メスガキやめれないんだが   作:かみゃきち

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★二章プロローグです。
 一章は主要人物紹介みたいなノリで終わってしまった感があるので、ここから物語を前に進めていきたいところです。

 この回は基本三人称視点になります。


二章:屑星たちは前奏曲へ
魔弾は果てより昇る


 

 天華連邦北西部、軍府直轄領より北に100km――。

 

 その地は連邦の領土でありながら、本国から北へ「ポコッ」と飛び出た、まるで小さな角のようなカタチをしていた。

 

 西に神聖民主主義国家ヒエロポリス、北に遊牧国家ボンジル=カーン、東に北東小国群。

 周囲を他国に囲まれたその突出部は、いわば「陸の孤島」であり、その特異な立地ゆえに長年さまざまな勢力から狙われ続けていた。

 

 たとえば、北東小国群よりさらに東、大陸の沿岸部に位置する商業国家ティレイア。

 彼らは、天華連邦の法外な関税を回避して内陸部と貿易を行うため、連邦を経由しない新たな迂回ルートを欲していた。そこで、この飛び出た領土に傀儡国家を擁立しようと多額の資金援助を行っている。

 

 そして、連邦と長年戦争を続けるヒエロポリスもまた、連邦への嫌がらせと貿易の利権を目当てにその動きを後押ししていた。

 

 各国がこの地に送り込んだのは、かつて連邦の侵略によって国を追われた被侵略民たち。彼らを「復讐」「独立」といった甘言で煽り立て、士気の高い鉄砲玉として利用したのだ。

 

 

 

 そのような不安定な土地を、自分が貧乏くじを引いてわざわざ治めようとする貴族はいない。結果的に、この土地は軍府に直轄領として貴族から押し付けられ、その防衛困難な地形から、当の軍府からも半ば放置されていた。

 

 

 

 ――結果としてその土地には、各国の偽装工作員、天華連邦に恨みを抱く被侵略民たちによって、実効支配の足掛かりのための巨大な軍事要塞が築かれつつあったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一見荒野にそびえ立つ岩山に見えるソコは、荒野の巨大な岩山をくりぬいて築かれた巨大要塞である。

 

 その外郭、岩山の上部分で物資を運ぶ青年がいた。

 

 

「ふぃ――。疲れた疲れた」

 

 

 青年は、かつて天華連邦によって滅ぼされたしがない小国の出身であった。

 青年の家族は幸運も手伝い、命からがら国から逃げ出すことができたが、その逃亡先での暮らしは芳しくなかった。

 

 仮に戦争から逃げられたとしても、身寄りも、馴染みもない外国での暮らしは過酷そのものである。案の定青年の家族も、逃亡先の国で物乞いをして暮らす他なかった。

 

 そんな折に、彼と家族が暮らす北東小国群にて、とある募集がかかっていた。

 なんでも天華連邦への復讐を掲げている一団が、天華連邦の辺境で独立を勝ち取ろうとしているらしい。

 

 彼自身はそこまで復讐に重きを置いているわけではなかったが、家族の口減らしという側面も兼ねて参加したのである。

 

 

 そこからは、あれよあれよという間にコトが進んでいった。

 大きな存在がバックについているという話は聞いていたが、正直それはただの方便だと思っていた。

 しかし、実際に仮拠点に次々と運び込まれる物資、有用な人材を見ていると、確かに巨大な何かの力を感じてしまう。

 

 

「ふぅ、これで一旦全部かな」

 

「おお、お前さんか。どうもありがとう」

 

 

 

 声をかけてきたのは、この拠点で知り合った老人だ。

 彼の素性を詳しくは知らないが、こんなところに来ている以上、それは碌でもない過去があるに違いない。

 

 

 

 疲れた身体を休めるために、すでに積まれてあった資材に腰掛ける。すると、老人も隣にやってきて、座った。

 

 

 ぼんやりと眼下の光景を眺める。そこには、四方を山に囲まれた窪地に、中規模な街ほどもある建造物群が丸ごとすっぽりと収まっていた。

 そこでは軍需物資の運搬から、日用品の物々交換までが行われており、二人と同じような境遇の群衆によって活気に溢れている。

 

 この施設、いや、二千人規模の人員が稼働する軍事要塞は、岩山に囲まれた地形を活用し、内部を改造することで造られている。

 

 

 要塞の外側には侵入者の探知のための結界と、侵入を物理的に防ぐための結界が二重に張り巡らされている。

 

 

 探知のための結界は、魔道具を連結して活用することで、500mを大きく超える要塞外縁1km圏内にまで展開されている。この500mという数字は、仮想敵である連邦貴族の高位魔術士たちの最大射程距離であり、要塞が敵の魔術に晒されるよりも前に敵を察知できるよう設計されていた。

 

 さらに、侵入した敵をアウトレンジから叩くため、有効射程約800mの大型固定バリスタが設営されている。

 敵がどの経路から侵入してきたとしても、最低4台で集中砲火を浴びせられるように設計されており、要塞の外側に向け、岩肌に巧妙に隠されて展開している。

 

 その他、備え付けられた無数の小規模連弩や、要塞までに設置された足止め用のブービートラップの数は数え切れない。

 

 他にも、どこから仕入れてきたのかわからないが、切り札としてヒエロポリス製の魔術装甲兵も複数台用意されている。

 

 

 

 

 

 青年のような素人に正確な軍事的な価値は分からないが、眼下に広がる広大な要塞が落とされるイメージが湧かない。

 

 長い時間がかかっているとはいえ、このように巨大なモノを人が、自分たちが作り上げたという事自体に、彼は圧倒される想いであった。

 

 

 これなら、天華連邦も安々とこの地を踏めないだろう。案外、戦争をするくらいならと、不要なこの土地を放棄するかもしれない。

 

 

 

 

 青年と同じように口を閉ざし、眼下の要塞を見つめていた老人がおもむろに口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「儂らはけして、祖国を蹂躙した連邦を許さぬ」

 

 

 我らは何ゆえ荒野を彷徨わねばならんかった。何故、見知らぬ国に流れつき、一人、また一人と倒れねばならなかった。

 そのような恨みを、老人は捨てられなかったらしい。初めて、彼が自分の話をするのを聞いた。

 

 

「儂らの代で風化させてはならぬ。知らん奴らに良いように使われても、恥を受け入れてでも、反抗の意思を絶やさぬことが肝要じゃ」

 

 

 老人は、上向きに咲いた花を象ったマークが描かれた手ぬぐいのようなものを懐から取り出す。

 

 

 このマークは、この要塞で何度も見た。旗にも、壁にも、それが描かれている。

 青年はそれが何なのか知らなかった。しかし、ここに自分たちを集めた団体も、そのようなマークを象徴的に扱っていたので、それが何やら大切なものなんだろうな、ということは分かっていた。

 

 

 

 マークの意味を受け取りかねていることに気づいた老人が、その由来を話してくれる。

 

 

「これは百蓮の紋様じゃ。かつて憎き連邦に反旗を翻した者たちの、抵抗のシンボル。様々な国が、この御旗の元で一丸となって連邦に抗ったそうじゃ……。今の我らにぴったりじゃて」

 

 

 ホホホ。と、老人は笑う。

 

 

「……歴史の話とかはよくわかんないけど、つまり、ずっと願い続けてれば、いつか叶う……。いや、叶うと思って努力すべき、ってことで、いい?」

 

 

「そりゃ綺麗に受け取りすぎじゃ。あくまでこの意思は怨恨であり、悪感情。けして綺麗なものではない」

 

 

 それでも、尊いものだと思っとくほうが気が楽かの……。と老人は呟いた。

 

 

「すまんな……、少し困らせてしまったやもしれん。形になってきたこの要塞を見ていると、つい感傷的になっての。似た境遇の若者に、つい自分語りをしてしもうたわ……カカカ」

 

 

 

 なんだか雰囲気が湿っぽくなってしまった。他の話題を探そうと、青年は視線をさまよわせる。

 空に視線を向けた時、一瞬、はるか向こうの空に、なにか動く点のようなものが見えた気がした。

 

 飛行する魔獣だろうか。これまで、この辺りで見かけたことは無かったが。

 

 

 

「爺さん、あれ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキン。と、何かが砕ける聞きなれない音が響く。

 

 それが、要塞の外郭を構成する対物理結界が砕け散る音であると認識できたものは、この時点でわずか数名。

 

 

 

 

「何の――」

 

 

 

 

 直後、空一面に広がったキラキラした何かに目を奪われ――――それに驚く間もなく世界が白く染まる。

 

 熱も、音すらも遅れて届くほどの圧倒的な破壊。

 青年を含めた要塞内の住民たちは、それが何かを理解する間もなく、その存在ごと光の中へと呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

――結界を破り、要塞の上空で炸裂した六つの弾頭。

 要塞内の住民が文字通り蒸発したのは、結界が砕けてから、わずか零コンマ数秒後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 放たれた弾頭は、結界内への侵入と同時に『中身』を放出した。

 その『中身』――キラキラと輝く粉塵は、凄まじい勢いで要塞内に拡散されていく。

 

 数は、六つ。ちょうど要塞の全体を『中身』が満たせるように計算された位置で炸裂したのち、零コンマ数秒後に火花が弾けた。

 

 

 

 

 地球における『燃料気化爆弾』に近い原理で破壊を実現するその魔術は、白い閃光と共に、一瞬にして要塞の地上部分を岩石ごと蒸発させる。

 

 

 わずかに残った建造物も、遅れて発生した衝撃波によって轟音とともに薙ぎ倒された。

 

 

 

 その後、周囲に吹き飛ばされた大気が急激に爆心地へと押し寄せる――いわゆる『爆縮』により、要塞周囲の全てが中心に向かって吸い上げられる。

 

 

 

 高熱化した大気により発生した上昇気流。それに呑まれた土砂と残骸によって形成された爆煙。それらが天を衝くような勢いで立ち昇る。

 そして高度数千メートルの冷たい上空に達したガスは渦を巻きながら広がり、巨大な「傘」を形成。はるか彼方からも視認できるきのこ雲が、地平線に昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………。」 

 

 

 凄惨な破壊の首謀者であるリィンは、およそ10 km先の空から、『傘』が展開される様子を感情を失った瞳で見つめていた。

 

 

 遅れて、爆発によって発生した衝撃波が届く。

 周囲の木々が揺れ大気が軋む。

 しかし、空中に浮遊し、防御膜に守られた彼女は、その服の裾すら揺れていない。

 

 

 

「……大気湾曲鏡(クレヤボヤンス)」

 

 

 

 前方の大気を捻じ曲げ巨大な望遠レンズに形成する。望遠レンズの先の要塞は煙に包まれてよく見えないが、大部分が消失し瓦礫の山に変わっていた。

 

 

 

 

 リィンは観測を続けるが、生存者はいないように見える。

 

 少なくとも、あの場所が要塞としての機能を取り戻すことは、もうできないだろう。

 地下基地の一部などは残存しているかもしれないが、そこまでの掃討は必要ないはずだ。

 任務は殲滅ではなく、『要塞が軍事施設としての機能を喪失するまで、で(・)き(・)る(・)だ(・)け(・)派(・)手(・)に(・)破壊する』こと。

 

 

 

 

 これで十分だと判断した彼女は、展開していた総数十二の次(・)弾(・)を解除し、ただの荒野と化した要塞に背を向けて飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~軍府直轄領、司令部~~~

 

 

 軍府は、天華連邦の各地に直轄領を有している。

 特に、かつて起こった百蓮教徒の乱とそれに同調した周辺国家により壊滅的な被害を受けた、国境周辺の土地を多く所有していた。

 

 

 そんな直轄領の一つに建てられた、軍府の司令部に一人の少女が降り立つ。

 ――文字通り、空からふわりと、司令部のテラスに降り立った。

 

 

 そのままの勢いでテラスの窓を開けて中に入ると、そこには初老の女性と、少女の格好をした何かが椅子に腰かけている。

 

 初老の女性は腰をピンと伸ばし、年齢を感じさせない凛とした佇まいをしている。鋭く細められたつり目は、見る者に気の強さと同時にどこかうさん臭い印象を与える。イメージの近い動物を挙げるとすれば、狐だろうか。

 

 一方、少女の姿をした『魔』は、もはや完全に長椅子に横になっており、さながらソファで寝転ぶ子供のようであった。新緑の短髪、その側頭部からは捻じれた樹木のような双角が生えており、その枝の先にはちらほらと髪と同色の葉を茂らせている。少女の姿こそとっているが、そこには長い刻を生きてきたもの特有の雰囲気、古き魔族の気配を孕んでいた。

 寝転んだままの姿勢で、『魔』はテラスから侵入してきた少女に話しかけた。

 

 

「おぉう、おかえりじゃな。少々、早すぎやせんかの? まだ先ほど入れた茶が冷え切っておらぬ……。本当に終わったのかぁ?」

 

 

 降り立った少女――リィンが任務の実行に向かって『離陸』する前に入れた茶が、まだ冷めきっていない。

 からかうような口調だが、口元がひくついている。

 

 

「当ッ然。ワタシを舐めないでよ。こんなの、食後の運動にもなりゃしないわ」

 

「はぇぇ、ここから、かの要塞までどれだけあると……。まぁ、なんじゃ。……うん。こやつ、本当にやばいやつなんじゃないか? 司令」

 

「司令、とは。他人行儀な言い方はやめてほしいね。【剪定侯】」

 

「おぬしこそ、そんな名で呼ぶな。はぁ~、こちとら、おぬしが赤ん坊のころから目をかけてやっているというのに。冷たいやつじゃわい」

 

 

 黒鍵所属の戦略級魔術士の名である、剪定侯と呼ばれた『魔』は、かわいらしく頬を膨らませて抗議を行っている。

 司令と呼ばれた女性は、抗議を黙殺し、入れなおした茶を静かに啜っていた。

 

 

 自分をそっちのけで軽口を叩きあう二人にしびれを切らしたのか、少女は本題を切り出した。

 

 

「で、司令官。今回の任務の結果はどう? 合格?」

 

「まぁ、待ってくれよ。リィン君。君を疑う気はないが、結果を判断するのは、本当に任務を達成できたのかどうか確認してからだ」

「今現在、【逸望千里(いちぼうせんり)】が急いで現場に向かっている。今回君が置いて行った、彼女がね」

 

 

 要塞の正確な位置を探ったのは白鍵【逸望千里】である。今回も、彼女の立てた魔術ビーコンを頼りに、位置を特定して爆撃した。

 案内をしようとする彼女を断り、出発してしまったわけだが。

 

 

「まぁ君は、なんの意味もない嘘をつく人間じゃないだろうから、報告を疑ったりはしていないよ。……それに、実はね。恐ろしいことに、このテラスからでも、はるか遠くの要塞の方角に、わずかに煙のようなものが見えてしまっているんだよ。アレが君の魔術によるものだとしたら――――先に言っておく、百点、いや、三百点をあげよう」

 

「君は黒鍵に所属する戦略級として相応しい、十分なチカラを示した。戦略級としての正式発表はまだだが、事実上、内定といっていい」

 

 

「こんな簡単なのでいいなんて、正直拍子抜けだけどね」

 

 

「おやおや、言ってくれるじゃあないか。あの要塞を安全に落とすのに、本来どれだけの下準備が必要だと思っている」

 

「あんな雑魚どもにねぇ……。あんなちんけな要塞なら、一日に二十は落とせるんだけど」

 

 実際リィンは、要塞を落とした規模の魔術を、残りの魔力で百回は放てる。移動においても、残存魔力で地球二周分くらいの距離は余裕だ。

 事実として、天華連邦内であればどこに同じような要塞があろうとも、位置さえわかっていれば二十個落とすことは十分可能だった。

 

「自信家だね」

 

「そりゃそうでしょ。ワタシの相手をするなら、最低でも四霊大家をま(・)る(・)ご(・)と(・)一(・)つ(・)持ってこないと」

 

「おや、意外だ。てっきり自分は無敵だとでも言いだすのかと思っていたよ」

 

「大言壮語は無能っぽくてダサいでしょ。ワタシはあいにく天才だから、れいせーな分析ができるの」

 

「はいはい。とにかく、任務ご苦労」

 

 

 司令官が茶を机に置く音が、静かに響く。

 彼女は再度姿勢を正し、リィンに向き直った。

 

 

 

 

 

「……では、さっそくだがここで、ちょっとした追加任務を頼まれてくれ」

 

「えぇ……、またぁ……??」

 

 

 ただでさえ、そろそろ学園が再開するとの知らせを受けていたというのに。また任務が挟まるとは。

 司令官がリィンを国家認定の『戦略級』として公表するため、それに足る実績を急いで積ませようとしていることは、なんとなく理解している。

 

 しかし、こうも駆り出されていれば、学園生活や学監会の仕事がおろそかになってしまう。もう公欠扱いで休むにも限度があろう。

 軍府が立てた学園である以上、任務での休学に制度上の瑕疵はないのだろうが、普通に同級生に怪しまれる。

 

 「あいつ休みすぎじゃね……?」などと思われながら登校したくはないし、学監会の書記としての仕事にも支障が出て他のメンバーに迷惑をかけてしまうかもしれない。

 そもそも『普通の学園生活を送ってね』などという意味不明な指令を飛ばしているのはお前だぞ、という抗議も込めて司令官を睨みつけるも、普通にスルーされた。

 

 いつも反抗的な態度を取っているせいで、普段通りに受け取られたらしい。癪だ。

 

 

「それで内容は~、ほら、そこでくつろいでいる剪定侯の護衛だよ。そいつによれば、最近、君の通う学園から少し離れた霊脈に異常が生じているらしい」

 

「そいつ言うな!」

 

 椅子で寝転びながら文句を入れる剪定侯を無視し、司令は話を続ける。

 

「周辺に不穏な魔力反応は特にないらしいから、大したことではなさそうなんだが……。ちょうどいいし、学園生活のついでと思って頼まれてくれないか?」

 

 

「ちょ、ちょっと待って。地図貸して」

 

 

 司令官から差し出された地図を勢いよく奪い取る。

 地図には星の魔力の流れである霊脈が、まるで河川のように記載されていた。この世界の地図を初めて見た際に、これを大きな川だと勘違いしていたことを思い出す。

 

 霊脈はこの世界における最重要の魔力資源であり、天然のインフラ的存在だ。その重要さゆえに、地図にも当然のように記載される。

 天華連邦の国土にはこの霊脈がまるで血管のように張り巡らされている。その全土を示す地図を見れば、中央の四霊大家の領土を心臓とし、そこから送り出された血管が全身を循環する解剖図のように感じられることだろう。

 

 

 

 いや、そんなことはいい。

 

 先程司令官は学園から近い位置に霊脈があると言った。

 しかし、リィンの記憶では、少なくとも学園から普通に通えるような位置に霊脈は存在しなかったはずだ。

 案の定、地図上の、学園からそこそこ離れた場所にたしかに霊脈の記載がある。ただ、歩いて半日はかかる。大した規模でもなく、それゆえかまともな交通手段も整備されていなさそうだった。もっと直接的に言えば、人里離れた山奥にあった。

 

 

 

 リィン一人なら、『航行』すればものの数分で移動できる距離だが、彼女の移動方法は多人数に向かない。ゆえに、剪定侯を連れての『航行』は不可能……。

 

 

「いや、これ……。学園のついでに行ってこいは無茶でしょ。先言っとくけど、ワタシ一人でしか飛べないからね?」

 

 

「………? あぁ、そうか。学園理事長としての連絡がまだだったね。すまない」

「――これから学園で、林(・)間(・)合(・)宿(・)を開催するつもりだ。ちょうど学園の建て替えがまだ完了していないしね」

 

 

 ぽかん。唐突なリーク情報にリィンが一瞬フリーズする。

 

 

「この霊脈付近の森での現地実習、フィールドワークを予定しているよ。青春っぽい催しも予定している。楽しみにしたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、そこの『自分には関係ない』みたいな顔をしている剪定侯も、今回の任務では学園の臨時講師としての立場での派遣となる。おい、引きこもり。偶には『外』で新しい世代を感じてこい」

 

「……ひょえ????」

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 「準備は外の係りの者が行っている。では、二人とも気を付けて」という言葉で半ば無理やり追い出されたリィンと剪定侯の二人は、外に続く廊下を歩いていた。

 

 放心状態でゾンビのように歩く二人だったが、「先の任務との落差でちょっと混乱するだけで、普段通り仕事を押し付けられたにすぎない」のだと、まずリィンが復帰した。

 剪定侯は、まだぼーっとしている。その姿にさらに少し元気を取り戻した。

 あの「自分よりもショックを受けている人が傍にいたら正気になる」というやつだ。

 

 

「……それにしても、こんな若作りババアの護衛ねぇ」

 

「………………(再起動)。おい、年寄りは敬え。あと、わしはどっちかというと『ジジイ』じゃ!」

 

 

「はい、はい。お爺ちゃん。そこ、段差危ないよぉ~、っと。…………ん? 今なんて……………??………?……ジ、ジ、イ????」

 

 

 リィンは、剪定侯を二度見した。綺麗な二度見であった。

 

 

「え、え……? は、はぁ!? あんた、そんなこと今までひと言も……。」

「わざわざ言うほどのもんでもなかろうて。それに、今(・)は(・)そっちの気分という意味じゃ」

 

 

 リィン は 再び 混 乱 し て い る。

 

 

「……ロ、ロリババアじゃなくて、ショタ、ジジイ……って、こと???」

 

「何言うとんじゃこやつ? 最近の若者言葉はてんでわからんのお」

 

 

 「まぁともかく、これからよろしくじゃ」と、ショタジジイは再度フリーズしたリィンの肩を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 なんとなく、ろくなことにならない気がするリィンであった。

 




★登場人物整理
●司令官:軍府の最高権力者。本当の役職名はあるが、【白鍵】【黒鍵】の司令官であるため、作中ではそちらの名前で呼ばれることが多い。学園の理事長も兼任している。前まで書いてなかったけど実は女性。
●剪定侯:【黒鍵】所属、戦略級の一人。逸脱の制圧能力。力とかそういうのではなく、中身が完全なる人外。

★次話もまた来週投稿予定です。
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