そこが、現在の執務室であった。
会長であるフィーシャと会計であるフェイ、彼女ら二人は、今回の事件に関する処理を行っていた。
今回の事件は死者こそ出なかったものの大規模な襲撃、さすがに学園の直接の経営者である軍府がその大部分を執り行うとはいえ、それに伴い学監会の運営者に膨大な処理が発生するのは自明の理であった。
「こ~れはひどいですわ」
「四分の一くらい会長のせいじゃないです??? 校舎建て替えの予算、考えたくもないですよ」
「わたくしがんばったのにぃ~~」
机の上でシナシナと項垂れているのはフィーシャである。金のフワフワした長髪で机に突っ伏す姿は、正面に座るフェイから見れば、黒い角が一本だけ生えた金色の毛玉のようだ。
威厳もへったくれもない。
逆にフェイはといえば、普段のギャルっぽい軽い態度は鳴りを潜め、テキパキと書類の確認を続けて、完了した書類をフィーシャの机にどんどんと積んでいっていた。
書類の山々がブラック企業のように積み重なっていく。
ほとんどが承認の判を押すだけではあるが、それをないがしろにするわけにもいかない。
フェイが作業する際の、そのかすかな紙の音による威圧感に耐えかねたのか、フィーシャは情けない姿勢を維持したまま顔だけ横に向け、居もしない誰かさんに助けを求めた。
「書記~~!? どこにいらっしゃいますの~~~?」
言外に、彼女もこの地獄に引きずり込んでやる。という意思表明である。
「リィンっちは、なんか軍府のアレコレで今無理っぽいですよ? 彼女にもちゃんと後で仕事してもらいますから、会長は会長の仕事してくださいね〜」
「ぐぬぬぬ」
~~~少女二人作業中~~~
書類が減ってきた。が、まだ四分の一は残っている。
「…………。」
「……。」
半面、二人の集中力は四分の一も残っていない。目は完全に据わっていた。
フィーシャは単純にこういった書類作業が苦手。その上、先日の襲撃後家族に安否確認のための手紙を書くという、彼女にとって非常に憂鬱な作業を行ったことで、気持ちが落ち込んでいた。
フェイは襲撃の対策、実家に報告するための書類作成と、二日を通して徹夜を繰り返しており、もともと精神が削られていた。
加えて、この作業は早朝から行われており、作業を始めてから昼食時の今までの間、一切他の人と顔を合わせていないということも、精神の摩耗を助長していたのである。
だからこそだろうか? フィーシャがおもむろに作業の手を止め、書類の一点をキマった目で見つめ始めた。
「……会長、いきなり一点見つめ始めてどうしたんですか?」
「…………この建物のカタチ……、チ〇コに似てませんですこと???」
「………ついに頭イカレました???」
「ほら、これ」
フィーシャが見せたのは、区分けされた学園内地図の一角である。
ちなみに、そこまで似ていない。だが。
「……ホントだぁ」
もうすでに、二人の脳はオシャカになっていた。
「はぁ~~~。実際、コレってどんな感じなんでしょうか?」
「え? 何の話ですか? ……あぁいや、なんとなくわかりました。もういいです。一旦休憩にしますか」
書類を一度意識外に追いやり、フェイは先ほどの、自分の想像通りだとクソくだらない問いかけに応えるべく言葉を紡ぐ。
「どういう感じも何も、性教育で見たことありますよね? 貴族なんだから」
血脈自体の重要性がそこまで高くない士族と違い、門閥貴族は血脈、血筋を最も重要視する。
そのため、子孫をちゃんと残すための教育は当然力を入れて行われる。
魔術の存在によって男女間の立場の差がそこまで酷くないということもあり――男女ともに、かなり直接的な『教育』を行うのだ。
座学から始まり、直接情事を見学したり、慣れさせるために触ったり……。現代地球ならば完全にアウトになりそうなことが平然と行われている。
つまり、貴族なら基本、個人差はあれど『慣れている』のである。
「それは、そうですが。実際ヤッたことはないんですもの。気になりますわよ」
「言葉遣いがひどい」
血筋を重視する以上当然、子供の取り換えは最も忌避される行為である。
ゆえに、『教育』は手厚いが、家のあずかり知らぬところでの自由な性交渉は御法度だった。
「気にならないんですの? ……実はそろそろ他人事ではなくなってきてまして。本当に、ほんとーに気が進まないんですけど。正直不安ですのよ。……『愛があれば痛くない』みたいなこと、聞いたことありません? あれどうだと思います?」
「いや、そんなの一秒でも信じる人いるんだぁ、って、今びっくりしてますよ」
「えぇーー? ロマンがない人ですわね」
「どこぞのメガネ君みたいなことを……。もうフェイちゃん知らないっすよ。……あ、リィンっちにでも聞いてみたらいいんじゃないですか? なんか経験豊富そうな雰囲気ありません?」
「ふむ、名案ですわね。私が独立したあかつきには、軍師として引き抜きますわ」
「あんたの権限で言うとシャレになんないんだよなぁ……」
例えるならば、一国の王女が「あなた私の軍師に任命ね」と言ってきているようなものである。普通になんらかの拘束力が発生しかねない。
いや、そもそも一国の王女クラスと猥談している状況が意味不明すぎて、もはやどうでもいいまであるのだが。
また、会話を続けるごとにフェイの言葉はだんだん雑になってきていた。
普段なら、まぁ? 一応? その立場を鑑みて、会長相手には敬語を使おうと努めているフェイ。しかし、正直同年代の友達相手にその態度を続けるのは限度があった。
「……おっ。ちょうどいいところに」
ガサガサと外側の幕を捲って、桜色の少女、リィンが仮設テントの中に入ってきた。
彼女は一目で二人が疲れていることを察したのか、バツが悪そうにしている。
「リィンさん、ちょうどいいところに。お聞きしたいことが―――」
「え? 何? 遅くなったのはごめんって。こっちもこっちで仕事が――」
「殿方との情事は、実際どんな感じなのでしょう?」
「……………?????」
「あっ……!! ごめんなさい。遠回りすぎたかしら。殿方のチ〇コって実際、ブチこまれるとどのくらい痛いのでしょう?」
「………………………???????????」
リィンは、現在脳内の演算網をフル稼働させ、何を言われたのかを分析していた。
その超天才的な頭脳により、意味を分析すること五秒。
「――――バ、バッカじゃないの!? そっ、そんな、はしたないこと…………」
「えっ?」「は?」
「女の子が人前で堂々と言っちゃいけません!!」
「…………?」「??」
指をビシっと二人に向けるリィンは、プルプルと震えている。
真っ赤に染まったその顔は、フィーシャとフェイにとって、今まで見た中で最も余裕がなさそうな表情であった。
つまり、ふざけているわけではなさそうだ、ということ。
「……何か勘違いしていらっしゃる? 私が聞いているのは、チ〇コを挿――」
「わーーわーーーわーーーーわーーーーーー!! バカバカバカバカ! 指で変なジェスチャーしないで!! え?? 何急に? 怖いんですけど!? これワタシがおかしいの!? 女友達間では普通の
それは人による。
今度は、フィーシャとフェイの二人がフリーズする番である。想定外。
仮に実際はバリバリ経験豊富ではなかったとして、「知らない。でも今更そんなこと気にするなんて、まだまだお子ちゃまだね♡」みたいな返事が返ってくると思っていた。
ここまで取り乱すとは露ほども思っていなかった。
「え、と。……つまり、よく知らないってことでよろしくて?」
「……………………ハイ」
マジか。こんな感じのくせに、あのキャラで通してたのかよ……。
「……」「……」「……」
なんか気まずっ。
その場にいる全員が硬直した。
(一番根が陰キャであるため沈黙に真っ先に耐えられなくなった)リィンがギクシャクとした動きで歩き出すと、無言で空いている席に座った。そのまま自分の仕事を始めると、徐々に空気が緩み始めた。
彼女は、頭の翼で赤らめた顔を覆い、黙々と作業を続けている。
「リィンっち? おーい! あー……。こりゃダメそうだね」
「……(黙秘)」
リィンは口を尖がらせたまま、黙っている。
余談だが、彼女が次に口を開くのは小一時間後であった。
「……。」
「会長まで黙って……。どうしました? また変なこと言い出すんじゃないでしょーね」
フィーシャは、少しの間考え込んでいた。
桜色の髪、桃色の翼……。尾が無いようなので血が特別濃いわけではない、おそらく分家のどれかの生まれでしょうが……。
てっきりリィンさんは、四霊大家【応龍家】に連なるものだと思っていました。
軍府関係者ということで、何やら現在の立場は少々複雑そう――例えば家を出奔したとか――だとは思っていましたが。
しかし、元々それほどの『格』の家柄の者が、「そういった」教育をまともに受けていないなんてこと、あるのでしょうか……?
……まぁ、そのうえであの感じだと思うと、とても。
「いえ、ただ、なんとなくうれしくて」
今はただ、友人のかわいらしい一面が見れたことが喜ばしいですわ。
翼の隙間から目を合わせようとすると、俯いて目をそらすリィンを眺めながら、フィーシャは微笑んだ。
★二話目:新たな知見と欺瞞の種(時系列:星の子襲撃から三日後)
リィンは、学園内の図書館を訪れていた。
実は、襲撃において最も被害が少なかったのが、ここ図書館であった。
天華連邦にはそこそこ高度な印刷技術自体は存在しているものの、魔術による属人化も相まって、きちんと耐久性を持たせた装丁本はまだまだ価値が高い物品であった。
そのため、それが数えきれないほど収められていた図書館は、盗難や放火防止のための結界で特別に守られていたのである。
襲撃者、星の子にとってもわざわざ襲撃する必要はなく放置され、結果として被害を受けなかったのだ。
リィンの目的は、リリエの新しい能力である『声の模倣』の謎を解くために、原始魔族【
さて、と。原始魔族のことについて書かれた本はどこかな~っと。
……その前に、『最近の本』コーナーを確認していくか。
前回訪れたのはそこそこ前だし、何か面白そうなものがあるかも?
う~~ん。これは自己啓発本かなぁ。「不安に思っていることや秘密を共有する」ことが大事……。
いや、そりゃそうだけども、って内容だな。まぁ自己啓発本ってそんなもんか。
こっちは「おもしろ魔物学~あなたの知らない魔物たちのプチコラム~」……。
魔物と魔族はちょっと違うけど……。
……面白そうだし、一応借りとくか。
手を伸ばした瞬間、誰かと手が重なった。
うわっと思って急いで手を引っ込めると、手の主から声をかけられた。
「おや、リィン様ではありませんか」
「…………あっ」
一瞬過去の記憶を全検索しかけたが、その人が軍府が学園に常駐させている諜報員 兼 連絡役だと気づいた。
直近だと講師のフリしてたスパイ捕まえた時とか、星の子襲撃のときに理事長もとい、司令官との中継を案内してくれた時とか、いろいろとお世話になってる人だ。
よく仕事を報告してる人なのに、一瞬気づかなかった。
普段の軍府の服と違うからかも? プライベートかな。
はっきりした色合いの紫色の髪を後ろで纏めた髪型に、少し小柄な体格。相変わらずの無表情だが、聴き心地の良い、心の隙間に入り込むような声には、彼女の真心が表れているように感じられる。
「こういったものに興味がおありとは。少し意外ですね」
「こっちのセリフなんだけど……。なんかもっと、そっちの自己啓発本みたいな本を読んでるイメージだった」
「そういった本を読まないわけではございませんが……。私はもっと直接的に『知識』が得られるもののほうが好みですね。新しい世界の知見を得るのは、いつだって楽しいものです」
いやめちゃくちゃ意外……。
あんたそんなキャラだったのか。
学科交流会でやけに露出度高い服着て踊ってたのはなんだったんだよ。いや今思い返したら本当にあれ何??
「そういえば、私のダンスはどうでしたか?」
「!! げほっ、ごほっ。え、えっ?」
「見てたでしょう、あの日。ステージ上から、眼下の観客は見やすいのですよ」
バレてたんだ。じゃあ先に言えばよかった。
黙ってたみたいで気が引けるな。
「ふふふ。そんなに困らなくてもよろしいではないですか。責めているわけではありませんよ。ところで、今日はどのようなご用件でここに?」
なんか小悪魔っぽいんだよなぁこの人。表情がほとんど変わらないのに、声だけでこの印象だから恐ろしい。
「…………。原始魔族について調べたくて」
「なるほど、ではこちらへ」
慣れた足取りで、図書館の奥に案内される。
さては相当通ってるなこの人。迷いがない。
「これですね。どうぞ」
図書館の棚から取り出された、分厚い本を手渡される。タイトルは『魔族大全』だった。
わかりやすいなぁ。
「【
ふむふむ、ふむふむ。
…………やっぱり、名前がややこしいが、擬魔には対象の声を真似るような能力はなさそうだな。基本的に、対象の使用する魔術を模倣する魔族で、能力はそれで完結している。
これは、どうなんだ……? 本自体の記述が不十分な可能性は、なくはない。
なんせ純粋な魔族が跋扈していたのはもう二千年も前の話だ。記録が失われているかもしれない。血族が生き残っていたとして、能力の一部が失われている可能性は十分考えられる。
もしくは、あまり考えたくないが。
リリアとリリエが嘘をついている可能性も……?
いや、だったら実際に、擬魔の能力を使えているのはなんでだ……? う〜ん。わからん。少し、自分なりに仮説を立ててからにしようかな。
「知りたい知識は得られましたか?」
「ちょっと微妙かも。ごめんね、無駄足踏ませちゃった……。あ、さっきの本一冊しかなかったよね。先に借りていいよ。わざわざここまで案内してくれたし」
わざわざ案内してもらって悪いが、もう少し考えたい。さっき同時に手に取った本を先に借りる権利くらいで許してくれ〜。すまん。
「案外優しいですね。今日は『意外な知見』が多い日です」
『魔族大全』を魔術で宙に浮かべて彼女に返したリィンは、踵を返して歩き始める。
紫髪の彼女はその本を受け取ったが、魔術の影響でフワリと、あるページが開いた。
それは、魔族大全の、半ばあとがきのような、没情報のコーナーであった。
〜不確定な情報〜
【
すでにすべての原種個体が消滅しており、公式な血族も存在せず、記録も曖昧である。擬魔から連想された架空の存在であるという声もあるほどだ。
そのページを見た紫髪の彼女は、その無表情をわずかに、笑みの形に歪めた。
「なるほど……。これは、もしや……」
「――私たち皆、あの姉妹に謀られましたかねぇ……?」
その独白は、すでに歩き始めたリィンには聞こえていなかった。
ちなみに、二人が同時に手に取った「おもしろ魔物学~あなたの知らない魔物たちのプチコラム~」は、移動の間に誰かに借りられていた。
ショックを受けうなだれる二人だったが、リィンは後日、ロマン眼鏡野郎、ヨウがこの本を借りていたことを知ることになる。
たしかにちょっと好きそうだけど……。という、謎の納得と不満がリィンを襲ったそうな。
★二章一話は明日12:00更新予定です。